存在しないラブコメ日記
俺日記
時 六月一八日 天気 曇り
誰も知らない存在、それがラブコメである。
小説でもなければ漫画でもない。現実世界ではそんな展開は期待できない。
もし、そんなものが存在するのであれば……あるのかもしれない、そんなものが。
だが、見えない恋はしたくない。
人間はいつしかリスクに恐れ、時に想いを捨てる事さえある。
これが人間の本質なのかもしれない。
要約しよう、人間とは卑怯であり弱いのだ。
そしてそれが本質であり本性なのである。
***
日記を書き終え、時刻は午後七時を指していた。
我ながら、
「中二病臭……」
などと言いつつも止められないのがこの日記の悪さゆえのところである。
「そろそろ晩飯作るか……」
親は共働きで帰りが遅い。
両親は違う会社ではあるだが母親はエリートさらに言えば、アメリカに本社があるIT関連企業に働いている。
父親と言えば福岡に単身赴任をしている。
なので家事全般は自分がしている。
ちなみに学業と言えば成績は体育を除きオールグリーン(五と四しかない)だ。
「おーい! 飯作るぞ! 手伝えー」
自分には中学一年の妹がいる。
成績はというと絶望的で……勉強は自分が教えている。
「大智一人でやんなよ」
「お前のためにやる事を否定すんな。俺は来年受験生、料理もお前がやんないと話にならんぞ」
名前は目黒大智で妹が目黒花香、美人なのはいいが成績が破滅的、何をするかは知れたことではない。
ちなみに小六の時に妹は処女を卒業している。
リア充の極みめ!
「そんな大したこと無いっしょ。お前の事知らんし」
「知る知らんの問題じゃない。人生かかってんだよ、高校受験には」
「あっそ、あたしそんなん知らんし」
「まぁ良い。お前は美人だ。可愛いぞ我が妹よ。その捻くれた性格と生意気な態度を抜けばな」
舌打ちをする妹。
可愛いぜ、黙っていればな。好きになっている。
その不細工な性格を厚生してやりたいわ。
「おら、米くらい洗えるだろ!それともその脳みそは20MBしか入らない不良品か?」
「黙ってて!」
そして夕飯を作る。
ホントうざい。
***
夕食を終え勉強に入っていたところ寝入ってしまい朝の4時を指していた。
「……風呂……入るか……」
冷たくなった風呂を温めている最中本を読んでいた。
『お風呂が沸きました』
お風呂の温めが完了したとの報告があったので入る事にした。
「ふぁ~あ」
あくびをしつつ脱衣所に向かった。
「しかし眠い……」
風呂に入り猛獣のような声が上がるのは日々のことである。
風呂を出ると四時三〇分を指していた。
「弁当……作るか」
服をカッターシャツに着替え、エプロンを装着、材料を冷蔵庫から取り出す。
いつもの事ながら冷凍食品縛りと簡単に料理を開始する。
かかる時間はわずか一五分。我ながら感動しつつも弁当を冷ます。
「だ、駄目だ。弁当を作るのは早かったか……。くそ!まったく小からの変わってないではないか」
深くは気にしていない。
騒いでいるうちに五時を指していた。
そろそろ起きる時間だろう。NHKのニュースをつけると挨拶から今日のニュースに変わった。
音が聞こえたのか花香が起きてきた。
くっそ!可愛くねー。
「おはよ。飯はもうじきできる。洗面着替え髪ときブラシングこの項目をこなせ」
「分かてるし」
「ならよろしい」
無視して去る花香。悲しい家族の現状だ。
「さてと、出来上がったな」
パンと目玉焼き、コーヒーベーコン、サラダ、完璧なレシピではないか!
「できたー?」
「お前少しは礼儀を覚えろ」
「おーん」
スマホを弄りながら食うな!
「お前、いただきますも言えない脳みそは無いかと思ってたがあったんだな」
また舌打ちをしてスマホの画面に目を向ける。
***
時はとびHRの時間となり、美人転入生が入るとの噂があった。
ふっ、私の冷静たる対応に限界はないだろう。
まさかのラブコメ展開は期待せずにいようとは思うがそんな事はどうでもいい。
問題はそこではない。
面倒な女が来ないことを祈りたい。
可愛い女ほど面倒な性格の人間は居ない。
「ではHRを始める。早速だが転入生を紹介する。入ってきたまえ」
「はい!」
甘い声に包まれてドアから入ってくるしっかりした顔立ちは何とも言えない。
長くのばされた黒髪は揺れて彼女の雰囲気を良くしているように思う。
「はじめまして!今日からこの学校にお世話になる三鳥川実乃里です!よろしくお願いします」
頭を下げる彼女に対して先生は三鳥川の方を向いた。
「素っ気ない挨拶だな……他にはないのかね?」
「すいません!えっと……なに……言えばいいのかな……」
周囲の男子も問題だが転入定番挨拶ランキング、1位は趣味だろ!趣味!
まったく、そのくらいの演技は妹で大体思い知っている。
このG面と化した眼は貴様にはごまかせん。
可愛いだの性格良いだのそんな奴に対して裏が深かったりする。
「じゃあ……趣味……でいいかな……?」
「好きなことでいい。早くしてくれ、時間は待ってくれない」
「はい……えっと……趣味はお料理です……。不束者ですがよろしくお願いします!」
さっき礼したばっかじゃねーか。
趣味は料理……ね。
私の前で言うとはいい度胸ではないか。
料理、洗濯、掃除、この三つができる俺はなんて素晴らしいのだろうか……。
「そんなところだ、良くしてやってくれ。あと三鳥川、君の班は四班だ。学校案内は班長の黒目がしてくれる」
なんで俺なの?男子の視線があついよ?普通女子にやらせない?
先生は抗議しようとする俺に気づいたのか威圧感の半端ない視線を感じた。
俺の立場は最悪と化した。この最悪の事態にどう対処するか、殺伐とした空気に包まれた教室はまさに軍法会議かと思わせるずっしりと重い空気だ。
「では、後ろのドア付近にある席に座りたまえ」
先生は後ろの席を指さしそこに三鳥川を向かわせる。
男子全員彼女の魅力にひかれる様にして目で追う。
この、黒豚どもが。
こいつは俺の脅威になり兼ねん。
俺のモットーは常に理念を崩さず前向きな思考をもつこと。和を乱すような行動、発言はしないこと。そして最後は告白されれば第一にドッキリを疑う。
これがモットーである。
「ではHRを終了する、一時間目の授業の準備をしてくれたまえ」
はぁ……大変な一日が始まりそうな。
そんな予感を抱きつつひそかにラブコメ進展を期待する俺もいた。