第56話:闇玉
「何だよ、闇玉って」
「闇玉は、闇珠の一族が邪気を闇精の力で包みこみ玉としたもの。つまり、この玉の中には邪気が詰まってるのさ」
「持っていると何か害があるのか?」
「そうだな、徐々にだが邪気に蝕まれていくだろう」
「つまり、黒衣の少女が玉を渡して感染者を出しているってことか?」
「決め付けるのは早い。だが、可能性がないとは言い切れないな」
疾風は、上野の体を風の気で清める。
「さて、どうしたものかな」
薫が玉を手に取り一人考えていると見知った気が近づいてくるのを感知し、結界の一部を解く。
するとそこから晶と涯が駆け込んで来た。
「疾風!大丈夫ですか?」
「ああ、何とかな」
引きつった笑みを浮かべる疾風と倒れている上野を見て、晶はだいたいのことを察した。
それでも心配をかけまいと気丈に振舞う姿を見てそれ以上はここでは追求しないことにした。
「薫、それは闇玉か?」
涯は、同胞の手に握られている黒い玉を見て問う。
「ああ。感染者が持っていた」
「ということは黒衣の少女は、凛という娘か?」
「・・・・・・さぁ、こればかりは本人に聞いてみなければ分らないだろうな。それに出来すぎのような気がしてな」
「確かに」
「疾風!!」
公園の外から響く声に薫は再び、結界の一部を解く。
すると雪と椿が駆け寄って来た。
「疾風殿!!ご無事ですか?」
「一応。感染者に対する処置は終了したよ」
「おつかれさまです。一族でこの地域の空間閉鎖をしております。感染者の遺体はどうしますか?警察の人間のようですが、警察に引き渡しでよろしいですか?」
「うん。身内の方の元へ返してあげて欲しい」
「分りました」
椿は、連れてきた一族の者達に次々と指示を出していく。
その姿を見て何だかやりきれない気持ちになる。
(いつか他の一族の人間と同じように割り切るのかな、感染者の命を絶つことを)
運ばれていく上野の遺体を見送りながら、疾風は思った。
そんな時、自分の手が暖かな温もりに包まれた。
雪だった。
「ごめんね、一人でやらせちゃって。後で一緒にあの人のお葬式に行こうね」
「ああ」
雪の優しさにほんの少しだけ気持ちが軽くなる。
(一族の使命をまっとうするには、一体どれだけの血が流されるんだろう)