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ナイトな地味男と子豚な私  作者: 結城ノディ
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 夕日で真っ赤に染まる教室で私は立ち尽くして泣いていた。


 職員室で担任に相談をして、教室に荷物をとりにきたら机に入れていた教科書やノートが落書きされて破り捨てられていた。

 落書きの内容は「ミニブタ」とか「陰キャオタキメェwww」とかまぁそんなカンジ。

 勘のいい人もあんまりよくない人ももうお気付きだと思うが、私、小川凜花はイジメをクラスでイジメを受けている。それも結構ハードなヤツを。


 一週間前にささいなことでクラスのハイカーストに位置する女子の機嫌を著しく損ねてしまったのだ。

 女子のほとんどからはシカトされるようになり、1年生の時からの友達からも距離を置かれるようになった。

 男子は何を勘違いしたのかセクハラ紛いのことをしてくる。スカートめくりとか、高校2年生にもなって小学生みたいなことをしてきているのだ。

 今日などついに胸を鷲づかみにされた。やった男子は「いやがってたけど、嬉しそうにしていた」などと馬鹿みたいなことを馬鹿みたいな大声で話していた。

 流石に身の危険を感じ、意を決して担任に経緯を説明して相談したのだが

「こっちのほうでも対策はするけど、お前にもスキがあっるてことなんだぞ」

 と、適当にあしらわれた。

 とりあえずこの担任に話しても何も解決しそうにないということだけは悟った。


 両親には相談できない。2ヶ月前に父親が職場で倒れ、母が看病している。父にも母にも心配をかけるわけにはいかないのだ。

 もう学校に行かずに引きこもろうかとも思ったが、これもやはり母に負担がかかってしまう。


 逃げ場を失った思いで教室に帰ってきたら、この仕打ちである。

 こんなドラマや漫画でしか見たことがなかったよ。

 現実にあるんだな、なんて一人で笑ってみたが、ふいに涙がこぼれてしまった。


 いつまで続くんだろう。いつまで我慢すればいいんだろう。

 たった一週間でこんなにボロボロなのだ。これがクラス替えまで続いたら、いや、卒業まで続いたら私はどうなってしまうのか。


 不安で、悔しくて、ついには声まであげて泣き始めてたその時、廊下から近づいてくる足音が聞こえる。

 涙はすぐにひっこんだ。泣いてる場合じゃない。もうみんな帰るか部活に行くかしているもんだと思っていた。


 このクラスの人じゃありませんように!せめて男子ではありませんように!

 今のこの状況で、クラスの男子と誰もいない教室で二人きりになんてなろうものなら、何をされるか分かったものではない。


 祈りも空しく、足音はこの教室の前で止まり、立て付けの悪いスライドドアを開けて一人の男子が入ってきた。


 斎藤裕人だった。

 クラスの中でも全然目立たない男子だ。


 予期せぬ闖入者に、何を言っていいのか、どう行動すればいいか分からず、ただただアワアワしていると、斎藤君のほうから話しかけてきた。


「……ひどいな」


 何がだろうか。私が今泣き腫らしてひどい顔をしているということだろうか。

 「とりあえず、拾って集めたほうがいいよね。手伝うよ」

 と言うなり斎藤君は破られた教科書とノートを拾い始める。


 はっ、そうだった。フリーズしていた脳みそが少しだけ復活し、状況を思い出す。


「い、いやいいよ、大丈夫、大丈夫……」

 こんな情けない姿をこれ以上見せたくない。


「大丈夫に見えない」

 私の制止は聞かず、斎藤君は破り捨てられた教科書とノートを拾い、種類ごとに分けていく。


 まだ混乱をひきずってはいるが、私の教科書を斎藤君にだけ拾わせるのも悪いという気持ちが一番に浮かんできた。


「ごめんね、ありがとう」

 おとなしく拾って仕分ける作業を手伝うことにした。




「そんなにこまかくちぎられてはないから、テープとかで止めれば一応使えると思う」

作業が終わった斎藤君はそんな冷静なことを言った。

 とりあえず拾い集めたものは机の中に入れてある。明日テープを持ってきて授業中に修復作業をするつもりだ。


「ありがとう、助かりました」

 正義の侍に助けられた町娘のように深々と礼をする。

 

 教科書拾ってくれたことというより、そうしようとしてくれたことに感謝した。

 逃げ道はないとさっきまで絶望していたが、味方になってくれる人もちゃんといるんだ。私が見えていなかっただけで、優しい人が身近にいるんだと、教科書を黙々と拾い集めながらそんなことを思っていた。

 

 続く言葉が見つからなかったし、斎藤君も何かモジモジしている様子だったので

「それじゃまた明日」

 と踵を返したのだが。


「ちょっと待って」

 突然、意を決した風になった斎藤君に呼び止められる。

「実はさ、今日は小川さんが職員室から戻ってくるの待ってたんだ」


 やおら雲行きが怪しくなってきた。

 そういえば、なぜ部活とかもない斎藤君がこの時間まで学校に残っているのだろう。

 待ち伏せしてひどいことをするのだろうか。

「小川さんにお願いがあってさ」

 また少し間が空く。

 怖い。

 お願いって何だ。

 今の私に力になれることなど思いつかない。早くここから逃げ出したい。

 改めて覚悟を決めた様子で斎藤君が口を開く



「俺と、お付き合いしてください」



 ありえない展開に、私の思考回路は本日2回目のフリーズを起こした。

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