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星巡る人   作者: しーたけ
34/54

第34話 正義を御旗に

前回、前々回に続き激闘の第34話。


31話から始まって以来ユミト・エスペラントの視点で進められているこの第2部ですが、彼が毎回のごとくコテンパンに叩きのめされていて現状ではただの口だけ野郎と化しているのが可哀想でなりません。

彼の名誉のために言うと、彼は決して弱い訳ではありません。政府軍上層部防衛組織の一員なのでむしろエリート中のエリート…なのですが、如何せん相手は作中最強格の二人なので、相手が悪すぎたと言うほかないのです。


この第2部はそんな彼が足掻いて戦って前に踏み出していくお話となっています。

これから加速していく彼の物語に、どうかお付き合いいただけると幸いです。


いつもたくさんの閲覧、宣伝ありがとうございます。

感想、レビュー等いただける機会が増えてとても嬉しく思います。

更新は相変わらず不定期ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。


それでは次回でまたお会いできますよう。


ーーーなにしてんだよ……なにがしてぇんだよ、俺…。


まっすぐに伸ばした身体に両腕をぴたりと沿わせ、加速度を増しながら監獄惑星の暗雲を飛ぶ。

耳元で風が唸るように叫び、遥か眼下の景色が溶け去るその一瞬を駆け抜けながら、俺はひたすら自分に問いかけていた。


ーーー俺はこの宇宙を守る正義で、あいつらは平和を乱す悪党だ。構図は極めてシンプルで、そこには一点の曇りもない。



だというのにーーー。



『これ、良かったら食べてね!』

『トランがあんたをほっとけないって言うからよ』



頭の中に蘇る奴らの姿、その声が、なぜか心の一番深いところを激しく揺さぶる。


ーーーくそっ。


大きく舌打ちし、迷いを振り切るようにして更に加速する。


ーーー忘れるな、俺は宇宙正義(ヒーロー)なんだ。この宇宙の"絶対的な正義の指針"の一員が、くだらない一時の感情に惑わされてんじゃねぇよ。


…あいつらは俺が討つ。次こそ、必ず。



俺は銀色の閃光と化し、黒煙と業火の立ち昇るエリア3へと向けて一気に急降下した。





星巡る人


第34話 正義を御旗に






大きく抉るように穿たれた地面や無残に崩れた建造物。そして折り重なって倒れる夥しい数の屍……硝煙に霞む"エリア3だったその場所"もまた、他のエリアと同じような惨状を晒していた。


紛うことなき地獄と化したその光景に唇を噛み締める。


ーーーッ!?


と、黒煙を潜り抜けて飛ぶ俺の目が、その彼方の地点に対峙するいくつかの朧げな人影を確かに捉えた。


ーーーあれだ!!


瞬間、俺は空中で一回転して右脚を前方に突き出し、その飛び蹴りの体勢のまま足先に光を纏った。


「おぉおおおおおおッ!!!」


音を追い越し、空気を切り裂きながら、流星の如く眼下の人影へとーーーその中でも一際目立つ、黒い霧を纏った"奴"へと向けて真っ直ぐに突っ込む。


しかしーーー。


「フゥンッ!!」


脚先にエネルギーを込め、音速で急降下する勢いのまま繰り出したその蹴りは、不意の一撃であったにも関わらず"奴"の片手に易々と弾かれてしまった。


「ーーーッ!?」


俺は咄嗟に反転して後方ヘと跳び、素早く"奴"との距離をとる。


「……はァ。お前、生きていたのか」


僅かに後退りながらも楽しげに顔を歪ませる"奴"ーーーセクションXの罪人の言葉に、俺は右手の親指で唇をそっと撫ぜ、鼻で笑って返した。


「あの程度で死んでたまるかよ」

「ならもう一度試してみるか?」


奴と相対する俺の背後にふたつの気配が回り込む。肩越しに軽く振り向くと、そこには満身創痍の隊長とエルピスの姿があった。


「ユミト!良かった、無事だったんだね」


安堵したようなエルピスの言葉に、奴から注意を逸らすことなく俺は口角を上げて答える。


「なんとかな。お前も元気そうでなによりだ」


そのままエルピスの横に並ぶ隊長に目を移し、言葉を続ける。


「遅れてスミマセン、隊長。大丈夫ですか」


思念体通信(テレパシー)を怠った単独行動については後でたっぷりと絞らせてもらうぞ、ユミト」


俺の肩を軽く叩き、蹌踉めきながらも隣に立ち並ぶ隊長。その表情には僅かに微笑みが浮かんでいた。


「……まずはこの場を切り抜けることが先だ。三人で力を合わせ、奴を倒すぞ」


「ですけど隊長、あの霧をなんとかしないことには…!」


エルピスが珍しく言葉に焦りを滲ませて隊長の言葉を遮る。その理由はすぐに分かったーーー特務隊六人のうちの残りの三人の姿がどこにも見当たらないのだ。


「エルピス、他のみんなはどうした?」

「…やられたよ、あいつに。生体改造を受けたはずの特務隊員が一時退却させざるを得ないほどのダメージを負わされたんだ…信じられないことにね」


俺の問いにエルピスは前方の罪人を忌々しげに睨みつけて答える。


「副隊長や先輩方でさえ容易く捩じ伏せる力に、隊長の光線すら防ぎ切るバリア……あの霧をなんとかしない限り、正直勝てる気がしないよ」


少し青ざめ、明らかに普段の冷静さを欠いている様子のエルピス。俺はその頭を小突き、敢然と言い放った。


「ばァか、しっかりしろよ。まだ負けたわけじゃねぇ…こっから大逆転するのが、正義の味方(ヒーロー)だろ?」


「策があるのか?」


「あぁ。要するにあいつの本体に直接攻撃をぶち込んでやればいいんだ。だったらーーー」


そこでハッと気づき、エルピスが俺の言葉を継ぐ。


「ーーー俺たちのやることはひとつ、か」


俺は不敵に笑うまま、隊長を見遣った。


「やりましょう、隊長。奴に思い知らせてやるんです、俺たちの力を」


隊長もまた力強く頷く。


「…これより我々は正義を執行する。各員、総力を挙げて奴を殲滅せよ!!」


「了解ッ!!」


それを合図に駆け出す俺たちを見、奴が狂気に満ちた顔で笑う。


「作戦会議ゴッコは終わったか?どうせ無駄だろうが、精々楽しませてくれよ」


「あぁ、待たせて悪かったな。お望み通り、今から地獄に叩き落としてやるぜ!」


右腕にエネルギーを集束させ、先陣を切って奴の間合いに飛び込むと同時にその拳を振るう。


「ワンパターンか、学習能力のない奴だ」


奴は嘲笑しながらそれをまたしても容易く躱し、俺目掛けてカウンター気味に闇を纏った右腕を突き出したーーー瞬間、視界の端に煌めく黒い光。


奴の右腕に形成されたその刃は鮮やかな軌道を描いてもう一度俺の身体を貫かんとばかりに迫るーーー予想通りだぜ。


「ワンパターンはてめぇの方だよ、バーカ!」


俺は身体を捻ってその一閃を避け、そのまま流れるようにエネルギーを溜め込んだ右腕を地面に突き立てた。


「ぐッ!?」


危険を察して後方へと飛び退く奴を追うように、足元から(エネルギー)の柱が噴き上がる。その輝きの奔流を防ぐべく奴は黒い霧で前方にバリアを創り出したーーー今だ!!


刹那、奴の両腕が唐突に吹き飛ばされて宙を舞う。


「なに……!?」


血飛沫の向こう、遥か上空でエルピスがニヤリと笑うのが見えたーーー上出来だぜ。


俺が囮となっている間に撃ち出された二枚の光の刃(ギロチン)がエルピスの意のままに空を駆け、奴のバリアの死角である背後からその両腕を斬り落としたのだ。


「ぬぅぅ……!」


空中で体勢を崩した奴が地面に降り立つ直前、奴の眼前に目映い光が駆け込む。


「ーーーッ!?」


空間転移(テレポート)を駆使して瞬時に奴の眼前に躍り出た隊長が、すかさずそのエネルギーの満ちた右腕を奴の胴体に突きつけた。


「…さらばだ!!」


直後、白熱色に輝く右腕から凄まじいエネルギーがスパークし、辺りはたちまち熱と衝撃波によって蹂躙された。地上にあったものは須らく蒸発し、地面が根こそぎ吹き飛ばされて舞い上がる。


激しく震撼し、明滅を繰り返しながら、俺の視界に映るすべてが破滅の光に呑まれていくーーー。






ーーーやがて光が空間に溶けるようにして消滅し、立ち込めていた硝煙もまたゆっくりと霧散し始めた頃、上空へと退避していた俺たちの眼下には無惨な焦土と成り果てた広大な大地が拡がっていた。


俺たちは全速力で空を駆け、その爆心地で倒れている隊長の元へと急ぐ。


「隊長!!しっかりしてください、隊長!!」


ーーー酷い有様だった。

恐らくあの一撃でエネルギーを使い果たしてしまったのであろう、隊長はピクリとも動かず、人間の姿で焼け野原に倒れ伏している。その全身の至る所に酷い火傷を負っており、零距離で光線を放ったその右腕はドス黒く炭化して肘より先を失っていた。


しかしーーー。


「……奴は…どうした」


隊長がうっすらと目を開け、エルピスに尋ねる。

俺たちは顔を見合わせて安堵した。


ーーーよかった、生きてる…!


「この辺りに他の生命反応はありません。奴は木っ端微塵です……!!」


感極まったように声を震わせるエルピス。そのとても戦士とは思えない様子に隊長が弱々しい笑みを見せた。


「さぁ、戻ろう。仲間たち(みんな)が待ってる」


俺とエルピスが両脇から隊長を支えて立ち上がらせる。

「まったく。無茶しすぎっすよ、隊長」

「隊長にもユミトみたいな一面があったなんて…意外です」


囚人どもはあらかた片付けたし、隊長の腕もいくら再生するとはいえ軍医に診てもらうに越したことはない。

あとのことは間も無く到着するであろう援護部隊に任せて、俺たちは撤退をーーー。


と、そのとき。


「ぐぁああっ!!」


黒い光が一閃、俺とエルピスの間をすり抜けて隊長に命中し、その生身の身体をはるか後方へと吹き飛ばした。

「隊長ォ!!」

血を吐き出しながら地面を転がって動かなくなる隊長。なにが起きたのか理解できないまま、それでも咄嗟に駆け寄ろうとした俺たちを制止するかのように、その場に声が響いた。


「ーーー残念だったな」


自分の目が信じられなかった。


爆心地だったその場所に、手のひらに収まるほどの小さな石が浮かび、碧色の鮮やかな光を放っている。そしてその石を取り巻くようにして黒い霧がーーー闇が、人の形を成していくではないか。


「お前らの正義なんざ、所詮この程度だ」


そしてやがて、つい今しがた跡形もなく消し飛んだはずのあの"セクションXの罪人"が、闇の中から悠然とその姿を現した。


バリアを封じ、あれだけの威力の光線を直接ぶち込んだというのにもかかわらず、奴は死んではいなかったーーーそれどころか、狂気を孕んだ笑みを浮かべながら全身の関節を鳴らす奴の身体には傷ひとつないようにすら見える。


ーーーウソだろ…?


慄然として立ち尽くす俺の真横で、エルピスが素早く動いた。


「貴様ァ!!」


叫びと共に放たれた縦に伸びる光の刃(バーチカル・ギロチン)が、地面を削りながら奴に迫るーーーしかし奴は片手を振るい、それを事も無げに弾き飛ばした。


「そら、お返しだ」


瞬間、奴が無数の黒い光を宙へと放つ。それらは小さな三日月型の刃へと姿を変え、瞬く間にエルピスを取り囲んでその全身を切り刻んだ。悲鳴をあげる間も無く、黒い体液を散らしながら力なくその場に倒れるエルピス。


「てめぇ…絶対ぇ許さねぇ!!」


怒りを滾らせて駆け出した俺の左肩を、黒い光弾が貫いた。

「ぐあっ!」

迸る激痛に倒れこむーーー撃ち抜かれた肩口の表皮が抉られたように吹き飛び、そこから黒い体液が止めどなく溢れ出していた。


「お前はもう飽きた」


奴の翳した右腕から放たれる無数の光弾が、次々に俺の身体を穿ち、流動金属のような銀色の体表を削り取っていく。


ーーーくそォ…ッ!俺は…奴に近づくことすら……!!


黒く染まる全身から粒子となって漏れ出すエネルギー。痛みを堪えてなんとか立ち上がろうと藻搔く俺を嘲笑うかのように、さらに撃ち込まれる光弾の雨。


「ぐぅ…ぅ…」


とうとう力尽き、蒸気を吹き上げながら人間の姿へと戻った俺を、爛々と光る奴の瞳が見下ろした。


「堕ちたもんだな、宇宙正義も。

所詮お前らは誰かの築き上げた秩序の元で、他人のルールに寄生し正義を振りかざしているに過ぎない。

己の正義も持たない奴が"宇宙正義"だと……笑わせる」


ブロンドの薄汚れた髪をかきあげ、奴は呆れたように吐き捨てる。


ーーー俺に自分の正義がないだと?


「……ふざけんじゃねぇ」


俺は激しい感情に突き動かされるまま、力を振り絞って立ち上がり、奴を睨みつけた。


「俺はてめぇみたいな悪党を全員ぶっ倒して、この宇宙に平和な時代を築くんだ。その為にこの力を手に入れたーーー」


これは正義の味方(ヒーロー)になるための力。

悪を徹底的に打ち滅ぼすための力。

そして俺の信じる正義を成すための力。


「ーーーこの力が、俺の正義だ!!」


俺のその言葉に、正面に立つ奴が突然大声で笑い出した。まるで心底可笑しくて仕方ないといった風に、その顔を邪悪に歪ませる。


「…すこしは話が分かるらしいな。

そうだ。お前の言う通りだ。この宇宙では力こそがモノをいう。他者をねじ伏せ、圧するための力…そうして全てを己の正義の下に支配することこそがこの宇宙を真に平和にする唯一にして最善の手段なんだ。

つまり、お前の正義は俺と同じ、この宇宙の真理だ」


「てめぇなんぞと一緒にするんじゃねぇ!!」


反吐がでるほどの憎悪が心の中に湧き上がり、反射的に俺は動いていた。


ーーー悪党に正義だと?くだらねぇ、くだらねぇ!!!


しかし駆け出そうとした俺の脚は、奴の光弾によって無慈悲にも撃ち砕かれてしまう。


「だが残念だったな。ーーー俺の方が、強い」


疾駆する勢いのままに倒れこみ地面に這い蹲る俺目掛け、言葉と共に放たれた黒い光。

それは瞬く間に俺の視界を覆い尽くす。



ーーーちくしょう……!!



永遠にも思えるその刹那、俺は成すすべもなく迫り来る"死"を見つめていたーーー。






ーーーしかしその黒い光は俺に届きはしなかった。


突如として頭上より降り注いだ優しく温かな光。その眩い輝きが、俺の眼前に迫った漆黒の死を切り払ったのだ。


俺を包む黄金の煌めきは急速に集束し、目の前に見覚えのあるヒトの姿を形作っていく。


「大丈夫かい?ユミト」

「お前は……!」


幾何学模様の走る銀色の全身、肩越しに振り向いて俺を見つめる、星を宿したようなその瞳ーーー。


「はァ。お前、何者だ」


空から現れた突然の乱入者を、セクションXの罪人もまた動揺を隠しきれない様子で睨みつけている。


その問いにS級危険分子(高エネルギー生命体)は微笑みを浮かべ、奴へと視線を移して高らかに答えた。




「俺はトラン。トラン・アストラ。

どこにでもいる、普通の正義の味方さ!」

「人が人を助けるのに、理由がいるかい?」


「お前、星心の光の継承者だな?丁度良い……その光、頂くぞ」


「お願いだ、俺たちに力を貸してくれ」


「いいか、今から俺様が説明してやるから耳かっぽじってよ〜く聴きやがれ。この宇宙の真実と、お前たちに与えられた役目についてな」



次回、星巡る人

第35話 Lost The Way

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