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お互いの距離が縮まる。
その光景を見て、アリアとメルルは違和感を覚えた。
ミトは遠距離攻撃特化型のハンターだ。だが、彼は今ドラキーとの間を埋めていた。
「はああああああッ!」
ミトの叫び。
手元の弓は消え、新たに彼の手に現れるのは、驚くべきことに斧だった。
両手で握られた斧が振り上がり、ドラキーの頭上は狙われる。
一瞬こそドラキーは驚いたが、ミトが弓専門の人間ではないことはわかっていた。
狙いを定め、弦を引いたり離したりするのがミトの仕事だ。
先ほどまでのミトの弓攻撃は、プロとは言えないものだった。
つまり、ミナの弓を撃つのは得意だが、自分で引いて撃つのは苦手なのだろう。
スキルしか使っていなかったので、ドラキーはすぐに他の武器の方が扱えるのだろうと予感していた。
「だが、斧で俺を倒せると思うなよッ!」
二対の長剣をクロスさせ、ミトの斧を防いだ。
金属が重なる音が響く。
「ッ!」
ドラキーは斧が直撃するのを防いだ。
だが、斧自体の重みが、ドラキーの身体を伝って、足元が蜘蛛の巣状にヒビが入った。
ミトはまるで。獲物を睨む百獣の王のように鋭い目つきでドラキーに叫んだ。
「僕は負けないッ! あなたを倒せれば、僕達がランキング最強となり、賞金を手に入れるだけだッ!」
「バカ言うんじゃねぇよッ! エンツォも倒さねーとダメだろうが!」
「エンツォ? はっ、あんな新参者の方があなたも強いと思ってるんですかッ!」
ドラキーとミトは距離を少し開け、再び刃を交わせた。
次はドラキーの攻撃だ。
青く光る刃を走らせ、ミトの心臓部へと目掛けて一太刀。腕めがけて、もう一太刀振るう。
だが、その全てをギリギリのところで回避され、カウンターが迫る。
斧で横薙ぎが放たれるも、ドラキーは上体を逸らして避けた。
その勢いのまま、後方に回転しながら再び距離を開く。
「僕達は、必死に努力したんです。受験生であり、都立高校の最難関を突破できると言われた姉が協力して、ここまで来たんだ! 今更あなたを前にして僕が負けるわけにはいかないッ!」
ミトの斧が赤く光る。
ドラキーは斧スキルは詳しくない。それは攻撃モーションが遅い上に隙が多いスキルが豊富だからだ。
ゆえに、プレイヤーキルを行う上で相手をしたことがなかった武器である。
その為、スキルの予想はできない。
攻撃倍増一発スキルか。それとも遅くも防御を崩す連続攻撃スキルか。
ドラキーは瞳を細めた。
「だったら、お前の姉とやらが勉強して、いい仕事に就けば早い話じゃねーか」
「もう遅いんです。忙ないと、僕達の親は……」
「だからって、人を殺していいのか。お前達は、自分の親の為に人を殺すのかよッ!」
理性ではなく、感情的になってしまったドラキーは突っ込んだ。
真っ直ぐ突っ込んだドラキーに待っているのは、スキルを発動しようとしているミト。
「……そんな、嘘みたいな話ッ! 誰が信じるって言うわですかァァァァァッ! アッパー・ブレイズッ!」
ミトの斧は地面に降ろされた。
ドラキーは剣を走らせる。
「お前に信じてもらおうが、もらわまいが、俺は生きるッ!」
「信じてやらないから、死ねェェェェェッ!」
斧が降り上がった。
ドラキーは、その攻撃を紙一重で躱し、大振りするミトへと突き刺し攻撃を放つ。
走る刃。ミトのライフゲージは、あと少しだから、すぐに倒せると思っていた。
だが、単発攻撃強化型スキルではなかったのだ。
「かかったなッ!」
剣の刃を走らせたドラキーの身体を狙い、振り下ろされる斧。
動きは思ったよりも断然速い。
「クソッ!」
ドラキーの身体を斬る斧。
データの残骸が吹き飛ぶ。
ライフゲージは一気に削ぎ落とされ、二割まで減る。
距離を置き、ドラキーはミトに問う。
「どういうことだ。斧は、通常武器よりも一発が大きい分、動きが遅い筈……」
ミトは斧を振り回し、肩に斧を乗せる。
「バカですね。僕のレベルを一体いくつだと思ってるんですか? さらに言うと、いつもミナのスピードに合わせているんですよ? 僕の速度、俊敏性が遅いわけがない」
「なるほど……ッ!?」
ドラキーは片膝を着いた。
突然、ドラキーの視界が暗く染まる。
「それは、僕の斧、アストラル・ブレイカーの効果です。斬った相手を一時的に視界を真っ暗にさせるモノです。三十秒ほど、真っ暗な世界にいてください。目が覚める頃には、同じ暗い世界に行けると思いますよ」
徐々に近づいてくるミト。
視界は完全に何かで覆われたかのように真っ暗に染まる。
足音だけが、ドラキーの耳に入ってきた。
「ドラキーッ!」
「無茶な!」
焦ったメルルとアリアが近寄ってくる。
「来るなッ! これは無茶なんかじゃない。これは、俺とこいつの戦いだ。女は邪魔をするな」
ドラキーは叫んだ。
どちらかが勝てば、誰かの生を得られ、どちらかが負ければ、どちらかの夢や生は終わる、どちらか一つしかない勝負なのだ。
だからこそ、ドラキーは命をかけることにした。
目が見えないからではない。
相手も必死ならば、こっちも必死にならなければいけないのだ。
ドラキーは二対の長剣を握り締め、立ち上がった。
視界は悪い。
「やれると思ってるんですか? あなたは、今、真っ暗な世界にいるんですよ」
「問題ない。俺は俺の感覚を信じ、お前を倒す。それだけだ」
斧が持ち上がる音がする。
「なら、やってみてくださいよッ!」
「ああッ!」
ドラキーは素早くメニューウィンドゥを開き、スキルを発動させた。
完全に持ち上がった斧。
スキルを発動させ、長剣が走る。
「オオオオオォォォッ!」
綺麗なライトエフェクトが刃を包み込む。
斧は振り下ろされていた。
斧と二対の長剣が激突する。
金属音が響き、武器が自動的に次の攻撃へと移った。
「アッパー・ブレイズッ!」
斧が降り上がる。
目の見えないドラキーは今、どこに斧の刃があるか、なんとなくわかっていた。
ドラキーは連続スキルを選択し、ミトの攻撃に備えている。
キン、キン、キンとまるで鍛冶屋の剣を鍛えるかのような音が響く。
だが、四度目の衝突で、ミトはあることに気がついていた。
それは。
「た、太刀筋が速くなるだと!?」
ドラキーの太刀筋が、一太刀ごとに素早くなっていく。
四度目には、ミトはドラキーの攻撃を回避していた。
だが、負けじとアッパー・ブレイズの連続攻撃を続ける。
「僕がッ! あなたを倒すッ!」
「俺がお前を倒すッ!」
度重なる金属音。
そして、その時は訪れた。
アッパー・ブレイズの七連続攻撃の最終攻撃。
連続攻撃のフィニッシュは、大抵が大ダメージを与えるものだ。
これが終われば、アッパー・ブレイズを途中中断させた先ほどとは違い、多大なる硬直時間を与えられる。
だが、これで決められなければ、速すぎる剣捌きの餌食となるだけだ。
ミトは渾身の力を込めて叫ぶ。
「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
最後の突き上げ攻撃。
だが、ミトの前から相手のドラキーは消えた。
空振りするミト。
その背後に、ドラキーは現れた。
「奇遇だな。俺もフィニッシュだ」
攻撃は終了だ。
ミトは硬直し、背後にいるドラキーから逃れることができない。
「教えてやる。人を殺してまで、する行為は誰かを幸せにはできない。きっと、お前の母親とやらも、その大金の出処を聞いたら、あまり嬉しくはない筈だ。ゲームの世界で、全員をぶちのめした。俺なら、そんな話を聞いたら、その場では喜ぶかもしれないが、後でそのゲームを二度とやらせない」
「……なんでだい?」
ミトは最後に聞いた。
「それは、お前達が誰かを倒したことによって、誰かが不幸になるからだ。中傷などといった話は珍しくない。トップっていうのは、いつの時代も叩かれるものだ」
最後にミトは笑う。
「そうかい、ありがとう」
「行くぞ」
その会話は本当に交わされたのか。それとも意思疎通だったのか。一秒間の出来事だった。
時間が止まったかのように、二人は最後の会話を交わしていたのだ。
そして、ミトに罰の剣が下る。
「セブン・ストラッシュ」
その時、ドラキーの二対の長剣は、ミトの心臓部を貫いた。
後方から貫き、ミトの前へと抜ける。
ドラキーは振り返らずに言った。
「お前達が間違えたこと。それは、俺の恩人を殺し、俺を怒らせたことだ」
言葉を終えると、ミトの身体は爆発して消え去る。
最後にドラキーが見たミトの顔は、笑っているような気がした。




