表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/23

20

「ちょっと! 離しなさい!」


 ドラタが逃げろと言ってからすぐ、アリアはメルルを抱きかかえて逃げていた。

 荒れる街の中を駆け抜け、アリアは目的地である避難所を目指している。

 その途中、メルルが文句を言っていたのだが、アリアの頭の中にはドラタのことしかなかった。

 彼が何故、竜を殺そうとしているのかは謎だ。だが、彼なりの理由があるのだろうと感じている。


「ドラキー……」


 名を呼び、彼の健闘を祈るばかりだ。

 きっと、あのハンターはかなり強い。ドラキーはアリアを巻き込むのは嫌だから逃がしたのだろう。

 またしても、自分の弱さが人に迷惑をかけていると感じた。


「はぁ……。あなた、なんで泣いてるの?」

「え?」


 アリアは気がつけば、涙を溢している。ポロポロと、大地に降り注ぐ雪のように流れていた。

 メルルを降ろし、急いで涙を拭く。


「な、泣いてなどいないぞ!」

「…………」


 涙を拭いても、溢れてくる。無理に笑顔を作っても、アリアの涙は止まらない。

そんなアリアを半目で見つめ、メルルは溜息を吐いた。


「……私様には、あなたが何故泣いてるのかなど、わかりませんが、きっと私様と同じ気持ちなのでしょう?」

「え?」


 神妙な面持ちだったメルルはアリアに微笑む。


「安心してください。私様はホワイト・バハムート。あなた達の生活を守る使命を持った神に近しき生物。悔し涙にしろ、悲し涙にしろ、人々の笑顔を守るのが私様の仕事ですわ」

「メルル……様……」


 アリアはいつの間にか、両膝を着いてメルルを見上げていた。

 まな板のような胸を自ら叩き、メルルは断言する。


「私様達はアレクストゥに住む者達を、守る使命がありますわ。もちろん、それは私様のペットであるあの男にも、私様と同じ使命がありますわ。だから、ここは私様とあの男を信じてもらえませんか?」

「だ、だが、ドラキーはメルル様を連れて逃げろと!」


 ドラキーは確かにメルルを連れて逃げろと言ったのだ。だから、ここまでアリアはメルルを連れて逃げてきた。

 だが、アリアの発言に対して、メルルはクスリと笑い、答える。


「まさか、あなたは私様とあの男、どっちの命令の方が大事かわかっていますわよね?」

「え、あっ……」


 アリアの首筋に手をあて、囁くメルル。

 その言葉はまるで脅しているかのようだ。

 アリアは首を縦に振る。


「わかればよろしい。では、戻りましょうか。そろそろあの男もボロ雑巾になっているでしょうし」


 メルルの視線の先。

 そこには、無数の爆撃があった。

 ドラキーことドラタと、ダブル・アーツの戦闘が過激化していることが予想できる。

 アリアとメルルは来た道を戻り始めた。




 ◆




「―――――――――俺は負けたのか?」


 暗くなる画面。いや、視界とも言うべきか。

 ライフゲージやスキルゲージが左上に存在しているが、ライフゲージは空でスキルゲージは残り一割を残している。

 完全なる敗北を前に、ドラタは笑った。

 いや、そもそも笑うことができるのだろうか。

 今、肉体はない。


「……あなた、諦めるの?」


 メルルの声が響いた。

 この女はいつも、絶妙なタイミングで声をかけてくる。

 いつまで経っても鬱陶しい女だ。


「死んだんだ。これ以上何をしろって言うんだ」

「バカね。死んだのは、竜殺しとしてのあなたでしょ?」

「はぁ?」


 ドラタは首を傾げて見た。

 だが、身体を扱っている感触はない。


「あなたは私様のペット。竜殺しの人間が、私様のペットな筈ないわよね」

「何が言いたい」

「あなたは、あなた。竜殺しをいい加減に卒業して、私様の正統なペットになりなさいと言っているのよ」

「正統なペット?」


 正統なペットとは何なのだろうか。

 ドラタは相変わらずのメルルに溜息を吐きたくなった。


「正統なペット。つまり、それは真の竜騎士になることよ。今までのあなた、いやあなた達は竜が成長するまで見守り、竜が成竜となれば、晴れて竜騎士は卒業できるの。でも真の竜騎士は違うわ」

「何が違う」

「真の竜騎士は、主に全てを尽くすと契約することよ。もちろん、私様の力を使うこともできるし、あなたの力を私様も使うことができる。そして、永遠にあなたは私様のペットとなるの」

「最悪だな」


 そんなの絶対に嫌だと思ったドラタ。


「では、生きることも諦めるの?」

「……何が言いたいんだ」

「私様と契約すれば、私様の生命力を半分だけ譲渡することができるわ。そうすれば、あなたの望みは潰えないわ。ゴルドスの為、アリアの為、街の為、そして妹の為に、まだ諦めるのは早くないかしら」


 妹の言葉にドラタは反応した。


「な、なんで、お前が瑠奈の事を……!」

「今、あなたに聞いていないわ。今聞いてるのは、諦めるか、諦めないか」


 そのとき、ドラタは即答する。


「諦めるわけねぇーだろ!」

「ふふ、そういうと思ったわ」


 微笑んだメルルの声が響いた。

 その瞬間、ドラタの空だったライフゲージは半分まで上昇し、スキルゲージも六割になるまで回復する。

 視界が晴れた。

 そこには、メルルとアリアの後ろ姿が。

 ドラタは立ち上がった。


「……まさか、一生奴隷にするとか言うなよ?」


 手元には槍ではなく、一本でも重い長剣が両手に一つずつ。

 格好は、さっきと比べると随分脆い。

 だが、さっきよりも力は湧いてくる。


「奴隷で済めばいいわね」

「冗談じゃないって」


 ドラタ――――――――いやドラキーは立ち上がった。

 アリアが道を開け、ドラキーとメルルは立ち並んだ。

 その先には、ダブル・アーツの二人がいる。


「まさか、本当にあんたがドラタだったとはね」

「だから何だ。俺は俺だ」

「弱い装備をしてたって、手加減はしないから」


 弓を構えるミナ。


「正直驚いたよ。だけど、あんたを殺せば、僕達は正真正銘の竜殺しだ。一撃で仕留める」


 光の矢を構えたミト。

 勝負は一発で決めると言っているのだろう。

 ドラタはニヤリと笑い、剣を二人に向けて構える。


「やれるもんならやってみろ。さっきの俺は強かった。だけど、今の俺達はもっと強い!」

「行くわよ、ドラキー。私様達の力を見せてあげるわよ! リンク・ゾーンッ!」


 高らかに叫んだメルル。

 そのとき、ドラキーとメルルの身体を青い光が包み込む。

 ドラキー、メルルのライフゲージは、枠を超えた。

 スキルゲージは無限モード。

 そして、新たなスキルがドラタに追加された。


「……なんなの、その光はァァァァッ!」


 そのとき、ドラキーとメルルに向かって矢が放たれる。

 光線の如く走る太い矢。

 続き、ミトも矢を放った。


「避けろ! ドラキーッ!」


 アリアの叫び声が響く。

 その瞬間に爆音が轟いた。

 砂煙が舞い、ドラキーとメルルの姿は消えかのようにも見える。

 ドラキーとメルルは殺された。一瞬、そう考えたアリアだったが、二人は煙の中から現れる。


「く、来るなァァァァァッ!」


 ミナとミトの二人はスキルを放ったおかげで、硬直していた。

 ミナが絶叫し、ミトは混乱している。

 多分、ドラキーとメルルが無傷なのか原因不明だからだろう。

 駆けるドラキーは腹を締め、宙に浮いた。


「ダブル・アーツッ! 俺はお前達を許しはしないッ! これは、俺を何回も瀕死に追い込んだ分だッ!」


 ドラキーの剣はミナの身体を斜めに斬り裂く。

 血がデータとなって飛び散る。

 ミナの身体は仰け反り、今にも倒れそうだ。


「これは、副団長を悲しませた分だ!」


 続き、ドラキーはミナの心臓を貫く。

 ミナは血を吐くかの如く噎せた。

 活動において、重要なコア部分である心臓は、プレイヤーとしてのミナには痛いほど、大きいダメージだ。

 震える両手で、胸に刺さった刃を握る。

 弓が落ち、カランカランと音がした。

 ゆっくりと顔を上げ、ミナは鬼のような形相でドラキーを睨んだ。


「……あ、あんた、私のコアを……ッ!」

「まだ、終わってないぞ」


 ドラキーが呟くと、刃が青く光る。

 全身の光が刃に収束された。

 その時、ドラキーは叫んだ。


「マグナブル・ブレイカーッ!」


 一本の刀から、巨大光線が放たれる。

 すぐ後方にいた硬直中のミトの身体を真っ正面から穿つ。


「かッはッ!?」


 光が保存樹木の如く太く、勢いはレーザーにも負けない。

 徐々に範囲を増して行くスキル。

 ゼロ距離から受けたミナの身体は徐々に消え去って行く。


「これが、恩人のゴルドスの仇だ」

「お、ぼえて……な、さいっ」


 ミナの身体はデータの藻屑となり、宙に消えた。


「ぼ、僕がまだ残っているッ!」


 硬直時間が解け、まだ動けるミトが弓矢を構える。

 その瞬間、メルルが掌を掲げた。


「あなたの敗北よ、ハンター」

「黙れッ!」


 メルルとミト、同時に攻撃が放たれる。


「メガ・フレアッ!」


 まるで車同時を擦らせたような轟音が響く。

 だが、威力はメルルの方が上だ。

 苦痛の表情を浮かべるミト。


「諦めなさい。あなたでは、竜の王である覇王の、さらに格上の私様には勝てなくてよ」

「黙れ黙れ黙れッ! 僕は……僕は、ハンターの頂点に立つと、ミナと約束したんだァァァァァッ!」

「な!?」


 その時、最後の気力を絞ったのか、メガ・フレアをミトが押し返した。

 相殺される二人の攻撃。

 技の激突が終わり、ドラキーが二人の間に立つ。


「頂点? お前の頂点は人を殺すことでなれる、安っぽい夢なのか?」


 間に入ったドラキーはミトに問いかけた。


「ああ。約束したんだ! 僕達は、母さんを助ける為に、キル・ドラゴン・オンラインで頂点に立ち、プレイヤー・キリリング・カップで優勝して、治療費を稼ぐんだッ!」


 プレイヤー・キリリング・カップ。それは、年に一度開かれるプレイヤー同士の熱い戦いの大会だ。

 ミトとミナ。二人がドラタを倒すことにこだわっていたのは、そこだった。

 その大会では、優勝者と一般人をかけ離す為に、優勝者に賞金約1000万円ほど与え、課金最強プレイヤーへと昇格させる狙いがある。

 親の為に、ミトとミナはダブル・アーツとなり、この竜を殺す戦いに参加していたのだ。

 全てを理解したドラキーは、首を頷かせた。


「なるほど。そりゃあ立派な夢だ」

「死んでくれるのか?」

「生憎だが、見ず知らずの母親の為に死んでやる道理はない。俺は、この世界で生きている。お前らはゲームだと思っているかもしれないが、俺達は事情があって、この世界での死亡は、現実世界での死を意味するプレイヤーとなった」


 ドラキーは刀を構える。


「そして、最初からこの世界で生まれた者達もいる。それはお前達が殺したゴルドスや、ここにいるアリアやメルルもそうだ。俺はこの世界にいる人、全員を救いたい。妹も俺と同じプレイヤーだ。俺が死ねば、お前の大事な母親は救えるかもしれない。だが、俺が死ねば俺の妹がどこかで野垂れ死ぬかもしれない。だから、俺は死ねない」


 ふぅと溜息を吐き、ドラキーはミトを睨みつけた。

 ミトも冷静に戻り、ドラキーを睨みつける。


「……決着をつけるしかないんですね」

「そうだ。お前が俺を殺して、お前の母親が救えるのか。それとも、俺がお前を倒して、俺はこの世界で生き永らえるのか。これは、戦って決めるしかない。そうだろ? お前だって俺達を逃すほど、お人好しではないだろう」

「ええ。そうです。ミナが倒された今、僕は姉の仇も一緒に、そして母親の為に戦うしかない」

「なら、始めよう」


 お互いの足が地面を蹴った。


「「終わりの始まりをッ!」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ