第38話 TWO AS ONE
ひとりじゃいつでも待ってた奇跡
君となら起こせるって気づいた
そんな38話。
ユミト・エスペラントの成長物語であり、『コスモスアドベンチャー』の一編であり、そして『星巡る人』のターニングポイントでもある今回のお話。ぜひ前回37話と併せてお楽しみください。
いつもたくさんの閲覧ありがとうございます。
更新は相変わらず不定期ですが、これからも続いていく彼らの旅に末永くお付き合いいただけると幸いです。
それではまた次回でお会いできますよう。
銀白色に煌めく廃星の空を、光となって駆け抜ける。
先を往くアドベンチャー号やエメラ・ルリアンの飛行船をも追い抜かし、俺は瞬く間に火柱の立ち昇る戦場へと辿り着いた。
上空から見下ろすとそこには琥珀の大地を蹂躙するΧ物の姿。奴は各部から生える無数の触手を縦横無尽に蠢かせ、小高い丘ほどもある巨体の周囲を素早く飛び回るトラン・アストラを牽制していた。
ーーーん?
一瞬抱いた違和感の正体はすぐに判明した。
リヒトがいないのだ。あの化け物を葬るためには奴の持つ刀が必要なはずなのにーーー。
「ッ!?」
刹那、こちらに向けて伸ばされる触手。先端に鉤爪のついたそれを咄嗟に飛び退いて躱し、旋回する勢いのまま一気に急降下する。
振り下ろされた大鎌よりも速く化け物の真下へと潜り込み、節足動物を思わせる無数の細やかな脚の隙間を縫うようにして飛んだその先に、俺は見たーーー少し離れた地点で激しく激突する二つの人影を。
ーーーあれは……!
宙を蹴りつけて加速度を増し、Χ物の真下から飛び出すと、俺はぶつかり合う二人の間に滑り込むようにして割り入った。
「……てめぇ、何しに来やがった」
荒い息で訊ねる紫と白の装甲服ーーーリヒトに背を向けたまま、俺は静かに答えた。
「勘違いするな、別にお前達を助けに来たわけじゃない。俺はただ自分の仕事を果たしに来ただけだ」
そのまま振り返りもせずに、土煙の中で対峙するもうひとりをーーー恐らくはバリアを破りΧ物を解き放った張本人をーーー真っ直ぐに睨め付ける。
「宇宙の平和を乱す奴らを放っとくワケにはいかねぇんだよ……俺は、ヒーローだからな」
星巡る人
第38話 TWO AS ONE
「……お前、スカラ・ザムザだな?」
視線の先、ボサボサの黒髪と罅入った丸眼鏡が目を引く、薄汚れた白速装に踝まですっぽりと覆われた男ーーースカラ・ザムザが、その言葉に応えるように軽い調子で手を振る。
俺はそれに低い舌打ちを返し、目を逸らすことなく言い放った。
「好き勝手やってるところ悪りぃが、ここまでだ。観念するんだな」
スカラ・ザムザーーーかつてある星で新興宗教の教祖を務めていた人物だ。自らを神と称して信者たちを巧みに扇動し、他の惑星に大規模な侵略戦争を仕掛けた重罪人として知られている。強力な念動力を駆使するため、宇宙牢獄のレベル4収容時には脳波を遮断する拘束具を嵌められていたと記憶している。
……何を企んでるのかは知らないが、こいつを野放しにはしておくわけにはいかねぇのだけは確かだ。
「あぁ、君が例の宇宙正義か。やぁやぁどうも。お初にお目にかかるね」
飄々とした態度のスカラ・ザムザに、俺は声を荒げて問いただす。
「あの化け物を解き放ったのはお前だな?何が目的だ。答えろ!」
しかしそんな剣幕の俺とは対照的に、奴は呆気にとられたような不思議そうな顔で首を傾げた。
「ん?マセラスから聞いていないかい?お喋りな彼のことだからもうとっくに話してるのかと思ってたよ。まったく、抜け駆けして先陣切ったくせにダメなヤツだね。きっと脳味噌にも筋肉が詰まってるんだろうね、うん」
その言葉を引き金に脳裏に蘇るマセラス・K・クレイの声ーーー『君たちは狙われてるんだ。楽しみじゃなあないかい?』
ふと俺の脳内をある仮説が横切る。
ーーーもし宇宙牢獄の脱獄囚どもが徒党を組んでいるのだとしたら……各々が自由競争のような形で俺たちに挑むべく画策しているとするならば、マセラス・K・クレイの言葉にも合点がいく。
そして恐らくはそんな曲者揃いの連中を束ね従える存在がいるはずだ。……いや、それが何者であるのかは既に見当がついているーーー親切にもマセラス・K・クレイが教えてくれたではないか。それこそがあの"宇宙史上最悪の囚人ーーーラスタ・オンブラーなのだと。
つまりはスカラ・ザムザは奴によって差し向けられた刺客であり、その目的もマセラス・K・クレイと同じ、星のかけらと星心の光だということだ。
「……なるほどな。あいつのお知り合いってわけか。だったらお前も、同じように返り討ちにしてやるぜッ!!」
叫んで駆け出した俺の身体が、不意に衝撃の津波に飲み込まれて押し返される。
「ッ!?」
そのあまりの威力に背後のリヒト諸共大きく吹き飛ばされるものの、俺たちは各々に反転して体勢を立て直し、辛うじて着地を果たした。
「君は私に触れることも叶わない……何と言っても私は神の独生子なんだからねェ!!」
顔を上げたその先で、スカラ・ザムザが引き攣ったような高笑いを繰り返す。たった今俺たちを弾き飛ばしたのが奴の念動力であることは疑うまでもなかった。
「どうだい?神の独り子たる私の力は!!いまこの瞬間にも私は少しづつ神へと近づいているんだ……そしていずれこの宇宙のすべての人間が私の前に平伏すことになる……!!素晴らしい!素晴らしい事だと思わないかね!?」
ーーーこいつ、イカれちまってんな。
俺は右手の親指で唇をそっと撫ぜ、真横に立つリヒトに軽く視線を移す。
「おい。お前らはとっととあの化け物の方に行け。ここは俺が引き受ける」
驚いたように目を見開くリヒトに、俺は更に続ける。
「それがお前の使命だろ、リヒト」
リヒトは真っ直ぐに俺を見据え、小さく呟いた。
「……礼は言わねぇぞ」
「好きにしろ」
緑の残光を曳いて飛び立つリヒトを横目で見送り、俺は恍惚とした表情で笑い続けるスカラ・ザムザに向き直る。
「おぉ。面白いことするんだねぇ。君だけで私に勝てるとでも思っているのかい?神の子であるこの私にぃ?」
その言葉を鼻で笑い飛ばし、言い放つ。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前なんぞ俺ひとりで充分だ。ーーー行くぜッ!」
俺が動くその瞬間、奴もまた動いていた。
間髪入れず再び押し寄せる激しい衝撃の津波。凄まじい威力のそれが唸りを上げ、俺目掛けて迫りくるーーーしかしその時、既に俺は奴の眼前へと躍り出ていた。
「遅ぇんだよ!」
叫ぶより速く奴の土手っ腹に全力で拳を突き立てる。
「ぐぅぁあ!!」
荒涼とした大地を削りながら吹き飛んでいくスカラ・ザムザ。砕け散った眼鏡の奥、仰天しきったその顔を見るに、たった今何が起きたのかを理解できていない様子だ。
俺は思わず口角を吊り上げた。
両脚に集約させたエネルギーを地面に炸裂させ、その反動を用いて一気に加速するーーー思った通りだ。スカラ・ザムザの念動力はphase3の能力をフル活用した俺の速度には着いてこれないのだ。
「きさま……よくも神の子たるこの私に屈辱を……!!」
喀血を拭い、蹌踉めきながらも尚立ち上がるスカラ・ザムザをまっすぐに見据え、俺は誰に言うでもなく呟いた。
「さぁ、ジャンジャン行こうぜ」
ーーー戦局は圧倒的に俺たちに有利に展開されていた。
暴れまわるΧ物の両腕の大鎌はトラン・アストラとリヒトによって力づくでもぎ取られ、駆けつけたエメラ・ルリアンの飛行船が刃と化したその両翼で伸縮する触手を次々に切り落としていく。
更に上空からアドベンチャー号が見事なアクロバット飛行で化け物へと迫り、開かれた甲羅の奥にある火柱の噴出口へと主砲を叩き込んだ。
「ヘルチケットキャノン、撃ぇええええ!!!」
「了解ッ!うぉおおおああああ!!!」
背部の爆発と共に火柱が途絶え、悶え苦しむようにのたうちまわるΧ物。
全ての武装を失い悲鳴にも似た咆哮をあげるその巨体の前に、雷撃を纏う刀を携えたリヒトが立ちはだかる。
「よぉ、お疲れさん。……これで終わりだ」
その一方でこちらの決着もつこうとしていた。
暴風の如きスカラ・ザムザの念動力は確かに強力ではあったが、どれだけ恐ろしい威力であろうともそもそも当たらなければどうということもない。
俺は奴の攻撃をことごとく躱し、的確に攻撃を畳み掛けて追い詰めていく。
「なぜだ……。神の子であるこの私が、なぜまたしても宇宙正義ごときに……!」
「うるせぇよ、このハリボテ野郎。お前はカミサマなんかじゃねぇ……カルト教団を扇動して大勢の人を殺した、ただの犯罪者だ!!」
「黙れぇええええ!!!」
焦りと怒りをむき出しにしたスカラ・ザムザが、周囲の岩石を念動力の嵐と共に俺目掛けて次々と射出する。
大小様々なそれらが音をも超える速度で猛然と迫るーーーしかし俺はその全てを造作もなく叩き落し、奴を指差して宣告した。
「違法宗教団体グルジェフ元教祖スカラ・ザムザ。宇宙正義の名において、これよりお前に正義を執行する!」
刹那、俺は加速をつけて奴との距離を詰め、その勢いのままに飛び蹴りを繰り出した。
「さぁ、お片付けだ!」
捻りを加えた強烈なその一撃が、スカラ・ザムザの胴体を鋭く穿つ。骨が軋み砕ける音と共に奴が身体を大きく仰け反らせて吹き飛んでいく。
「が……ッ!!」
地面を転がったスカラ・ザムザが、息も絶え絶えになりながらもこちらに顔を向け、まるでまだ余裕があるとでも言わんばかりに血塗れの口元をにやりと歪ませた。
「これで……勝ったつもりかい……?」
瞬間、奴の姿が消えたーーーしまった、空間転移だ!!
まだそんな体力があったとは……!
俺が咄嗟にΧ物の方へと振り向いた時には、既に事は起きてしまった後であった。
「雷轟一閃・コスモスペシャルッ!!」
リヒトが緑の雷撃を纏った刀を構えて一気に駆け出す。さながら稲妻のように眩い閃光が、今まさにΧ物の心臓に突きたてられようとしたーーーその時、突如としてその間にスカラ・ザムザが割り込むように姿を現した。
「ーーーッ!?」
あまりに突然の空間転移に対応しきれず、減速する間も無くそのまま突っ込むリヒト。
直後、鈍く響く嫌な音と共に刀身がスカラ・ザムザの胸を貫いた。
「がぁぁあ……ッ」
スカラ・ザムザの口から溢れ出す大量の鮮血が、至近距離に迫ったふたりの足元をたちどころに染め上げた。ドス黒く濡れた刀はすんでのところでΧ物の心臓には届かず、その切っ先をただ虚空に浮かべている。
「神への道は、決して……途絶えない……!」
奴は囁くように、それでもどこか力強くそう呟く。
それと同時にリヒトの眼前に翳した手から放たれた念動力の暴風。間近でその直撃を受け、堪らず吹き飛んだリヒトの身体をトラン・アストラが受け止める。
「大丈夫かい?」
「……悪りぃ、助かったぜ」
真っ赤な白装束のスカラ・ザムザが狂ったような高笑いを繰り返す。それはまるでこの時を待っていたかのようであった。
「さぁ、恐怖と絶望の前に……ひれ伏せぇええええ!!!」
絶叫を残し、緑の雷撃の中で炭と化していくスカラ・ザムザ。と、不意に消滅しゆくその身体から煙状の青い光が抜け出した。
それは蜷局を巻くようにして瀕死のΧ物を取り囲み、瞬きの間にその巨体に脈打つ剥き出しの心臓の中へと飛び込んだ。
ーーー瞬間、異変が起こった。
唐突に力なくその場に崩れ落ちるΧ物。その表皮がみるみるうちに硬質化を始め、生命の色を失っていく。
「……クソっ、こいつは厄介なことになった」
跳躍して近くに降り立った俺を見遣り、リヒトが苦々しげに呟く。
「オレたちと同じだーーーあの野郎、Χ物と同化しやがった!」
刹那、内側から強い力を受けたかのように粉々に砕け散る巨大な外殻。転がる破片と舞い上がる砂塵の中、ゆっくりと醜悪な異形が姿を現した。
ーーー"それ"を一言で表すとするなら、ヒトの形をしたΧ物だろうか。
毒々しい危険色で彩られた全身は滑らかな装甲で覆われ、その両腕の肘から先には鋭利な鎌が不気味に煌めいてきた。更に背面には甲羅を思わせる禍々しい翼と無数の触手を束ねたような尻尾が確認でき、それら全てが相まって悍ましいフォルムを形成している。
先ほどまでとは異なり背丈こそ俺たちとさほど変わらないものの、悠然と佇むその姿態から醸し出される威圧感は比べ物にならないほどに増大していた。
「ふ……ふふ……ハぁハハハハァああ!!見るがいい!この神々しい姿を!!私は今、またしても神に一歩近づいたのだァ!!」
響き渡るスカラ・ザムザの狂乱に満ちた声。無機質な顔面を縦一文字に横切る発光器官が、言葉を放つ度に細やかな明滅を繰り返す。
「信じられねぇ。Χ物を完全に乗っ取りやがったのか……!?」
驚愕しきるリヒトの横を、俺はΧ物目掛けて駆け抜ける。
「なにが神々しい姿だ。さっきよりまるで迫力不足だぜッ!!」
エネルギーを集約させた俺の右拳が、奴の無機質な顔面を確かに捉えた。
ーーーどんな姿になろうと関係ない。先手必勝だッ!!
しかしその寸前、目の前に迫っていたはずのΧ物の姿が忽然と消失し、全力で振り抜いた俺の拳は虚しく空を切る。
「ーーーッ!?」
驚きに目を見開いた俺を背後から襲う衝撃波の津波。前のめりに吹き飛び、無様に地面を転がりながらもなんとか体勢を立て直す。
ーーー空間転移だと……!?
俺を見下ろすように宙に浮くΧ物。不意にそこへ緑の閃光が走る。
「疾れ稲妻ァ!!」
リヒトの放つ雷撃は空を駆け上り、まっすぐに異形の化け物を貫いたーーーかに見えた。
「なッ!?」
緑の稲妻が穿ったのはΧ物の残像だった。奴はごく短いスパンで空間転移を繰り返し、次々と放たれる雷撃を全て躱しながらリヒトへと迫る。
「まずは君からだァ!」
目にも留まらぬ速さで振り下ろされる大鎌を辛うじて刀で受け止めるリヒト。しかしその力強い一撃の前に耐えきれず、がくりと膝をつく。
押し込まれたリヒトにトドメを刺すべく、Χ物がすかさずもう一方の大鎌を振り上げたーーーその時、真横から駆け込んだ光の集まりが異形の影を撥ね飛ばした。
ーーートラン・アストラ……!
思わず安堵の息を吐く。
光ーーートラン・アストラはゆっくりと化け物に向き直り、怒気を隠さず言い放つ。
「悪いけど、君を放っておくわけにはいかない」
「君に私が止められるかなぁ?神の子たるこの私を?」
その言葉が宙に溶けきる前に、既に両者は動き出していた。素早く詰め寄るトラン・アストラの攻撃を、空間転移を駆使して躱すΧ物。しかしトラン・アストラはその転移先を読んだかのように先回りし、奴に翻弄されることなく互角に渡り合う。
ーーーあいつ、マジかよ。
悔しいが、どうやらトラン・アストラはあの化け物の空間転移にも対応できるらしい。
いや、それどころかトラン・アストラは徐々にその速度を増していき、俺たちが手も足も出なかったΧ物をみるみるうちに追い詰めていく。
「ハァアアッ!!」
気迫と共に放たれるトラン・アストラの渾身の一撃。その拳が化け物の胴体に直撃するその寸前、奴の胸が不気味に蠢き、その表皮にせり出すようにして赤く脈打つ器官がーーーΧ物の心臓が露出した。
「いいのかい?私を殺したら、この中の細菌兵器が宇宙中にばら撒かれることになるんだよ?」
「ーーーッ!?」
怪しく囁くΧ物。その言葉にトラン・アストラがハッと拳を止める瞬間を、奴は見逃しはしなかった。
「喰らえぇ!!」
化け物の無機質な顔面に走る発光器官から連続して放たれる黒い火球。渦を巻く灼熱の炎が、次々とトラン・アストラの胸に命中する。
「ぐぁあああ!!」
おそらくバリアを張る間も無かったのだろう。大きく吹き飛ばされたトラン・アストラが、その直撃を受けて苦しみ藻搔くように地面を転げ回る。
「神の子に楯突いた罰だ……効くだろう?」
俺とリヒト、さらに上空からトラン・アストラへと急降下してくるエメラ・ルリアンの飛行船を見遣り、Χ物はさも楽しげに付け加えた。
「愚かな奴らだな。君たちも報いを受けるがいい」
真上に向けて撃ち出された黒い火球は空中で分裂、拡散し、其々が凄まじい破壊力を秘めた火の雨となって俺たちに降り注いだ。
その威力に地面が弾け、足元に炎が噴き上がる。躱し切ることのできない程の密度で辺り一帯に炸裂するそれらを前に、俺たちは成すすべもなく身体を焼き焦がされていった。
「神の子たる私が裁きを下す……君たちは全員死刑だ」
トドメとばかりにΧ物から全方位に向けて連発される黒い火球が、瞬時に俺の視界を埋め尽くす。
まるで意思を持ったかのように自由自在に飛び回る火球が船底を掠め、エメラ・ルリアンの飛行船が黒煙を吹きながら墜落していく。その救助に向かったアドベンチャー号もまた灼熱の炎に右翼を吹き飛ばされて着陸を余儀なくされてしまう。
吹き飛ばされるリヒト。炎に呑み込まれるトラン・アストラ。そして俺も次々と押し寄せる火球を全身に浴び続け、遂には力尽きて荒れ果てた地面へと倒れ伏したのだった。
「これが……これが神の子たる私の力だ!思い知ったか冒涜者どもがァ!!」
喜びに打ち震えるΧ物の高笑いが廃星の空に響く。
「もう誰にも私のことを馬鹿にはさせない……私がこの宇宙を理想の世界へと創り変えるんだ!生きとし生けるもの全てが私という神を讃え敬う素晴らしい楽園に!!」
その言葉に、倒れたままの俺は思わず笑ってしまう。
「……くだらねぇなあ、お前」
「なんだと……?」
俺は有りっ丈の力を振り絞り、蹌踉めきながらもゆっくりと立ち上がる。
「なぁ、知ってるか?お前がそんなくだらねぇ理由で壊そうとしてるこの宇宙を、"好きだから"って理由だけで守ろうとしてる連中がいるんだぜ」
Χ物をまっすぐに見据え、俺は更に言葉を続ける。
「ワケわかんねぇよな、正直俺もそう思うぜ。綺麗事すぎて笑っちまう。……でもな、なんでか知らねぇけどそういうの、俺も嫌いじゃねぇんだ」
相変わらず理解はできないままだがーーーそれでも素直にそう思えた。
「だからお前にこの宇宙は壊させねぇ、絶対に」
そう言い放った俺の肩に、不意に手が置かれる。
振り向くとそこには紫と白の装甲服が立っていた。その仮面の下から、柔らかな少女の声がーーーコスモの声が聞こえる。
「良いじゃないか、それでも。ね、リヒト?」
「ったく、しゃーねぇなあ」
同じ仮面の下から入れ替わりに響く低い声。その主がかったるげにーーーそれでもどこか照れ臭そうにーーー頭部の二対の角を撫であげる。
「まだ終わりなんかじゃねえって事、あのバケモンに教えてやろうぜ」
俺の両横に立つトラン・アストラとリヒト。
互いに顔を見合わせ、一斉にΧ物に向けて駆け出したその瞬間、トラン・アストラの胸から突然目映い光が溢れ出した。
「ッ!?」
迸る暖かなそれが、瞬く間に拡散し俺たちを包み込んでいくーーー。
ーーーほんの僅かなその一瞬、俺は確かに見たのだ。幾重にも重なる七色の輝きの向こうで、朧げに揺らぐ歓びの剣と星のかけらをーーー。
ーーーゆっくりと収束していく光に目を見開いた時、そこにリヒトの姿はなかった。
「な……!?」
俺は自分の目を疑った。
目の前の光景が信じられないーーー信じられるはずがなかったからだ。
そこにいたのは紫と白の装甲服を身に纏ったトラン・アストラだった。頭に大きな角を生やし、両手に緑の雷撃を漲らせた二本の刀を携えて、驚いた様子で自分の身体を見回している。
「これは……?」
さしものトラン・アストラも動揺するこの状況をさらに混乱させるのは、二本の刀からそれぞれに響く声だった。
「え?あ、はぁ!?おいこれどういうことだよ!何がどうなってんだ!?」
「人の中に入るのってなんだか新鮮だなあ。リヒトはいつもこんな感じだったんだね」
「馬鹿、呑気なこと言ってる場合かよコスモ!」
二本の刀が会話しているその光景に、俺は思わず呆気にとられてしまう。まるで意味がわからないーーーどうして刀からコスモとリヒトの声が聞こえるんだ?
「どう足掻こうと無駄だ。神の子であるこの私に勝てるはずがない!!」
叫ぶΧ物が連続で撃ち出す数多の黒い火球を振るった二本の刀ですべて切り払い、トラン・アストラがゆっくりと戦闘態勢をとる。
「ねぇトラン。理屈はわからないけど、どうやらぼく達はいま二人揃って君と"合体"してるみたいだよ」
「よく分かんねぇが考えるのは後だ。おいトラン、頼むぜ?」
フッと顔に笑みを浮かべ、トラン・アストラが頷く。
「いくぞッ!!」
緑の光を曳いて駆け出したトラン・アストラの一閃がΧ物を切り裂くーーーいや、それは残像だ。奴は空間転移で瞬時に刀の間合いから逃れたのだ。しかしトラン・アストラは焦ることなくその場で素早く半回転し、自らの背面へと切っ先を向けた。
「ぐぅうッ!?」
背後からの急襲を読まれ、咄嗟に再度空間転移して辛うじてその一撃を避けるΧ物。距離をとって現れた奴の無機質な顔面の端に、僅かに焦りの色が浮かんでいるのを俺は確かに見た。
「トラン、君って本当にすごいんだね!ねぇリヒト、ぼくらにもこういうことってできないのかなあ?」
「お前なァ……ちょっとは緊張感とかねぇのかよ」
先読みされる空間転移では不利だと判断したらしいΧ物が、念動力と黒い火球を執拗に連発してトラン・アストラを襲う。だがトラン・アストラもまた刀身から緑の雷撃を放ってそれらを全て相殺し、その心臓を突くべく奴へと迫る。
両者の実力はほぼ互角であり、熾烈な戦いはその場を地面から空中へと戦いの場を移しながら果てなく続く。
超音速の高速移動と空間転移を繰り返しながら、ふたつの姿が持てる力の限りを尽くして幾度となく激突する。
その光景を俺はただ見ていることしかできないでいた。
ーーークソッ、俺にできることはないのか……?
と、その時、突然Χ物が身体を捻って素早く尻尾を振るった。不意の一撃にトラン・アストラが錐揉みしながら吹き飛んだその瞬間、Χ物がなぜか地面めがけて数十発の黒い火球を撃ち出すーーーその行動を訝しむ間もなく、俺は奴の意図を察知した。
ーーーまずい!!
火球連弾の射線上、遥か彼方の土漠にいたのは、蹌踉めきながらも支え合って歩くいくつかの人影ーーー遠目でもわかる。あの姿は間違いなくアドベンチャー号の三人と"ラセスタ"、エメラ・ルリアンの五人だーーーだった。
恐らくは墜落した機体から這々の体で抜け出してきたのだろう、決して無事とは言えないボロボロの姿をした彼らに、黒い火球の雨が容赦無く降り掛かる。
ーーー危ねぇッ!!
その瞬間、俺は一切の思考を放棄して駆け出していた。
両脚にエネルギーを込めて地面を蹴りつけ、それと同時に一気に加速する。雲を棚引かせ、さながら超低空飛行のように疾駆しながら、俺は瞬時に五人の目の前へと飛び込んだ。
「ユミト!!」
エメラ・ルリアンの叫びは爆発と轟音に虚しく掻き消され、数十発もの火球連弾を一身に浴びた俺は黒く細い煙を立ちのぼらせながら崩折れる。
「邪魔をするなァ!!」
膝をついた俺の眼前に空間転移で現れるΧ物。不気味に煌めく右腕の大鎌が、硝煙を切り裂いて俺へと迫るーーー!
「なに……ッ!?」
奴の言葉に動揺が浮かぶ。
それも当然だろうーーー俺の首を刎ねるべく振り下ろされたその刃を、俺は躱すことなく自らの左肩であえて受け止めてみせたのだから。
驚愕する奴に生まれたほんの僅かな隙を俺は見逃しはしなかった。
肩から激痛と共に溢れ出す黒い体液など歯牙にも掛けず、すかさず左腕を回して大鎌の根元をーーーΧ物の右腕を押さえつける。
「……やっと捕まえたぜ、スカラ・ザムザ」
「貴様ッ!やめろ、離せ!離ーーー!!」
立ち上がりざまに突き出した右腕で奴の無機質な顔面を鷲掴みにし、その言葉を遮って叫ぶ。
「今だァッ!!」
呼応したかのように迸る緑の光刃が眼前の異形を瞬く間に薙ぎ払う。翼と尻尾を斬り落とされ、地面を転げ回るΧ物を尻目に、上空から舞い降りた紫と白の姿が俺を見下ろした。
「ユミト、大丈夫?」
「ありがとう、助かったよ!」
「……大したことねぇよ」
コスモとトラン・アストラに強がりの言葉を返して立ち上がった俺に、ぶっきらぼうな低い声がーーーリヒトの声が届く。
「お前、なかなかやるじゃねぇか。正直見直したぜ」
あまりに予想外なその一言に俺は思わず笑ってしまった。
「ハッ、そりゃどーも」
そのままゆっくりと敵の方へと目を向ける。
「私は……私は神の独生児だぞ!貴様らごときが……神に楯突くなど……!!」
翼と尻尾を失ったΧ物が立ち上がって激昂する。
俺は一歩前に踏み出して、静かに言い放った。
「さっきも言ったろ。お前なんかただの犯罪者だ、ってな」
「黙れぇえええええ!!」
怒りに任せて撃ち出される数百発の火球。先ほどまでに比べて威力もコントロールも明らかに粗雑なそれらを、俺たちは造作もなく叩き落としていく。
「死ねぇ!死ねぇ!!死ねぇえええ!!」
狂ったように叫ぶΧ物など気にも留めない様子で、火球を切り払う刀からリヒトとコスモの声が響く。
「おいコスモ。必殺技の名前どうするよ?」
「ん、いま決まったとこだよ。今回は渾身のネーミングなんだ 」
緊迫感のなさすぎるその会話に俺は耳を疑ったーーー必殺技?
恐らくはトラン・アストラもそうだったのだろう。訊き返した奴に対して二本の刀はさも当たり前のことであるかのように各々に言葉を返してきた。
「おいおい、お前ら冗談だろ。必殺技だぞ?叫ばなきゃウソだろ」
「そうそう。せっかくなんだから叫んでこそじゃない?なんなら絶叫してもいいくらい」
ーーーなるほど……そういうものなのか?
思わず納得させられた俺にリヒトが声を掛ける。
「ぼさっとすんな。全員の息を合わせねぇと意味がねぇんだからな」
「……!?俺もか?」
意表を突かれて素っ頓狂な声を上げた俺の問いに朗らかに答えたのはコスモだ。
「もちろん、君もだよ」
ふっと微笑み、刀に雷撃を漲らせてトラン・アストラが最後の火球を弾き飛ばす。
「私は神の子だ……神になるべき尊い存在なのだ!!私にひれ伏せ!跪け!赦しを請ぇえええええ!!!」
連弾を止め、禍々しい漆黒の火球を眼前にチャージし始めるΧ物。
俺たちは立ち並び、それを迎え撃つべく構える。
「さァ、勝ちに行こうぜ。オレたち……四人で!!」
瞬間、異形から放たれる超巨大な火球。俺たちの三倍はあろうかという焔の塊が地面を蒸発させながら迫り来る。
「全員まとめて消え去れぇェエエ!!」
「そんなことはさせないよ。絶対に!」
先に動いたのはトラン・アストラだ。一歩前へ踏み出すと同時に二本の刀を交差させ、瞬間的にその凄まじい熱量を受け止める。
「雷轟一閃・トランスペシャル!!」
刹那、クロスする緑の軌跡が巨大火球を斬り裂き、目映いスパークの中でそれを煌めく粒子へと還元した。驚きを隠しきれず怯むΧ物。その機を逃さず俺は大きく跳躍し、ひと息に奴の眼前に迫った。
「シャオラァッ!!」
急接近する勢いのままに、エネルギーを集約させた右拳で強烈なアッパーを叩き込む。ロケットの如く打ち上げられたΧ物を追って俺は素早く身を翻し、逆立ちの体勢でまるで足踏みをするかのように奴の胴体へ連続で両脚蹴りを見舞いながら、異形の姿諸共空高くへと昇っていく。
「ダァアアアアアッ!!」
そのままΧ物を激しく蹴り飛ばす。
気づけば俺たちは成層圏にまで達していた。
乳白色の惑星に掛かる輪を背に浮かぶ異形の姿が、悪足掻きとばかりに火球を放つ。それを相殺したのは遥か眼下より撃ち出された緑の稲妻だった。
振り返った俺が見たのは、猛スピードで空を駆け上がってくる紫と白の装甲服ーーートラン・アストラの姿だった。その背に光の翼を展開させ、緑の閃光を迸らせながら一直線にΧ物へと突撃する。
「テメェは往生際が悪りぃんだよ!」
「行くよ!ーーー必殺ッ!!」
トラン・アストラが二本の刀を前方へと突き出し、そのままドリルのように高速回転を始めた。さながら雷の竜巻を思わせるそれが、煌めきの中で加速を増す。
「雷轟一閃・コスモミラクルフィニッシュ!!!」
三人の声が重なる瞬間、渦を巻く緑の閃光が異形の化け物を貫いた。
「わ、私は……神にぃいいぃ……ッ!あぁああぁァアア!!」
断末魔の絶叫を残し、光り輝く塵となって四散するΧ物。
ーーー終わった……。
俺たちが見送る中、やがてそれらは須らく消滅し、広大な宇宙空間には再び静寂が訪れた。
「さぁ、帰ろう。みんなが待ってる」
微笑みながら俺に語りかけるトラン・アストラ。その身体が不意に朧げに霞み、まるで今までずっと隣にいたかのようにどこからともなく紫と白の装甲服が姿を現わした。
「トラン、ユミト。お前らのおかげで無事にΧ物兵器五号型を殲滅することができた。感謝するぜ」
分離を果たしたリヒトが同じく元の姿へと戻ったトラン・アストラと俺を順番に見遣り、穏やかな低い声でそう口にする。
「これで残るは……あと三体」
独り言のように付け加えられたその言葉に、トラン・アストラが反応する。
「ねぇ、リヒト。訊こうと思ってたんだけど、君は使命を果たしたらどうするつもりなんだい?」
「……その質問をされたのがコスモが寝ちまった今で良かったぜ。なんせまだボスにしか話してねぇことだからな。お前らも内緒にしててくれよ?」
リヒトは足元に広がる乳白色の惑星へと目を向け、軽く微笑んだ。
「13体のΧ物兵器を全て殲滅して、使命を果たしたらーーーその時は、オレは自分の残りの命をぜんぶコスモにやろうと思ってんだ」
それが当然だとでも言わんばかりに、リヒトが自分の胸を指差す。
「そもそもオレが巻き込まなきゃ、こいつが命を落とすこともなかったんだ。せめてもの償い……なんて綺麗事言うつもりはねぇが、少なくともその先の未来もコスモは生きて、アドベンチャー号の奴らと旅を続けられるだろう」
俺は目を見開いた。
ーーーこいつ、自分の命を……?
そんな俺の驚きを見透かしたかのように、リヒトは俺を見据える。
「なァ知ってるか?アドベンチャー号の奴らはな、こんなオレのことを仲間だって言って譲らないんだぜ。笑えるよなァ。どこまでお人好しなんだか……」
どこか嬉しそうにそう語るリヒトの瞳は俺を写してはおらず、どこか遠くーーー遥か宇宙の深淵を眺めているかのようであった。
「正直、最初はくだらねぇって思ってたさ。あいつら四人は家族で、オレはそこに厄介事を持ち込んだ異物に過ぎない……仲間だなんだって馴れ合うつもりもなかった。でもな、ある時ボスが言ったんだーーー"俺たちはいま同じ船に乗って旅をしている。それが仲間じゃないならなんだって言うんだ"って」
俺はリヒトにつられて思わず笑みを溢したーーーいかにもあのボスが言いそうなことだ。
「バカバカしくて、くだらなくて……それなのにその言葉にどうしようもないくらいに救われた。だからオレは、オレの事を仲間だと言ってくれるあの"家族"をこれ以上壊したくねぇんだ。それでたとえ自分が死ぬことになるとしても、あいつらが元通り旅を続けられるのならオレにとっちゃ本望だ」
リヒトはすでに覚悟を決めているようであった。その言葉には一片の迷いもなく、滲む決意は固く揺るぎない。
「覚えとけユミト。仲間ってのは、案外良いもんだぜ」
確信に満ちた口調でリヒトが告げる。
「お前にもいつか分かるだろうよ」
ーーー仲間……。
その言葉は、なぜか俺の心の中でいつまでも木霊し続けた。
「君たちには本当に世話になった。改めて礼を言わせてほしい……ありがとう!」
色黒の顔に笑みを浮かべたボスと、その両脇に整列したアドベンチャー号の面々が皆一様に深々と頭を下げる。
「いや、そんな私たちは大したことは……」
あたふたするエメラ・ルリアンを尻目に乳白色の空の下で煌めく二隻の船へと視点を移す。
撃墜された輸送船アドベンチャー号とエメラ・ルリアンの飛行船はどちらも酷い損傷具合ではあったものの、本来エンジニアであるコスモと"ラセスタ"を筆頭にこの場にいる全員で力を合わせたこともあって予想以上に早く修復を完了した。
彼らはこれからすぐに元の航路へと復帰し、物資運搬の任務に戻るのだという。
「この広い宇宙のどこかで、いつか必ずまた会おう」
そう言って手を差し出すボス。
エメラ・ルリアンは少し驚きながらも、その手をしっかりと握り返した。
「うん、いつか必ず」
握手を交わすボスの後ろから、セリザワ・ムネとサコミズ・アイリがひょっこりと顔を出して俺たちに話しかける。
「良かったら惑星GHにも遊びに来てくださいね!本当に良いところなんだよ〜!僕たちも最近は全然帰れてないんだけど」
「任務なんだから当たり前でしょ?それよりラセスタさん、教えてもらった料理、私も今度試して良いかしら?」
「え、副長が作るんですか……?やめといたほうが賢明なのではアイタタタタ!」
サコミズ・アイリがセリザワ・ムネの耳を抓りあげるその光景に、その場の全員が自然と笑顔になる。
そんな和気藹々とした雰囲気の中、コスモが一歩前に踏み出して何故か俺に手を差し出した。
突然のことに意表を突かれながらも、何も言わずに微笑むコスモと握手を交わしたその瞬間、彼女の黒く澄んだ瞳に僅かに紫の光が宿ったーーーような気がした。
ーーー!?
しかしそれは幻であったかのように瞬きの間に消えてしまう。
見間違いだったのだろうか、などと考えていた俺を見て、何かを察したらしいコスモがくすくすと笑う。
「"ありがとう"ーーーだってさ。あいつ、本当に素直じゃないんだから」
程なくして乳白色の空に吸い込まれていく青と白の機影。遠ざかっていくアドベンチャー号を見送ったのち、一抹の寂しさと晴れやかな気持ちを胸に俺たちもまた惑星CNを後にした。
「ご飯できたよ〜っ」
キッチンから鼻歌交じりの"ラセスタ"が姿を現わし、暖かな料理の盛られた皿を慎重に四人掛けのテーブルの上に並べていく。
料理の皿は三枚ーーーどうやらようやく学んでくれたらしい。
俺は立ち上がりいつもと同じように自室へ向かう。"ラセスタ"に続いて嬉しそうに席に着くエメラ・ルリアンやトラン・アストラとは真逆の方向へーーーと、はたと足を止めて踵を返し、空いている最後の席へとどっかりと腰を下ろす。
「ユミト……?」
「あら、どういう風の吹きまわし?」
目を丸くするトラン・アストラとエメラ・ルリアン。
懐から取り出した簡易栄養錠剤をひと粒口に放り込んで、少しぶっきらぼうに俺は答えた。
「……どこで食事しようが俺の勝手だろ」
ふと、三人が気の抜けた嬉しそうな笑顔でニヤニヤと俺を眺めているのに気がつき、急に恥ずかしくなって慌ててそっぽを向く。
口の中で溶ける人工合成品はいつも通り味気なく、いつもよりなぜか無性に旨く感じた。
「たすけてお父さん!いかないでお母さん!ねぇ……ぼくをひとりにしないで!!」
「その人は……!?やめろ……やめてくれ……やめろォオオオ!!」
「拙者はムルカ=ボロス。虹の騎士団に所属する"白の者"でござる」
次回、星巡る人
第39話 たたいて・かぶって・参るで候!




