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シミュレーター

「今お前たちは、赤道上高度四百キロメートルの軌道にいる」

 ルイスとクイケンは六個あるシミュレーション・ブースの中の一つに座っていた。他の五個のブースは同期の新兵たちが使っている。全員で同じ教官の声を聞きながら同時進行で訓練を受けていた。

「前方に見える光点は敵宇宙船だ。お前たちと同じ軌道にいる」

 ルイスは、ヘルメットの内側に投影されたバーチャル・リアリティの宇宙の中で、地平線すれすれに見える光点へと視線を向けた。ヘルメット内の映像は首の動きと同期して変化するため、船体と自分の体が無くなり、頭だけが宇宙に浮かんでいるかのような錯覚を覚える。

「お前たちの軌道速度は、時速二万七千キロ。およそ一時間半で地球を一周するほどの猛スピードだ。しかし、敵機も同じ速度で動いているため相対的には止まって見える」

 ルイスが敵機を注視していると、コンピュータが自動で敵機までの距離と相対速度を計算しオーバーレイ表示した。

「座学で学んだようにレーザーにも射程が有る。S-2の場合、約ニ千五百キロが有効射程だ」

 視界に一時間のカウントダウンが表示された。

「それでは訓練を始めよう。こちらから指示は出さないから、現実の時間で一時間以内に敵宇宙船を撃墜しろ。最大で百二十倍までシミュレーション時間を加速することを許可する。適時使え」

 ルイスは音声の発信を艦内限定に切り替えた。

「じゃあ、減速かけるよ」

 クイケンは驚いた。

「敵は前方だぞ」

「この距離だと、減速をかけて軌道を変えなきゃ前に進めないんだ。まあ、口で説明するより見た方が早いよ。えーと、まず反転させてっと」

 ルイスは操縦桿を傾け、船を百八十度回転させた。軌道の進行方向に噴射口が向くと回転を止め、熱核ロケットを始動する。

 船は徐々にその速度を失い始めた。船に働いていた遠心力が減り、重力とのバランスが崩れる。船は重力に引かれて軌道を下げていった。

 仮想スクリーン上で近地点と周期を確認した後、ルイスは噴射を止めた。

「近地点が予定より少し下になったけど、高度二百キロは確保してるし大丈夫でしょ。三時間ほどで射程圏何に入るはずだから、今のうちに計算で確認しといて」

 光点との距離は徐々に縮まっていった。真円だった軌道は今や元の軌道に一点で内接する楕円に変化していた。

 その動きを見て、クイケンは船の挙動とルイスの意図を理解した。

「ああそうか、なるほど」

 重力に引かれて落下する間に、機体は位置エネルギーを運動エネルギーに変え、元よりスピードを得ていた。

「理屈では分かるが、不思議な気分だな。逆噴射したほうが加速するというのは」

 ルイスは以外そうな顔をした。

「大学で物理を学んだと聞いていたけど?」

「専攻は原子物理学だ。まあ、軌道工学も少しは習ったが、使わないと忘れるし、知識を知っていることと、実際に宇宙船を操縦するのじゃ違う。輸送機(カーゴ)運転してたお前みたいに、体で理解しているやつが羨ましいよ」

 船を再び百八十度回転させ、機首を進行方向に向けるころには、クイケンの計算も終わっていた。

「三時間半で射程圏内に入る。お前の言ったっとおりだな。射程圏内寸前まで時間を進めるぞ」

「おねがい」

 足元の地球が高速でニ回転し、彼我の距離は二千五百キロまで縮んだ。

「恐らく今回のシミュレーションで反撃は無いだろうが、念のため正規の手順で撃つぞ」

「任せるよ。砲手さん」

 S-2軌道制圧機のコパイロットは軌道計算などパイロットの補佐、索敵、レーザー砲操作および熱核ロケットのメンテナンスを担当する。

「赤外線センサーによる簡易ロック、およびレーザー・フィン回転制御プログラムセット完了。パイロットは離脱進路の確認を」

 ルイスの仮想スクリーンに、敵から反撃を受けた場合の回避運動、および敵の爆発でデブリがばらまかれた場合の回避経路が表示された。

「進路クリアを確認。ローリングによる回避運動も問題ないよ」

「攻撃までカウント開始」

 操縦席と副操縦席の間にある仮想スクリーンにカウントダウンが開始された。

 ルイスは機体をワイヤーフレーム表示で視界にオーバーレイさせた。振り返って、操縦席の後ろにある巨大なレーザー・フィンの状態を確認する。今レーザー・フィンは側面を船の正面に向けている。操縦席からは一本の細く長い線に見えた。

 発射十五秒前、発電機がフル稼働を始める。振動とコンピュータの合成した擬似動作音がブースを満たす。発射十秒前、レーザー・フィンが回転を始める。フィンは十秒かけて九十度回転していく。回転の反動はジャイロで相殺した。

 攻撃準備が整うとプログラムに従いレーザーが発射された。敵船はデブリを出すこともなく静かに機能を停止させた。

 シミュレーション・ブース内に教官の声が響いた。

「シミュレーションを終了する。直ちにブースを出て待機室に迎え。全員のシミュレーションが終了した後で話をする」

「イエス・サー!」

 二人は返事をした後、ブースを出た。更衣室でヘルメットと訓練用簡易宇宙服を脱ぎロッカーにしまった後、同じ建物内の待機室に向かう。

 待機室にはすでにシミュレーションを終えて待っているペアが居た。唯一の女性ペアであるトルスタヤ・バード・ペアだった。

 女性の姿を見て、クイケンは笑みを浮かべた。若干鼻の下を伸ばしつつ、パイロットのトルスタヤに話しかける。

「私達より早く、撃墜に成功したのは貴方がただけのようですね。よろしければ、後学のために、撃墜方法を伺ってもよろしいですか?」

 トルスタヤは笑顔で答えた。

「ええ、かまいませんよ。宇宙船に減速をかけて、楕円軌道に遷移。近地点で再度減速をかけて、元より低い円軌道に遷移。その状態で距離が縮まるのを待って、撃墜しました」

「なるほど。私達は楕円軌道で距離を縮めたので、その分遅れてしまったようですね」

 その後、宇宙船の操縦や過去の経歴に関して、お互いに情報を交換し合った。トルスタヤも宇宙船操縦経験があり、過去には軍の宇宙基地への補給を担当していた。今回のS-2パイロット募集で異動してきたらしい。

 しばらく二人で話していると、バードが突然口を開いた。

「トルスタヤ、そろそろシミュレーション開始から一時間経つわ。教官も来るだろうから、雑談は止めにしたほうがいいわ」

「あらそうね。ありがとう、バード」

 トルスタヤがそう答えた時、ちょうど教官と他のペアたちの足音が聞こえた。クイケンは名残惜しそうに、トルスタヤから離れた。

「整列!」

 教官の掛け声により、六ペア、十二人の兵士が二行六列で並んだ。

「クラメール!」

「イエス・サー!」

 教官に呼ばれ、パイロットのクラメールは一歩前に出た。

「今回、お前たちのチームは時間以内に撃墜できなかったな。その理由は何だ?」

「戦闘機と同じ感覚で操縦してしまったためです。噴射方向と移動方向の対応が理解できず、軌道をさまよってしまいました」

「的確な分析だ。よし、戻れ」

「イエス・サー!」

 クラメールは元の位置に戻った。

「同じような経験をしたのはクラメールだけではないだろう。地上でパイロットをしていたものは、これまでの感覚を一旦捨てろ。今回、座学で学んできたことを身を持って体感し、飛行機やヘリコプターでの常識が通用しないことがよく分かったはずだ。今日の訓練はこれで終わりとする。各自明日までに訓練の反省点をレポートにまとめておくこと。解散!」

「イエス・サー!」

 全員が声を合わせて敬礼をした。宇宙船内の環境を想定しているため、宇宙軍の敬礼は窮屈な海軍式だった。


2014/05/14 全体的な文章表現の見直しと修正

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