第19話:十年前の事件
晶の言葉にその場は一気に重苦しい空気に包まれる。
「本家を断絶って、馬鹿かお前達は!!」
薫の怒気を含んだ声に疾風は思わず首をすくめる。
「天見の処罰を下したのは、当主会。というか光輝の一族だよ。無断で処罰した奴らを非難したさ。他の家は」
「そうです。おかげで今だ我々と光輝との間では深い溝があります」
「晶。その事件を詳しく教えてくれないだろうか。私と薫は契約するまでこちらとの関わりを持っていなかったのだ」
「分りました。少し長くなるのとあくまで伝え聞いた話だということは念頭においてください。僕達もその頃は幼児でしたから」
「「ああ」」
二人の精霊は了承の意を伝える。それを聞いた晶は、ゆっくりと話始めた。
事の発端は、当主夫妻と娘が事故死した事件。
事件を調べていくうちに判明したのは、運転手が数日前から邪に精神を蝕まれ始めていたという事実。
そして邪による汚染が始まったのは、事件の数日前に焔の一族の友人から貰ったという守り石を身につけてからだということ。
この二つの事実から焔の一族に探りを入れると事件の首謀者が当主だったということ、また邪気を石に込めたのが闇珠の一族だったことが判明された。
そして光輝の一族による粛清が行われた。
これに反発したのが水鏡の一族だった。何故なら、両一族の交流は深く、焔の当主の聡明さを一番良く知っていたからだ。そして、両家の長男と長女の縁談が決まっていたこともあり、現在も表向きは当主会の命には従っているが裏では反発している。
青嵐や地涯の一族も光輝の一族の独断で行われた処罰には、反発の色を隠していない。
「というのが事件のあらましです。つまり真実は闇の中というわけです」
「それにしても本家の血筋を絶やすとは、馬鹿なことを」
涯の言葉に晶は、疑問がわく。
「本家を潰すと何かまずいのでしょうか?」
晶の問いに答えたのは薫だった。
「扉の封印は、宝剣と宝剣に選ばれた血筋の人間によって保たれる。どちらかが失われれば封印は、解かれる。現にこの土地の精霊達の数が異常に減少している。これは封印から漏れ出た邪気の影響が大きいだろう」
「つまり、僕達の命が扉の鍵を意味するのですか?」
「だからこそ、我々は主の守護を第一としている」
涯の言葉に思わず息を飲む二人である。
「はい!質問!!」
「何だ、疾風?」
「薫達の話の通りなら焔の宝剣の精霊は、自分の主を守らなかったのか?」
「分らん。本人達に聞いてみないことにはな」
「本人達?本人の間違いじゃないですか?」
「ああ、お前達は知らないのか。焔の宝剣は双刀なんだ」
「何故ですか?」
「焔は特別な一族と言ってもいい。何しろ、自分達一族だけで扉を守り、邪気を殲滅するという任を真っ当できるからだ」
「涯、それはどういう意味ですか?」
「焔が使う炎には二種類ある。浄化の炎と破滅の炎だ」
「そう、そしてあの双刀の主となるということは両方の炎を操れるということ。そんな人間は極めてまれだ。特に破滅を司るあの剣を従えるとなるとかなりの能力者だ」
「だから、彼らの主が誕生するのは我らに比べてかなり少ない。そしてあのお姫様が誕生した時のあの狂喜乱舞していた姿は、かなりのものだ」
「ああ。特にあの女の喜びようといったらな。そしてあの事件の時の、あの恐ろしさといったら・・・・・・」
「あの事件?」
薫の少し、いやかなり青ざめた表情と言葉につい口をはさむ。
「光輝の奴らによるお姫様の暗殺未遂事件」
薫の言葉に疾風と晶は言葉を失ってしまう。
(暗殺未遂って!?)
疾風は、焔と光輝には自分達の想像を越えた因縁があるのかもしれないと思った。