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 (略)

 土砂降りの音が微かに聞こえてきた。

 面接会場で椅子に座って待っていると、二人の男の試験官が来た。一人は若い男、もう一人は中年の男だった。

 「あ、そのままでいいです。楽にしてていいですよ(笑)」

 「あ、はい」

 「いやー、外土砂降りですね。雨の勢いが本当に凄い。ここまで来るの、大丈夫でしたか? こんな天気のときにわざわざお越しいただいて、大変でしたでしょう?」

 「あ、いや、ぃえ」

 「まあ風の勢いはそれほど強くありませんから、全く外に出られない程でもないですよね。近くの電車も今のところ止まってないようですし。ああ、そういえば、今日は電車で来られたんですか?」

 「あ、はい」

 「ここ最寄り駅から少し遠いんですよね。確か、歩いて15分くらいでしたか」

 「あ、はい」

 「そのくらいですよね。こんな雨の日は面倒ですよねぇ(笑)」

 「あ、はい」

 「天気予報では晴れだったんですけどねぇ、見事に外れちゃってますね(笑)。いやまったく、何も今日降らなくてもいいって話ですよね(笑)」

 「あ、はい」

 「どうですかね? ○○さんは、昨夜ちゃんと寝られましたか(笑)?」

 「あ、あ、はい」

 「そうですか、それは良かったです(笑)。普段、何時くらいに寝るんですか?」

 「あ、あ、あと、十時、です」

 「おお、結構早い。健康的ですね(笑)」

 「あ、はい」

 「あははは(笑)。じゃあ、えーと、面接を始めましょうか」

 「あ、はい」

 「改めまして、私は○△といいます。こちらは、取締役の△○です」

 「△○です」

 「あ、あ、はい」

 「ええと、○○さんは……○○大学でしたか。ここって、結構頭良いところですよね」

 「あ、いえ、そんなこと、そんなこと……」

 「えーと、○○さんは○○学部に所属なさっているんですよね。じゃあ、○○学部について、簡単に教えていただけますか?」

 「あ、はい。あ、えっと、ぼ、わ、ぼ、僕の、僕が、通っている学部はですね」

 「はい」

 「えー……、えー……」

 「……」

 「…………僕の、コースは、△△でして、えー、他に、□□と、☆☆と、えーと、あとは、確か、えっと」

 「……」

 「えー、なんだっけなあ! なんだっけなあ……、えーと、あれ、いやすみませんね、おほっ(泣笑)」

 「あ、大丈夫ですよー」

 「ちょっとぉ、ちょっとぉ」

 「……」

 「…………はい」

 「……」

 「……」

 「……はい、えーと、○○さんは、△△を専攻なさっているんですね」

 「あはい」

 「……今頃は卒業研究でお忙しい頃ですよね。就職活動の時期に卒業研究が重なって、いろいろと苦労なさっているんじゃないですか?」

 「あはい……」

 「そうですよねぇ。大変ですよねぇ(笑)。ええと……ちなみに、○○さんの卒業研究のテーマはどういったものでしょうか」

 「あ、あ、あ、」

 「ああ、いえ、詳しい内容じゃなくて、簡単なもので構いませんよー」

 「あ、あ、あ、」

 「……ええと、履歴書に書かれている通りで大丈夫ですよー」

 「あ、はい、はい、ええと、ああ、そうだよ、ええと、ぼ、僕の研究しているテーマはですね、○○の○○による○○で、ええと、」

 「はいはい」

 「あ、後は、詳しくは、履歴書に書かれている通りで、お願いします、おほほっ(笑)」

 「……あ、はい。ええと、そうですねえ」

 「あはい」

 「……一旦、一旦落ち着きましょうか、○○さん」

 「あはい」

 「……そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ(笑)。あ、さっきお出ししたお茶、今飲んでくださって大丈夫ですよ(笑)」

 「あは、うぇ、ぃや、そん、そんなわけには、」

 「大丈夫です大丈夫です。一旦飲んで落ち着きましょう(笑)」

 「ぃえ、ぃえ、大丈夫、大丈夫です」

 「ああ、いえ、無理にとは言いませんよー。でも、喉が乾いたらいつでも飲んでくださって良いですよ(笑)」

 「あはい」

 「……ええと、面接、緊張しますよねえ。実は私も面接するときは緊張するんですよ(笑)」

 「……あはい」

 「私、入社して何年かってくらいなんですけどね。いやほんと、慣れないんですよね(笑)。こういうときにね、学生さんに何を訊こうとか、逆に質問を受けた時になんて答えようとか、今でもよく悩んじゃうんですよ(笑)。それで、面接官なのに面接で上手く言葉が浮かばないことも、あります(笑)」

 「あはい」

 「だからというわけでもないんですけど(笑)、○○さんもどうぞ気楽になさってください。大丈夫ですよ、だってお互い様なんですから(笑)。あはは(笑)」

 「あはい」

 「……あー、そういえば、○○さんは、大学には御実家から?」

 「あはい」

 「御実家は、ええと、□□□□方面でしたね」

 「あはい」

 「結構、大学に近い所ですよね? 通学は徒歩で?」

 「あ、徒歩で、はい」

 「そっかー近くて良いですねー。何分くらいでつくんですか?」

 「ええと、数分くらいで、何とか」

 「そうなんですかー。ほんとすぐ近くなんですねぇ。いやあ、下宿代も通学代もかからなくていいですねえ(笑)」

 「あ、ぃえ」

 「でもそれだけ近いと、授業ギリギリまで寝てしまうこともあるんじゃないんですか(笑)?」

 「あぃ、ぃえ、そ、そんな、こと」

 「(笑)いえ、失礼。私の学生時代がそんな感じだったので(笑)。○○さんは、授業へ真面目に出席なさっているんですね」

 「あ、はい」

 「○○さんの学生生活はどうでした? サークル活動とかは」

 「ぃえ」

 「そうなんですかー。いや、全然ありだと思いますよ(笑)。学生の本分は勉強ですからね(笑)」

 「あぃぇ」

 「じゃあなにか印象に残ってる授業ってあります?」

 「あぃぃい?」

 「……」

 「……」

 「ぃ? ぁの、き、きこえなかっ、たので、も、も、もういっか、か」

 「あ、大丈夫です」

 「あはい」

 「……」

 「……」

 「……ところで、弊社についてはどこでお知りになられたんですか?」

 「あ、え、ええと、会社、説明会のときに、その」

 「ああ、○月に行われた奴ですか?」

 「あはい、そうです」

 「そうですね、○○さん、いましたね、ああ、その時の担当、私でしたよね」

 「あはい」

 「説明させて頂いた内容は、簡単には(略)ということでしたね」

 「あはい」

 「○○さんのご興味を惹いたのは、どちらの内容でしたか?」

 「あはい……あ、えっと、ぼ、僕が、弊社(?)について、あの、興味を持った部分は、ですね」

 「はい」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……ぁの、ぃ、ぃま、」

 「はいはい」

 「ぼくにきいたんですか?」

 「……?」

 「……」

 「……」

 ここで、中年の男が動いた。

 「……あー、私からも質問いいかな?」

 「あ、どうぞ」

 「あはい」

 「えーと、○○さんはどういった理由で弊社を希望されたのでしょうか?」

 「あはい。えーと、えーと、僕が、へ、お、御社を志望した理由は、御社の、しご、仕事、ぎょ、業務内容であります、○○について、えー……興味をもったからです」

 「ふうん、○○ですか。でも、一口に○○と言ってもいろいろあるけど、具体的に○○のどういった部分に興味があるんですか?」

 「ぐ、具体的、具体的ですか? えー、具体的、具体的、」

 「じゃあ希望している職種は何ですか?」

 「あはい? あ、職種ですか、職種、ええと、△△的なものを、あの、希望しております」

 「△△ですか。どうして、△△を?」

 「えー……、えー……、……そういった方面に興味があるからです」

 「あ、そう。ところで君、弊社についてどの程度詳しく知っていますか?」

 「え、え、え、」

 「いえね、さっきからどの質問にも上手く答えられていないようだから、どうしてうちにきたのかなって疑問に思ったんですよ」

 「あ、あ、あ、」

 「面接の準備はしました?」

 「うぇ」

 「君、指導教員とかいるよね?」

 「あはい、います」

 「普段どの程度会話をしていますか?」

 「あいえ、特には」

 「この面接に臨む前に練習とか見てもらわなかった?」

 「あいえ、すみ、すみません」

 「いや、どうして謝ったの? 別にあなたが練習しようがしまいがこちらには関係ないんですけど」

 「あ、あ、あ、」

 「…………」

 「うぇ、うぇ、うぇ、」

 「……」

 「……」

 「君、友人とかいる?」

 「あぃえ、いま、います」

 「あ、いるんだ?」

 「○、○○に、○○にいて、時々、こちらで、遊んだりします」

 「ふうん、大学では友達いるの?」

 「あぃえ、いません」

 「だろうね。君は普段人とどれくらい会話をする? 家族以外で」

 「あうぇ、ぃえ、あまり」

 「じゃあ普段自分から誰かに話しかけることってある?」

 「あ、あ、うぇ、あ、あ、あ、ぃえ」

 「純粋な疑問から訊くんだけどさ。君は、人間関係についてどう思う?」

 「あはい?」

 「いや、コミュニケーションをとったりとか、友達作ったりとか、そういうことにどういう意見を持っているのかを訊きたいんだけど」

 「え、え、えぇと」

 「うん」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「ごくごく」

 「いや何で今お茶飲んだの?」

 「え、え、え?」

 「いやもういいです。あのですね、社会で生きていくためには人間関係ってもの凄く大事なんですよ」

 「あはぃ」

 「一人きりで自分の殻にこもってばっかりの奴は大体使えないんですよ。わからないことを人に訊かないし、一人で勝手に事を進めて、挙句失敗を報告しないし、人の話を聞いてるんだか聞いてないんだかよくわからない態度をとるしで」

 「あは」

 「……」

 「……」

 「……ここにいる△△くんはね、分からないことがあったらすぐに上司へ訊きにくるし、失敗しても前向きに取り組んで、自分で頑張りつつ自分の手に余ることは上手く人に頼って仕事をしているんですよ」

 「あは」

 「君は、面接の練習全然してこなかったんでしょ?」

 「あぃえ、いえ」

 「してたらこんなひどい状態にならないよね? 普通の人はね、ここまでひどい状態にならないんですよ」

 「あ、あ、あ、」

 「人と話すのは恥ずかしい? 頼れるような人は身近にいない? どうして今日のこの面接に臨むための最低限の準備すらできなかったのか、自分で理解してる?」

 「うぇ、うぇ、うぇ、」

 「その年でね、その程度の事ができない人は社会でやっていけません。それは、どこだって同じです。就職活動は、それを理解しなきゃ到底うまくいきませんよ」

 「……あのぉ、もうそろそろお時間です……」

 「あ、そ」

 中年の男は興味を失ったように俺を視界から外して、手元に開いていた資料を閉じた。

 「はい、じゃあ、何か質問はありますか?」

 「あないです……」

 「はい、では面接はこれで終了します。結果の連絡は(略)


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