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04

 最速最高火力の伝説プレイヤー、ドラタが突然の失踪を遂げてから数日。

 あの日、覇王を初討伐したあの事件は、多くの者の間で謎だと囁かれている。

 ゲームをプレイしていた者、約十万人ものプレイヤーの消失、さらには覇王の未討伐扱い。

 全ての真相を、彼――――ダブル・アーツは知りたがっていた。

 彼は覇王討伐時、たまたまゲームから離れなくてはならなかったが為に、トラブルに巻き込まれることはなかったのだ。

 もちろん、運営も多くのプレイヤーが消えたことに関しては、わからないの一点張り。

 そうなると、奴らはどこに消えたのだろうか。


 ダブル・アーツは右手に持つ弓と左手に持つ弓の照準を、一つのデータの塊に向ける。


 ここは、熱帯雨林。湿気が激しい中で、新種である洪水竜を討伐しに来ていた。多くのプレイヤーが新種に立ち向かう中、ダブル・アーツはただ一人、息を殺して対象物を睨む。


 蠢く鱗、泥から這い上がる竜。

 プレイヤー達の敗北した声。

 嫌な湿気が汗となる。

 リアル、それだけがこのゲームを最初にプレイしたときの感想だ。


 ダブル・アーツの二対の弓に光の矢が浮かび上がる。


「……トドメ」


 ダブル・アーツのスキルスロットに配置されている、デス・アーツという相手を瀕死に追いやる技が使用された。

 光の矢が熱帯雨林の林を抜けて行く。

 疾風迅雷の如く、フィールドを駆け抜ける威力。

 竜は射程距離にいるのに、未だに気づいていない。

 ここが墓場だとわかっていないのか。

 プレイヤー達は一斉に離れた。

 その瞬間、竜に二対の矢が刺さる。

 爆発、轟音、火柱。

 その三つが竜の姿を焦がしていく。


「……雑魚ね」


 もう一度、スキルを放とうとする。

 だが、それを邪魔するかのように、二人何かが現れた。

 装備というのには、あまりにも脆くて無理そうな服に、子供が扱うような武器。

 覇王の件から数日、PKと思われる行為が増えてきていた。

 ダブル・アーツは秩序を大切にする人間。ゆえに荒らしや迷惑行為などが大っ嫌いな人間だ。

 大切な仲間に襲いかかろうとする者に、光の矢を向ける。


「……死になさい」


 矢が放たれた。

 使われているのは同じ、瀕死確立100%ダメージを与えるデス・アーツ。

 竜を庇ったかのように見えた二人は吹き飛ぶ。

 その後、仲間はダブル・アーツの意図を理解したのか、二人の迷惑行為をしたプレイヤーの腹部と胸部に近接武器の刃を突き刺した。


「……邪魔者は消えてなさい」


 そして、二人のプレイヤーはデータの残骸となって消え、残る竜を見失う。

 ダブル・アーツはここ最近現れる荒らし行為をする連中を、どうにかして本当に殺せないか考えていた。


「ダブル・アーツ様」

「……ええ。竜を殺す前にプレイヤーを殺す必要があるわね」


 冷たい瞳のまま、ダブル・アーツは呟く。

 その言葉に総勢100人もの仲間は、頷いた。




 ◆




 熱帯雨林。ジャングルのように生えた木々が足取りを悪くする地域だ。この場所は雨が一生降り注ぎ、湿度も現実世界の梅雨を遥かに超えている。

 空を見上げれば分厚い灰色の雲。以前、ドラキーが熱帯雨林について公式サイトを見たところ、雨が晴れることはないと書いてあったことを思い出した。

 そう、ここはドラキー達がプレイしていたキル・ドラゴン・オンラインと同じステージの作りだ。つまり、ドラキーだけが知っている隠し通路なども存在する。

 そんなステージに来たからには、竜の一匹だけでも狩りたいと思うのだが、そう簡単には事は進まない。

 ドラキーがこの熱帯雨林に来たのには当然理由がある。それは、先ほど出会ったアリアという女騎士に、竜を狩ろうとする者達を始末する依頼なのだ。


「……で、一つ聞きたいんだが」

「なんだ」

「なんで、コイツまでついてきてるんだ」

「ぴぃ」


 お子様ランチで討論し、最終的には喧嘩になった相手が同行している。

 ドラキーは溜息を吐きながら、先ほどアリアと話していた事を思い出した。


『あ、ついでだから、さっきの男にも同行してもらうぞ』

『なんでだ』

『私達ギルドは自警団だと告げた筈だ。勿論、喧嘩や揉め事などの対処にもタダってわけにはいかない』

『……何が言いたい』

『先ほどの男には、木材をいくつか集めてもらい、それを担保にして街への迷惑料として払ってもらう』

『悪徳業者だな』


 まとめると、お子様ランチ大好き男が揉め事を起こした件を片付けるのにはお金が必要であって、彼には返すお金がないから木材を集めて仕事をこなすことで、今回の事はチャラにするようだ。

 その男はまるで上司に頭を下げる平社員のようにアリアにペコペコ頭を下げている。


「すいません、仕事の方を協力してもらう形になってもらって……」

「別に構わない。最近、アレクストゥ全体がハンターに困っているのだ。ここらで退治しなければ、私達自警団としての出番も来るかもしれないのだ」

「そうですよね」

「さ、無駄話は終わりだ。行くぞ」


 そう言いきって、アリアは先頭を歩き始めた。

 鉄の鎧を纏い、深紅の髪を揺らしながら彼女は熱帯雨林の中を突き進んだ。

 ドラキーもその後について行こうと足を進めようとした瞬間、男に肩を掴まれた。


「なんだ」


 不機嫌を装い、ドラキーは男に言葉をかける。


「……さっきはすまなかった。つい仕事ができなくて酒に頼って、つまらない事で怒っちまったな」


 何か小言を言われるかと思ったドラキーは怪訝な顔をして振り返る。だが、そこにドラキーが予想していたような悪そうな顔つきはなく、あったのは心優しそうなお父さんのような顔だった。

 ドラキーは少し驚きながらも、表情に出さないように続きの言葉を待つ。


「俺はゴルドス・ハリゲドス。一応はギルドの長で家族もいるんだ。だからここは意地でもハンター共を蹴散らしてもらいてぇんだ。アンタ、木製の武器を使ってたが、本当はちゃんとしたの持ってるんだろ?」

「あ、ああ……」

「だったら安心だ。ハンター共を全員捕まえてくれ。頼む! 俺もこれ以上家族を困らせたくないんだ!」

「……わかった」


 頭を下げるゴルドスに先ほどのような威圧感はない。むしろ、本当に家族が好きなのだろう、家庭の為に仕事は一生懸命のようだ。


「それより、何を飲んで酔っ払ってたんだ?」


 キル・ドラゴン・オンラインにも酒は存在する。一ボトル日本円に換算すると五百円弱で、キル・ドラゴン・オンラインの通貨では五百キールだ。ここではどれくらいするのだろうと思い、ドラキーは聞いた。

 キョトンとした顔をして、ゴルドスはメニューウィンドゥを開く。この男もプレイヤーなのかどうかはわからない。


「……これを飲んで酔っ払っちまったんだ」

「これでか」


 名前はレモンソワァー。レモンサワーみたいなものなのだろうか。裏を見ると、ドラキーは思わず目を見開いた。

 そこには、アルコール成分ゼロ。つまりは子供用のお酒であって、ジュースだったのだ。ドラキーは無言のまま、ゴルドスに空きビンを返した。


「う、うまそうだなぁ」

「ああ! 美味しいぜ! 仕事終わり、これを飲むと疲れが抜けるんだ! 最高の酒だぜ!」


 子供用の酒だけどな。と思いながらドラキーは苦笑いする。


「いつまで話している!」


 アリアに大声で呼ばれ、ドラキーとゴルドスは急いで先へと進んだ。


 足元の悪い中、三人は無言で歩いて行く。

 アリアが先頭を歩く。その後をドラキーとゴルドスの二人がついていくのだが、徐々に視界が悪くなっていた。

 ドラキーはここで何百――――もしかしたら何千とも戦闘を繰り広げてきたので、躓いたりはしない。それは仕事をしていたゴルドスも同じようで、躓いて転びそうな場所などは無意識に避けていた。

 やはり、ここは同じ場所なのか。そうドラキーが考えていたら、可愛い声が響き渡る。


「きゃっ」


 続いてドスンという重い音。

 何かと思って思考を終えると、前にいた筈の人間がいなくなっていた。

 視界を巡らせてみると、そこには転んだアリアが倒れている。それも結構派手に転んだのか、ドラキーの視界にアリアが履いているピンクのパンツが丸見えだった。

 無言を貫き、クールを装うとしたドラキーだったが、己の性には逆らえなく頬が赤く染まり出す。


「……す、すまない。ほ、本当は方向音痴で何回も来ているのに、何回も転ぶんだ」

「方向音痴!? それってどこに向かってるか分からないって事!?」

「……いや、勘で……」

「わ、わかったから、と、とりあえず起き上がってくれないか?」

「今起き上がる」


 アリアは恥ずかしそうに起き上がろうとすると、パンツが見えていた事に今気がついたようで、ドラキーと同じように頬が赤く染まる。

 ギロリと竜にも負けぬ眼差しで睨まれるドラキー。だが、何も知らないフリをして、そっぽを向いた。


「……見たわね」

「な、何をだ?」

「……私の……」

「見てないぞ、ピンクのストライプなんか」

「――――塵になりなさい」


 さっきまで恥じらっていたアリアに頬を平手打ちされたドラキー。

 不可抗力とはよく言ったもので、結局は叩かれるんだなぁと世の中の辛さを味わった。


「あ、ああ……」


 そんな中、ゴルドスが感極まったのか、変な声を漏らす。

 ドラキーとアリアは平常心に戻り、ゴルドスの視界に目を向けた。


「何があったの」

「どうした」


 ドラキーとアリアの二人は、ゴルドスが震えているのを感じ取る。

 そして、ゴルドスは足を崩し、倒れた。

 遅れてドラキーは気がつく。

 そこには、二人のハンターがいた。


「お前らは……」


 アリアが呟く。

 ドラキーがハンターだとすぐに理解したのには、理由がある。

 それは、その二人が装備している道具だ。

 タイガードラゴン。そう呼ばれていた草原を駆け抜ける飛べない竜がいた。

 元々どんな伝説を崇拝するかで、装備をするか変わってきていたキル・ドラゴン・オンライン。その中でもタイガードラゴンの装備をする奴らは決まって、ダブル・アーツを崇拝する連中だ。

 ドラタを崇拝する者は、ドラタが初めて狩った魔物の装備を。

 ダブル・アーツを崇拝する者は、ダブル・アーツが初めて狩った魔物の装備を。

 目の前の二人を睨みながら、ドラキーは呟いた。


「……ダブル・アーツの信者か」


 ドラキーの呟きを耳にした二人のプレイヤーはウサギのように高く跳び、二人して弓の弦を引く。

 雨が目に入り、視界が悪い。

 二人は無言のまま、矢を放った。

 その二本は、ドラキー・アリア・ゴルドスから狙いは大きく外れている。

 だが、ドラキーは叫びながら伏せた。


「マズイ! 伏せろッ!」

「――――え?」


 その瞬間、矢が地面と接触し、大地は爆撃を上げる。さらに続く、轟音、激震。

熱帯雨林の一箇所に、爆弾が投擲されたかのような爆発が起こった。

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