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07

「起きろ! 今日から、ドラキー。お前も私と同行してもらうぞ」


 朝、結局アリアを何とかした後、エンドブレイズの施設内で宿泊させてもらったドラキー。

 起こす側が全く知らない初対面の人間ならば良かったものの、起こしたのが酔っぱらっていた張本人では目覚めが悪い。

 ドラキーは半目でアリアを睨んだ。


「普通に起こしに来るとは肝が座ってるな」

「何を言っている」

「アンタ、昨日何があったか覚えてないのか」

「え、えーっと……何もない」


 アリアは何もないと言い張った。ドラキーはギロリと睨みつけ、口を動かした。


「客に絡み出して、酒をおごるとかおごらないだのと話しになり、客にハゲてるだのと罵り、挙句にはカウンターに残ってた酒まで飲む始末。代金は酔っぱらってない時でいいですと店員に言われてたぞ」

「うっ……」

「これ請求書な」


 ドラキーは机の上に請求書を置く。金額は、下手をすれば家を買えるレベルである。多分、前々から貯まっているのであろう。

 早速上司面をしていたアリアだったが、即効でその顔は崩れつつあった。


「……ひ、秘密にしておいてくれないか」

「今後の対応次第だな」

「頼む!」

「わかったよ、その代わり、今度なんか飯おごってくれよな。副団長殿」

「……安くて済む」

「俺は安くて良い男だからな」

「女にご飯をおごらせる最低な男だけどな」

「部下に迷惑をかける最低な上司に言われたくないな」

「ぴぃ」


 そんな口論で小竜も目を覚ましたようだ。

 パタパタと飛んでドラキーの肩にチョコンと乗ると、また目を閉じて眠ろうとしている。


「全く、お前がうるさいからメルルーが起きたじゃねーか」

「メルルー? それが竜様の名前なのか?」

「あ、ああ」


 ドラキーは昨夜、アリアを何とかした後、さすがに名前なしでは可哀相だなと思い、名付けたのだ。メルルーという名前の由来は、現実世界のメリルー牧場の牛乳から取ったものである。


「それよりも何かあるんじゃねーのか? 上司殿」

「忘れていた! 今日からドラキー。お前の新人教育として私が指導することになった。そんでもって、今日は昨日行った熱帯雨林にまた行くぞ」

「は!? また熱帯雨林!?」


 湿度が異常数値を叩き出している熱帯雨林に行くだなんてゴメンだとドラキーは顔に出した。ハンターを倒すという目標は達成したのだから、問題ないと思うんだが、と思いながら半目でアリアを睨む。

 そんな視線を受けたアリアだったが、極めて真面目な顔をして話し始める。


「……実はな、今回熱帯雨林に途轍もない魔物が現れたらしいのだ」

「途轍もない魔物?」

「ああ、全長がおよそ竜様の倍を行く、鋼で生成されたかのような巨人。全長はおそらく200メートルはくだらないだろう」

「200!?」


 ドラキーは驚きのあまり、大声で叫んでしまった。

 大体の討伐の場合、クエストが終了してからサイズがわかる。今までドラキーが討伐してきた竜で、最大179メートルが最高だ。それでも、倒すのに時間はかかったし、槍投擲スキルでなければ倒す事は不可能だっただろう。


「それを退治しなくてはならなくてな。進行方向は丁度、この街アレクストゥだと言うのだ」

「そんなのを新米の俺に倒せと!?」

「ドラキーだけではない。他の人間もいる。団長は多分その魔物を呼び寄せた人間がいるだとかで、今朝出たばかりだ」

「……魔物を呼びよせる人間、か」


 だが、そんな人間いるなど聞いたこともない。

 このゲームにはモンスターテイムなどというシステムはない。

 だから、魔物を呼びよせるなどというシステムも、スキルもない筈だ。

 団長は新手のゲーマーなのだろうか。と冗談半分にドラキーは考えていた。


「で、俺はそれを討伐しろって言うのか」

「いや、同行だけで構わん。私とドラキーではレベルが違うからな。ドラキーには、周囲に群がっているハンターを倒して欲しいのだ」

「ハンターまでいるのか!?」

「何故かな。ハンター共は鋼魔人を殺そうとしているのだろうが、結果的には奴の進行を止められていないどころか、ますますアレクストゥに近づけている。邪魔をする奴らならば、例え魔物を攻撃していても消さねばなるまい」

「そ、そうか」


 弱ったなとドラキーは考える。

 木製の剣で一対一ならば勝てるが、多勢相手では不可能だ。何しろリーチが短いし、手数を増やし、移動速度が速くなければ勝てない。昨日の敵のように雑魚だったらまだマシだが。

 こんな話、多分御三家の二人には入っているだろう。奴らはイベントモンスターには敏感だ。

 先日、ダブル・アーツの目撃情報もあることから、もしかしたら本当の目的は鋼魔人なのかもしれない。

 ドラキーは布団から起き上がる。


「わかった、俺も行くよ」

「無論、強制だからドラキーの意志は関係ないがな」

「酷いな、それ」

「それがギルドの掟のようなものだ。それよりも、これはギルドからの支給品だ」


 そう言って手渡されたのは、鉄でできたエンドブレイズと彫刻の施された長剣だ。刃の部分に彫刻された長剣は、ドラキーの大体三分の二くらい刃渡りのあるリーチの長い剣である。

 中々重そうだが、アリアの剣に比べるとまだ短い。


「これで戦えと?」

「不満か?」

「元々、俺は剣って主義じゃないんだけどな。でもあればいい」

「なら文句を言うな。行くぞ、ドラキー」

「ああ」


 ドラキーとアリアはエンドブレイズの建物から出て、熱帯雨林へと向かった。




 ◆




「ミトッ! 昨日昼に現れるって言ってなかった!?」

「どこの掲示板とかにも昼現れるとしか書いてなかったよ!」

「んもっ! こうなっては仕方がないわ。他の二人に狩られてないか心配だけど急ぐわよ!」


 丁度、ドラキーが旅立った頃、熱帯雨林に二人のプレイヤーが到着した。

 そして、視界に聳え立つ異常な光景を前にして、二人のプレイヤーは身を震わせる。


「……これがイベントボスの鋼魔人ッ!」

「ミト、いいから姿を消しなさい」

「あ、ごめん」


 ミトはステルススキルを発動させた。姿は消え、約三時間弱くらいは消えたまま行動できる。

 ミナは即座に装備を変え、二対の弓を両手に握り、狙いを鋼魔人に合わせた。


「洪水竜の討伐もいいけど、先に片付けるのはコイツの方が良さそうね」

「ミナ。ここから攻撃するつもり?」

「ええ、存在だけでも相手に知っておくと便利だからね。やるわよ」

「了解」


 姿を消したミトは、二つの弓の弦を引っ張る。

 そのままスキルスロットを押せない代わりに、音声呼び出しでスキルを発動した。


「ボム・アローッ!」


 二本の矢が弧を描く。

 数秒後、巨大な鋼魔人にヒットする。

 瞬間、響くのは爆発。といっても、爆撃矢などのような威力はなく、ただのアピールスキルだ。消費スキルゲージもない。

 鋼魔人はゆっくりと振り返り、ミナの姿を視界に入れる。


「……さて、殺し合いでもしましょうか」


 そう呟くと、百人余りものハンターがミナを囲むように降り立った。

 全員、弓などのような遠距離攻撃系の武器を構えている。


「皆さん、標的の進行方向は西。この先には何もありません。そこに向かわせるように攻撃すれば、私達の守るべき砦も攻撃されません。お願いします」

『はい!』


 全員が返事をし、移動を開始した。

 ミナはその先陣に立ち、素早く移動する。

 その最中、鋼魔人は右手を振り上げた。その手には、鋼魔人の身の丈以上の刀が握られていることに気づく。


(ミナッ!)


 小声で叫ぶミト。

 それに対し、ミナは弓を構える。


(行くわよミト。ここで皆を守れば、私達をまたかなり尊敬する輩が増えるわよ)

(しょうがないなぁ……)


 ミトはセットしたスキルをタッチした。

 手には二本の矢。ミトの握る弓の弦と矢を合わせて引っ張る。

 グググッと強い音が響き、他のハンター達がミナを見つめた。


「攻撃無力化矢・双」


 攻撃無力化矢は存在するが、双はない。

 ただ、ミトとミナの合わせ技で、誰かが勝手に呼んで以来、定着したスキル名だ。

 弦が離され。

 光の矢が飛び交い、鋼魔人が今まさに刃を振るう。

 振るった刃に矢が二本衝突すると、鋼魔人はまるで押し倒されそうな勢いで退けぞった。


「ブォォォォォオオオオオッ!」


 それは怒りにも似た叫びだ。鋼魔人の声がミナに届く。

 ミナは嬉しくて背筋を震わせていた。

 強敵と戦える。

 それはここ最近ドラタに美味しそうな敵を持っていかれっぱなしだったので、久しぶりに味わうスリルだった。

 敵の能力は未知数。体力はどれだけあるのか不明。

 これだけの相手を前にして、別の意味で震えているのは多分ミナだけである。

 反対にミトは冷静だった。それには理由があった。

 いつも乱発させようとするミナを落ち着かせるのには、ミトが冷静になって弓矢を引かなければならないからだ。

 戦闘は二人で一人。

 それが彼ら――――ダブル・アーツなのだ。


 茜色の街を背後に、ハンター全員が臨戦態勢を取る。

 ここからが勝負だ。

 最初からハンターには頼っていない。

 頼れるのは、双子の弟だけ。

 ミナは弓を向ける。


「さぁ、始めましょう!」

『はい! ダブル・アーツ様!』

 

 瞬間集中砲火。

 矢、拳銃、大砲、バズーカ。多種多様な武器が発射される。だが、中に槍投擲を扱う者はいない。

 鋼魔人は次々と来る攻撃に、真っ向から挑み、防御体勢を取ろうともせずに歩み続ける。


「ブォォォォォォォォッ!」


 咆哮を上げ、巨大な刀を振り上げた瞬間だった。

 鋼巨人の片足が斬られ、大量の血が大地に降り注ぐ。

 集中砲火していたハンター共は、我を忘れて周囲に視線を巡らせた。

 その時、一人のタイガー・ドラゴンの装備をした男が呟く。


「こ、この攻撃……。あの女かッ!」

「どういう事だ、兄者よ!」


 二人の虎柄の男が話しあっている。

 他のプレイヤーは男の会話に目が行く。


「俺の……俺の首を真っ二つに斬った女がいる……」


 震えた声で話す男。

 その声に、ミナは少なからず不快感を覚える。


「……もしかして、名無しの荒らしですか?」

「あ、ああッ! 白い竜を連れた男といた深紅の髪をした女がいる!」


 何故報告しなかったんだ! と思いながらもミナは笑顔を崩さずに口を開いた。


「ならば、その女も荒らしですね。プレイヤーキルをした挙句、今回は私達から報酬を奪おうとしている。ただちに抹殺しましょう」


 その言葉にハンターは頷き、鋼魔人を倒す者達。女を殺す者達で分かれる。

 ミナは、鋼魔人を睨みつけながら、ミトに問う。


(ミト。深紅の女って?)

(多分、昨日いた男と一緒にいた女だよ。どうする? 計画早める?)

(そうね)


 ミナは微笑み、鋼魔人の背後にある街に向けて弓矢を放った。

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