第30話 OMNIBUS STAR〜another day comes
今回の話をもちまして、長らく続きました1.5部は終了です。
10話に渡って様々な人物たちの視点から語られてきた短編たちは、それぞれが独立した物語でありつつ、その実すべてが『星巡る人』のタイトルの下に複雑に交錯し、今後の展開へと繋がっていきます。
次回から始まる第2部にも、どうぞお付き合い頂けたらと思います。
さて、この宇宙は22〜25話、26話、29話等で散々語られた通り、宇宙正義と銀河帝国の戦争、オルトの暗躍と宇宙正義の内部分裂、"道導"の起動等々を経て数万年後の本編に至る訳ですが、ではそうした歴史はどのような形で現在に伝わっているのか、今回はそういう話となります。
1.5部のエピローグと第2部のプロローグを兼任する第30話、どうぞお楽しみください。
いつもたくさんの閲覧、拡散ありがとうございます。
更新は相変わらず不定期ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
それでは次回、第(3)1話でまたお会いできますよう。
ーーー宇宙正義。
この宇宙に住む者なら誰もが一度はその名を耳にしたことがあるだろう。
全ての善悪の基準になるとされる宇宙政府最高決定機関の総称であり、宇宙を正しい方向へと導く絶対的な"正義の指針"ーーーこの記事を読んでいる諸君も、恐らくはそう教わってきたはずだ。
彼らのその輝かしい歴史は遥か昔、星間戦争と呼ばれる宇宙全土を巻き込んだ星々の争いに終止符を打ち、全ての銀河を統一したところから幕を開ける。
『激化する戦火から宇宙の未来を防衛し、難民となった民衆を救助し、秩序ある社会を建設する』ために複数の惑星によって結成された組織が"宇宙正義"の始まりであり、彼らの活躍によって永きに渡った戦争は終結し、この宇宙に恒久の平和が訪れたのだと伝えられている。
尤も、戦時の混乱の為かその史跡や文献といった歴史資料の大半が失われており、残念ながら終戦に至る経緯を含むその偉業がどのようにして成し遂げられたものなのかは未だに判明しておらず、"宇宙の大いなる謎"のひとつとして今もなお数多の歴史学者たちによる研究が続けられていることは宇宙史において有名な話であろう。
【中略】
さて、そうして宇宙正義により晴れて樹立されたのが今日まで続く宇宙政府であり、その初代首相となった人物こそが戦争を終結へと導いた宇宙正義の立役者、"偉大なる英雄"フィネ・アロガントだ(彼が戦争末期に無念の死を遂げており、その偉大な精神と功績を讃えて名誉首相の肩書きが与えられたとする説もある)。
彼を中心とした初期の政府はまず銀河の紀年法を『星歴』で統一し、戦争で疲弊した星々の復興や秩序を築く為の法整備等に尽力した。これが終戦後数百年間に渡り行われたとされる"宇宙大革命"である。この時代に行われてきた数限りない政策が現代宇宙の基盤となっていることは最早言うまでもなく、我々の謳歌する現在の平和は、宇宙政府によるたゆまぬ努力によって築き上げられてきた掛け替えのない財産なのである。
シェルシェ・シーカー氏『星間戦争終結69257周年記念に寄せて』より一部抜粋
星巡る人
第30話 OMNIBUS STAR〜another day comes
この記事を信じるな。
これは政府によるプロパガンダだ。いや、これだけじゃない。誰もが常識と信じて疑わないこの宇宙の歴史は、すべて政府のーーー宇宙正義の取り繕った嘘偽りの世界に過ぎないんだ。
絶対的な正義の指針?冗談はよしてくれ。この宇宙が常に正しい道を歩んできただなんて嘘っぱちも良いところだ。
彼らの犯した罪は重い。そして今も尚、その罪を重ね続けている。
記者として取材を続けていくうちに偶然にも真実を知ってしまった僕には、正しい情報を世に広める義務と責任がある。それが政府の圧力に屈してこんな誤りだらけの記事を書いてしまった僕にできる唯一の贖罪だ。
いいか、よく聞いてくれ。そしていずれ政府に消されてしまうであろう僕に代わって、この正しい歴史をできるだけ銀河中に拡散して欲しい。
……じゃあ、話すよ。
今から数万年前の星間戦争時、宇宙正義はーーー。
journey goes on……?
俺は幼い頃から同じ夢を繰り返し見る。
光の中、黒い影に勇敢に立ち向かう一人の戦士。
何度も倒れ、ボロボロになりながら、それでも諦めることなく立ち上がる。
彼は俺にとって、紛れもなくヒーローだった。
そして、いまも。
次回、星巡る人
第31話 DREAM FIGHTER




