第36話:混乱
公園を後にした疾風は、マンションまでの道を全速力で走った。
そして、晶の部屋へと脇目も振らずに向かう。
呼び鈴を叩きつけるよう数回鳴らすと扉が開く。呼び鈴の連打の音に晶は、不快感をあらわに苦情をぶつける。
「何です?騒々しい」
しかし、疾風の顔を見ると只ならぬ様子を察し、中へ入るように促す。
疾風は無言で部屋に入り、沈黙したままリビングへと向かう。
疾風の後姿を見ながら晶は、この短時間で疾風に何が起きたのだろうかと思案していた。
(・・・・・・・・変ですね。疾風がこれほどまでに動揺するなんて)
リビングに入るとそこには、雪、薫、涯、そして椿が仲良く談笑していた。
「お帰りなさい、疾風。どうしたの?」
雪は、疾風の少し青ざめた顔を見るなり立ち上がり疾風に駆け寄る。
「疾風様?」
「椿さん?・・・・・・・・どうしてここに」
「私は聖様に雪様が無事に到着されたか確認をしろと言われておりましたので。どうしましたか、顔色がかなり悪いですよ?」
椿は、心配そうに疾風を見つめている。
(・・・・・・・椿さんに話すべきか。いや、そうすると必然的に光輝の一族に話がもれるか)
疾風は、迷ったが話さないことに決めた。
「いや、色々あったから疲れが出たんだと思います」
「そうですか?それならいいのですけど・・・・・・」
「あっ!刑事さんから伝言が。と言っても俺らと同じ世代っぽいですけど」
「ああ、九重刑事のことですね」
椿は、伝言の人物に思い当たったのか頷く。しかし、その顔は困惑の笑みを浮かべている。
「この間から苦情が出ていまして。それで九重刑事は何と?」
「これ以上権力を振りかざすなら、それが出来ないように家宅捜索をすると。きっと後ろ暗いものがざくざくと出て来るでしょうねと。にこやかに・・・・・・」
疾風の言葉を聞いて椿は溜息を漏らした。
「そうですか。でも仕方ありません。一族としての仕事をするには。ということなので皆様もなるべく警察のお世話にはならないようにお願い致します」
「はい」
疾風と雪は、神妙な面持ちで頷く。
確かにこれ以上、警察との間に不必要な軋轢を作るわけにはいかない。
それからしばらく疾風達は、椿を交え談笑した。
そして椿が出て行くと5人はソファに座り、それまでの楽しげな表情から厳しい表情に一変する。
「それで、何があったんですか?疾風」
晶が代表して疾風に問う。すると疾風は、薫に質問をぶつけた。
「華音って知ってるか?」
疾風の言葉に薫と涯は面食らってしまう。まさか、この場で聞くとは思わない名だったから。