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11 手紙~拝啓アラサーの君へ~

 もう一度生まれ変わるなら、その時の自分に知っておいてほしいことがある。

 それは、未来の自分宛てに手紙なんか書くな。という事。



「うわあああああああああああ、やめろおおおおおおおおおお」


 私は食卓で頭を抱えて悶えていた。

 その「ブツ」は今日、部屋を整理していた時に出てきたものだ。卒業アルバムの中からペロっと出てきたピンクの便箋。そこには「DEAR未来の朱美♡FROM昔の朱美♡」なんていう黒歴史の匂いしかしない宛名が。



「朱美、読んでみなよ」

「お前マジで面白半分に発言すんな」


 ロリックマにブチ切れ気味にそう言う。

 私はその手紙を見るなり、ばんとアルバムを閉じて見なかったことにしたのだがロリックマがご丁寧にも引っ張り出して、食卓の上に置いてくれたのだ。



「過去の自分と向き合う事も大事だよ」


 ロリックマはそう言うが。

 過去の自分と向き合えば、本気で私は死んでしまうと思う。なぜなら、この手紙は「かーくんの事好きで好きでどうしようもない」ななんていう脳みそ沸騰時代に書いたものなのだから。


 ぐぎぎぎと頭を抱える私にロリックマが、黒歴史レターを開こうとする。

 私はその手をぐっと掴んだ。



「ロリックマ、あんたごと燃やすぞ」

「手紙は燃やす前提」


 薫さんが買ってきてくれたライターならある。

 いや、シュレッダーにかけるのもありだな。なんて思っていた時、私の大声で目が覚めたのだろう。ジャージ姿の薫さんが寝室から姿を現した。



「……朱美、うるさい」

「あー……すいません」


 今日はせっかくの休みで、こんな昼間まで寝ていたのに。安眠妨害をしてしまって申し訳ない。そんな風に少し反省。まぁ昔の自分が悪いんだが。

 薫さんは、キッチンに向かい冷蔵庫を開けてお茶を飲んでいる。



「どうやったら昼からそんなに騒げるかな」


 昔っからの嫌味たらしい言い方に頬がぴく、と揺れる。

 相変わらず死ぬほどイヤな人である。



「しょうがないじゃないですか! 昔の自分から手紙が!!」

「いや、何言ってんのお前」


 コップを持ったまま食卓にやってきた薫さんが、私をじととした瞳で見る。

 相変わらずのロリックマの薫さん贔屓はここでも遺憾なく発揮され、ロリックマは私からしゅぴっと黒歴史レターを奪うと、薫さんに献上した。

 薫さんは、お茶をちびちび飲みながら「DEAR未来の朱美♡FROM昔の朱美♡」という宛名を見て真顔で「バカなの?」と聞いてきた。



「未来の朱美へ、はーと。この手紙を読んでいる時に隣にかーくんは居ますか?」


 薫さんがにやにや笑いながら私の手紙を読み上げていく。

 やめてよお!と言おうとすると、薫さんがにやにやとしたまま「騒げば早紀と颯太が死ぬぞ」と言う。何で私は隣人の命を人質にとられているんだ。



「私は、かーくんと一緒じゃないと死んじゃう病なので、未来もきっとかーくんと一緒に居るとおもいます。はーと」

「今はかーくんと一緒にいれば死んじゃう病だけど」

「お前ってほんと昔から適当な手紙書くよな……」


 昔、っていつの話よ。なんてむすっとしていると薫さんが急に私の黒歴史レターを読むのを止めた。

 薫さんは、そこから先は言葉にする事なく目だけを動かして何故か顔を少し赤くした後にその手紙を何事も無かったかのように、自分のポケットに突っ込む。

 いや、何書いてあったの。いきなりそんな態度をとられると死ぬほど気になる。



「ちょっとまって下さい、何書いてあったんですか」

「……お前の頭のおかしさを再確認する内容」

「見せてくださいよ」

「いや、これは燃やそう」


 真顔で薫さんがそう言う。

 さっきまで私も燃やす気マンマンだったのだけれど、耳まで赤くしている薫さんを見れば本気で何が書いてあったのか気になってしまう。

 この薫さんをここまで赤面させるなんて、過去の私はどんな糖分過多な文章を書いていたんだろう。



「見せてくださいよ」

「今すぐ燃やす」

「見せろ」

「燃やす」


 そんな風にしてぎぎ、と睨みあう。

 するとぱっとロリックマが薫さんのポケットから手紙を奪いご丁寧にも言葉に出して読んでくれた。



「私は、かーくんが私に告白してくれた時の『世界で一番素敵な朱美、俺が一生幸せにするよ』という愛の言葉を一生忘れません。はーと。未来の朱美もちゃんと覚えてるよね?」

「「よし、燃やそう」」


 薫さんは自分の告白の言葉を過去のクソ朱美にほじくり返されたのが、そうとうメンタル面に来たらしい。

 昔の朱美、私と薫さんの両方にこんなメンタル攻撃をしかけてくるなんて、とんでもねぇ大罪人である。









 ごみとしてこの黒歴史レターを出せば、偶然ごみ捨て場であの隣の夫婦に見つけられるかもしれない。シュレッダーにかけても、隣の夫婦なら脅威の再現力で、パズルのように繋ぎ合わせ自殺する材料にするかもしれない。


 そして私達が選択したのは、灰にしてしまう作戦。

 本当ならライターで一瞬で燃やし尽くしたかったが、火事を起こせばしゃれにならないので、ろうそくに火を付けてじりじりと炙って供養する事に。



 私がさっさと燃えてくれ、と祈っている時薫さんが「あ」と声を出した。

 もうすぐで燃えはじめるという良い所で薫さんが黒歴史レターを火から離す。

 一体何が。と思って薫さんがマジマジと見ている手紙を見れば、そこには「かーくんLOVE」という文字が炙りだされていた。


 こんな小細工までしかけてくるなんて、昔の朱美は本当に頭が大丈夫だったのか。


 そんな風に思いつつ私は「食え」という言葉と共に、ロリックマの口に黒歴史レターを突っ込んだ。

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