序章
水晶石のブレイブハーツ、その全ての始まりとなる序章です。みなさんに気に入ってもらえるよう、精一杯頑張って書きました!
その時、少女は空を見上げていた。窓の外にはいつも通りの青空が広がっている。
しかし、今その空を見ることはかなわない。立ち込める黒煙が上空を覆いつくしているからだ。
その黒煙をたどってみると空に浮かんだ1つの島にたどり着く。
『天空都市国家エルドラド』
世界最高峰の科学力を誇り、人類の夢でもあった浮遊島を実現させた大国である。
その大国から視界を覆いつくすほど黒煙が上がっている状況は、まさに奇怪と表現するほかないだろう。
まだ年端もいかないこの少女も、これまでに何度もあの浮遊都市に行ってみたいと憧れを抱いてきた。
しかし、今の浮遊都市にかつて羨望を覚えたまでの神々しい姿はない。外壁が痛々しいまでに削られ、王族の住まいであり国の象徴でもあった王家の塔は見るも無残に破壊されている。天空の楽園とまで謳われたほど美しく生い茂っていた緑はすべて灰と化している。そして都市そのものも機能を失いかけているらしく、次第に高度が下がっていた。
その様子を見上げながら少女は思う。
なんで、どうして。
一度はあそこへ行ってみたいと思っていた。空の上から見たとき、自分の住む国がどうなっているのか知りたいと思っていた。
しかしその瞬間、少女の夢は音を立てて崩れた。言い知れない失望感が少女苛んでいた。こらえきれなくなった感情がしずくとなり、少女の目尻に浮ぶ。
耐えられなくなった少女は窓から目をそらし、背後をむいた。
すると部屋のドアが開き、一人の男が入ってくる。
その人物を見た瞬間、少女はその人物に飛びつきに思うがままを尋ねた。
「父上、どうして、どうしてなのですか!どうして空に浮かぶあの島は落ちているのですか!いつかあの島に行きたいとわたしは言ったじゃないですか!」
そこまで言って、少女は再び顔をうずめた。
少女の父親は諭すような、そしてどこか感情を押し殺したような声音で言葉を紡いだ。
「もちろん覚えているよ。だが、すまない。その約束は守れそうもない」
「なんで、なんで!」
父親の返答を聞いて、少女は顔を伏せながらより悲痛がこもった声を上げる。
「お前の夢を知っていたからこそ、お前が今どんな気持ちなのかよくわかる。お前の無念さもな。しかし、私にはこうやってお前を慰めてやることしかできない、すまない……」
「いったい、いったい、何が起こっているというのですか…?」
エルドラドは全世界に名をはせる大国。そんな国が滅亡の危機に瀕するなど想像もしなかった。
「私にも詳しいことは分からない。だが一つだけ確かなことがある」
「それは…、なんなのですか……?」
何とか絞り出した声で聞き返す。
「科学は負けたのだ、魔法にな。あのような浮遊島はもう二度と見ることはできないだろう…」
父親の言葉も、後半は力を失っていた。
「そ、そんな……」
感情をそのまま言葉にして少女はその場に泣き崩れた。
父親もやるせない表情をして娘に寄り添う。
突如、耳をつんざく爆音が響いた。
父親も泣き崩れていた少女もとっさに顔を上げ窓の外を見る。
ついにエルドラドの機関部が大爆発を起こし、浮遊島が落下し始めたのだ。
少女の顔から血の気が失せ、父親の表情がより悲痛にゆがむ。
浮遊都市は科学の結晶。大量の電気や燃料を絶えず使用しつづけている。そんなものが地面に落ちれば当然大規模な爆発が起こり、周辺の村や自然そのものにも重大な損害をもたらすことは想像に難くない。
しかし、今すぐに巨大な浮遊島の落下を止める手立てなどあるはずがない。
少女は自分の夢がどんどん速度を上げて落下していくのを見ていることしかできなかった。
もはや全てを諦めた。
その時だった。
一筋の蒼い閃光が輝いた。
鮮やかでそれでいて見るもの全てを引き込むような、そんな蒼だった。
稲光にも見えたそれが浮遊島に直撃した。
一瞬のせめぎ合いののち、閃光がひときわ大きく輝いた。
直後、轟音とともに浮遊島が吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた浮遊島は地面には落下せず、近場に位置していた大きな湖に着水した。
湖に着水したことにより爆発は起こらず、大量の水を浴びたことにより火災も収まり煙も止まった。
全ては一瞬の出来事だった。
父親は唖然として落下した都市を眺めおり、少女は何が起きたのか分からなくなっていた。
いつのまにか蒼い閃光は消えていた。
7年経った今でも、少女はその光景を鮮明に覚えている。
水晶石のブレイブハーツ、その序章楽しんで頂けたでしょうか?少しでの興味を持って頂けたら幸いです。一週間に1~2話の予定で更新していくつもりなので今後ともよろしくお願いします。次回は第一話です。最初からトラブル発生??な話になっています(笑)。では、また次回お会いしましょう!