第34話:取り調べ
しばらくすると青年は、先ほどの沙紀という少女を連れ立って戻ってくる。
「お待たせしました。それでは調書を取らせていただきます」
そう言って、沙紀は疾風達の正面に座り、青年もパソコンを取り出しその隣に座った。
「まず、名前と年齢から」
「藤堂 疾風 15歳」
「藤堂 雪 同じく15歳」
「薫だ。年齢は知らん」
沙紀は、薫に対してうろん気な目を向ける。が、こういう事に慣れているのだろうどんどん先へと進めて行く。
「何故あの場に?」
「最初はコンビニに逃げたんですけど、外の公園にこの間知り合った子がいて逃げようとしないから雪を置いて外へ」
「それで?」
「あの行き止まりまで追ったんですけど、角を曲がったら居なくて」
「あなたは?」
沙紀は、今度は雪へと質問をする。
「私は、兄に知らない場所に置いていかれてしまって不安だったので後を追いました。というか今日、東京に着たばかりであの警報とかこの状況とかも分らなくて」
「あなたは?」
「俺は呼ばれたからな」
「呼ばれた?」
「ああ、主にな」
薫の目線を追っていくと疾風を見ているようなので、主とは彼のことかと納得する。
「つまり、今回のことは偶然起きた事ことだと」
「そうだ」
「じゃあ、私達が見たあなたの力は一体何?」
薫は、お前に答える必要はないとばかりに黙り込む。
「ここ東京では、近年特異能力者の数が増大していて我々特異課は、政府によって治安維持のため設立された機関です。ですから、特異能力者であるあなたを簡単に解放するわけにはいきません」
「・・・・・・・あの。ここに連絡してもらえませんか」
そう言って、疾風は携帯を取り出し、番号を出す。
その番号を見て沙紀の眉が一瞬険しくなった気がしたが、一瞬だったので青年以外誰も気がつかなかった。
「・・・・・・・・・分りました。少し待ってなさい」
沙紀はそう言うと携帯に映し出された番号をメモし、部屋から出て行った。
数分後、沙紀が部屋に戻って来るなりこう言った。
「解放よ。タロ、この子達を家まで送り届けなさい」
「はっ、はい」
「あの、いいんですか?」
疾風の言葉に沙紀はニッコリと物騒な笑みを浮かべこう告げた。
「椿に伝言を頼める?これ以上権力を振りかざすなら、振りかざせないように家宅捜索すると。貴方達、一族の屋敷ならさぞ後ろ暗い物がざくざく出て来るでしょうってね」
沙紀は、そう言い残すと部屋から出て行った。疾風は、沙紀の言葉に固まってしまう。
(おっかねー)
出て行った沙紀を見て青年は仕方ないなという顔をしていた。そして疾風達の方を振り返りこう言った。
「じゃあ、行きましょうか」
青年に促された3人は、来た時と同じ車に乗り、マンションまで送り届けられた。
「そうだ、自己紹介がまだでしたね。自分は、大熊 大祐といいます。これは、警察からのお願いですが警報が鳴ったらもう外へは出ないでください。今回はそこにいらっしゃる方のおかげで助かったようですが本当に危険なんです、東京は。そして薫さん、特異能力者である貴方には、どうかその力を犯罪に使用することがないように願います。もし、一般人に被害が出るようなら我々は、どんなことをしてもそれを止めます。その為、私達には、能力者を射殺する許可が政府からおりていますので。では」
大熊は、薫にそう釘をさすと去って行った。
射殺許可、そんな命が下る。そんな危険な土地なのだということをあらためて知った疾風だった。
今回で警察とはさようならです。