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15

「しっかりしなさい」


 瞼の向こう側で誰かが叫んだ。

 落ち行くドラキーは、誰の声なのかわからなかった。だけど、何故か、その声が力を与えてくれるものだと知っている。

 ドラキーはライフゲージを見やると、さっきまでレッドゾーンだったライフは全快していた。

 上手く着地し、ドラキーは全身を覆う白い光に目を疑う。


「リンク・…………アーツ?」


 独り言を呟いたドラキー。

 その光とライフゲージの回復はリンク・アーツだ。しかし、厳密には違う。

 視界の左隅に映るライフゲージやスキルゲージすらも光に包まれ、壊れた筈の刀までもが復活していた。

 この現象にドラキーは心覚えが一つだけある。

 以前、イベントでランク戦というのをやった時、ドラキーが一位になった景品で、英雄の丸薬というのを貰った。試しに使って見たところ、そのアイテムは、今みたいな現象が起こり、全ステータスを倍増させ、スキルもライフも減らなかったのだ。

 欠点は持続時間が一分ということ。

 ドラキーは二刀を構え、深呼吸をした。


「……同じ効果なら、持続時間は一分。それまでは、狂人的な力を得られる……」


 完全にドラキーを倒したと勘違いした鋼魔人を睨みつける。

 背中を向け、すぐ近くにある中心部へと進もうとしていた。

 正しいリミットは残り五十五秒。

 中心部まであと、数歩だ。


「ん?」


 ドラキーは異変に気がついた。

 ストリング・アクセルが、竜の加護に。スプリット・エストールがドラゴン・クロウに名前が変わっていたのだ。

 この現象を誰が呼び起こしたのか、ドラキーは理解した。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 今は、鋼魔人を倒すことが先だ。


「竜の加護ッ!」


 全身を覆う赤い光。

 まるで自分が竜にでもなったかのような気分だ。

 そして、スキルを刃に纏わせる。


「ドラゴン・クロウ」


 同じく赤い光が刃に灯った。

 ドラキーは刀を構えて走る。


「うおおおぉぉぉぉっ!」


 駆け上がり、跳躍するドラキー。

 二刀を振りかぶり、鋼魔人を睨みつける。

 振り返った鋼魔人。

 だが遅い。

 ドラキーはまず右手の刀を振るった。

 少なくとも、ドラキーは頭部を狙っていたのだ。

 だが、狙いは外れ、鋼魔人の右腕を斬った。


「ブォォッ!?」


 叫びなど上げなかった鋼魔人が声を上げる。

 ドラキーの剣は、鋼魔人の右腕を斬り落とした。

 宙で回転しながら、落ちる鋼魔人の右腕。

 部位破壊。それだけで、多くの魔物のライフは一割から三割減る。

 通常は同じ場所を攻撃しなければならないが、今のドラキーは一撃でそれが可能だ。

 だが、まだドラキーの攻撃は終わっていない。

 スプリット・エストールのリンク・アーツ(?)強化版がドラゴン・クロウなのだ。スプリット・エストールは突き攻撃。今の斬り落とし攻撃は、スキルにインプットされていないのだ。

 つまり、ドラキーの本当の攻撃はここから。


「……行くぞ、鋼魔人!」


 ドラキーはドラゴン・クロウを放った。

 それは巨大な鋼魔人ですらも、目に見えぬ攻撃だ。

 一秒後には、ドラゴン・クロウは終えていた。

 身体に大砲でもぶち込まれたかのような穴を開け、鋼魔人は倒れる。

 大量の砂埃を上げ、遂にドラキーは仕留めたのだ。


「はぁ……はぁ……」


 ドラキーは息を整える。

 数時間に渡って苦戦した相手をこうも簡単に倒せるとは思わなかった。

 だが、結果オーライだ。

 息を整えたドラキーは、アリアと合流するために、中心部へと足を進めようとした。

 だが、その瞬間、アレクストゥの中心部にそびえる時計塔が真っ二つに斬れる。


「……ま、まさか」


 ドラキーは振り返った。

 そこには、瞳を光らせ起き上がる鋼魔人の姿。

 戦慄を覚えるドラキー。

 左腕のみで刀を握り、ドラキーを睨んだ。


「人間ニココマデ追イ込マレルノハ、初メテダ」


 喋り始める鋼魔人。

 その声音は覇王と似ている。

 そして、ドラキーと同じように全身を赤い光に包んでいた。


「お、お前……」

「我ヲ止メタノハ、大シタモノダ。我ノライフヲ、残リ一割ニシタ褒美ヲクレテヤロウ」


 刀を振り上げ、鋼魔人は叫んだ。


「グランド・スライサーァァァァァッッッッ!」


 刀が地面に叩き落とされる。

 地震などの生易しい揺れではない。

 まるで世界の終わりを予期させる激しい轟音に揺れ。

 ドラキーは立っていることさえも不可能となり、屈んだ。


「お前、まさかこの街を壊す為に現れたっていうのか!」

「当然ダ。我ラハ、竜ト敵対シテイルノダ。ソノタメニハ、貴様ラ竜騎士ヲ殺セバ早イト思ッタノダ」

「……なるほど」


 ドラキーは剣を握り締め、立ち上がる。

 揺れはない。


「この様子を見ても満足しないのか?」

「当然」

「ならハンターはどうでもいいのか」


 鋼魔人は答えた。


「ハンターナド、ドウデモイイ。我ノ目的ハ貴様ラヲ殺ス事ダ!」


 再び降ろされる刀。

 空を切り、再び大地に地震を発生させようとしている。

 ドラキーは跳躍し、鋼魔人の攻撃を避けた。

 地震が発生し、アレクストゥの地面は崩壊している。

 ドラゴン・クロウを発動し、ドラキーは赤い残像を刻む。


「お前達が殺そうとしているのは、真の人間だ。なんでハンターを殺そうとしないッ!」

「ハンターハ、仲間ダ! 我ノ敵デアル竜ヲ殺シテイル!」

「違う! 奴らにとっては、お前も同じ魔物なんだぞ!」

「関係ナイ! 我ノ悲願ヲ達成スルノナラバ!」


 鋼魔人の刀が光る。

 宙にいるドラキーに向かって振るう。


「この馬鹿野郎ッ!」


 ドラキーはドラゴン・クロウを放った。

 鋼魔人の刀と衝突し、衝撃波が生まれる。

 激しい武器と武器の衝突。

 通常ならば、ドラキーの武器が壊れるだろう。だが、今のドラキーは異質だ。

 鋼魔人がドラキーに押され、仰け反る。


「ニ、人間ノクセニッ!」


 仰け反った鋼魔人に、ドラキーは残りの四連撃を浴びせようと近づく。

 だが、鋼魔人はドラキーの攻撃を、後方に跳んで避けた。

 ドラキーの剣は目標を失い、スキルキャンセルが起きる。

 地面に着地し、ドラキーは鋼魔人を前に、内心で考えた。

 残り時間は、およそ二十秒もない。

 今のを回避したとなると、鋼魔人も通常時よりも強い、逆鱗状態だ。

 自らも語っていた通り、鋼魔人の死期は近い。

 スプリット・エストールことドラゴン・クロウでは最後の一押しが足らないとドラキーは考えた。

 そこで、ドラキーは経験値を開いて見る。

 経験値はキル・ドラゴン・オンラインとは違い、相手を攻撃した際に増える形式だ。

 ドラキーは次のレベルである17に到達することができる。

 レベルアップを済ませ、スキル欄を開いた。

 レベル17のドラキーは新たなスキルを習得するのに成功。

 ここまでかかった時間は、十秒。残り十秒だ。

 スキルセットを済ませ、ドラキーは鋼魔人に向かって走った。


「人間を舐めるな。俺達は必死に戦い、今を生き抜くのに必死なんだ」


 武器を構えると、二刀に赤い光が灯る。


「貴様ラ人間ニ、我ラノ痛ミナドワカルモノカ!」


 ドラキーは跳んだ。


「痛み? それはお前が竜にいじめられたとか、そんな軽いことか?」


 鋼魔人も身体を横に一回転させ、ここ一番の攻撃を繰り出そうとしている。

 しかし、ドラキーは攻撃をやめようとはしない。

 叫びながら、ドラキーはスキルを放った。


「お前が何をされたかなんて知らないし、俺達には関係ない。だけどなぁ、関係ない人間にまで、手を出すんじゃねぇッ!」


 ドラキーは習得したスキル、ブレイブ・アスタリスクを発動する。

 鋼魔人の渾身の一撃がドラキーに放たれた。

 ドラキーも二刀を振り下ろす。

 再び、ドラキーと鋼魔人を中心に衝撃波が生じる。

 まるで、突風と突風がぶつかり合ったかのような激しい音。

 ドラキーは奥歯を噛み締め、鋼魔人に抵抗する。


「うおおおぉぉぉぉッ!」


 鋼魔人の足が徐々に後方に押し出された。


「ニ、人間ノクセニ生意気ダッ!」


 だが、押し出されまいと鋼魔人も全力を出す。

 その覇気は、片腕を失っているとは思えないほど。

 ドラキーが今度は押し出される。


「く……そっ…………ッ!」


 ドラキーは目を閉じた。

 これ以上の力は出ない。

 最早、リミットは違いのだ。


 何を頑張る?


 人の為?


 違う。


 ドラキーは何の為に戦うのか、再認識した。

 ギルドに入ったのは、自分を強くする為。

 ギルドの命令に従うのは、それが自分を強くする近道だから。

 では何の為に強くなるのか。


 ――――それはこの世界にいる妹を探し出す為と、覇王を殺して元の世界に帰る為だ。

 ドラキーの耳に言葉が響いた。


「負けるなんて、私様に惨めな思いをさせないで」


 その声で、ドラキーは瞳を持ち上げる。

 誰の声だが知らないし、妙に人をバカにした言い方だったが、確かに元気になれた。

 ドラキーは吹き飛ばされそうになっていたが、叫びながら必死の抵抗を試みる。


「ハアアアアアァァァァァァッ!」


 力が入ったのか、ドラキーは押されなくなった。

 鋼魔人は驚き、叫んだ。


「貴様ノ何ガ、ソコマデ強クサセルノダッ!」


 ドラキーは全力で二刀を振るった。


「俺の為だ」


 鋼魔人のビルかと思うほどの厚い刀を斬り、更に鋼魔人の巨体を斬り裂く。

 ドラキーの刀が二振り終える。

 着地を済ませ、ドラキーは鋼魔人に背を向けたまま、呟いた。


「俺は、俺の為に竜を守り、俺の為だけに強くなる。全ては、妹を見つけ、覇王を倒す為に、俺は戦う」


 返答はない。

 ドラキーの言葉が終わると、鋼魔人の巨体を斬った場所から六つの斬撃が走る。

 鋼鉄の巨体は六つに散らばり、データの塵となった。

 ブレイブ・アスタリスク。そのスキルは、斬った対象物の内側に、斬撃の卵を仕掛け、数瞬後に六つの斬撃へと変わるスキル。さらに、このスキルが成功すると、力が二倍上がる。

 斬った対象を、六つに散らせること、攻撃力が上がるところから名前はつけられたらしい。


 ドラキーは身体が急に重くなるのを感じた。

 片膝を着き、息を整える。


「かはぁ……はぁはぁ……」


 ここまで苦戦したのは、恐らく初心者プレイヤーだった頃くらいだ。

 ドラキーは地面に寝転び、死闘を終えた喜びを噛み締めていた。

 メニューウィンドゥを開くと、イベントボス撃破ボーナスで、経験値はたんまり入り、アイテムや素材も腐るほど手に入る。

 ソロプレイでの討伐だったおかげで、報酬とかはザックリあるらしい。そこら辺はキル・ドラゴン・オンラインと変わりはないようだ。


「ふぅ…………」


 誰もいない荒れたアレクストゥに、ドラキーは大の字で転がる。

 久々に大物を倒した達成感を感じていた。


「……ちょっと」


 と、そんなところに何者かが話しかけてくる。

 白い長い髪に、白いワンピース。年は十二歳くらいか。顔はかなり整っている。

 ドラキーは上体だけ起き上がらせた。


「どうしたんだ?」

「……どうしたんだって、お礼とかないわけ」

「え? 俺と君は初対面だと思うけど……」


 いきなり不機嫌になり、ドラキーを睨みつける少女。

 お礼と言われても、何かされたわけでもないし、街を守ったのはドラキーだ。

 頭がおかしいのかとドラキーは一瞬考えてしまった。


「私様を誰だが忘れたと。まぁ無理もないわ。なんて言ったって、私様は特別ですからね」

「はぁ?」

「まぁ、これを見ればわかると思いますけど」


 少女が人差し指を立てると、意識を失ったアリアがゆっくりと落ちてくる。

 その姿を目にして、ドラキーは警戒心を一気に上げた。


「副団長に何をしたッ!」


 慌てて起き上がり、ドラキーは武器を構える。

 だが、そんなドラキーを前にしても、相手にならないと言わんばかりに溜息を吐き、口を開いた。


「とんだ馬鹿ね。まさか御主人様に野蛮な武器を向ける家臣がいるとは想像もしなかったわ」

「何言って…………」


 その瞬間、その少女の声が聞き覚えあるものだと思い出す。


「ま、まさか……」

「ペットのくせに生意気ね。私様はエルル・ホワイト・バハムート。馬鹿な凡人が勝手につけた名前を、メルル。最低な名前よね」

「じゃ、じゃあ、お前が……」


 メルルと名乗った少女は髪の毛を振り払い、腕組みをしながら笑う。


「そう、家臣であるあなたの、御主人様であるホワイト・バハムートよ」


 ドラキーは唖然としてしまった。

 まさか、自分が守っていた竜が人間の姿をしているのだから、混乱するのは当然だ。


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