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01

 目が覚めた。

 だが、その景色に見覚えはない。

 茶色のレンガで積まれた、中世ヨーロッパをイメージさせる街。トッププレイーだったドラタですら見たことのない場所だった。

 ポータルゲートと呼ばれるワープできる地点をコンプリートしているのにも関わらず、ここは知らない。ということは、新たな街なのか。いや、それともネットワークの回線が切れたのか。ドラタは考え込んでいた。

 そんなドラタの思考を読み取ったかのように、何度開いたかわからない仮想モニターが浮かび上がる。


「ん?」


 プレイヤーのメニュー画面。スキルを習得するときや、レベルが上がったときのボーナスを振り分ける画面だ。

 ということは、ここはまだ仮想の世界。そう考えるのが一番早かった。

 起き上がると、そこにはドラタ以外の人も何人か倒れている。

 異様な光景だったが、気がつくとそこに倒れている人たちは無装備だった。そして、ドラタも自分を見ると初期装備の服しかきていないのだ。

 アイテム欄を開いて見ても、防具や装備の類は見当たらない。つまり、ドラタはアイテムを全てなくしてしまったのだ。


「これは……」


 アイテム、ついでにスキルスロット、レベル、ボーナス、全てが消えていた。

 これはショックだ。長年かけて集めてきた装備が消えるのは、ベテランプレイヤーならば発狂するほどのキツさである。


「くぁ……」


 項垂れるドラタ。

 空は茜色の夕日が立ち上っている。

 明け暮れていると、一人のプレイヤーが立ち上がった。


「う、う……ん?」


 起き上がったのは中年男性。といっても、腹は出ていないし、顔もそこそこいい。考えるに、まぁ御三家と言われているドラタがいると驚くだろうな、と考えていた。


「……ここは、どこなんだ? あんたは誰なんだ?」


 記憶喪失なのか、男はドラタを見て場所も見て、何もわからないようだ。ドラタはとりあえず、トッププレイヤーの貫禄を見せつけるかの如く、親切に説明した。


「……おかしいなぁ、俺ぁ覇王の素材を剥ぎ取っていた筈なんだが……」

「覇王!?」


 一通り説明した後、男は何食わぬ顔をして覇王との戦闘を話し始める。


「ああ、あんた知らないのか? ドラタっていう槍投げ専門の最強ソロプレイヤーがいることを!」

「それ、俺のことなんだけど」

「はぁ? 何を言ってるんだ! ドラタは赤髪ウルフの渋い男だぜ? お前ぇみたいな、ひょろひょろの兄ちゃんじゃないぜ!」

「ちょっと待て! ひょろひょろだと!? 俺のどこが……」


 ドラタは自身の身体を見つめた。

 白い肌、服を開いてガリマッチョな身体。黒い天然パーマのような毛ざわり。

 鏡はない。けど、触っただけでわかる。これは、ドラタではなくドラタを操るプレイヤーの見た目だ。


「そんな、バカなぁ……」

「まぁ兄ちゃんがドラタだったら、俺ぁ泣いて土下座するけどなぁ」


 豪快に笑う男。

 これでは、ドラタを名乗っても信じてもらうほうが無理だ。

 儚いが、ドラタはドラタと名乗るのをやめることにした笑


「で、兄ちゃんは誰なんだ?」


 うーんと考えると逆に怪しまれる。

 ドラタは一先ず、プレイヤー名も表示されてないから、名乗るなら……。


「ドラキーだ」

「ドラキー? なんだそりゃ。ドラ⚪︎エのモンスターみたいな名前だなぁ」


 ネーミングセンスのないドラタは、まぁ覚えやすいだろうと思い、バカにされたことは気にしていなかった。


「俺ぁセカンドサブコマンダーだ」

「充分変な名前だな」

「うるせぇ! ……まぁよろしく頼むわ」

「ああ」


 そんならわけでセカンドサブコマンダーと知り合いになったのだが、名前が長いので、サブコと呼ぶおうとドラキーは決意する。


「で、ドラキーっていうのは本当なんだろうな?」

「ああ、俺はドラタの弟子なんだ」

「マジか!? ドラタはずっとソロプレイの筈だが、弟子なんていたのか?」

「あ、ああ……。本当は内緒にしてほしいんだが、ドラタとはリアルの方で友達でな。実際はいい奴だよ」

「そうなのかー。歩く伝説がどういう人なのか、知りてぇなー」


 目の前にいるんだがな。と思いつつも、ドラキーは自分のことを美化してしまったことに少し後悔する。


「で、ドラキー。お前も覇王の素材を剥ぎ取ってたんだろ?」

「……あ、ああ。だが、手元にそれがないんだよなぁ」

「え、手元にないのか!? それは残念だったなぁ」


 お前も自分のアイテム欄を見てみろと言いたくなった。それに装備は皆、初期のままだ。多分、サブコも使っていた装備はない筈。


「……それよりドラキー。なんでみんな眠ってるんだ?」

「……わからない。俺も師匠が覇王を倒して、素材を剥ぎ取っていた筈なんだが……」


 ドラキーは素材をとっていなかった。覇王の死体に群がるのが嫌だったからというのも理由の一つだが、最初に倒してどんなアイテムが多くて、どんなアイテムがレアなのかを調べたかったというのもある。だが、それは既に叶わない。

 見知らないステージに飛ばされた以上は、新たに探索をする必要もある。


 それから徐々に人が起きだし、ドラキーとサブコは全員が起き上がるのを待った。

 横たわっているプレイヤー全員が起き上がり、サブコと同じような疑問を抱き、聞いてくる者が多い。

 そんな中で、起き上がったプレイヤーは皆共通点があった。それは誰も知り合いがいないということと、サブコも後になってから気がついたのだがアイテムが一つもないということ。さらにはレベルもスキルも空っぽだということだ。


「これって、バグか?」

「いや、わからない。けど、何か嫌な感じはするな」

「お前って中二病なの?」

「失礼だな」


 サブコとは全員が起き上がる中、会話をしていたのでだいぶ仲良くなった。


「それよか、探索しようせ。これでも俺ぁ斧使いの盗賊だったんだぜ?」

「探索スキルもないだろ」

「いいんだよ。隅から隅までこの場所を調べればな!」


 いつの間にかサブコは、このステージを探り出したくてウズウズしていたらしい。

 しかし、ドラキーにそんな余裕などなかった。このステージには覇王を討伐したときにいたプレイヤーの四分の一くらいいる。だが、他の三分の二は存在していないのだ。

 ドラキーの実の妹も、同じように覇王の素材を剥ぎ取っていたにも関わらず、ここにはいない。気になるのはやはり、妹の行方だった。

 そんな中、この広場の中央にモニターが表示される。


『……全員起キタカ』


 その声は変なノイズがかかり、尚且つ気味の悪い声だった。

 多くのプレイヤーが黙り、そのモニターに注目する。


「なんだありゃ……」

「わからない。でも悪い予感っていうのは当たるのかもしれない」


 ドラキーはモニターを見据えた。

 真っ黒な画面からするのは声だけだ。


『貴様ラハ、何故連レテ来ラレタカワカルカ』


 その疑問に応える者はいない。


『ソレハ、貴様ラニ我等ノ痛ミヲ知ッテモラウ為ダ』


 我等の痛みと言われても、ドラキーには誰の痛みなのかさっぱりわからなかった。


『貴様ラニハ、コレカラ我等ヲ多ク狩リ過ギタ代償トシテ、ココ竜ノ世界ヨリ、竜騎士トシテ、人間ト戦ッテモラウ』


 響く声に、誰かが叫んだ。


「仲間同士で戦えってゲームなのか!? ふざけんじゃねぇよ! 俺は普通に遊びたいだけなんだよ!」

『フム。ナラバ即刻退場シテモラッテモ構ワナイ。――――デキルノナラナ』

「あ?」


 その時、ドラキーの背筋が凍りついた。

 すぐにメニューウィンドゥを開き、ログアウトボタンを探す。

 大丈夫。そんな漫画みたいな話……。そう思いながらドラキーは探った。

 だが、あるべき場所にログアウトボタンはない。


「……まさか!?」

『ワカッタカ。コレハ遊ビデハナイ。我等ノ悲願ナノダ。一度死ネバ、貴様等ノ意志ハ永遠ニ電子世界ニ囚ワレタママ、元ノ世界ニ帰ルコトハ出来ナイ』


 膝をつく者、茫然とする者、頭を掻き毟る者。

 それぞれが多くの絶望を見せる。

 そんな中、ドラキーが問う。


「……じゃあ、どうすれば帰れる」


 強く、どこか敵を嬲り殺しそうな強い意志を秘めた視線だ。

 モニター越しの何かは、ふっと笑った。


『……解放ノ条件ハタダ一ツ。竜ヲヨリ討伐シタ者ヲ殺スノダ』

「誰のことだ」


 自分でもわかっていながら聞いている。

 竜をより多く討伐した者。それは槍投げ神騎士のドラタ。双剣バトルマスターのエンツォ。双弓騎士のダブル・アーツ。この三人が竜殺し御三家と呼ばれているプレイヤーだ。

 生唾を飲み込みながら、ドラタはモニターを睨む。


『マズ、一人。ダブル・アーツ。二人目。エンツォ。三人目。ドラタ。コノ三名ダ』


 ドラタは、やはり、と思った。のどは異常に乾き、手から汗が噴き出る。

 つまり、このデスゲームはドラキーいや、ドラタ自身が死ななければ終わらない。

 最悪のゲームだ。


「おいおい! その三人と戦うって、あいつらは不定期にしか現れないぞ!」


 サブコが怒りながら叫ぶ。


『問題ナイ。貴様等ガレベルヲ上ゲルノニハ、必ズ奴ラハンター(・・・・)ト出会ワナケレバ、レベルモ上ガラナイ』

「そういうことか。つまり、俺らは竜を守る騎士ってわけか。狩りゲーから一転守りげーか。それに一度でも死んだらゲームオーバー。クソゲーもクソゲーだな」


 強く言葉をぶつけるサブコ。さすがに、怒ったのかモニター越しの何かは姿を現した。

 モニターが光の欠片となって砕け散る。

 上空を舞う、翼の生えた竜。

 それは、ドラキーや他のプレイヤーもここに来る前に見た者の姿だった。

 唖然とするプレイヤーに彼は言葉を投げる。


『我ハ、天空ノ支配者。覇王(バハムート)。言葉ヲ選べ、人間ドモ』


 上空に停滞する覇王に、全員固まらずにはいられなかった。

 圧倒的な姿。それに、もしこの覇王が攻撃を開始すれば、ドラタだったドラキーですらも即死だ。

 機嫌を悪くすれば、死ぬのはこっちである。


『貴様ラニ一ツ助言ヲ下ソウ。我ヲ倒セバ、ソレデモゲームハ終ワル。ダガ、ソウスル場合、我モ本気デ貴様等ヲ殺シニカカルゾ』


 覇王がドラキー達を睨みつけた後、翼を広げた。

 すると、全プレイヤーの元に光の玉が現れる。


『貴様等ニハ竜騎士トシテ生キテモラウ。ソノ為ニハ、主人トナル竜ヲ授ケテヤロウ』


 光の玉が殻を割ったかのように消えると、そこから手乗りサイズの小さな竜が現れた。

 ドラキーのところには、白い竜がいた。他にも色は多種多様だが、赤が多い。


『貴様等ノ主トナル竜ダ。ソノ竜ガ死ネバ、貴様等ノ命モ消エル。以上ダ。御三家ナドト呼バレテイル者ガ死スル姿ガ見レルノヲ楽シミニシテイル』


 覇王の姿は消え、全プレイヤーは途方に暮れた。

 最後、覇王はドラキーのことを睨みつけていたのだ。

 だが、それ以前に彼らは史上最悪な世界に巻き込まれているのだと、気づいていなかった。

竜のいる世界、ルール。

・ライフがゼロになれば、死亡し意識は電子世界に飲み込まれる。

・主である竜が死ねば、プレイヤーも自動的に死亡。

・御三家と呼ばれる竜殺しのプレイヤーの討伐で、現実に戻れる。

・覇王を倒しても元に戻れる。

・レベル・アイテム・スキル・ジョブはすべて初期から。


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