第53話:なすべきこと
上野からあふれ出た気の正体は、邪気だった。
「上野さんが、感染者?」
疾風は、目の前の光景を呆然とした面持ちで見つめている。
薫は、疾風を降ろし疾風の頬を打つ。
「しっかりしろ!!すぐに晶達に風を送れ!!」
打たれた頬の痛みで何とか現実に戻った疾風は頷く。
「分った」
薫は、上野から発せられる邪気から疾風を守る為に前へと回り、周囲に影響を出さぬように公園を囲むように結界を張る。
その間に疾風は、風に声を乗せて送る。
「雪、晶、涯!感染者が現れた!」
現場からほど近い場所を探索していた晶達の元に一陣の風が吹きつける。
「これは・・・・・・!雪、疾風からです」
「ちょっと待ってね」
雪は、自分達の元に来た風精を呼び寄せると送られてきた声を皆に聞こえるよにする。
「雪、晶、涯!感染者が現れた!マンション近くの公園だ。とりあえず、薫が結界を張ったから、支部に連絡を取って一般人の避難を要請してくれ」
そう伝えると風精は再び離れていく、多分疾風の元へと向かったのだろう。
「雪、君は支部に連絡をして下さい。それから椿殿や頭領殿にも」
「分ったわ」
「涯、行きますよ」
「ああ」
2人は、雪をその場に残し、公園へと一目散に駆け出した。それを見送った雪は、自分に課せられた役目をはたすため携帯を取り出し連絡を取り始める。
そして最後に椿へと連絡をすると、幸い頭領と一緒にいるということなので報告をしてもらい電話を切る。
(こんな時に情けないとは思うけど、まだあの人と個人的に話す勇気が出ない)
そんな自分の不甲斐なさを自覚しつつ、甘えてしまう。
「いけない、いけない。さぁ、私も行かなきゃ!!」
頭を振って気を取り直すと雪は、公園へと走った。