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星巡る人   作者: しーたけ
23/54

第23話 OMNIBUS STAR〜宇宙大魔王ができるまで②共に生きる

前回から始まった『宇宙大魔王ができるまで』編は、1〜20話までの所謂本筋の物語の前日譚にあたります。

なのですでに結末は見えていて、全4話に渡るこの物語はバッドエンドが確定しているわけです。


なぜそうなってしまったのか、遠い過去に何が起こってエメラたちが旅する今に繋がるのか。

これはその過程を明かしていくための物語です。


ピエロンは何を失い、何を得るのか。

この先も楽しみにしていただけると幸いです。



いつも読んでくださる方、ありがとうございます。感想、宣伝本当に有難く存じあげます。


今回から読み始めた方、ぜひ前話から読んでみてください。そしてお時間があれば、過去から未来までの彼らの旅にどうぞお付き合いください。



それでは次回でまた、お会いできますよう。

「…….なぁ。ゼノビアは最期、どんな顔してた?」


「……笑ってたよ、たぶんな。オレにはそう見えた」



Y5星銀河帝国軍事工場襲撃作戦から幾日かが過ぎ、宇宙正義本部スペースコロニーにて簡易的な葬儀が行われたその日、オレと田中は薄暗い研究室で酒を酌み交わしていた。


それは大切な家族に対する、オレたちなりの追悼のつもりだった。


今回の作戦で犠牲となった宇宙正義の仲間たちは決して少なくはなかったようだ。オレはそれを今日初めて知った。ゼノビアを含めた十数人の戦死者たちは慣例に則り、近いうちに本部コロニーの端にある慰霊碑にその名を刻まれるだろう。

"彼ら"が遺体として帰ってこられることは滅多にない。戦闘機ごと爆死した者もいれば、ゼノビアのように骨も残さず消し飛んでしまう者もいる。


今まで何度も仲間たちが死んでいくのを見てきた。

いつ自分がそうなるとも知れないと覚悟もしていた。


でも心のどこかで、オレたちは死ぬはずがないと油断してしまっていたのだ。オレと田中とゼノビアは、きっといつまでも三人で一緒なのだと。


ーーー死がどこに迫っているかなんて、誰にも分かるはずがないというのに。


戦争の中ではたとえどんなに大切な人であろうとも、なんの意味も尊厳もなく死んでいくのだ。


頭では理解しているつもりだったのだが、いざこの時が訪れてみるとーーー。


まだ夢を見ているような、そんな現実味のない感覚がオレを包むーーーあいつが……あのゼノビアが死んだなんて、未だに信じられない。


その死の瞬間を目の当たりにしたオレでさえ未だに受け入れられないのだから、田中はもっとそうだろう。


「せめて、あいつが好きだった本部の土地に眠らせてやりたかったな。昔作った秘密基地の跡地とかさ……」


田中がぽつりと呟く。


本当は、オレが死ぬはずだったのだ。

ゼノビアと田中が生き延び、オレがーーーしかし今更そんなことを考えたところで現実は覆りはしない。


「……ゼノビアさ、昔から言ってたよな。『ピエロンと田中を守るために私は宇宙正義に入る』って。あいつはきっとずっとそれを覚えてたんだろうな。最期まで有言実行とは、あいつらしいよ。ほんとにさ……」


田中が涙声を隠すようにグラスを傾ける。


「なぁ。正義って、なんなんだろうな」


少し前までのオレなら、その問いに対して「宇宙正義オレたちが正義だ」と自信を持って返すことができただろう。しかし今となってはーーー。




Y5星での作戦結果は、結論だけを見れば成功だった。囚われていた怪獣族の救出、フラッシュプリズム・コンバーターのオリジナル入手、帝国軍事工場の破壊…だがそれは多くの犠牲の上に成り立つ辛く苦い勝利に過ぎなかったのだと、オレたちはあとで思い知らされた。



第一部隊が工場を攻撃した直後、建物から噴き出した未知の毒化合物がーーーおそらくロゴスが仕掛けていた罠のうちのひとつがーーー爆撃に引火したことにより、工場を中心とした半径10キロメートルが粉々に吹き飛んだのだという。


結果的には帝国軍をY5星から完全撤退させることができた。しかしゼノビアをはじめとした宇宙正義の戦士たちに加え、多くのY5星人の死傷者を出したことや星の環境を大きく歪めることになってしまったことは揺るぎない事実であり、取り返しのつかない失態であることに変わりはなかった。


正義とはなんなのか。


大切な仲間をーーー家族を失い、大勢の人々を傷つけ……オレたちは自分たちの持つ正義を信じられなくなっていた。


「お前もだろうけど、おれもさ、今までずっと宇宙正義こそが正義だって思って戦ってきた。でもそうじゃないんだよ。正義はひとつじゃないから……きっと帝国には帝国の正義があるんだ。

互いに譲れない正義があるから戦争になる……そんなの当たり前のことなのに……!」


いっそのこと、おれたちが悪だって言えたら楽なのかもな……そう言って田中が頭を抱え項垂れる。


「おれはゼノビアを殺した帝国が憎い。でも帝国軍の人間もそれは同じなんだ。きっとおれたちの造った兵器をーーーおれたちを憎んでる。おれはもう、これからどう帝国軍と戦ったらいいのか分からない……。

こんなんじゃ、ゼノビアに顔向けできねぇよ……」


オレは宙を見上げ、独り言のように呟いた。


「お前の言うことは正しいさ。でもな、仮にそうだとしても、あいつらのやってることが正しいわけがねぇんだ。銀河を荒らして人を殺して、幾つも星を滅ぼして……そんな奴らの正義なんざ認められるか。だからオレたちは自分が正しいと思う正義を貫くしかねぇんだよ。この戦争を終わらせるために。

……あいつの死に、報いるために」


ゼノビアは死んだ。宇宙正義の勝利を信じ、オレたちに後を託してーーーオレたちにはそう信じるほかなかった。



田中が再びグラスを傾けると、金色の液体が兜の中へと滑り落ちていく。

兜を外さずどうやって飲んでいるのだろうか、などという疑問はとうの昔に聞くことを諦めていた。


「……あぁ、そうだ。これをピエロンにも見せてあげたくて」

そう言って田中が取り出したのは綺麗に四つ折りされた一枚の紙切れだった。


「これは……?」


開いたその紙には、城のような建物が描かれていた。ピンクの派手な色彩にゴテゴテとした装飾、横には子供の字で『うちゅうだいまおうのしろ』と書かれている。


「覚えてるか、それ。あいつの部屋にあったんだよ。遺品の整理中に見つけたんだけど、綺麗な箱に入れて大事に取ってあったよ」


ーーーあぁ、覚えてるさ。

これはオレたちがまだ子供だった頃に考えた、"理想の秘密基地"だ。

いつか必ずこんな城を作り、そこで三人で暮らすのだと約束した。




「それもひとつじゃなくて、宇宙中にこの城を作るんだよ!」

「……そんなに作ってどうするのよ」

「支部にするんだよ。この宇宙を帝国に変わってオレたちが支配するためにさ!」

「おれたちの手でいつか必ず戦争をなくして、誰も泣かない幸せな世界にしよう!」




ーーーあの頃、オレたちはそんな未来があることを微塵も疑わずに信じていた。


「懐かしいよね。帝国に反旗を翻した銀河の救世主、宇宙大魔王!……それだと矛盾しないかって、ゼノビアによくつっこまれてたっけ」


その絵の周りに踊る拙い文字は、オレたちが各々にサインしたものだと言うことを忘れてはいない。


ぜったいにふたりを守る!ゼノビア・N

いろんなどうぐで宇宙をへいわにする、田中

うちゅうだいまおう ピエロン・ピーノ



もう二度と叶うことのない夢の残骸を眺めていると、切なさとも悲しさともつかぬなんとも言えない虚しい感情が心の中にこみ上げ溢れてくる。


オレは手にしたグラスを傾け、中の液体をこみ上げてくるものとともに一気に流し込んだ。


焼け付くような熱さと酩酊感のなか、不意に絵から目を離して上を向く。


喉を流れ落ちるその酒はひどく苦く、そしてなぜか無性にしょっぱく感じた。








星巡る人


第23話 OMNIBUS STAR〜宇宙大魔王ができるまで②共に生きる









それから暫くが経った。


オレたちは盗み出した膨大な情報の分析や新兵器の開発で忙しい毎日を過ごしている。


あれからも帝国軍との戦いは宇宙の各地で度々勃発していたが、前線部隊ではないオレたちがそれに参戦することはなかった。

最低限の訓練を受けているとはいえ、オレたちの本分は戦闘ではないのだ。


敵を、兵器を、技術を、人を。戦争に関わるありとあらゆる全てを研究し、勝利への確実な一手を開発するーーーそれこそがオレたちの使命であると信じ、心の痛みや憎しみの全てをぶつけるように研究に没頭していた。


「ピエロン、この装置どかしておくだによ」

「あぁ、悪りぃ」


Y5星で救出されて以来、この研究室にはオレや田中たちラボチームの面々だけでなく、イオリを筆頭とした怪獣族も頻繁にやってくるようになった。


「助けてもらったお礼だによ。なんたってあんたらは、仲間たちみーんなの命の恩人なんだに。助けてもらったら、それがたとえどんなに小さなことでも相手の役に立てるよう力を尽くす。それが宇宙の掟だによ」


ーーーイオリの言葉が脳裏をよぎる。

ゼノビアが死んだ理由が少なからず自分たちにあると考えている節があるようだった。


あいつが死んだのはオレのせいであって、イオリたちにはなんの責任もないというのにーーー……。



怪獣族の協力を得て、フラッシュプリズム・コンバーターの研究は驚くほど順調に進んでいた。

彼ら独自の技術力、発想力は並大抵のそれではなく、オレたちの思いもつかぬところから次々と新しいアイディアを出して形にしていく。

器用な手先と抜群のチームワークで次々と作業を進めていく彼らを見ていると、怪獣族があの工場に囚われていた理由が分かった気がした。

怪獣族としての力さえ封じてしまえば、これほどまでに役に立つ種族はなかなかないだろう。


「師匠!」

「田中、どうしただにかー?」


田中がイオリに駆け寄り、開いたノートの1ページを見せてなにやら話をしている。表情は真剣そのものだったが、その目には隠しきれない喜びがにじみ出ていた。

どうやら田中は怪獣族の技術や発想に感銘を受けたらしく、いつの間にかイオリのことを師匠と呼び、村山さんと名付けたノートに彼らの技術を書き留めるようになっていた。

新しいことを学び、吸収するのが楽しくて仕方がないといった感じだーーー尤もそれは、田中なりの悲しみの紛らわせ方なのかもしれないが。



敵の工場で得たオリジナルのフラッシュプリズム・コンバーターを基にそれを構成する情報因子を分析してメモリクレイスへと落とし込んでいく。


整備班、製造班の報告によれば、じきに全ての戦艦に鍵を挿し込むための生体コネクタを取り付ける作業も終わるとのことだった。



もうすぐだ。もうすぐ全ての準備が整う。

その時こそ、帝国軍を打ち倒す時だ。



オレは彼らに背を向けて研究室の最奥へと向かう。

16桁のアクセスコードから成る電子ロックによる厳重なセキュリティをパスして開いた扉の先ーーー机の上に、一冊の手記が置かれているた。


これはあの工場で手に入れた高エネルギー生命体に関する情報が記載されたものだ。


オレの懐に入っていたそれは、あの炎の中での戦いをくぐり抜けたとは思えないほど綺麗な状態を保っていた。まぁ強いて言うなら四隅が少しばかり焦げていたのだが、読むのにはなんの支障もないからとりあえず良しとしよう。


コスモネットでスキャンするべく開いた頁は、ロゴスのものと思われる筆跡でびっしりと埋め尽くされている。膨大な情報量に圧倒され、余白はほとんど残されていない。



ーーーこの手記の内容は、宇宙正義に大きな衝撃を与えた。


それまでは不可能だと言われていた高エネルギー生命体の解明、研究。それが帝国軍によって為されていたというのだから、上層部の驚きは想像に難くない。


いままで宇宙正義内で高エネルギー生命体の研究が行われなかったのは技術的な問題によるものであると思っていた。

しかし幹部連中の反応を見るに、どうやらそれだけではなかったようだ。


それはきっと、ごく身近にいる超常的な力を持った彼らに対する畏れの表れだったのだろう。神に等しいそれを解明することはその種族に対する冒涜なのだと、上層部の反応がはっきり示していた。


ましてやその情報を基に兵器を開発しようなどとはーーー。


この手記の内容は高エネルギー生命体の一族の本人たちですら知りえなかった情報も多かったのだという。そのためか手記の存在は組織内でも機密事項とされ、これを研究するか否かで揉めに揉めた。

離反のきっかけになるだの、高エネルギー生命体の弱点を探ることは重大な謀反に値するだの…まぁでも、それはなんとなく理解できた。


こいつらもまた、デナリの信条を理解できなかったごく当たり前の思考を持つ連中なのだ。


結局のところ、誰もが信じあう組織なんて絵空事ということだろう。ましてや今は戦時であるーーー愛だなんだでなんとかなるような状況とは言い難い。


最終的には"発見は逐一上層部に報告すること""この研究に携わるのはオレと田中のふたりだけ"という条件付きでこの研究を進めることを認められたがーーー。


そのときのフィネの言葉が脳裏に蘇る。


「悪いな、お前たちが誰よりもデナリに忠実なのは分かってるんだが……この前の作戦会議以降、裏切り者がいるとかいないとかでいま皆ピリピリしてっからさ、こうでもしないと納得してくれない奴もいるんだよ」


ーーー正直なところ、気乗りはしない。


この手記を見るだけで、あのときの光景がまるで悪夢のように目の前に広がる。何度でもあいつが死ぬ寸前をーーーあの炎の中での微かな笑顔を思い出す。


「……ッ」


思わず舌打ちし、脳内のその光景を振り払う。

ーーーだからと言ってやらないワケにはいかねぇ。


完璧な発明なんてものは存在しない。どんな兵器にも長所と短所があり、時としてそれが致命的な弱点ともなる。

こんな胸糞悪い実験結果でも、そのどこかにロゴスの研究に対抗するためのヒントがあるはずなのだ。

それを見つければ間違いなくこの先の戦いを有利に進めることができるだろう。だからこそ、この研究はなんとしてでもやり遂げなければならないのだ。


フラッシュプリズム・コンバーターの開発、メモリクレイス化の大部分を部下やイオリたちに任せ、オレと田中はこの研究を進めることを責務として日夜研究に没頭していた。



ふと、背後で扉が開く音がする。



「よおっ、調子はどうだい?」


軍服を着たスキンヘッドの厳つい男ーーーフィネがその顔に似合わない穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。


副司令官という立場の彼がこうして頻繁にここに立ち寄るのは、ゼノビアを失ったオレたちを気遣ってのことだろう。多くの仲間たちの命の結晶とも言えるこの手記の調査を真っ先に認め、難色を示す他の幹部を根気強く説得したのもフィネだと聞いている。


「ああ、おかげさんで。順調さ」

「なにか新しくわかったことはある?」


オレはスキャンしたデータを記録するために用意したコスモノートを起動させ、手記の内容をまとめた立体映像を浮かび上がらせた。


「えぇとだな……『高エネルギー生命体はこれ以上の進化を必要としない完成された生物である。

彼らは宇宙の歴史の中に突如として現れたイレギュラーであり、種族名は当時仮称として命名されたものが定着したのだと思われる。


今回の実験において、その体内に循環する未知のエネルギーは既存のどのエネルギーとも異なるある種の感情エネルギーとも言えるものであり、時間経過や栄養の摂取、感情の昂りに応じて増減することが判明した。

このエネルギーは宇宙空間にて極稀に採取できる"星の光"と呼ばれる特殊エネルギーに酷似しているほか、捕獲時に被験体が所有していた小石からも検出されたことから、これらの間にはなんらかの関係性があるとみて今後も調査を続ける予定である。


採取したサンプルからこのエネルギーは電気、熱などのあらゆるものに変換できる万能エネルギー足り得るものであると予想されるが、未だ解明されていない部分も多く現状では実用化には至らない。


生殖による種の保存を必要としない彼らは、おそらくこのエネルギーを体外で形成することで分身とも言える"子"を為すのだと思われる。


"死の概念"を持たないとされる高エネルギー生命体を殺す方法は極めて困難であるが、そのエネルギーの総量に限界がないわけではないらしく、実験時、短時間に大量のエネルギーを消耗したあとや、その循環を一時的に遮ったときに派遣体の生命活動が著しく低下したことから、エネルギーの枯渇又は循環が阻まれたときにその活動を停止させられる可能性が高いと推測できる。


また被験体の右腕、左脚等を切断してもすぐに再生してしまったことからその高い生命力とエネルギーの関係は極めて密接なものであると思われるが、今回は被験体の消耗が激しいためまた日を改めることにする。


……もしこの未知のエネルギーやその循環の構造を解明するに至れば、生命を固形化して使用することや高エネルギー生命体を人工的に模した強力無比な兵器を作ることも不可能ではないだろう』


……まぁ、とりあえずここまでかな。

やっぱり帝国軍は高エネルギー生命体の弱点についても調べてたみたいだ。『エネルギーの枯渇または循環が阻まれた時』か…もし高エネルギー生命体に特化した対策を練られてたら、ちょっとやばいかもな」


腕組みをしたフィネが真剣な顔で手記を睨みつける。


「まあそれにしても、ひでぇことしやがるんだな。実験体ってのはアレだよな、あの女の子ーーーえぇと…なんだっけ?確かデナリが命名してたような…」


「レジストコード、"マホロ・リフレイン"だ」


「あぁそれそれ。あんないたいけな少女にひでぇことしやがって…許せねぇな」


憤るフィネに上の空で言葉を返す。

あの少女ーーーマホロ・リフレインは未だに目覚めず、宇宙正義の本部コロニーに併設されたメディカルセンターで眠り続けていた。


「まあでも、命に別状なかったみたいで良かったよ。同じ種族のデナリたちがそう診断したんだし、きっと間違いないだろうね」


楽観的な発言のフィネに対して、それはどうだろうな、とオレは心の中で呟いた。


彼女が高エネルギー生命体の同属だとなぜ言い切れるのだろうか。

性別の概念がないはずの種族にあるまじき外見、背中の翼ーーーなにもかもが異なるではないか。

その証拠にデナリをはじめとした一族の仲間たちは彼女の存在を知った時、誰もが動揺を隠しきれていなかった。


しかしロゴスの実験結果からしても、彼女が高エネルギー生命体に限りなく近い存在であることは間違いのない事実なのだろう。



マホロ・リフレイン。謎多き彼女の正体はーーー実を言えば、オレは既にその答えを得ていた。


「ま、早く目覚めてくれることを祈るだけだな」


その時、唐突にフィネの腕の通信機に連絡が入った。どうやら緊急の何かがあったらしい。またな、と言って足早に部屋を去る彼の背中を少しばかり後ろめたい気持ちで見送る。


ーーー悪いな、フィネ。今はまだ話すわけにはいかないんだ。


手記を閉じ、椅子に深く腰掛けて天井を見上げる。



オレはーーーオレと田中とデナリの三人は、夢の中で一度マホロ・リフレインと会っていた。








あれは少し前のことだ。

あの日、それまで見ていたどうでも良い夢が唐突に切り替わるように、オレの意識は真っ白な空間へと飛ばされた。


自分がまだ寝ていること、ここが夢の中であることは確かであったが、そうとは思えないほどに思考がはっきりとしている。


ーーーここは、一体……?


いつの間にか横には田中も同じように立っていた。その驚いたような表情から、オレと同じように突然ここに飛ばされてきたのだと察することができた。


「ピエロン!?なんで……これはおれの夢だよな。それにしては妙に生々しいけど……」


オレは首を横に振った。


「オレにも分からねぇ。お前はオレの夢の中の田中だよな?……なんか混乱してきた、なにがどうなってんだ」


確かに田中のことは幼い頃からの大切な家族だと思っているがーーーまさか夢に見るほどだとは…。


「ここはある種の精神世界だ。我々は何者かによって、この場所へ意識を飛ばされたようだな」


怪訝そうにオレを見る田中の目が、その声を聞いて大きく見開かれる。その視線を追うように振り向いたその先で、デナリが穏やかな笑みを浮かべていた。


「これは夢であって夢じゃない。言うならば私たちはいま、ひとつの同じ夢を共有している状況なんだと思うよ」


こんな不可解な状況であるにも関わらず、デナリの表情は穏やかそのものだ。まるでなにも心配することはないとでも言うようだった。


「……なるほどな。つまりオレたちの身体はそれぞれの場所にいて、意識だけがここに集められてるってことか」


デナリが静かに頷く。


「でも一体誰が……?」


田中のその問いに答えるように、空間に光が溢れ、静かな歌が辺りに響いた。






心星の光

星のかけら

星宿の地図


分かたれたそれは正の意思の力なり

それは負の意思に抗う唯一の力なり


すべては表裏一体の存在

片方のみを滅することは決してできぬ


選ばれし者たちよ、歓びの剣を掲げよ


その者たちが手を繋ぐとき、やがて大いなる力が降り注ぐであろう








溢れ出した光が収束し、徐々に人の形を成していくーーーそしてやがて、光の中から白いワンピースの少女がその姿を現した。


この歌…それに、この娘には見覚えがあるーーーあぁ、そうか。この歌はあの手記に旧宇宙共通語で綴られていたものだし、この少女はあの銀河帝国の工場に捕らえられていたロゴスの実験台じゃないか。


救出以後、ずっと本部で眠り続けているという彼女がわざわざこんな精神世界にオレたちを呼んだというのか?


そんなオレの疑問など気にもとめない様子で、彼女が口を開いた。


「はじめまして、わたしはマホロ・リフレイン。この宇宙の外から来ました」


彼女がぺこりと頭を下げると、背中から生えた翼がゆらゆらと揺れる。


「宇宙の…外?」

「教えてくれ、君はいったい何者なんだ。どうして私たちをここに?」


少女ーーーマホロ・リフレインは頷き、落ち着き払った声で切り出した。


「あなた方に知らせなければならないことがあったからです。まずはお見せしましょうーーー全ての宇宙の根源となる、真実を」



瞬間、真っ白な空間が黒く塗り潰され、上下左右の至る所に無数の泡のようなものが浮かび上がる。

果てしない漆黒のなかにキラキラと輝くその泡は、まるで宇宙に浮かぶ星々のようだ。


「ここは、あなた方の住んでいる宇宙の外側。"空間の海"です」


色とりどりの光が何処からともなく渦を巻き、煌めく泡と共に漆黒を照らす。なんて幻想的な光景なんだーーーこれが宇宙の外側なのか…!?


「この泡のひとつひとつが宇宙であり、そしてそれは可能性の数だけ無限に増え続けていくのです。もちろん、今も」


彼女がかざした手の先を、二つの流星が駆け抜けていくーーー青の光と、赤の光だ。


二本の光線は互いにぶつかり合い、残像を残しながら空間の海をどこまでも飛んでいく。


「これは…」

「概念の集合体です。青い光は憎しみや怨念といった負の感情の概念、赤い光は喜怒哀楽といった正の感情の概念を司っています」


相反するふたつの概念が戦いを続けているその光景を前に、マホロ・リフレインは淡々と言葉を紡ぐ。


「ですが……どちらも知的生命体にとって必要不可欠な感情であるが故に、ふたつの概念の戦いには決着がつくことはありません。どちらかを抑えることはできても、完全に消し去ることはできないのです」


不意に青い光から何かが抜け出し、まるで意思を持ったかのように泡宇宙の中へと消えていった。それと殆ど同時に赤い光からも何かがーーー三つの星に似た何かが零れ落ち、青い光から生まれた星を追うようにして泡の中へと飛び去っていく。


「あるとき負の概念は自らの分身を生み出しました。それは辿り着いた泡宇宙の中で人間と同化し、暴走する負の感情の赴くままに全ての泡宇宙を滅ぼすべく行動を開始したのです。正の感情はそれを食い止めるために自身もまた三つの分身を生み出し、そのあとを追わせました」


「三つ?」


マホロが澄んだ瞳でオレたちを見つめる。


「三つの分身はそれぞれ単体では力を発揮することができません。だからこそ、あなたたちの協力が必要なのです」


マホロはそこでひと呼吸おき、凛とした声で言葉を続けた。

「三つの分身はそれぞれ役割を持っています。一つは持つ者に宇宙を制するほどの巨大な力を与える"心星の光"。

二つ目は人と人を繋ぐ石、"星のかけら"。

そして三つ目は光とかけらを結ぶ"星宿の地図"ーーーそれが私です。


心星の光にはデナリさんが。

わたしーーー星宿の地図には田中さんが。

そして星のかけらにはピエロンさんが、それぞれ選ばれたのです」


選ばれたって…そんなこと言われても、とてもじゃないが信じられない。

オレが…オレたちが…?帝国軍との戦いだけでも精一杯だと言うのに、これ以上何をしろと言うんだ。


「どうしておれたちなの?」


混乱するオレの気持ちを代弁するように、田中が尋ねた。その問いにマホロ・リフレインは悲しげな表情で答える。


「それは私にも分かりません。大いなる正の概念の、その意思によるものです。

……突然こんなことをごめんなさい。でも、あなた方にしか出来ないことがあるのです。


この宇宙には既に負の分身を持つ者が潜んでいます。それも、そう遠くはないところに。


しかしわたしだけではなにも出来ません。

現にわたしはいま、どこからか流れ込む負の意思によって力を押さえつけられ、身体の維持とあなた方の精神と話すことが精一杯で、目覚めることすら叶わない状態に陥っています。


どうか、わたしに力を貸してください。この宇宙をーーー全ての宇宙を守るために、あなた方の意思で三つの正の概念をひとつにしてほしいのです」


沈黙を守っていたデナリが口を開いた。


「なぜ、正の概念は三つの分身を生み出したのですか。負の概念の分身がひとつなのに対して三つに分けたものをまたひとつに集めるなんて、リスクが高すぎる」


意外なことに、マホロ・リフレインはその言葉に微笑んだ。


「それはあなたが一番よくわかっているはずです」


話が飲み込めないオレと田中を差し置いて、会話は続く。


「正の概念が分身を三つに分けたのは、全ての宇宙においてもっとも強力で、もっとも優しい力を得るため。デナリさん、あなたはその力を既に知っていますーーーだからあなたは誰よりも強い」


全ての宇宙においてもっとも強力な力?

おいおい、待てよ。


オレは心の中の言葉をそのまま口に出していた。


「そんなものがあるなら、オレたちにも教えてくれよ!そうすればーーー!!」


しかしマホロ・リフレインはその言葉を否定するように首を横に振った。


「できません。それは、自分で気付かなければなんの意味もないものなのです」


デナリがオレの肩にぽんと手を置いた。夢とは思えない、じんわりとした暖かさが伝わる。


「マホロさん。最後のひとつ……星のかけらは今どこに?」


「おそらく銀河帝国に。この宇宙に入ってから星のかけらはわたしと共に行動していたのですが、彼らに捕らわれた時に奪われてしまい……それからのことは……」


彼女がそこで言葉を切る。どんなに凄惨な体験をしたのか、手記のおかげで容易に想像がついてしまう。


「エネルギーを大きく消耗した今のわたしには、これ以上の探知はできません。でも、探す方法はまだあります」


デナリの腰に提げられた剣に彼女が触れると、剣が彼女に共鳴するように輝きを増す。


「歓びの剣が……」


「これは心星の光が自らの判断で生み出した"正なる意志を繋ぐ剣"。わたしの代わりに、この剣がピエロンさんを星のかけらの場所へと導いてくれるでしょう」


その時、オレたちを包む空間がぐらりと不安定に揺れた。


「……どうやらそろそろ限界のようです。

あなた方に…この宇宙……お願いしま……。

星のかけらを手に入れたら……わたしの手……握って…くだ…」


周囲が歪み、マホロ・リフレインの声が途切れ途切れになる。次の瞬間、弾き出されるようにオレの意識は空間を抜けた。


その後、自室で目を覚ましたオレは真っ先にデナリの元へと向かった。途中、田中と合流しーーー多分、あいつも同じことを考えていたのだろうーーー三人でこの夢のことについて話し合った。


「彼女の言う"負の意志を持つ者"が今どこにいるのかは分からないが…星のかけらがもし帝国軍にあるのならば、我々のすべきことは今までと変わらない。

ーーー帝国を倒す。ただそれだけだ」


決意に満ちた顔でそう告げたデナリの、星を宿したようなその瞳の輝きがやけに印象的でーーー。








「ピエロン、大変だ!」

突然慌ただしく部屋に入ってきた田中のその声に、オレの意識は現在いまへと呼び戻された。


「田中…どうした?」

「えっと、て、帝国軍が……!!あぁあ、とにかくヤバいんだ!とりあえず来てくれ!」




田中のあまりの慌てように驚きながらも後を追って研究室へと戻ると、宙に浮かぶモニターをラボチームの面々やイオリたち怪獣族のみんなが見上げている。


このモニターは本部からの緊急連絡の際しか使われないはずだ。いったい何が……?


その答えは映像の中にあった。


「……!?」


ところどころ乱れるそれはどうやらメモリバードの中継映像のようだ。


これは……惑星N5か。帝国軍の動向を伺うための偵察基地が設営されていたはずだが…なんてこった。


そこに映し出されていたのは無残に破壊された宇宙正義の基地と、辺り一面に転がる駐屯部隊だったものの残骸。そしてその死屍累々の中で勝ち誇る数え切れないほどの機兵獣の群れだった。


なんだ……これ……。

誰もが無言だった。誰もが絶句したようにそれを見ていた。


ノイズが走り、一瞬にして画面がまた別の中継映像に切り替わる。


映し出された緑豊かな美しい星は、宇宙から見たアルタイル区xx星だ。多くの人々が住む開拓惑星であり、宇宙正義の庇護下にあった星なのだがーーーそんなことはどうでもよかった。オレたちは今まさにそのxx星に迫る、巨大な影だけをただ呆然と眺めていた。


「sEvEns-hEavEnだ……」


誰かが絞り出すように呟く。

それは同時にその場の誰もが思い至っていたことだった。


sEvEns-hEavEnーーー銀河帝国の中核を成す、惑星大の超巨大な威容を誇る帝都要塞だ。その三日月を思わせるような不気味な外装が、光を反射して鈍く銀色に煌めく。


普段は遥か彼方、アンドロメダ星系を拠点にしているのだと聞いていたのに、どうしてアルタイル区にまで……?ーーーいや、そんなこと考えるまでもねぇな。


オレは思わず生唾を飲んだ。


奴らが拠点とするとされるアンドロメダ星系からxx星のあるアルタイル区までは直線の航路で繋がっている。惑星N5の惨状とxx星の現状から、帝国軍がその航路上にある宇宙正義の基地を潰しながら進撃を続けているのは明らかだ。


奴らがこのまま航路に沿ってくるとするなら、その先にあるのはM95星基地、そしてNM78星雲ーーーおそらく帝国軍の目的は宇宙正義本部コロニーの破壊だろう。



「……総力戦って感じだね。あいつら、ついに仕掛けてきやがったみたいだ」


オレはただ頷いてそれに答える。

田中もどうやらオレと同じ答えに辿り着いているようだった。


本部コロニーの壊滅は、そのまま宇宙正義の敗北を意味する。

今までの戦いも、研究も、多くの仲間たちのーーーゼノビアの死も、すべてが無駄になってしまうのだ。


そんなこと許せるかよ……!


睨みつけた画面の中で、途方もなく大きな要塞がxx星を丸ごと飲み込むように影を落とす。


そのとき、不意に映像に激しい爆発が映り込み、砕けた機兵獣の破片があちこちに飛散した。

宇宙正義のxx星駐屯部隊が出撃し、帝国軍と交戦を開始したのだ。


しかし楽観視はできないーーー帝国軍の本隊を相手にするにはあまりにも戦力差がありすぎる。現に画面の中の駐屯部隊は無限に湧き出る機兵獣によってみるみるうちに押され始めていた。


それはとてもではないが前線基地の戦力だけで防ぎきれるような攻撃ではなかった。帝国軍と宇宙正義ではそもそもの物量差がありすぎるのだ。これを迎え撃つには、こちらも全戦力をぶつけるしかないだろう。


おそらく数時間後にはこちらも本隊を率いて出撃し、帝国軍と正面から激突することになる。

それまでにオレたちにできることはーーー。


と、そのとき、不意に研究室が大きく揺れた。

「な、なんだ!?」

「xx星基地のワープゲートがやられたんだ!多分それで、位相を繋ぐネットワークに支障が……!!」


画面に閃光が迸ると同時に、研究室に再度衝撃が走った。書類の束が舞い、機材が次々と倒れて火花を散らす。


オレは頭を庇いながら舌打ちをした。


出撃までに残された時間は多く見積もって5時間といったところかーーー考えてる場合じゃねぇな。オレたちも、オレたちにできることをするのだ。


「おいお前らぁ!ここは危ねぇ、出口が塞がる前に退避するぞ!」


その言葉に田中が続く。

「ラボチームは今より、整備班と連携して本隊出撃のサポートを行う!ワープゲートで速やかに避難し、格納庫へ向かってくれ!」


皆が小走りにワープゲートへ向かうのを見届け、オレはイオリたち怪獣族に向き合った。


「イオリたちはこれを使ってここから逃げてくれ。行き先は数百光年彼方にしてあるーーーそこならきっと、帝国軍も追ってこないだろうからな」


そう言って手渡そうとしたテレポートバッヂを、彼は断固として受け取らなかった。


「それは受け取れないだに。オラたちはまだ、あんたらに何にも返せてねぇだにからな」


金色の体毛を靡かせ、イオリが怪獣族の仲間たちに向き合った。


「みんな、今こそ恩を返すときだに!おらたちの技術で、宇宙正義の戦闘機を最高の状態にするだによ!!」


研究室が三たび震える。しかしそれは衝撃によるものではなく、怪獣族たちの上げる鬨の声によるものだった。



「師匠ぉ……!!」


涙ぐんだような声で田中がイオリの手をとり、固く握手を交わす。


正直、整備班とラボチームだけでは間に合うかどうかは五分と言ったところだったが…これならーーーまったく、有難いぜ……!


「さあ、二人とも行くだによ!」


勢いよくワープゲートへと走り込んでいくイオリたち怪獣族の後を追い、オレと田中も光の渦へと飛び込んだ。





整備班と合流したオレたちは、生体コネクタの取り付けに奔走した。

メモリクレイスの量産体制はまだ完全には整ってはいなかったものの、幸いなことに初期に開発された『CUTTER』『BARRIER』『ARM』『VALCAN』の四本の鍵はある程度の本数が既に造られていたため、なんとか今回の出撃でも使うことができるだろうと思われた。

各艦にはすでに生体コネクタと量産型のフラッシュプリズム・コンバーターのメモリクレイスを搭載してある。


順調に出撃準備を整えていたそのとき、唐突に頭の中に聞き慣れた声が鳴り響いた。




『ーーーピエロン、田中。

ふたりとも、この声が聞こえるか』


この声は……。

咄嗟に田中を見ると、あいつも同じようにオレを見ていた。どうやらこの声はオレと田中の頭の中に直接流れてきているようだ。


その声が言葉を続ける。





『ーーー私だ、デナリだ。突然すまない……今すぐにどうしても君たちに伝えなければならないことがある。まずはこれを見てくれ』





瞬間、頭の中にひとつの光景が浮かぶ。


ここは宇宙正義のメディカルセンターだろうか。白い壁に白いカーテン、白いベッド……白尽くしの空間のその上に、淡く輝く一枚の羽が落ちている。

なんの羽だろう。こんなのは見たことがない……生物的でありながらもどこか無機質に見えるその表面は、まるでガラス細工のように滑らかだった。





『ーーーこれはマホロ・リフレインが形を変えたものだ。おそらくこれが彼女の本来の姿……ヒトの形を保つことさえできなくなってしまったのだろう。それはつまり、負の意思による干渉が強くなったこと……そして我々に残された時間が少ないことを意味している』





デナリはそこで一旦言葉を区切った。

そして次に話し始めたとき、その口調にはなにか覚悟のようなものが秘められているように感じた。





『ーーーそこで今回、君たちには特殊任務を任せたい。

今から3時間後に我々はM95星へ向けて出撃する。ピエロン、君にはそれに同行してもらいたい。

そして私と共に帝国軍本拠地へ突入し、星のかけらを探すんだ』




「……どうして、ピエロンなんですか」




『ーーーそれは彼が、星のかけらに選ばれた者だからだよ。田中、君がY5星で囚われていたマホロ・リフレインを最初に見つけ出したように、我々はなんらかの因果によって正の意思に引き寄せられているんだ。


そして正の意思は、自らが選んだ者の側でのみその絶大な力を発揮する。だから君にはこのメディカルセンター地下にある特殊防護室でマホロ・リフレインと共にいてほしい。


帝国軍を打ち倒し、正の意思の分身を一つにしたとなれば、負の意思は必ずなにかしらの行動を起こしてくるだろう。


負の意思の目的がこの宇宙の破滅であるならば、それに対抗できるのは私たちだけだ。


我々は、偶然とは言えそれに対抗しうる力を手に入れた。だからこそやらねばならないのだ。


頼む。ふたりとも、力を貸してくれ。


この宇宙を守るために、どうか私を信じてくれ』




そこでデナリの言葉は途切れた。


オレは思わず笑ってしまう。


「……選択の余地はねぇな」


ーーーだってそうだろ?

この宇宙は、多くの仲間たちが平和になることを信じて託してくれた宇宙なんだ。

なにもしないなんて、できるわけがねぇ。



そのとき、不意に右腕にズシリとした重みと、仄かな温かみが伝う。


「ピエロン、それ……歓びの剣……!?」


突如として現れたそれに驚きを隠しきれないオレたちだったが、それが誰の仕業かは考えなくても分かった。


込められた思いが光となって溢れ出すように、目の前の剣が銀色に煌めく。


「……やってやろうじゃねぇか」


言葉を絞り出し、その柄を強く、握った。








ーーー準備は整った。


生体コネクタを搭載され、いつでも出撃できるよう整備を終えた戦艦が、母艦バラバの中へ次々と格納されていく。


バラバは間も無くM95星へ向けて飛び立つ。どうやらそこで防衛線を張り、水際で帝国軍を食い止める作戦のようだ。


オレは腕時計型万能小型コンピューターを確認し、道具の最終確認を行っているところだった。


データが多ければ多いほど転送に時間がかかってしまうのだから、なるべく少ないほうがいい。必要な道具を適切に素早く転送できるようにしておかなければ、命に関わることだってあるーーーのは分かっているのだが、減らすと言ってもそれがどうにも難しい。


何が起こるか分からないのだから、できることならすべてのアイテムを持って行きたいくらいだ。


テレポートバッヂに数本のメモリクレイス、簡易生体コネクタと遮断ボックス……。


……ん?

ふと目に入ったのはつい最近作ったばかりの道具たちだ。手記の内容を基に対帝国軍用として開発したアイテムのため試作品のものが多いが、それでも持って行けば何かの役に立つだろう……いや、でもな……。


そんなことを考えていると、唐突に後ろから声をかけられた。


まずい、出撃時間かーーー?


そう思って慌てて振り向くと、そこには見慣れた鎧姿の友人が立っていた。


「なんだ、田中か。メディカルセンターは逆方向だぞ?」


しかし田中はその言葉に答えもせず、手の中に握った何かをオレに差し出した。


「お、おい。これ…!?」


反射的に受け取ったそれは、やけに見覚えがある剣の柄を模したような形をしていた。


「……サムタングリップだ。君に合わせて調整してあるから、持って行ってくれ」


訳がわからない。ゼノビアの形見と言っても過言ではないこれを、どうしてオレに差し出しているんだ。


そんなオレの動揺を見透かしたように、田中が答えた。


「ピエロン。おれの故郷、惑星NJでは物に英雄の名前を付けることでその魂と共に生きると言い伝えられていた。おれはそれを今でも信じてるーーー知ってるよな?」


「あ、あぁ。昔からだもんな」


オレのその返答に、田中がふっと軽く笑う。


「あいつは確かに死んだよ。でも、その魂は今もここに生きているんだ」


田中はオレの手の中のサムタングリップを指差した。


「ーーーそいつの名前は、ゼノビアだ」


オレは思わず手にしたそれを見つめた。


ゼノビアーーー懐かしく暖かい響きのその名を与えられた棒状のそれが、不意に熱を帯びたような気がしたのは錯覚だったのだろうか。


「おれたちは、いまも三人で共に生きているんだ。

……いいかピエロン。必ず、帰ってきてくれ」


オレは名付けられたサムタングリップを強く握り、いつもと同じように笑ってみせた。


「……あぁ、任せとけ!」


共に生きるーーーそうだな、田中。お前の言う通りだよ。


メディカルセンターへ向かう田中を見送りながら、オレはその言葉を噛み締めるように呟いた。








M95星ーーーその前線基地は小高い丘のふもとに構えられていた。

普段はのどかな星なのだろうが、宇宙正義の全戦力が集ったいまとなってはそんな面影は微塵もない。


無数の迎撃システム、数千もの戦闘機、巨大母艦バラバ。そしてデナリを筆頭とする高エネルギー生命体の面々と宇宙正義の兵士たち。


いよいよだ。いよいよ総力戦が始まる。

これが、この戦争の最後の戦いになるだろう。



デナリ率いる第一部隊が先陣をきり、フィネ率いる第二部隊がそれを援護するという作戦だ。

オレが第一部隊のすぐ後方に着き、デナリの後を追って敵本拠地に突入するという筋書きらしい。


小細工なしの正面突破ーーー悪くない。やってやろうじゃねえか。



自分の小型飛行船に乗り込み、細部の最終確認を行っていると、不意に通信機から声が響いた。


「間も無く帝国軍がこのM95星を包囲するだろう。決戦の前に、皆に話しておきたいことがある。少しだけ、私の話に耳を貸してくれ」


それはデナリの声だった。

静かだが決意と覚悟に満ちたその声が、通信機越しに流れる。


「この戦争の中で、我々は多くの仲間を失った。数え切れないほどの仲間たちが、宇宙正義の勝利を信じて散っていった。我々の戦いは、彼らの死に報いるためのものだ」


青い空のその向こうにうっすらと見える三日月に似たそれが、徐々にその輪郭をはっきりさせながら迫ってくるーーー帝国軍本拠地、sEvEns-hEavEn。ついに、この時が来たのだ。



「今日、この戦いで、長きに渡ったこの戦争は終わる。帝国軍を打ち倒し、この宇宙に平和をもたらすのだ」


無数の影ーーー大小様々な機兵獣の群れが金属音を響かせながら空を覆う。


静かに、それでも力強く、デナリの言葉が響いた。


「皆……行くぞ!!」


それが合図だった。


デナリを先頭に高エネルギー生命体の一団が飛び立つ。

それを追ってオレが、そしてその後ろをフィネの部隊が続けざまに発進した。




先陣を切って進むデナリが空中に静止し、右腕を天に翳した。瞬間、その手の先に光の玉が現れる。

さながら小さな太陽のようなそれを、デナリはsEvEns-hEavEnの中心に据えられた巨大な砲台へーーー恐らくフラッシュプリズム・コンバーターの発射口へと向けて投げつけた。


一瞬のちに巻き起こる爆発と砕け散る砲台。それを皮切りに、高エネルギー生命体たちが一斉に攻撃を開始した。

光球、稲妻、光の渦…そのどれもが空を埋め尽くす影を削り落としていく。


その爆炎の中を、ひたすらデナリの後を追って突き進むーーーと、その時、突然機兵獣が目の前に降りてきた。

巨大なハサミを持った甲殻類を思わせるそのフォルムを確認するや否や、オレは迷わずメモリクレイスを生体コネクタに挿し込んだ。


ーーーーVALCANーーーー


「邪魔だぁあああッ!!」


翼の下に生えた二丁の砲身から放たれる弾丸の前に、機兵獣は粉々に砕け散った。しかしーーー。


「ぐぅっ!?」


コックピットに飛び散る火花、揺れる視界。

背後を確認して驚愕するーーー飛行船後方に、巨大なハサミが突き刺さっていたのだ。おそらく爆散する寸前、すれ違いざまにやられたのだろう。


出力が低下している。このままではーーーしかも目の前にはさらなる騎兵獣が迫っていた。


このままでは……。


オレの焦りも虚しく、目の前の機兵獣から放たれた光が飛行船を包むーーー!


瞬間、オレは生体コネクタのついた小箱を取り出し、それにメモリクレイスを突き挿した。


ーーーーARCAーーーー


巻き起る爆炎。その中から、オレは方形の新たな小型飛行船に乗って飛び出した。


小箱ーーーサムタンキューブだ。試作実験されたばかりの新型兵器であり、武器としてではなく主に飛行船や小型車両などの移動手段として用いるために開発を進めていた。


しかしまさか脱出にも使うことができるとはーーー我ながらナイス判断だ。


ふと上空、敵本拠地で大きな爆発が起こる。

どうやら既にデナリが突入し、内部を破壊し始めているらしい。その証拠に三日月型の要塞に設置された砲台は動きを止め、代わりにあちらこちらから煙と炎が噴き出している。


ーーー今がチャンスだ。

サムタンキューブが変形した飛行船も、持続時間は普通のメモリクレイスと変わらない。その上二度は使えない手であるため、これ以上の失敗は許されないのだ。


オレは覚悟を決め、最大速度でsEvEns-hEavEnへ向かった。




機兵獣が次々と射出される発射口に、船体を無理矢理ねじ込むようにして突入する。

出撃する直前の機兵獣を何体も薙ぎ倒し、次々と巻き込んでいく。轢き飛ばしたそれらをクッションにして無理やり停止させた飛行船から、オレはついに敵本拠地の内部へと侵入を果たした。



歓びの剣を抜き、前方に翳す。すると剣先から一条の光が、まるで進路を示すかのように真っ直ぐに伸びた。


マホロの言葉が脳裏に蘇る。

ーーーこの剣が、ピエロンさんを星のかけらの元へと導くでしょう。


この光の先に、探すものがある。

オレはそれを確信し、歩き出す。


通路はデナリによってことごとく破壊しつくされ、あちこちに兵士や機兵獣の破片が散らばっていた。

おかげで敵と遭遇することなく進むことができる。


どうも罠があちこちに仕掛けてあったらしいのだが、それらも全てデナリによって壊し尽くされていて機能していないようだ。

それでもやはり敵地は敵地。オレは確認するように、一歩一歩慎重に進み続けた。


と、そのとき、オレの真横の壁が吹き飛んだ。

咄嗟に物陰に身を隠して様子を伺うと、散乱した瓦礫と立ち込める煙の中、誰かがゆっくりと立ち上がるのが見えたーーーデナリだ。


デナリは真っ直ぐ、前方の砂塵の中に立つ人影を睨みつけていた。


「おいおいどうした?こんなもんじゃないだろ」


ゆっくりと、その声の主が姿を現す。


瞬間、全身を悪寒が駆け巡った。

こいつは…こいつはまさかーーー!?


「がっかりさせないでくれよ…俺はお前に会えるのをずっと楽しみにしてたんだぜ。そろそろ白黒つけたかったもんでな」


ブロンドの長い髪を靡かせた端正な顔立ちの顔。

薄笑いを浮かべてデナリを見下ろす、黒く塗り潰されたような瞳。


デナリと対峙するその姿ーーーこいつが銀河帝国皇帝、ラスタ・オンブラーか。


「さぁ、始めようぜ。宇宙を賭けた一戦を」


言い終えるや否やラスタ・オンブラーが動く。殆ど同時にデナリも動いていた。


二人は目にも留まらぬ速さで何度も宙で激しくぶつかり合う。その度に閃光が迸り、衝撃によって周囲が次々に崩壊していく。


ラスタ・オンブラーの腕先が黒い霧に包まれ、瞬時に刃と化す。その一閃を素早く交わし、デナリが皇帝と距離をとる。


どうやら奴はあの霧と一体化して自らの身体を変形させられるらしい。だとすれば素手であるデナリは戦いにくいだろう。この状況は、幾らデナリとはいえ不利と言わざるを得なかった。ましてや長期戦ともなればそれはさらに顕著となるだろう。


オレは喜びの剣の柄を握りしめた。

その先端からは相変わらず光の線が伸びている。


これを返せばーーーいや、まだダメだ。オレにはオレのやるべき事があるんだ。


激化する戦闘に巻き込まれないよう、身を屈めて迅速にその場を離れる。


ーーー悪い、デナリ。もう少し待っていてくれ。


慎重さをかなぐり捨て、オレは光を辿って走り出した。





光が指し示す先にあったのは、sEvEns-hEavEnの中枢機関室だった。


薄暗い室内のその中心に据えられたカプセルの中で、ひときわ輝きを放つそれが目に入る。

オレは直感で理解したーーーあれが、星のかけらだ。


カプセルから伸びる何本ものコードから、どうやらこの星のかけらから得るエネルギーを動力の一部にしているらしい事がうかがえる。


早くこいつを回収して、デナリに歓びの剣を返さなければ。


オレはピッキングドリルを取り出し、カプセルめがけて大きく振り下ろした。


高い金属音が響き、火花が散る。


「マジかよ…」


オレは思わず呟いた。自慢の道具はオレの手の中でひん曲がり、使い物にならなくなってしまっていた。


オレは心の中で舌打ちした。

さて、次はどうするかーーーそのとき、歓びの剣が唐突に光を帯びた。まるで星のかけらと呼応するかのように、微弱な明滅を繰り返す。


剣を使えと、言われたような気がした。


オレは恐る恐る、光る剣を星のかけらへ向ける。その切っ先がほんの少し振れた瞬間、先ほどまでの強度が嘘のようにカプセルが弾けた。


光を放つ石が、軽い音を立てて床に転がる。


これが、星のかけらか。

正の意思の分身ーーーその最後のひとつを、オレは震える手で拾い上げた。


聞こえてくる機械音が徐々に弱くなっていく。どうやらこれから得られるエネルギーを主な動力源にしていたらしい。これで多少は外の戦いも宇宙正義の有利になるかもしれない。


さぁ、早くデナリの元へーーー踵を返したその時。



「やれやれ、また君か。困るなぁ、実験体だけじゃなくその石まで持ち去ろうだなんて。これじゃ私の研究が進まないじゃあないか」


白衣を纏った猫背の男が、部屋の出口からオレを見ていた。


忘れもしない、貼り付けたような薄気味の悪いその笑顔ーーー。


「ロゴス……!」


「また会えて嬉しいよ。この前は最高に楽しかったねぇ…。あの時の興奮が忘れられないんだ。さぁ!続きをしようじゃないか!!おっとぉ、今度は逃げないでくれよ?」


高笑いしながら、奴の体が黒く大きく変化を始める。

その姿を見た瞬間、オレの心の中にどす黒い感情が芽生えた。


震える声で呟く。


「あぁ、オレも嬉しいさ。討たせてもらうぜ、あいつの仇……!!」


怪獣の姿へと変質したロゴスがその長い尻尾を振るい的確にオレを狙う。


「ッーーー!」


咄嗟に横っ飛びでそれを躱し、物陰に隠れて星のかけらを懐へしまう。とにかく一旦奴との距離を取らなければ。


今しがたの攻撃で壊れた壁を乗り越えて隣の部屋へと移ると、オレを追ってロゴスも壁をぶち破ってくる。



「ハァーーハハハハハ!!!仇討ちするんじゃなかったのかい!?いつまでも逃げてばかりじゃ、何も変わらないヨぉ??」


ーーーうるせえな、分かってんだよ。


オレが逃げる後を追ってロゴスが迫る。その巨体が、尻尾が、火球がオレを狙う度に壁や床が壊れて行く。自分たちの本拠地だというのに御構い無しだ。

そんなことを繰り返しているうちに、やがて今いる階層は破壊し尽くされ、なかなかの広さのスペースが開けたーーー適度な距離を取って戦うには充分な広さだ。


いいか、こっからが本番だ。

覚悟しやがれ。



ーーーーVALCANーーーー


メモリクレイスを挿したサムタングリップが、幾つもの砲身を持ったガトリングへと変形する。

瞬間、雨あられの銃弾がロゴスへ浴びせられるーーーしかしその何百発の弾はすべて強固な怪獣族の皮膚に弾かれてしまう。


「おぉ?やっとやる気になったみたいだね。でもそんなの効かないよ?」


嘲笑うロゴスを前に、オレは自分でも驚くほど冷静さを保っていた。


まだ、奥の手はあるのだ。

オレは手の中のサムタングリップをーーーゼノビアをちらりと見た。その先端には、生体コネクタが二つ付けられている。


田中が何を意図してサムタングリップに改造を施したのか、オレにはその意味が分かっていた。しかしそれはまだ机上の空論でしかなかったはずだ。


こんな無謀なことがうまくいくのかーーーいや、やるしかないのだ。


オレはメモリクレイスを二つ取り出し、二つの生体コネクタにそれぞれ突き挿した。


ーーーーVALCANーーーー

ーーーーSTUN BALLーーーー


「喰らえッ!!」


メモリクレイスの掛け合わせは、開発当初から考えられていた発想のひとつであった。

それぞれの特徴を合わせた武器を即席で合成、開発することができればと思っていたのだが、組み合わせには情報因子同士の相性があるらしく、まだ解明するに至っていなかったこともあってその実用化は見送られていたのだ。


田中はそれを分かっていてこのサムタングリップに二つの生体コネクタを取り付けたーーー少しでもオレが生き残る可能性がある方に賭けたのだ。


何百発もの弾を打ち込むVALCANのメモリクレイスと、高圧電流を流して相手を足止めするSTUN BALLのメモリクレイス。

掛け合わされた二種類の兵器が、何百発ものスタンボールとなってロゴスの全身に炸裂した。


まるで稲妻が直撃したかのような光と衝撃に、わずかにロゴスが怯むーーー行くぞ!


駆け出したオレに向けて数発の火球が放たれた。


ーーーーBARRIERーーーー

ーーーーARCAーーーー


発生させた方形のバリアで自分を包み、火球を防ぎつつまっすぐ突進する。

視界の端で長い尻尾が動くのが見えたーーー地面に転がってそれを躱し、メモリクレイスを挿し替えた。二つの機械音声が重なり、サムタングリップが変化する。


ーーーーARMーーーー

ーーーーBARRIERーーーー


黒い柄が伸びたーーーその先端にはいつものようなアームではなく、光るバリアが展開されていた。伸びるその勢いのまま、思い切りそれをロゴスに叩きつける。


「ぬぅう!?」


どうやら突然のことに反応できなかったらしく、伸びたバリアに押されるがまま、ロゴスの巨体が背後の壁へと突っ込んだ。


畳み掛けるべくオレが再び走り出した時、ロゴスの目がぎらりと光を帯びた。


「調子に……乗るなよ……!」


ドスの効いた声とともにその口が大きく開かれ、背中の水晶が強く輝いた。口内に光が満ちていくーーーオレは思わず笑った。


待ってたぜ、この時を。

いまこそ、とっておきを見せてやる。


オレは一本のメモリクレイスを取り出し、サムタングリップに挿し込んだ。


ーーーーDRAIN ROPEーーーー


機械音声とともに放たれた透明な光の帯がロゴスの全身に絡みつく。瞬間、口の中に集められていた莫大なエネルギーが煙のように霧散し、それに連動するかのように背中の水晶も輝きを失う。


「ーーーッ!?」


「てめぇの胸糞悪りぃ実験成果、活かさせてもらったぜ!」



ロゴスの手記を埋め尽くしていた高エネルギー生命体についての情報。そこに記されていたのがこのドレインロープだ。

対象に突き刺すことでその生体エネルギーを吸収する、所謂"対高エネルギー生命体"に特化した兵器であるため、反乱を防ぐためにその開発、改良、メモリクレイス化には多くの制限や条件が設けられた。


上層部への試作品(オリジナル)の提出、組織内部での存在の秘匿、さらに帝国壊滅後にはこの兵器の一切の情報を廃棄することなどがその一例だ。


その特性ゆえに高エネルギー生命体の力を持つロゴスに対し絶大な効果が発揮できると期待していたがーーー予想以上だ。エネルギーを吸い取られたその巨体がよろめき、膝をつく。


ーーー今だ!


オレの手の中にあるサムタングリップには、ロゴスから吸収したエネルギーが充填されていた。それをすべて、この一撃に込めるーーー!


弱ったロゴスの懐へと飛び込むようにして潜り込み、サムタングリップの先端を突きつけた。


「おらァッ!!」


ーーーーDRILLーーーー


オレの手にした兵器が瞬時に高速回転するドリルへと形を変え、目の前の化け物の胸を大きく抉る。

飛び散る破片と体液。さしもの怪獣族の皮膚も、最大出力のこの衝撃には耐えきれなかったらしい。ロゴスが悲鳴をあげながら大きく仰け反り、倒れる。


まだだーーー追い打ちをかけようともう一度サムタングリップを振りかぶったその時、ロゴスが吼えた。


それは力を振り絞ったかのような、苦しげな声でーーー。


「!?」


瞬間、眩い光が目を射抜く。と、同時に全身を凄まじい熱波が襲った。


何が起きたのか、まったくわからない。

ただオレの身体が激しい衝撃に吹き飛ばされ、為すすべもなく宙を舞っていることだけは理解できた。


「ぐぅっ!」

地面に叩きつけられ、一瞬、息が止まる。


サムタングリップが手を離れ、床を滑るように転がっていく。


ーーーしまった……!!


後悔してももう遅い。抵抗の術を失ったオレは、燃え盛る炎の中、ゆっくりと近づいてくる巨影を見上げた。


さすが高エネルギー生命体と怪獣族の力と言うべきか、大きく抉れたその胸はすでに再生を始めていた。


ーーーあぁ、なるほどな。オレの空けたこの穴から、こいつはエネルギーを一気に放出しやがったんだ。体内放射、とでもいうのだろうか。まあでも、今更気付いても仕方がない。


ロゴスの大きな手がオレの首を掴み、片手で軽々と持ち上げた。抵抗することもままならず、だらりとぶら下がる形となるオレの身体。


黒い皮膚の上で、赤い目だけが怒りにギラついているのが見えた。


その手に込められる力が徐々に強くなり、それに比例するようにオレの意識は遠のいていく。

一息に殺さないのはロゴスなりの楽しみ方なのだろうか。悦びに打ち震えながら何かを喋っているようであったが、オレにはもうそれを聞き取ることすらできなかった。


呼吸器官が悲鳴をあげ、ただ自分の骨が軋む音だけが、頭の中に無情に響く。


ここまでか……。


身体から力が抜け、諦めにも似た感情が心を蝕む。



悪りぃ、田中。約束守れそうにねぇや。



視界が黒く染まり、まるで眠りに落ちるかのように、緩やかに意識が暗闇へと沈んでいくーーー……。






闇の中に、一筋の光が見えた。

その光が少しずつ、少しずつ大きくなっていく。


「……?」


薄れゆく意識の中、その光の中から声が聞こえたような気がした。


ーーーピエロン。起きなさい、ピエロン。


この声は……。

懐かしさすら覚えるその声が、オレに語りかける。


ーーーなにこんなとこで諦めてんの、シャンとしなさいよ。まだ、終わりじゃないでしょ?


光の中から響くゼノビアの声が、オレを奮い立たせる。


あぁ、そうだ。終わりなんかじゃない。

……オレはまだ、こんなところで終わるわけにはいかねぇんだ!


オレの意識が目の前に迫る光を突き抜けた瞬間、視界が開けた。





ロゴスの恍惚とした表情が固まる。信じられないとでも言いたげなその顔に、オレは思わず不敵な笑みを漏らした。


殺したと思った相手が突然目を開けて睨みつけてきたら、誰でもそうなるだろう。


その動揺からか腕の力が僅かに緩むーーーその一瞬をオレは見逃さなかった。


首を絞めあげるロゴスの腕を左手で抑さえ、同時に右手で腰に下げていた歓びの剣を抜き取る。


銀色に煌めくそれを逆手に構え、大きく振り上げたーーー!


「うらァああアッ!!」


まっすぐ振り下ろしたそれが、化け物の顔面をーーーその右目を貫く。


「うぐああああああああ!!!!」


響き渡る絶叫。苦しみもがくその皮膚が弾け、血飛沫が舞う。オレはそれに構うことなく剣に全体重をかけ、両目を潰すべくそのまま横方向へと斬り裂いた。


「があああッ!!うおあああああ!!!」


言葉にならない叫びをあげるロゴスが痛みのあまり身体を大きく捩り、その反動でオレは宙へと投げ捨てられた。


「かはっ……!」


解放されたオレの身体が地面を転がる。全身の骨が軋み、呼吸も整わない状態だったが、それでもオレはまだ生きていた。


ーーーありがとよ、ゼノビア…!



「虫ケラがあああ!!!!死ね!死ね!!死ねぇええええ!!!」


激しく血を噴き出しながらロゴスが発狂したように辺り構わず火球を放っている。剣によって真一文字に斬り裂かれたその両目は、心なしか先刻の胸の傷より再生が遅いように思える。


ーーー今しかねぇ。

オレはよろめきながら立ち上がり、最後の力を振り絞って走り出す。


飛び交う火球をかわし、地面に転がっているサムタングリップを拾い上げると、そのまま流れるようにメモリクレイスを挿しこんだ。


「そこかぁああ!!」


その音を察知したのだろう。こちらを向いたロゴスの口が大きく開かれ、その口内に光が集まっていく。


ーーー撃たせてたまるか!


危険を顧みている余裕はない。

ロゴスとの距離を一気に詰め、蠢きながら巨大な砲身へと変形したサムタングリップ(ゼノビア)を、化け物の開かれた口内へと突っ込んだ。


「!?」


ーーーーFLASH PRISM-CONVERTERーーーー


「じゃあな……!」


絞り出すような一言と共に、引き金を引く。


瞬間、眩い光が炸裂した。

想像を遥かに超える衝撃に空間が弾け、次々と舞い上がる床や天井や壁が瓦礫と化して渦を巻く。


優しく、力強く、温かく、そしてなにより恐ろしい光のその中で、ロゴスが断末魔の悲鳴を上げて砕け散るのが微かに見えた。しかしオレの意識もまた、同じように輝きの中へと呑まれていきーーー。



ーーーそしてやがて、何も見えなくなった。









「……ん」

気がつくとオレは、床の上に大の字で倒れていた。


起き上がろうとするだけで骨が軋み、全身がくまなく痛む。火傷に打撲、細かい擦り傷…数えだしたらキリがないが、それでもあのゼロ距離砲撃の威力や反動を思えばこんな軽傷で済んだことは奇跡みたいなものだろう。


ったく。しぶといね、オレもーーー…。


なんとかかんとか身体を起こし、立ち上がって周りを見渡す。


ーーーひどい有様だ。

天井も壁も崩れ、あちこちで火の手が上がっている。眼前の床一面に広がる巨大なクレーターの、その中心部には"ついさっきまでロゴスだったもの"が無残な姿を晒していた。


クレーターの中に鈍く煌めく剣が転がっている。オレはよろめきながらもそれを拾い上げる。


「ん……?」


歓びの剣が微かに光を帯びている。それだけじゃない、オレの懐ーーーその中にしまった星のかけらも同じように光を放っていた。


取り出した星のかけらが、歓びの剣と共鳴するかのように微弱な明滅を繰り返す。


やがてその光は徐々に大きくなりーーー。


ーーーその中に、ぼんやりと映像が浮かび上がる。

激しくぶつかり合う二つの人影。デナリと銀河帝国皇帝、ラスタ・オンブラーだ。


黒い霧を全身に纏い、高笑いを響かせながら攻撃を繰り返すラスタ・オンブラーに対し、苦しげな表情を浮かべてひたすら防戦に徹するデナリ。

よく見るとその身体のあちこちに赤く輝く糸が突き刺さっているーーー恐らくあれはドレインロープと同じように、対象のエネルギーを吸収するためものなのだろう。

明らかに劣勢だった。早く歓びの剣を返さなければ、デナリはいずれ殺されてしまうだろう。


急がなければーーー舌打ちと共に走り出そうとした、そのとき。


「ッ!?」


光を放っていた星のかけらと歓びの剣が、輝きの中でひとつの光球へと変化する。

手のひら大のそれをおそるおそる握ると、その中から一筋の光がクレーターの中心へと伸びる。


何故かは分からないが、オレは直感的にその意味を理解した。


ーーーこの下だ。この下に、デナリがいる!


瞬間、身体が動いた。

迷いなくサムタンキューブへメモリクレイスを突き挿す。


ーーーーDRILLーーーー


蠢く小箱が、瞬きの間に姿を変えた。先端に鋭いドリルを搭載した空飛ぶ小型戦車のような形をしたそれに素早く乗り込むと、すかさずジェットを噴出させて宙へと舞い上がる。空中で機体を反転させ、迷うことなく光の指し示すその場所目掛けて加速した。


急降下の勢いのまま、オレの乗る機体はクレーターの中心に突き刺さった。僅かな亀裂の隙間に高速回転するドリルの先端をねじ込みながら最大出力で床を穿っていく。


辺りに飛び散る火花と瓦礫。激しい衝撃に操縦桿を握るオレの手も震えるーーーもう少し、あと一押しだ……!


「いっ…けぇええええええ!!」




瞬間、がくん、と身体が前へと乗り出し、操縦桿から手応えが失われる。殆ど同時にドリルがフロアの床をぶち抜き、オレの乗る機体は下の階層へと飛び出した。


視界に飛び込んできたのはドーム型の広大な空間。そして崩れ落ちていく瓦礫のその遥か眼下で、膝をついたデナリに今まさに皇帝が黒光りする武器を振り下ろさんとする光景だったーーーオレは咄嗟にコックピットのハッチを開き叫んだ。


「デナリぃいい!!受け取れぇええええ!!!」


大きく身を乗り出すと、右手に握った光の玉を大きく振りかぶり、あらん限りの力を振り絞ってぶん投げる。


その瞬間、全てがスローモーションに見えた。



まっすぐに飛んで行く光球、落ちゆく瓦礫、黒い剣を振り上げた皇帝、力強く優しい、星を宿したような瞳でオレを見つめるデナリ。



光球は引き寄せられるかのように真っ直ぐデナリへと向かって飛んでいく。輝きを纏うその軌跡は、まるで空を切り裂く流星のようでーーー。




伸ばした手の先でデナリが光を掴んだその瞬間、時間は正常さを取り戻した。


ラスタ・オンブラーが掲げた剣をデナリの頭目掛けて力強く振り下ろす。

「これで……終わりだァ!!」


確実にデナリの頭を捉え、振り下ろされたその一撃。それで決着するーーーはずだった。


「なに……!?」

皇帝の顔に、わずかな動揺が浮かぶ。


これで決まると思われたその一閃を、デナリが左腕で受け止めていたのだ。その背中に、光の粒子を纏った銀色に煌めく巨大な翼が瞬時に展開する。


「うおおおおおおおお!!」


デナリが吼え、右の手に掴んだ光を振り上げるーーーそのとき、光は煌めきの中で形を変えた。


ーーー決着は一瞬だった。


真っ直ぐに果てしなく伸びる光の長剣が、一振りで惑星規模の要塞であるsEvEns-hEavEnごとラスタ・オンブラーを切り裂いたのだ。


「まだだ……まだ、終わらんぞ!」


一刀両断され、崩れゆく要塞。巻き起こる爆発の中にラスタ・オンブラーの絶叫が響く。


「この宇宙を…手に入れるのだァ!!」


しかしその姿も、降り注ぐ瓦礫と炎の中に消えていきーーー。


「デナリ!すぐ脱出するぞ!」


サムタンキューブを『ARCA』のメモリクレイスに挿し替え、反転して飛び立つ。

その後ろをデナリも着いてきているのがちらりと確認できた。


この要塞は持ってあと数十秒と言ったところだろう。

間に合うかーーー……?


爆煙をくぐり抜け、降り注ぐ瓦礫をかわし、外を目指してひたすら飛び続ける。

激しく揺れるコックピット。


「ビエロン、しっかり掴まっていろ!」


瞬間、機体が七色の光に包まれた。なにが起きたのかを理解する間も無く、光の中でオレの身体は粒子となり、空間の壁を突破した。





テレポーテーション。それは空間の壁を越え遠く離れた場所へ瞬時に移動することを可能とする高エネルギー生命体の大技だ。亜高速道や小型亜高速道、テレポートパッヂなどの発想の原点ともなったが、実際に体験してみるとそれらとは全く異なる体感であることに驚かされる。


不思議な暖かい光を全身に感じながら、オレはM95星の大地を踏みしめた。


ここはどうやら前線基地から少し離れた場所のようだ。

空の彼方で、三日月型の巨大要塞が大爆発を起こして砕け散るのが見える。


あれだけいた帝国の機兵獣や戦闘機も、どうやらそのほとんどが宇宙正義軍によって掃討されたらしい。空にはもう帝国軍の痕跡すら見当たらなかった。


オレの心が安堵に包まれる。


オヤジ、お袋、惑星p-3のみんな、ゼノビア…聞いてくれ、帝国軍は滅んだぞ。


オレたちのーーー宇宙正義の勝利だ。


永きに渡った戦いは終わった。

……そう、終わったのだ。


もう誰も帝国軍に命を脅かされることもない。もう誰も無差別に殺されることも、無意味に殺しあう必要もない。


オレたちは平和を取り戻した。


これからは宇宙正義の統治のもと、この宇宙に秩序ある平穏な時代を築いていくのだ。



よろめきながら立ち上がったデナリの顔に、暖かな微笑みが浮かぶ。


「大丈夫か、デナリ」

「……流石に疲れた。さぁ、戻ろう。みんなのところへーーー」


デナリがそこで唐突に言葉を切った。その顔から穏やかな微笑みは消え去り、何かを察したような険しい表情を浮かべている。


その理由は、すぐにわかった。



宇宙正義軍母艦バラバが、突如として槍状の光波砲を放って前線基地を破壊したのだ。

砕け散る前線基地。それを合図にするかのように無数の戦闘機が飛び立った。


まさか、帝国軍の残党がーーー?


高エネルギー生命体たちが一斉に立ち向かう。

しかしーーーここからでもはっきりと見えた。戦闘機が使っているのは、明らかにメモリクレイスの兵器だ。


ガトリング、カッター、バリア、アーム…高エネルギー生命体と戦闘機が激しく空中でぶつかり合う。


「何が起こっている!?前線部隊、応答せよ!!」


デナリの呼びかけに、誰も答えはしない。

その時オレは、信じられないものを目にした。


ーーードレインロープだ。戦闘機から放たれたそれが次々と高エネルギー生命体を捉えていく。


そんな馬鹿な…どうしてあれが量産されているんだ。あるのはオレの手元にあるメモリクレイスと、上層部に渡したオリジナルのみのはずーーーーまさか……信じられない。信じたくない。


しかしそれしか考えられなかった。


導き出される答えは唯ひとつーーー裏切り者だ。上層部に、裏切り者がいたのだ。


デナリが怒りも露わに飛び立とうとしたーーーその時。


「デナリぃ!!!」


オレが叫んだ時にはもう遅かった。


いつからいたのか、それすらわからない。しかし奴は

デナリのすぐ後ろにいたのだ。


「!?」


振り向いたデナリが距離を取る間も無く、背後のそいつが腕を伸ばす。


瞬間、嫌な音が響き渡った。


黒いフードを全身に纏ったそいつの腕が、デナリの胸を貫く。


「あ……ぁ……」


その腕が引き抜かれると同時に、デナリが地面へ崩れ落ちる。


「デナリぃいいいい!!」


黒いフードはデナリには目もくれず、こちらを振り向いた。手の中には目も絡むほど眩い光がふたつ、握られている。


ひとつは、星のかけらだった。

もうひとつ、輝く光はおそらくデナリを選んだ正なる意思の分身ーーー心星の光だ。


「てめぇ!!よくも……それを返しやがれぇ!!」


ーーーーCUTTERーーーー


変形するゼノビアを構え、黒フード目掛けて走り出そうとしたーーーしかしその時にはもう、奴はオレの目の前にいた。オレの喉元に黒い腕がーーー"死"が迫る。


「!?」


黒フードの中で、その口元がにやりと邪悪に歪んだ。

それはどこか見覚えのあるような、そんな笑みでーーー。


思わず目を閉じた瞬間、瞼の裏に光があふれ、流星が駆け抜けた。


「デナリ……!」


オレと黒フードの間に割って入るように、黒フードが伸ばしたその手をデナリが歓びの剣で受け止めていた。


満身創痍のデナリの顔に大粒の汗が伝う。最早押し返すだけの力もないようだった。


「うおああああ!!」


デナリが歓びの剣を振り上げるのと、黒フードの腕が紫色の不気味な光に包まれたのは殆ど同タイミングだった。


紫の光に弾き飛ばされ、虚空へと消えていく歓びの剣。しかしデナリはそれを追うことなく、オレを抱えて後方へと跳び、敵との距離を取ることを選んだ。


「力のほとんどを失った割には、なかなかやるじゃない。さすがは宇宙最強の男ってとこかな」


聞き慣れたはずの声。

しかし混乱するオレの頭では、それを理解することができなかった。


「そんな……まさか……!?」


歓びの剣によって斬り裂かれたフードが、静かな音を立てて地面に落ちる。



「お前だったのか……裏切り者はーーー!」








余りにも意外なその正体。


オレは思わずその名を叫んだ。








「なんで……なんでだよぉ!!フィネぇ!!!」




宇宙正義の軍服を着たスキンヘッドのその男が、不敵な笑みを浮かべてオレたちを見下ろしていた。

「ピエロン、お前は…なるべく生きろ」

「すまないーーーあとを頼む」


「てめぇらの正義なんざ、俺様が全部否定してやる!」




「ーーー友達を、助けに来た」


次回、星巡る人

第24話 OMNIBUS STAR〜宇宙大魔王ができるまで③太陽の戦士

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