第31話:邪に染まりし者
疾風は、目を開きその気の持ち主を睨みつける。
「何だ、お前は!!」
そこに現れたのは、40代位のスーツを着たサラリーマンらしき男だった。
しかし、疾風の問いには答えず、不気味な笑みを浮かべながら近づいてくる。
「な・・・・・・・にあの人。正気じゃない?」
雪は、その男の目を見て思わずこぼす。そう、男の目は暗く澱んでいてどう見ても正気を保っているようには見えないのだ。
男の口からは、言葉とも確認出来ない笑い声らしきものが出るだけだ。
「ちっ!ラリってやがる。仕方ない、風で吹き飛ばして気絶させるか」
この男の正体が分らない限り、力で男を始末する訳にはいかない。一般人である可能性が高いのだ。
疾風達の一族は、その力故に能力の使用に関しては厳しい決まりがあるのだ。一族に関係し力を有する人間が自らの意志で邪に染まった場合、能力を使用し殺傷することも許される。
しかし、一般人が邪気に染まった場合は、殺傷はなるべく避けなければならないのだ。
「風精よ!奴を吹き飛ばせ!」
疾風は先ほどよりも力を込めて突風をぶつける。
そして突風は、男に命中し後方へ吹き飛ばす。そして男は、倒れたまま動かない。
「やったか?」
疾風が一歩、男の方へと踏み出した時、倒れた男が勢いよく飛び起きる。
「マジかよ!!あれで気絶しない奴が一般人にいるか?」
「ううん、あの人は多分一族の人間だと思う」
「アイツが!!でも一族の奴が邪に染まるってことは・・・・・・・」
「違う、あの人の意志じゃない。あの人の周りで火精が必死に止めようとしてる」
雪の言葉に疾風は愕然とする。雪の能力を考えれば、それは真実だろう。
「冗談だろ?・・・・・・・・・薫、来い!!」
疾風のピアスから緑色の光が放たれ、それと同時に疾風を庇うように薫がその場に降り立つ。
「疾風。こういう時は、さっさと呼べ。いつでも自動的に俺が来るとはかぎらんぞ」
薫は、振り返り疾風に説教をする。
「うるさい。説教なら後にしろよ」
「はいはい。おっ、そこにいるのが妹か?お前に似ずに美人だな」
薫の軽口に雪は面食らってしまう。
「・・・・・・・・初めまして」
「初めまして、風の姫君。それにしても、疾風。お前は何でこうも頻繁に厄介ごとに遭遇するかね」
薫は溜息をつく。
「そっ、そんなことより前!奴が来るって!」
疾風の言葉通り、男はニヤリと無気味に笑むと火弾を投げてくる。
薫は、疾風達に顔を向けながら、先ほど疾風が投げた突風より数十倍の力をこめた突風を投げつける。
そのあまりの威力に近くに止めてあった車やビルのガラスが割れ飛ぶ。そして男はというと完全に意識を失ったようだ。
「・・・・・・・やったか。もう何だってんだよ」
疾風は、ホッとして力が抜ける。そして障壁を取り払うと雪の無事を確認する。
「怪我ないか?」
「大丈夫。ありがとう」
そう言った雪の顔色を見て、疾風は慌てふためく。
「全然大丈夫じゃないだろ!」
疾風は、真っ青な顔をした雪の額に手を当て癒しの波動を送る。幾分かは楽になったようだがまだ青い。
「薫。悪いんだけど、雪を・・・・・・・」
「いや、そうも言ってられないみたいだ」
「えっ!」
薫と同じ方に目を向けるとそこにはこちらに銃口を向けた警官達がいた。
「手をあげろ!」
疾風達は、とりあえず手を上げて恭順の意志を示す、すると警官の中から一人の少女が現れる。
その少女は腰まで伸ばした黒髪にレイヤーをいれ、顔の両サイドの髪を赤と銀の組紐で結んだ自分達と同年代と思われる少女だった。
(女の子?)
「申し訳ありませんが、状況が把握出来ない状態なので我々と一緒に来ていただきます」
「それはかまわないが、お嬢さんは一体何者かな?」
薫は、疾風と雪を背に庇い少女に尋ねる。
「私は、特異能力犯罪捜査課に所属する刑事で九重 沙紀と言います」
やっと、事件らしきものに遭遇。
今回の話の本題に入るのはいったいいつのことやら・・・・・