私のフォロワー数は53万です
昼休み。俺はパンを齧りながらそっと携帯を取り出し、某短文投稿サイトを開く。
しがないサラリーマンの俺だが、ここでの俺はちょっとした有名人だ。フォロワー数は先日50万を超えた。
そんな有名人の俺のもとには日々フォロワー数2ケタ台の雑魚から無礼なメッセージが飛んでくる。
『ぇ……フォローしたらふつぅフォロー返しするもんぢゃん。。。ウチのコトゎどぉでも良ぃってゅうの。。。』
一際異常な空気を発するこのツイートに目が留まる。俺はソイツ――「るりたむ@まりちょすは恋人(///ω///)」のプロフィールを見て思わず噴き出した。
「フォロワー数たったの15……ゴミめ。このフリーズ@卵豆腐大好きに盾つくとは……まぁ良い。遊んでやろう」
俺はスマホを軽快にタップし、彼女にメッセージを送る。
『私のフォロワー数は53万です。ですが、もちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんからご心配なく……』
プロフィールを見るに彼女は高校生らしい。いまどきの高校生は暇なのか、返信はすぐに来た。
『ハァ? まぢイミわかんなぃ。戦うって、誰と? このゎたしと? 片腹痛ぃんですけど。。。』
ツイートが目に入った途端、背中に冷たい何かを感じて俺は思わず立ち上がった。
「ッ……!? いったいなんだ、この溢れ出る殺気……! いや、違う。コイツはただの馬鹿っぽい高校生。俺を倒す力など!」
『見せてぁげる。。。ゎたしの、まぢゃばいチカラ。。。 一、未成年飲酒!』
それと同時に彼女のタイムライン上に空き缶の山と顔を真っ赤にした制服姿の女子の写真がアップされる。俺はたまらずスマホを握りしめた。ミシミシと言う音を立ててスマホが軋む。
「ッ、バカな。高校生が昼間から飲酒だと……? いや、それ以前に違法行為を自らネットに晒すなんて、なにを考えている!?」
奇妙な感覚が体の内から沸き起こる。呆れ? 恐れ? いや違う。これは……怒りだ。
しかし彼女のツイートはどんどん更新を重ねていく。
『二、国家権力をも魅了する! 白黒の車の上でブレイクダンス!』
『三、先週万引きしたぉにぎり賞味期限切れてたw まゅたそとダぃキと店に文句ぃったらぁたらしいの10コGET☆ふたりともダイスキ!!』
「なっ、なぜだ……なぜ何の得にもならない事をツイートする!? 理解できない……いや、これは!」
彼女のフォロワー数を見て我が目を疑った。15人だったフォロワーが10倍、20倍とどんどん増えていく。
しかし彼女はなおもツイートをやめない。
『四、店員まぢうざかったから土下座させた(ワラ まぢ反省してほしぃ。激ぉこなんですけど?』
ねずみ算式に彼女のフォロワー数が増えていく。もはやこの勢いは誰にも止められない。
これはまさか……いや、間違いない!
「伝説のフォロワー獲得術、“祭”……だとッ!?」
祭とは古くは平安時代から行われていた集客の儀式であり、寂しがり屋の貴族がフルチンで踊り狂って人を集めたのを起源とする説が有力視されている。
つまり、あえて悪事を働いて注目を集め、集客をする技。招き猫はこの貴族の踊りを元に作られたとも言われている。非常に高度な技術が必要であり、儀式に失敗して命を落とした者も数知れない。
それを齢17そこらの小娘が行うとは。末恐ろしい女だ。
彼女のフォロワーは際限なく増え続け、とうとう俺の携帯の画面から数字がはみ出るほどになった。
『力が……力がみなぎってくる……! トドメだフリーズ@卵豆腐大好き!』
「ぐっ、凄いエネルギーだ。こんなのをぶつけられたらひとたまりも……!」
『最終奥義、バイト先の冷蔵庫にダイブ!!!』
アイスのボックスの上に寝ころぶ金髪の少女の画像と共にツイートされたその言葉は、俺の体に向けて鋭い衝撃を放つ。
「うぐっ……うわぁ!!! なんだこの燃えるようなエネルギーは! まるで炎……そう、炎上だ……! 耐えられない……溶けてしまう!」
『ふあはははは! 手も足も出まい、フリーズ@卵豆腐大好き。安心しろ、貴様のフォロワーはこのわたしが……グッ!?』
「うっ……くそっ……あれ?」
体中を包んでいた灼熱の妖気が瞬く間に引いていく。
俺は恐る恐る目を開き、スマホの画面を覗き込んだ。相変わらず凄いフォロワー数なのにエネルギーを一切感じない。
「るりたむ@まりちょすは恋人(///ω///)の妖気が……消えた? 一体何が起こって……」
その時、スマホの画面越しに同じもの……つまり彼女のツイッター画面がテレビに映っているのが見えた。俺はリモコンを手にし、慌てて音声のボリュームを上げる。
画面の向こうのキャスターが慌ただしく原稿を読んでいるところだった。
「この短時間でたくさんの犯罪ツイート、非常識ツイートを流していた東京都の17歳少女が警察に連行されていきます! ああ、家から出てきました!」
画面には真っ白に燃え尽きた少女が国家権力に手を引かれて白黒の車に入っていく場面が大きく映っていた。
この小説はフィクションです。実在の個人、団体、炎上とは一切関係ありません。
フォロワーの多い人も少ない人も清く正しく仲良く呟きましょう。