第21話:椿との再会
「これが小姫暗殺事件のあらましだ」
薫は、話を締めくくったが幾分顔色が悪いのは余程恐ろしかったせいだろう。
「うへーっ、何で女ってそんなえげつない方法取るんだ」
「疾風、全ての女性をそんな風にくくっては失礼ですよ?涯も大変でしたね」
「ああ」
「晶よ、大変だったのは俺だ。その役立たずは何もしていない」
「・・・・・・・・失礼な」
涯は、小さな声で反論するが、実際自分は役にたってないと自覚している。
「それにしても、まさかそんな確執があったとは。確かに、報復としてはおかしくないですが・・・・・・」
「それなんだがな、華炎は一度誓約が成ったからには自分からは仕掛ることはない。だから、十年前の事件は他に真実があるんじゃないかと思うぞ。なぁ、涯?」
「ああ。あの女は、約束を違えることはしないし、焔の一族の結束力は他の一族を圧倒するほどだ。だから、事件は起こさないと思う」
「じゃあ、何かが隠されてるってことか?」
疾風の言葉に精霊達は頷く。
「これはいい機会かもしれません。光輝の一族の当主と一緒に仕事をすることで一族の内情を伺うとしましょう。そしてもし、十年前の処断が不当なものであればあちらを叩く良い材料になるでしょう」
「うぇ・・・・・・・。めんどくせぇ」
「大丈夫です。疾風はいつも通りにしていただければ、裏で動くのは僕の方が向きます。ただ、お願いしたいことはいくつかありますが」
「風読みとかか?」
「はい」
晶の笑顔の奥にある裏の獰猛な顔を感じとった疾風は、了承しておく。
(俺達の仕事は扉を守ることだと思うけど・・・・・・)
それは疾風にしてはめずらしく真っ当な一族の鏡と言ってもいいほどの正論だった。
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴り響く。
「おや?誰でしょう?」
「・・・・・・・・・俺が行く」
涯は、率先して玄関へと向かう。
「おいおい、あいつで大丈夫なのか?」
「大丈夫です。疾風が来たのなら僕が行きますけど、他の人間となるとね」
玄関の方から二人分の足音が聞こえる。
疾風は、玄関から通り抜けた風を感じ呟く。
「椿さん?」
そしてその数秒後にリビングに現れたのは、涯と椿だった。
「お二人ともご無事に到着なされたようで。本当ならお出迎えするべきでしたが仕事がございまして、申し訳ありません」
「そんな。別に子供じゃないから大丈夫だよ」
「そう言っていただけると助かります。もしかしてこちらのお二人は、宝剣の?」
「ああ、こっちが薫」
「こっちとは何だ、こっちとは。どうも、時枝のお嬢さん」
「こちらは、涯です」
「・・・・・・・・よろしく」
「こちらこそよろしくお願い致しますわ。この建物の説明だけはと思いまして押しかけてしまいました。よろしいですか?」
「「お願いします」」
晶の疾風の言葉に椿は微笑み、話し始める。
「まず、2階が我々の本部になります。そして3階が私の部屋、4階が水鏡の一族の姫が入居予定です。そして五階が共用施設になります、ジムや鍛錬場があります。そして6階が晶様、7階が疾風様です」
「俺の部屋が一番上なの?」
「はい。聖様のご命令で、青嵐の方は風が良く感じられる場所でないと駄目だとおっしゃいまして」
「はははははは。ご配慮ありがとうございます」
「クスクス。確かに疾風達の一族はそうじゃないと一箇所に長期滞在は難しいからね」
「しばらくは、この辺りを探索するなりしてお過ごしくださいとのことです」
「分りました。一ついいですか?」
「何でしょう?」
「水鏡の姫が入居予定とは?」
「あちらの一族が姫を外に出すことに同意なされないのです。そしてご本人にも断られまして、聖様がご面会に度々行かれているのですが門前払いをされてしまうと」
「そうですか。じゃあ、しばらくはのんびりと過ごさせて頂きます」
「はい。それとこれは私個人のお願いなのですが」
「何でしょう?」
「お二人の精霊方にお力をかしていただきたいのです」
「「俺達に?」」
「はい」
椿はそれまでの柔らかい表情を厳しくするとこう切り出したのだった。
「我らの一族の宝刀に関してです」