12
ガラスが割れたかのように消えたハンターの男。
ドラキーとアリアは、何とか倒せた事により、大きな安堵の溜息を吐いた。
力が抜けたのか、二人して地面にしゃがみ込んだ。
「……なんとかなったな」
「ああ、これも全部お前のおかげだよ。ドラキー」
「ぴぃ」
「おっと、メルルー様もだな」
アリアはメルルーを様づけで呼び、可愛がっていた。
休息をしたいところだが、まだ問題は山積だ。
ドラキーは立ち上がり、遠方に目を向けた。
ここは熱帯雨林だった場所だ。しかし、今は木が斬り倒され、かつての熱帯雨林としての光景ではなくなっている。
鋼魔人が現在どこにいるのか不明なほど、離れてしまっているのだ。
ドラキーはアリアの手を引く。
「え?」
「副団長、早くしないと」
「あ、ああ。すまない……」
アリアはドラキーの手を握り、立ち上がった。
すると、アリアはモジモジしながら、ドラキーに言葉をかける。
「そ、その……、も、もし、この戦いが終わったら……しょ、食事でもしないか?」
「ぴ」
メルルーがアリアの顔を覗く。
ドラキーも、そんなの向かう途中でもいいだろうと思いながらも、話を聞くことにする。
「まぁ、別にいいけどさ。店につけとかするなよな?」
「と、当然だ! 馬鹿者!」
「なんで俺が馬鹿者呼ばわりされんだよ……」
何か話を聞いて損した気分のドラキーだった。
だが、すぐに切り替えて、ドラキーは走り出す。
「副団長、悪いが、今から話す事は冗談じゃないぞ」
「どうしたのだ」
ドラキーは息を一度呑み込み、アリアに言った。
「鋼魔人がアレクストゥの中心街に到達したら、街が爆発するように仕掛けられた」
「なッ!?」
「だから、急ぐぞ!」
ドラキーとアリア、それにメルルーはアレクストゥに戻る。
◇
アレクストゥ入り口を進行する鋼魔人。巨大を揺らし、街へと遂に入った。魔物だからか、無表情でアレクストゥに入りこむと、中心部に位置する塔へと歩みを進める。
昼時の住民達は逃げ惑い、鋼魔人の脅威を感じていた。
逃げながら転ぶ者、あまりの大きさに唖然とする者、その二種類の人間が存在する。だが、それはアレクストゥに元から住んでいる者たちのみ。
他に、違う行動を取る者もいた。
「さて、来るかな」
軍隊のように整列した弓を持つ者達。彼らは、時間が経つのを待っているようだ。だが、ただ待っているわけではなかった。彼らは弓を構え、いつでも攻撃体制に移行できるようにしている。しかし、街に侵入した今、攻撃する様子はない。
そして、鋼魔人は街へと侵入を済ませると、それまで一度しか攻撃しなかった筈の鋼魔人は攻撃を開始した。
巨大な刀を振り上げ、逃げ惑う人々に狙いを定める。
「ひ、ひぃっ! た、助けてくれェー!」
そして、鋼魔人は中年男性にめがけて刀を振り下ろした。
まるで、地震のような振動に、人々はさらに混乱する。
刀はアレクストゥの地面を割いた。
そして、先ほど助けを呼んだ男の姿は、肉塊へと変化を遂げる。
「い、いやぁ……」
鋼魔人が次に目をつけたのは、逃げ遅れた少女だった。
彼女は両手で、犬のぬいぐるみを抱き締め、鋼魔人をただ見ていることしかできないでいる。あまりの恐怖に、立ち尽くすことしかできない人間の一人だ。
巨体を持つ鋼魔人は容赦しない。
刀を地面から抜くと、再び刀を持ち上げ、少女に狙いを定めた。
「お、お母さんっ!」
悲痛なる叫び。だが、その近くに母親らしき人物はいない。
鋼魔人は無言で、刀を振り下ろした。
「何やってんだッ!」
刀が今まさに少女を肉塊へと変えようとした瞬間、黒髪の男が少女を抱きかかえながら、鋼魔人の狙いから大きく逸れる。
再び起こる地震。だが、黒髪の男、ドラキーは少女を抱きながら跳躍した為、地震による揺れは効かなかった。
地震が終わり、ドラキーは建物の屋根に着地する。
「このままじゃ危なかったぞ。ちゃんと逃げるんだ」
「お、お兄ちゃん……」
少女は恐怖から解放されたことに安堵し、ドラキーに抱きついた。
しかし、ドラキーはすぐにその抱擁を解いて、少女に言葉をかける。
「いいか。安全な場所なんてアレクストゥにはない。逃げるのなら、まだ街の外の方が安全だ。魔物は出るかもしれないが、街に残ってる大人に言えば、一緒に出てくれるかもしれない。できれば、逃げ遅れた人、皆に伝えてくれないか?」
ドラキーは必死に伝えようとした。過去、このゲームでは稀に超強力モンスターを出現させる時があったのだ。その時、大体魔物が目的とする場所に到着したときに、人間にも危害を加えることを知っていた。
外には魔物も出るが、それでも巨大モンスターほど危険な魔物はいないのだ。
少女はドラキーに向き、強く頷いた。
「わ、わかった」
「頼む」
それだけ伝え、ドラキーは少女を抱えながら、地面に降りる。
少女はドラキーの腕から離れると、振り返ることなく走り始めた。
「さて、ドラキー。勝算は?」
「……難しいな」
遅れてアリアが到着する。
鋼魔人は人間を探しているのか、キョロキョロと視線をあちこちに振り回す。
アリアには、人間の避難を促せた。ドラキーとアリアは街に向かう途中に、少女と同じように巨大モンスターから逃げる術を伝えたのだ。
その為、ドラキーが少女を助けている時に、アリアが避難させていた。
「だが、中心部に近づけば、それで終わりなのだろう?」
「ああ。他のギルドとかはいないのか」
アリアはドラキーから視線を逸らす。
「……アレクストゥは平和主義者の街でな。エンドブレイズの団長が、ギルドの作成、活動を禁止したんだ」
「なるほど。つまりは争いを好まない街なんだな」
となると、他のギルドの助けはない。
ハンター共もいたが、奴らはダブル・アーツ信者で、多分鋼魔人が中心部に到着し、街全体が爆発した頃に攻撃を開始するのだろう。
そして、鋼魔人を倒したら、ダブル・アーツも、さっきのリーダー格もアイテムを取りに来る筈だ。
なんとしても街の中心部への到達は避けたかった。
ドラキーはロングソードを握り締め、どうするかを考える。
相手は一振りでフィールド全体を斬るほど広範囲かつ高火力だ。以前のドラタですら相手になるかどうか疑問の募る相手。
それに体全体が鋼でできている。鉄では素材負けし、最悪武器は壊れるどころかダメージも与えられない。
メニューウィンドゥを開き、ドラキーはレベルアップ画面を見つめた。
「……どうする」
呟きながら、ドラキーは画面を眺める。
レベルは、自分の好きな時に上げられる自由制。だが、レベルを上げても追加ボーナスは得られない。経験値のシステムは、対人でも経験値が入るようになっている。そのおかげか、大体レベル15くらいにはなれるくらい経験値があるようだ。
しかし、問題はそれだけじゃない。
レベルアップしてしまうと、現在使用中の武器がメインスキルとなってしまうのだ。つまり、ソードスキルがドラキーの育てるべきスキルとなる。
槍投擲スキルを愛用していたドラキーは、なんとしても槍投擲スキルを使用したかった。
だが、ここまで来て、使うのももったいないが、そんなことも言ってられない。ドラキーはレベルアップを押そうとした。
「待て、ドラキー。ちょっとこれを持っててくれ」
「え?」
「いいから!」
「あ、ああ」
突然アリアは自分の剣をドラキーに渡し、どこかに走り出していたのだ。
何があるのだろうかと、思っているとアリアは色々な物を漁り出した。そこには、回復薬のビンや、研磨する石などがある。
そして、槍投擲に必要な、リバースランスも。
「ドラキー。これを使え!」
見つけたまでは良かった。
アリアはリバースランス、投げると攻撃とみなし、自動的に手元に帰ってくる武器の仕組みを知らなかったのだろう。ドラキーに投げつけた。
「ちょっ、危ない!」
「へ?」
ドスンとドラキーのすぐ横に突き刺さったリバースランス。
ドラキーは驚きのあまり、転んでいた。
「副団長、これの仕組み知らないのか?」
「あ、ああ、すまない。武器屋など滅多に行かないから……」
「そういう問題じゃねぇよ。これはリバースランスって言ってな、投げたら攻撃となって手元に帰ってくる武器なんだよ」
「そ、そうなのか! すまない」
「本当によ……。でも、これで俺も戦え……あれ?」
ドラキーがモニターを見ると、取り返しのつかないことになっていたのだ。
レベル、16。そこまではいい。むしろ予想よりもレベルが1高いのだから。
だが、問題はスキルだ。
「あんたのせいで、俺の槍投擲スキルを使える可能性が皆無になったじゃねぇか!」
「え、そ、それは……」
「どうしてくれんの!? 鋼魔人も倒せるかもしれなかったのに!」
「え、ちょ、そ、そ……んなに……ぐすっ、怒ること……ないだろ……ぐすっ」
「え」
あまりに怒って叫んだせいで、アリアが泣いてしまった。副団長とは名ばかりで、普段は凛としているのに、意外な一面もあるな、と思いながら半目で見る。
いつまでも責めても仕方ないのと、泣かれるとは思っていなかったので、ドラキーは新たな策を考えるしかないなと思い直した。
「悪かったよ、だから泣くな」
「……も、もう怒らない?」
「怒んねーよ」
はぁっと深く溜息を吐いて、立ち上がりアリアの頭をなでるドラキー。かなり気恥ずかしかったが、それで泣き止むアリアが可愛かったので良しとした。
アリアを宥め、ドラキーは画面を見てみる。
「ん……?」
そこには、今までドラキーが見たことのない主要武器スキルが記載されていた。
双剣ならば、人気スキルだ。だが、名称が遥かに違っていた。
『竜騎士二刀流』
説明を見てみると、通常の片手剣、両手剣、片手長剣、双剣のスキルを同時に扱うことができるとある。他に、竜騎士ジョブのスキル効果が2倍に上がったりするようだ。
しかし、ドラキーが驚いたのは万能さではない。この竜騎士二刀流スキルは、リンクしている竜の能力を扱うことができ、なおかつステータスを上乗せすることができる。
そして、このスキルは竜の魔力を扱うことによって、様々な専用スキルも存在しているのだ。
そして、一番下の欄にこのスキルの特別性が説明されていた。
それはユニークスキルだと。
「いけるかもしれない……」
ドラキーは生唾を飲み込み、鋼魔人に視線を送った。




