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02 朱美のメシマズクッキング

 糀谷家のリビングはそこそこ広い。この家は「かーくんと私にお互いのプライベートスペースなんていらないわ☆」なんて思っていた昔の自分死ね構造なのである。


 主な部屋は広いリビングと、寝室のみ。

 しかしそれなりに家賃もする事もあって、リビングは広い。玄関側はキッチンと繋がっており大きめの食卓に、座り心地にこだわった椅子が。


 そして寝室側には、テレビを囲うようにL字型のクソ高いソファがある。糀谷さんが選んだブツだ。

 本当ならここまで大きいソファでなくても良いのだが、早紀ちゃんと颯太君がよくこの部屋にやってくる為大きなソファを買ったのだ。



 食卓に不機嫌そうに頬杖を付いて居る糀谷さん。

 ロリックマは食卓の上にちょこんと座っている。

 私は優しさでわざわざ糀谷さんに夕食を作ってやった(・・・・・・)。私ってばほんと聖人。


 今日の夕食はサラダとご飯とみそ汁。ことんと糀谷さんの前にお皿を置くと、糀谷さんは不機嫌そうに眉を寄せた。



「お前の飯なんか食えるか」

「なら食うな。ついでに餓死してください」

「だいたい、お前の飯はまず過ぎる」


 糀谷さんが不機嫌そうにそう言う。不本意ながらも一年間夫婦してきたのに何今さらカミングアウトしてんだ。ロリックマは私の出した食事を興味深々と言った風に見ている。

 私も糀谷さんと同じようにぶすっとしたまま椅子を引き自分の分の食事を置いた後、糀谷さんの前に座った。



「まず、なんで主菜がないんだ」

「はぁ? サラダがあるだろうが。目ぇ見えてないんですか?」

「サラダが主菜? 殺すぞ」

「は、朱美の気まぐれサラダは超メインディッシュですから。こっちこそ殺すぞ」


 そう言うとロリックマが焦ったように口の前に手をやった。

 人間のようにしっかりとした五本指でないので伝わりにくいが、しぃっと言う意味の様だ。



「二人とも、あんまり大声で喧嘩したら早紀と颯太(そうた)が死ぬ」

「流石に目の前で喧嘩してる訳じゃないし、大丈夫だって」

「隣って言ってもそこまで筒抜けじゃねーだろ」


 ロリックマは少し不満げに口を歪ませる。そして、くまらしくない大きなため息をついた。


 ロリックマの忠告を無視して、私と糀谷さんの口論が続いた時だった。

 ぷるるる、と私のスマホが音を立てた。画面を見れば「早紀ちゃん」と言う文字が。あれ、早紀ちゃん一体どうしたのだろうか。

 そう思って画面に指をスライドさせて、ロックを解除する。



『朱美ちゃん!!!! 薫くんと喧嘩してるの!!?? 声聞こえてるよ!!! 早紀も颯太くんも心配で死んじゃいそう!!!』


 ロリックマさん、すみませんでした。

 早紀ちゃんの大声はナチュラルスピーカーと化しており目の前の糀谷さんも、ロリックマも死んだ魚のような瞳で私を見ていた。



「早紀ちゃん! 心配してくれてありがとう! でも大丈夫だよ! 私とかーくんは今日も超ラブラブだよ☆」

『……ほんとにー?』

「ほんとのほんと! 私嘘ついた事ないでしょ!」


 ごめん、今現在進行系で嘘ついてる。

 心配する早紀ちゃんに謝り、そして死なないでね。と念を押して電話を切った。



「すいませんロリックマ先輩」


 そう言って私も糀谷さんも食卓の上にいるロリックマに頭を下げた。

 その場に早紀ちゃんと颯太くんが居なければ大丈夫、なんて考えが甘すぎた。隣の部屋にまで筒抜けな大声で喧嘩すればあの二人は死ぬ。これから喧嘩は小声で行わなければ。



「……てか糀谷さんご飯食べないんですか」

「お前の飯はまずい」


 糀谷さんは未だ私の食事に箸を付けず、ぶすっとした表情で頬杖をつき向かいに座る私を見ている。

 まずい、なんてそんな訳ない。だって昨日まで糀谷さん(元かーくん)は嬉しそうにぱくぱく私のご飯を食べていたのだから。


 ロリックマもお腹がすいたのか、糀谷さんのサラダからレタスを一枚うんしょと引っ張り出し、口に含む。



「おんげええええええええええ」


 そんな言葉と共にロリックマは四つん這いになり、苦しそうに背中で呼吸をしはじめた。糀谷さんはロリックマの背中を擦り、同情の眼差しを向けていた。



「これがお前の料理の威力だ」

「ロリックマは肉食なのに、無理して葉っぱなんか食べるから……」

「おいらは雑食だよ」

「だったらお前の食事は明日からキャットフードだ」


 私がそう言うと、ロリックマはまた「げえええ」と空吐きをした。

 流石にマスコットキャラという事もあり、胃内のものをぶちまけるという事はないようだ。

 はぁはぁと荒い呼吸を漏らすロリックマの背中を優しく擦りながら、じとっとした瞳で糀谷さんが私を見る。



「ご覧の通りだ。お前の料理はくそ不味い」

「おかしい……おいらはドレッシングのかかったレタスを食べただけなのに……どうして口内がごみ箱に……!?」

「……でも昨日まで糀谷さんもとい、かーくんは美味しそうに食べてたじゃないですか」

「愛の力だ」


 ちょっと、真顔でそんな事言われても。

 糀谷さんいわく、昨日まではバカップルフィルターがかかっていたため気にならなかったらしい。どうなってんだ味蕾。確かに昨日までは「はい♡かーくん♡あーん♡」ってして食べさせてあげていたけれども。



「おかしいと思うかもしれないが、昨日まではあーたんにあーんしてもらうことでまずさを中和してきたんだ」


 頭を抱えながら、私にそう言う糀谷さんに乾いた笑いがでた。

 昨日までの私たちのバカ夫婦力は53万だった。ところが今は0である。というよりもむしろマイナス。

 それにしても私の料理ってそこまでまずいのか。自覚症状ゼロなんだけど。

 ロリックマは口の中がごみ箱だ、なんて表現していたけれども、宝石箱の間違いではないのか。



「……糀谷さんも、ロリックマも大げさですよ」


 そう言い、朱美の気まぐれサラダを口に含む。

 その数秒後、私はトイレに駆け込んだ。

 このくそまずさを中和していた今までの愛の力の強さとんでもないな、と頭の片隅で思いながら。

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