第39話:精霊達の密談
姿を消した薫が向かった場所はこのマンションの屋上だった。
しばらく一人で立っているとそこに涯が現れる。
「待たせたな」
「いや、そうでもない」
二人は腰を下ろし胡座を組む。
「先ほどはああ言ったが、依り代を変えるなど相当なことだぞ」
「だろうな。でも、そうすることでしか小姫を守れないと踏んだんだ」
薫と涯は、溜息をつく。いくら契約をしていなかったとはいえ、仲間の動向を掴んでいなかったのはあきらかに自分達の失態だ。
「それにしても大変な時代だな」
薫の言葉に涯を首を捻る。
「何がだ?」
「一つの時代に主が勢ぞろいするなど、初代から数えて何度目だと思う?」
「勢ぞろい?ああ、その少女が闇樹の主だと?」
「そうとしか考えられん。華炎以上に闇樹は気難しい。主以外に力を貸すなど有得ないだろう?」
「確かにな。しかし、光炎は契約は交わしていない」
「いなくともあの頭領が主だというのは間違いないさ」
「契約をしていないということは、光炎も小姫の生存を知っているか」
「そう。多分、主も知っているだろうな。そしてそれを我々に明かさないところが気にくわん。そうは思わないか?」
「それはお互い様だと思うが。晶は用心深いから、まだあの頭領を見極めている最中だ」
「それは俺も同じさ。疾風はそういう方面には向かないから、俺がするしかあるまい。疾風は多分、本能で人を見極めている」
「青嵐の人間は基本的に皆そうだろう。だからこそ、彼らの信頼を勝ち得ることを他の一族は大事にしている。そして凛という少女もそれをふまえて疾風に接触をしたと思う」
「しばらくは、情勢を見極めるしかないようだな。お互い」
「ああ」
二人は、それきり黙ったまま月を見上げていた。
これから先に起こるであろう何かを予感しながら。
主には秘密の集まりをする二人でした。