第25話:邪気
一度、激しく波打った鼓動はなかなかおさまらず疾風はしばらくその場に立ち尽くすしかなかった。
いつまでもおさまらない鼓動とこみ上げてくる嘔吐感に足元がふらつき始めた時、聞き覚えのある声がした。
「疾風、大丈夫か!!」
「えっ?」
顔を上げると目の前には薫が立っていた。
「薫?」
疾風の青ざめた顔と状態を確かめると薫は、おもいきり舌打ちをする。
「ちっ!・・・・・・・遅かったか。疾風、目を閉じろ、そして今から送る風の気配だけ追え」
薫の言葉に押された疾風は、目を閉じる。それを確認すると薫は、疾風の前に左手をかざし、風の力を集め疾風に送る。
清浄な風を送られた疾風は、その清々しい気だけ追い、自らの体に行き渡るようにする。
「よし、もういいぞ」
薫の言葉に疾風は、目を開けると先ほどの異常なまでの鼓動や気分の悪さも消えていることに気付いた。
「あれ?」
「癒しの風だ。それにしても早速とはな・・・・・・・」
「へ?」
「まぁ、いい。早く飯を買って帰るぞ。話はそれからだ」
「・・・・・・分った」
疾風は薫を伴い買い物を手早く済ませると二人で部屋へと戻った。
部屋に帰りつくとどっと疲れが押し寄せてくる。
(何なんだよ、いったい)
疾風がリビングの床に座り込むと横からペットボトルの水が差し出される。
「飲め」
「ありがとう」
ゴクゴクと半分ほど飲むと人心地がつく。
「なぁ、薫。あれって一体何?」
薫は、疾風の正面に片膝を立て座ると語り出した。
「あれは、邪気に当てられたんだ」
「邪気?」
「そう、程度から言うと軽い物だ。多分、最近あの辺りに邪がいたんだろう。その残り香がお前に惹かれて寄ってきたってとこだろうな」
「つまり、ここら辺に邪が居るってことか?」
「だろうな。しかし、ここまで邪が万延しているとはな。やはり、焔の直系が絶えたせいか」
「あれで軽いか・・・・・・・」
「邪気については実戦を通して慣れていくしかないだろうよ。何だ、その顔は?怖いのか?」
「こっ、怖くなんか・・・・」
「焦るな。お前の力はまだまだ向上する。そして心の強さもな」
「分ったよ。・・・・・・・・飯食っていい?」
疾風の言葉に薫は軽く吹き出すと食べて大きくなれと言って部屋から出て行った。
ガキ扱いされたようでちょっと悔しかったが、自分がガキだということも分ってはいるので文句は言わなかった。
疾風達は小さい頃から訓練はしていますが、あくまで訓練であって実戦ではないので邪気に当てられてしまったのです。