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第7話:誓約

 疾風が意識を取り戻すとそこは今までいた倉ではなかった。

 そこは、たくさんの木々が生い茂る森。そしてその森の奥には平屋作りの神社に似た建物が建っていた。

 「・・・・・・何だここ」

 疾風は警戒しながら、その建物へと近づいていった。

 そしてその建物の入口であるだろう、階段が見渡せる場所まで行くとそこに一人の青年が座っているのが見えた。

 その青年の髪の色は茶色。背の半ばであるだろう長髪を後ろで無造作に結んでいる。顔は、まず美青年と言っていいだろう。そして格好はというと薄緑色の着物を着ている。だいぶ、崩しているが。

 その青年の向かいまで行くとそれまで閉ざしていた瞳が開けられた。その瞳は鮮やかな緑。

 「よぉ!何だ、今回の主はまたずいぶんと小僧だな」

 男は、腕を組み疾風を上から下まで眺めるとおもしろそうな声を上げる。

 「はぁ?何だよ、おっさん。失礼なこと言うな!」

 「おっさんはねぇだろ?小僧は年上を敬えとは親から教わらなかったか?」

 「おっさんは、おっさんだろ。それに名を名乗らない相手に尽くす礼儀はない」

 「おお、そうだったな。俺の名は、(かおるだ。で、お前は?」

 「・・・・・・・疾風」

 疾風が名乗ると嬉しそうな顔をしながら男は立ち上がり、疾風に近づいてくる。

 (げっ!でかい・・・・・・・)

 自分より20センチは背が高いだろう男を見上げ、疾風は知らず知らずの内にあとずさる。

 薫は、疾風の前に来ると疾風の顔を覗き込み、顎を片手で触りながら、一方の手で頭をポンポンと叩く。

 「やめろ!俺はガキじゃねぇ!」

 「おお、すまん、すまん」

 薫は、笑いながら頭から手をどける。

 「そんなに警戒するなって」

 「・・・・・・ここはどこだよ」

 「ここか?ここは俺達が住む異界だよ。とりあえず、お前の魂をこっちに呼んだんだ」

 「は?何でだよ」

 「何でって、久方ぶりに生まれた俺の主だからな。挨拶はしておかねぇとな」

 「だから、その主って何だよ」

 「おいおい、知らないのか?藤堂の跡取だろう?」

 「うっせーな。どうせ、馬鹿だよ。俺は」

 「何だ、もしかして、何で自分なんかが跡取なんだとか。どうせ血筋で選ばれたとか考えてるだろう?」

 薫に図星をさされた疾風は、むくれた顔をしてぷいっと顔を背ける。

 「何だ図星か?じゃあ、何でお前が選ばれたか教えてやる。長くなるからそこに座りな」

 薫は、階段を指差すと自分はどっしりと座り込む。それを見た疾風は、渋々とその横に座る。

 「まず、俺の正体だが。俺は青嵐の一族に伝わる宝剣・嵐に宿る風精だ」

 「嵐!?マジかよ!!」

 「おっ、さすがに知ってたか」

 「当たり前だろ。一族に生まれればその名を知らない者なんかいないさ。でも、マジで風精が宿ってたのかよ」

 「何だ、御伽噺おとぎばなしだとでも思ってたか?」

 「だって、宝剣は風軍の将が持つ剣だ。親父達が持っているのは見たけどあんたの姿は見たことない。村に伝わる話では、剣に宿る風精は時には人身を取り主と共に戦ったって」

 「それは、お前の親父達は俺と契約を交わせなかった人間だからだ。俺のように高位の風精と契約を交わせるのは、かなりの風の力を持った人間でなくてはならない。前の主が出たのは百年前ぐらいか」

 「だったら、俺が主なわけねぇだろ?俺は、一族内でもそんなに優れた風使いじゃないし」

 「お前には間違いなく当代随一の風の力がある。この俺が保証してやるさ。ただ」

 「ただ?」

 「お前が今まで持っていた力を行使する時に持つ形代がお前の力にそぐわなかっただけの話だ。俺と契約をして修行をつめば誰もが認める風使いになれるだろうよ」

 「本当に?」

 「ただし、俺と契約を交わすということは生半可な覚悟では駄目だ。俺と共に時には命を捨ててでも扉を守ると誓わなければならない。その覚悟があるか?」

 ゴクッ。

 疾風は、薫の真っ直ぐに自分を射抜く目に思わずつばを飲み込む。

 (俺にそんな覚悟が持てるのだろうか。・・・・・・でも、このままじゃあ、親父の跡を継げないし、継ぎたくない!!)

 疾風の目から迷いの色が無くなるのを見た薫は、ニヤリと笑った。

 「腹くくったか?」

 疾風が頷くと、薫は立ち上がるように促す。

 「青嵐の一族の疾風よ。汝は宝剣・嵐の主となり、その力と命を賭け扉の守り人となることを誓うか」

 「誓う」

 「では、汝を我が主とし、我も共に戦うことを誓おう!汝に風の祝福を!」

 そう宣誓をした薫は、三度手を叩くとその手に耳飾を取り出す。

 「これは契約の証。これを付けていれば俺の名を呼ぶだけで剣は現れる。無くすなよ」

 疾風を受け取とる。

 薫は疾風を満足げに見つめると、指差す。そこには、何時の間にか鳥居が現れた。

 「あの鳥居を潜れば、元の世界に戻れる。戻れば、お前に最初の運命の時が訪れるだろう。だが、忘れるな。お前はその道を一人で進むわけではない、俺という相棒がいることを」

 「・・・・・・・分った」

 「なら行くがいい。両親がずいぶんと心配しているようだからな」

 「マジかよ!ヤべー、絶対に親父にどやされる」

 落ち込む疾風の姿を見て、薫はケラケラと笑っていた。

 (今度の主は、またずいぶんとおもしろい!)

 「じゃあ、俺、帰る」

 そう言って、疾風は鳥居に向かい駆け出して行った。その後ろ姿を見送りながら薫はポツリと呟く。

 「・・・・・・あの若い心には厳しい道かもしれん。だが、あの真っ直ぐな心が挫けぬように守らねばな」


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