表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/61

第35話:彼女の悲しみ

 マンションのエントランスに入るとそこには晶が立っていた。

 「お帰り、疾風。雪もお疲れ様です」

 「お久しぶり、晶君。初日からこうだと先行きが不安だわ」

 「確かに。疲れたでしょう?僕の部屋にお茶を準備してありますから休憩しましょう」

 晶は、雪をさりげなくエスコートしながらエレベーターへと向かう。

 「あっ、雪!お前、荷物は?」

 「いけない。さっきのコンビニで預かってもらってるの」

 雪がコンビニに戻ろうとするのを疾風は止める。

 「俺が取ってくる。晶、雪のこと頼む」

 「分りました」

 コンビニまで行くと荷物はきちんと保管されていた。入口で声をかけてきたのが店長さんだったらしく、すぐに持ち主の兄だということを理解してくれた。

 ついでに何点か商品を買い店を出る。

 ふと凛のことが気になり公園の方を見るとジャングルジムの天辺に見知った顔がいた。

 (凛!?)

 疾風は急いで公園へと走る。ジャングルジムの下まで来ると上に向かって叫ぶ。

 「凛!!」

 空を見つめていた凛は、疾風の叫び声に気付いたのかゆっくりとした動作で疾風を見た。

 「疾風?」

 疾風は、ジャングルジムを昇り、凛の隣へと座った。

 「お前、何やってんだよ!!」

 「空を見てるの」

 「そうじゃなくて、昼間のこと。何で警報が鳴ったのに逃げないんだ」

 「・・・・・・・呼ばれたから」

 「呼ばれた?」

 「叫びが聞こえたの。苦しいって。でも間に合わなかった」

 「凛?」

 凛の言葉に疾風は疑問を覚えた。

 呼ばれたって、あの場にいたのはあの狂った男だけ。もし本当にあの男が叫んだとしたなら、その声が聞こえた凛はいったい・・・・・・・。

 「疾風」

 考えに耽っていた疾風を凛の声が現実に引き戻す。

 「悲しいね、誰も気付かない。皆、自分のことばかりで声に気付かない」

 「声?」

 「世界の軋む音とそれを止めようとしている人たちの嘆き。そしてそれに気付きながら見ていることしか出来ない華音の悲しみに」

 「華音?」

 疾風に向き直った凛の瞳に映るのは悲しみと絶望。

 「疾風はどうするの?」

 「俺?」

 凛は頷く。

 「腐敗した一族を切り捨てて、その腐敗に巻き込まれた一族も切り捨てる?そして自分の一族の安寧だけを望む?」

 「え?」

 「今度会う時に答えを聞かせて。その答えによって私達はこれからの道を選び取る」

 疾風が凛の言葉に混乱していると凛はスタスタとジャングルジムの端まで歩いて行く。

 そして落ちるか落ちないかのギリギリの所まで行くと何も無い空間に手を伸ばす。

 確かに凛が手を伸ばすまでは何も無かった。しかし、今は違う。

 彼女の手の先には闇が広がる。混沌としたその先から同じように手が伸び、彼女を抱き寄せると闇がすっぽりと包む。そして凛の姿は消えていた。

 (今のは闇精!?でも彼らの力を使えるのは・・・・・・・)

 疾風は、今目の前で起こったことが信じられずただ呆然とするばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ランキング

HONなび
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ