第28話:それぞれの思惑
「聖様。青嵐のご当主から返事がまいりました」
椿は、手に持っていた手紙を机に向かい仕事をしていた聖に手渡す。
ここは、光輝の一族の所有する別宅で聖の仕事場兼住居となっている邸宅である。
その一番奥にある仕事部屋に椿と聖はいた。
椿から手紙を受け取り、聖は目を通した。そして口元に笑みを浮かべる。
「聖様?」
「我々の要望を受け入れるとのことだ。ただ、仕事の時やそうでない時も兄君と一緒に行動をとらせろとのお達しだ」
「それは良かった、聖様のご要望が通られて安心いたしました」
「ああ、一族の毒虫達には都合が悪いだろうが」
聖の皮肉まじりな言葉に椿は、首を傾げる。
「気付かなかったのか?あの者達は私の結婚相手にしたいのだよ、青嵐の姫君を」
「そうなのですか?」
「ああ、青嵐の本家の血筋でそれも対して力はない。自分達で十分御せるとでも思ったのだろうな。そんなことはあのご当主殿と奥方殿はお見通しだというのに」
「つまり兄君が防波堤であると」
「仕方在るまい。それが兄の役目というものだ。あの若者には少し気の毒ではあるが」
「そうですね」
椿は、昨日会った疾風の姿と言動を思い出す。この一族にあってあの真っ直ぐな心を保っている稀有な存在を。
「他に用件はあるか?」
再び手元にある書類の決済に戻った聖は、椿を見ずに尋ねる。
「実は、天牙衆の本部付近で邪気が確認されました」
「被害は出たか?」
「疾風様が少し体調を崩されかけましたが、薫様がそれを察知なされたのでご無事です。ただ、最近周辺での邪気の確認が数件にも昇っております。この間も邪気によって精神を病んだ人間が事件を起こしましたが、これは特異課の方で解決済みです」
「ああ、あの政府が設立した機関か。それでその病んだ人間とは?」
「焔の邸宅の近辺に勤める者だそうです。いつもの通り、その者は我々の一族の病院に入院させておきました。しかし・・・・・・」
椿は、言葉をとぎらせ、苦笑している。そんな椿を見た聖は、その先を促す。
「どうした?」
「特異課の方から苦情が来ております。犯人を連れ去るのは困ると」
聖は軽く溜息をつくと椿に指示を出す。
「警察上層部に圧力でもかけておけ」
「はい、承知しました」
「椿。せっかくだ、その邪気の件を天牙衆の初仕事とする。青嵐の姫君が到着されたら調査を開始させろ」
「はい。それでは失礼致します」
椿は、一礼すると部屋から出て行った。
「・・・・・・・・妹か」
聖は引き出しを開け中に閉まった写真を数秒見つめ、再び引き出しを戻す。
そして一人仕事を再開した。