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星巡る人   作者: しーたけ
31/54

第31話 DREAM FIGHTER

星巡る人、今回より第2部スタートです。


新たな登場人物の視点から語られる物語は、多くの人々の人生と交錯して大きく動き出すことになります。彼らの旅路がどこへと向かうのか。今後もどうぞよろしくお願いします。


それでは次の話でまたお会いできますよう。

ーーー俺は幼い頃から、同じ夢を繰り返し見る。



漆黒の闇に包まれた空間の中、灯火のような弱々しい光に包まれたひとりの戦士が、人の形をした影に果敢に立ち向かう。


しかし影の力は余りにも強大であり、光の戦士は何度も倒れ、傷つき、次第に無残な姿へと変わり果てていく。


勝ち目がないのは誰の目にも明らかだった。


だがそれでも、彼は決して諦めなかった。


どれだけ力の差があろうとも、どれだけボロボロになろうともーーー何度でも立ち上がり、逃げることなく影に挑み掛かっていく。




夢の中の彼は俺にとって、紛れもなくヒーローだった。



そしてそれは、今も変わらない。







星巡る人


第31話 DREAM FIGHTER







「ーーー…ミト!ユミト!」


誰かが俺の名前を呼んでいる…誰だ?


「起きるんだ、ユミト・エスペラント!おい!!」


乱雑に身体を揺り動かされ、俺の意識は微睡みの世界から急速に引き戻された。


「……なんだ、エルピスか。どうした?」


寝ぼけ眼を擦って目の前にいる短髪の男ーーーエルピス・ターラーを見上げる。


「どうしたもこうしたもないよ、軍議の最中に寝るなんて」


呆れたように頭を掻くエルピスを見ながら記憶の糸を辿ると、成る程確かに、軍議の最中だったような覚えがある。それによくよく見回せばここは宇宙正義本部の軍事会議室だ。


「しっかりしてよ。まったく、テナクス司令やセルタス隊長がこの前の一件の後処理に追われてたからよかったものの、いまのこの状況で居眠りなんか見つかったらお前、きっと始末書じゃ済まなかったよ?」


この前の一件とは、今や宇宙政府内で知らぬ者はいないあの『本部襲撃事件』のことだ。

高エネルギー生命体とかいうS級危険分子の処刑寸前にその仲間たちが乱入してきた事によって宇宙正義本部で戦いが勃発し、moratorium-idやホシクイの部隊はほぼ壊滅、母艦バラバを始めとする多くの旗艦が敵によって撃墜され、結果として宇宙政府軍は全戦力の15%を失うという歴史上類を見ない大敗を喫することとなった。

また、辛うじて脱出に成功したテナクス司令たちバラバの搭乗員やセルタス隊長を始めとするひと握りのパイロットたちを除いて戦闘に参加した大多数の兵士たちが重軽傷を負ったことも敗北に拍車をかけており、宇宙政府ーーー特にその中枢たる宇宙正義の上層部では現在も後処理に追われているのだという。


「あの老将ドロススさんやアロガント副長はまだ意識不明の重体だってのに、気が緩みすぎだよ。俺たち特務隊がそんなんでどうすんのさ」


"特務隊"ーーー俺やエルピスが所属している宇宙政府最高決定機関宇宙機密保持審議会特殊任務機動隊の通称であり、航空部隊を主な戦力とするセルタス・アドフロント隊長率いる実働部隊とは異なり、白兵戦を前提とした特殊作戦を遂行する六人からなる小隊のことだ。


俺は軽く伸びをして、目の前の同期の言葉に応えた。


「あぁ、悪りぃ。最近よく眠れてなくてな……。それにしても、事件のことをマスコミに嗅ぎつけられなかったのは不幸中の幸いだったよな」


今回の事件は政府判断により一般には自称・宇宙大魔王による宇宙正義を狙ったテロ事件として処理、報道された。

これは高エネルギー生命体(S級危険分子)の存在を無闇に宇宙全土に知らせることで起こるであろう混乱を避けるためーーーとされているが、実際のところは政府の威信に関わるためだろうというのがもっぱらの噂だ。


「ま、隠蔽と言われればそれまでだけど、宇宙正義の大敗なんて知られたらそれこそ宇宙中の悪党どもに調子付かれちゃうから仕方ないよね。ほんと、失態も良いところだよ…あの宇宙大魔王って奴にも結局逃げられたままだし」


悔しさを滲ませるエルピスのその言葉に頷きながら、俺はぽつりと呟いた。


「あの時、俺たちがもう少し早く浮遊島スペースコロニーに辿り着いてれば…」


「ユミト、それ何度目だよ。有りもしない"もしも"を口に出したところで、結果は変わらないって」


エルピスに諌められても尚、俺は心の中に湧き上がる後悔の念を抑えることができないでいた。


ーーー先の戦いで高エネルギー生命体より採取された超高純度の未知なる光粒子(エネルギー)は解析の結果、熱や電気などあらゆるものに変換が可能な万能エネルギーであることが判明していた。

俺たちはあの日、協力関係にある外部組織Vestigia Deiの本部天球へとそのエネルギーを護衛、運搬する重要任務のために宇宙正義本部を離れていたのだ。

本部からの緊急要請を受け、俺たちが現場へと急行した時には既に全てが終わった後であった。


「確かに失ったものは多いけど、得たものがあることもまた事実でしょ。俺たちが届けたあのエネルギーの培養が成功すれば、宇宙正義の軍事設備は飛躍的に向上するんだ。実験的にそのエネルギーを組み込んだ俺たちの装備がアップデートされたみたいにね」


エルピスはそう言いながら俺の肩を軽く叩く。


「次はこっちが奴らにきっちりお礼する番だ。そうだろ?」


その言葉に、俺は力強く頷いた。


「…この宇宙には俺たち正義の味方(ヒーロー)がいることを、悪党どもに思い知らせてやる」


その時、部屋中に突如としてけたたましいサイレンが鳴り響いたーーー緊急事態を知らせる合図だ。

俺とエルピスは一瞬顔を見合わせ、間髪入れずに軍事会議室を飛び出した。


突然の緊急事態に慌ただしくそれぞれの持ち場へと向かって行く一般職員や兵士達。その波を潜り抜けながら、俺たちはサイレンの反響する廊下をひたすらに疾駆する。


目指すは宇宙正義本部7階にある特務司令室(オペレーションルーム)ーーーサイレンから十数秒後、俺たちはようやく辿り着いたその部屋へと転がるようにして駆け込んだ。


「来たわね、二人とも」

「既に我々に出動命令が下っている。軍議の内容については後で聞かせてもらうとしよう」

こわばった面持ちで俺たちを迎え入れたのは百戦錬磨の武勇伝を持つ隊長、スタラ・レールタと鬼の女副隊長、オド・ナジュムだ。

「なんスか、事件ッスか!?」

「うるせぇな、ちょっとは落ち着けよ馬鹿」

仮眠室から慌ただしい物音と共に姿を現したのは歴史学者にして作戦立案、情報分析担当のコハブ・ホークー。それに続くようにして剣術、槍術のプロフェッショナル、アス=テルも併設された剣道場から司令室に到着する。


特務隊を構成する六人のメンバーが全員揃ったことを確認し、隊長が口を開いた。


「これより我々は宇宙牢獄へと急行する。各員、直ちに準備を済ませて輸送機に搭乗せよ。詳しい説明はそこで行う」


そこで言葉を止め、一呼吸おいて、隊長が声を張り上げた。


「特務隊、出動せよ!!」


俺たち五人は一斉に不動の姿勢を取り、声を揃えてそれに応えた。


「了解ッ!!」






ーーーこの時、俺はまだ純粋に信じていた。

自分たちは宇宙の正義を守る"ヒーロー"なのだと。




この先に待ち受ける未来など、知る由もなかった。



「そんな馬鹿な、宇宙牢獄が…!?」


「ほぉ、それが今の宇宙正義の力か。準備体操には丁度良さそうだ」


「ーーーこれより、正義を執行する」


星巡る人

第32話 銀河を照らす果てなき影

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