表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/23

06

「ん、どうかしたか?」


 突然アリアに覗かれそうになってしまい、ドラキーはすぐに紙を隠した。


「いや、何でもないよ」

「そうか。まぁ、隠し事の一つや二つ、人間には存在するからな。無理な詮索はしない」

「ありがとう」


 アリアはそう告げると、ゴルドスがアイテム欄に入れる作業を手伝いに行く。それを見ながら、ドラキーには一つの疑問が浮かんでいた。


 この世界にいる人間は二種類いる。ゲームをしている側と、そうでない側。さらに分けると、そうでない側は分かれる。ゲームをしていて無理矢理竜騎士となった者。それとは別にあたかも最初から、このゲームの世界に生まれた者。

 考えるに、ゴルドスとアリアは生まれた側だと思われる。この世界がゲームだとは微塵も思っていないような考えだし、ゲームの住人ならば家族がどうのこうのとか言うのはゲームプレイヤーにとっては個人情報を晒すことになる為、タブーだ。

 だが、ゲームと同じシステムを使いこなしている。

 ドラキーはこの世界がどうなっているのか、考えれば考えるほどに混乱していた。ただ分かった事は、ゲームだと思っている人間と、ゲームじゃなくて現実世界であると考えている人間がいる事だ。


「ぴぃ?」


 小竜がドラキーの顔を覗いた。心配でもしているのだろうか。

 ドラキーは何も言わずに、小竜の頭を軽く撫でるとゴルドスの作業を手伝おうと考え、歩き出した。


 夕暮れを迎えたのか、雲が更に暗く染まり始めた頃。


「ふぅ」

「これ、何本あるんだ?」


 アイテム欄の木片の個数が999個越えている。それが何本もあるのだ。ちなみに全員でではない。ドラキー、アリア、ゴルドス全員含めてではないのだ。

 ドラキーだけでもこれだけの量なのに、一体全部でどれくらいあるのだろうかと思うと、苦笑いできる。


「これくらい集まったんだ! ドラキーって言ったな、お前さんの家も建ててやろうか!」

「勝手な事を言うな。ドラキーにも家庭というものがあるだろうが。な?」

「え、あ……」


 ドラキーは確信した。アリアもこの世界で生まれた人間だ。

 だが、そんな事を考える前に、確かに寝床がない。

 急な提案についていけず、ドラキーは反応に困った。

 どうしようかと悩んでいると、アリアとゴルドスが暗い顔をして、肩を叩く。


「……家族がいないのか」

「え、あ……まぁ……」

「寂しい事言うなよ! 俺が悪かった、お前さんの家から建ててやる!」

「だけど、俺、そんな金持ってないぞ!」

「いいんだ! これは俺とお前さんの仲だ! 払える時になったら払ってくれ! その代わり、竜様を大事に育てるんだぞ!」

「……なんで泣いてるんだ」


 ゴルドスは涙を流しながら、ドラキーを慰めるように言葉をかけた。

 隣にいたアリアも貰い泣きしているのか、顔を上に向けている。

 ドラキーは苦笑いしながらも、ゴルドスの善意を受け取ることにしておいた。




 ◇




 アレクストゥ西側に位置する酒場。

 アリアとドラキーはそこにて夕食を取る事にした。ゴルドスはこれからドラキーの家を建てることに奮起して、早速作業に取り掛かる為、別れていたのだ。

 ギルド、エンドブレイズに入団申請書を提出後、アリアに付き合えと言われ、無理矢理連れてこられた。

 ウエスタン風の酒場は、今日も働いた者達の憩いの場であり、多くの人間達が麦でできた酒を片手に談笑を交わす。大声で話す者もいれば、カウンターで小じんまりとしてる者までいる。


「これは私のおごりだ。遠慮するなよ」

「ありがとうございます」


 そう言いながら財布を確認するアリア。副団長は意外にも持ち金が少なそうだ。

 おつまみや、飲み物はゲームとは変わらない。つまり、酒や食べ物までVRMMOと同じ感覚で楽しめる。


「で、ドラキー。お前はその強さをどこで手に入れた?」

「強さ?」


 ガーリックトーストを齧りつこうとした瞬間に聞かれた。

 だが、単純に強さと言われても分からないのがドラキーだ。ただ普通にゲームをして、なんとなくしていたらいつの間にか最強プレイヤーになっていたのである。手に入れたとは、少し違う。多分、廃人プレイをしていたというのが最も手っ取り早い説明だろう。

 と説明できれば早いが、そうするのも難しい。ここで竜殺しをしていたなんて言うのは御法度に近いだろうし、信じもしない筈だ。

 頬杖をつきながら、アリアはじーっとドラキーを見つめながら口を開いた。


「本当はリンク・アーツを使った時の強さを見てみたかったけれど、ドラキー自身がそこまで強ければ使う必要はないな」

「そんなに強くない。だって、木の剣で人を殺そうだなんて思わないだろ」

「……まぁな」


 暗い顔をするアリア。やはり、同じ人間を殺す事に少々の抵抗があるのだろうか。だが、実際には死んでいない。奴らは同じ場所に姿を現すだろうと思いながら、ドラキーはビールを喉に流しこんだ。

 アリアはそんなドラキーを見つめながら、次の質問をした。


「その竜様の名前は?」

「名前?」

「ああ、まさか知らないのか?」

「え、あ……うん」


 そういえば名前なんてつけてないし、つけていいものか分からない。というか、あたかも名前があるかのような言い方である。

 ドラキーは恥を忍んで聞いてみる事にした。


「名前って元々あるのか?」

「当然だ。竜様を何だと思ってる」

「え、ただの邪魔者?」

「バカめ。成体の竜様から認められた場合にのみ、一時的に預けられる、いわば私達人間にとって勲章のようなものではないか!」

「そうなんだな……」

「知らなかったとは言わせんぞ」

「い、いや、ちょっとド忘れしただけんだ! 気にしないでくれ」

「それならいいが」


 アリアは溜息を吐いてビールを喉に流し込む。店員にビールと大声で注文する。

 名前、か。とドラキーは考えこみながら、小竜に視線を移した。

 今は餌と思われる店員からのサービスをチビチビと食べている。レベルのような概念が小竜にも存在するのだろうか。

 それよりも成体となった時のことだ。もしかしたら、成体となった時にドラキーは元の世界に帰れるのだろうかという疑問も生まれ出していた。

 疑問が新たな疑問を生む。ドラキーは考えたら霧がないなと思いながら、つまみをチョコチョコと摘まんでいた。

 いつしか、アリアと会話がなくなり、考えごとに集中していたドラキーは、不意に額に冷たいものが触れる。


「なんだ?」


 額に触れると、それは馴染んで消えていた。

 周囲に視界を探らせてみても、怪しい人物はいない。

 何が触れたのだろうか、そう思って立ち上がろうとした。


「ひっく」


 しゃっくりの声が響く。

 半目でアリアを見つめると、真っ赤になりながらアリアは机に突っ伏していた。

 溜息を吐きながら、アリアの顔を覗くとぼーっとした目で見つめてくる。


「……泥酔か」

「なんだとぉ! お前、あたしより年下のくせに偉そうにすんなよぉ~!」

「俺は十八なんだが」

「あたしは十七なんだよぉ~! このバカ! 年の違いもわからないのかぁ~!」

「計算もできないのか!」


 どうやらアリアは泥酔してしまったようで、ドラキーは無駄に絡まれてしまった。

 この後、アリアは店にいる人に絡んだりして、大迷惑をかけて後で土下座をするのはまた別の話である。




 ◆




 同時刻、ドラキーとアリアが食事をしている店のカウンターにフードを被った男女がいた。髪の毛は薄氷色。背丈はちょうど中学生くらいだろうか。二人とも顔を上げずに、出された飲み物を消化していく。


「なぁ、お酒は二十歳からだよな」

「うん、でもミナは飲んでいいの」

「意味わからねぇぞ」

「ミトはまだダメ。お姉ちゃんの方が偉いから、二十歳じゃなくてもいいの」

「尚更意味分からね」


 といいつつも、ミトと呼ばれる男の子もお酒を飲み込む。

 ふと、ミトがドラキーに視線を向けた。


「……ミナ、あれ、今日ゴミ兄弟を倒した男じゃない?」

「ゴミ兄弟? ああ、タイガー・ドラゴンの装備の?」

「そう。多分、アイツ」


 ミナもじーっとドラキーを眺める。

 報告に寄れば、白毛の小竜を連れて歩いているらしく、他には特徴もない、一見優しげな顔つきの中背中肉黒髪男性だ。

 報告と一致している。だとすれば、放っておいて行くわけにはいかない。


「……ミト、マーキングよろしく」

「……だけど、ここにいる奴、全員ノーネームだよ? アイツだけでいいの?」


 ミナはしばらく考え込み、店内全体を見回した。

 その後、メニューウィンドゥを開き、スキルを見つめ始める。


「……ミト。鋼魔人が出る時間帯っていつ?」

「確か、明日の正午だった筈だけど」

「そう」


 ミトからの返事を聞いてもミナはメニューを弄るのを止めない。


「大爆撃矢って何発くらいイケると思う?」

「……多分、ミナのスキルゲージなら、二発。俺のも合わせて四発が限度かな」

「わかった」


 ミナはそう言い切り、メニューを閉じた。

 それから、ドラキーに視線を再び移動させる。

 あの男は同胞(・・)を倒した荒らしプレイヤーだ。生かすわけにはいかない。

 ミナはミトに微笑みかける。


「マーキングしろってことか」

「うん」

「了解」


 ミトは指鉄砲を作り、ドラキーの額に向けた。

 そのまま、スキルを使用する。

 すると、一滴の水がドラキーの額めがけて飛んでいく。


「なんだ?」


 ドラキーが額を擦るが、一滴の水はすぐにドラキーの肌に馴染む。

 キョロキョロと視線を巡らせるが、ミトは何も知らない顔で飲みモノに口をつける。

 しばらく二人は無言で飲み続けていると、アリアが酔っぱらって他の客に絡みだす。その光景を見ずに、ミトとミナはカウンターから立ち去ろうとする。

 お会計を済ませ、店を出るとミナは呟いた。


「ミト。この街はノーネームの集会場。つまり、もしかしたら、キル・ドラゴン・オンラインで突如発生したプレイヤーの消失と関係があるかもしれない」

「え、それって……」

「簡単な話、名前が見えなくなったから、彼らは多分荒らし行為に走ったのか、それともデータを消されて腹いせに荒らし行為に走ったのか。そういうプレイヤーが集まっているのが、この場所かもしれない」

「……なるほどね。で、どうするの?」


 ミナは無表情のまま歩き出し、弓スキルをセットし始める。


「明日の夕方。この街を消すわよミト」

「うん、ミナがそう言うんなら、俺はついていくだけ」

「ありがとう。とりあえず、鋼魔人討伐してから、実行しましょう。今は、私とミト。二人が一つで最強の御三家(・・・)なんだから」


 二人はそのまま、闇に消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ