第50話:感傷
そこは重厚な作りの机や家具が並んだ部屋。
光輝の当主である聖の支部での執務室だった。そこにいるのは、先ほどまで疾風と一緒にいた椿とこの部屋の主である聖。
「やはり、宝剣は無理なようです」
「それなら仕方ない。まぁ、風と地が揃っているだけでも他の奴らを黙らせるには十分だ。あとは結果を出せばいい」
「光炎殿はあいかわらずですか?」
「ああ。私とは契約出来ないそうだ。昔の誓約によってな」
「まったく、お歴々も困ったことをしでかしてくれましたね」
「それを止められなかったのは、父の落ち度だからしょうがあるまい」
表情を変えず淡々と話すを聖を見て椿は思う。
何故こうも光輝の幹部達は、聖様の足を引っ張るようなことしか出来ない無能者の集まりなのだろうと。
「それで水鏡の姫の件だが、あの一族の動きも最近あやしいようだ」
「つまり、光輝に反旗を振りかざすと?」
「そこまではっきりとした動きはない。だが、可能性はあるだろう」
聖の言葉に椿の瞳には物騒な光が宿る。
「何か手を打ちますか?」
そんな椿の様子を見ながら聖は、悟られないように内心苦笑する。
彼女の忠義は本物だが時々行き過ぎることがある、それに気づいてはいる聖だがあえてそれを止めようとは思わない。
「いや、十年前の二の舞にしたくないからな。ただ、監視は怠るな。もちろん、青嵐や地涯の一族の若君達も。特にあの地涯の若君は勘がするどそうだ」
「はい。承知いたしました」
椿は一礼をすると聖の命を実行に移す為部屋を出て行く。
「・・・・・・・・この世に信頼がおける者など存在しないさ」
家族を亡くしたあの日に、自分が信じられる者はいなくなったのだから。
ただ、この間会った、青嵐の姫に宿った自分に対する恐怖心を見て、もし妹が今の自分を見たなら同じように怯えるのだろうかと、妹は死んでいるのにそうつい考えてしまうのだ。