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贈る日々へ  作者: 緋月
3/6

それから

去年のあの日…俺はこの場所を知った。ボロボロの外装で如何にも怪しいビルを。

ビルの中に此処があった。決して広くない部屋の中に、変に生活感のある雰囲気が広がっている。

しかし部屋の中にいた人物は、一切の生活感のない雰囲気を醸し出していた。

それが俺の同僚である、十歳程度の黒髪ロングの日本人形にも似た少女であった。

髪はボロボロで顔色悪く、如何にも栄養失調の体調不良が全開だった。

生きる事を望んでおらず、しかし死にたがりの感じもない。全ての事柄に関心が無いようだった。

全てに関心が無く興味も無い───自分がどういう状況でどういう状態なのかも考えた事が無いようだった。

冗談ではなく本当に日本人形ではないのかと疑った程である…人間と言える程の生気も感じられず、人間と呼べる程の感情も表さない。

人形の方がまだ瞳に輝きがあると思った。それぐらい少女の瞳は死んでいた。


《人間には向いていない》と本気でそう思う…少女を見ると人形の方が人間らしい。


手遅れであり末期であろう少女…しかしまだ終わってはいない。

終了してしまえば何も出来ないが、終わっていないのであれば手段はある。

微かな望みでも絶望にも似た希望でも可能性は決して零ではない。

ならば望むところだ、そのために俺は此処へ来た。


俺の目的を叶える可能性を秘めた少女との出会いを、誰に感謝すれば良いのだろうか?

さて、それでは始めよう。


《あなたの願いは何ですか?》




「いやぁ、こんな時間に食事したものだから、眠くなってきたんじゃないですか?」

「…zzz」

「寝るの早っ!ほら、起きて下さい!」

食事の片付けを終えソファに座った途端、少女は瞬時に睡眠の世界へ堕ちていた。

肩をユサユサと揺らしてみても起きる気配が無い。…面倒な女すぎるだろ!

このまま寝られても困るので、起こすしかないのだが…

「おーい、起きて下さい!」

「………」

「ほら、テレビで『あぶな○刑事』の再放送してますよー」

「………」

…ふぅ、では奥の手でも披露しますか。

「あーあ、せっかく一緒にケーキでも食べようと思っていたんですが、寝ているのであれば仕方がない。俺が全部食べちゃ───」

「それを早く言えええええ!!!」

カッと目を見開きガバッと体を起こしながら、少女にしては珍しく大声を発する。

…寝た振りしてんじゃねぇよ。

「…で、ケーキは?我の栄養素であるケーキはどこにある!?」

「嘘に決まっているじゃないですか…ケーキを買ってくる時間なんてどこにあるんですか?」

この発言を受け、少女は無表情なりに顔を強ばらせプルプルと体を揺らす。

…あれ、もしかして怒った?

「…い」

「えっ?」

「…乙女を騙した報いを受けろ!!!」

「うわぁっ!」

少女の小さな体を全力で俺へぶつけてくる。簡単に言えば体当たりの全身タックル…近距離ですんじゃねぇよ!

とは言え、所詮は小さな少女の体当たりなので軽く受け止めると、それに不服だったのか余計に敵意を剥き出しポカポカと殴り始める。

「…馬鹿、阿呆、ペテン師、詐欺師、犯罪者、殺人鬼、ロリコン」

「言いたい放題言ってんじゃねぇ!」

「…屑、ゴミ、カス、ロリコン」

「俺を勝手にロリコンにすんな!」

「…我の裸見て欲情してた」

「捏造すんな!嘘の情報で既成事実を作ろうとしないで下さる!?」

「…我の裸を何度もイヤらしい目で見てた」

「いつも風呂上がり全裸でウロチョロ歩き回っているお前が何言ってるんだい?」

「…暑いから」

「若さ故の新陳代謝の良さ、流石です」

「…我の早熟ボディ見れて嬉しい?」

「クソガキが何調子乗ってんだ、あぁ?」

「…幼児虐待ですか?コワイワー」

「棒読みすぎますよ?もう少しキャラを固めて下さいます?」

「…コンクリで?」

「大事件発生した!?発想が怖いわ!」

「…発送する?コンクリ少女」

「いろんな機関からクレームが来そうなワードですね、それ…」

「…グッズ展開出来るかな?」

「誰得だよ、それ!?末期すぎるだろ!」

「…コンクリ少女───末期な我には相応しい最期じゃない?」

「そんな事ないだろ!!!」

ダンと少女の肩を掴み、つい声を荒げてしまう。

「…痛い」

「ああ、すいません」

肩から手を放し少女の瞳を見る。

「時間はいくらでもある…大丈夫です、まだ終わってません」

「…終わってない」

「そうです。まだ終わってない…」




最初の出会いから約一年…人形より人形らしかった少女は何かを得たのだろうか?

得た事は得たんだろう…あの頃よりはだいぶ人間風な振る舞いと人間的な雰囲気を身に付けたように見える。

今でこそくだらない会話に花を咲かせる事が出来ているが、当時は会話さえままならなかった。

それを考えると感慨深い気持ちになるのだが、これで終わりじゃない。

少女の本質にある本心は何かを得て変わったのだろうか?

外見上の変化は見受けられるけど、内面の軸となる部分はどうなんだろうか?

俺にはまだ分からない…


俺は俺の目的を叶えるために動き出す。

ここ数日、右往左往しながらドタバタと巡りに巡っている。とある件について仕事と同じレベルで全力全開の最中だ。

そして、あの日あの人へ言った事を実現させるために…

『みんなを幸せにしたい!』これが俺の生きる理由であり、人生の意味なんだから。


俺はこの部屋を離れ走り出す。



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