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1.3

重い重い鋼鉄の怪物が猛スピードで突っ込んでくる。

手助けをしようとした二人はまだ上にあがれない。

もうやめようかこの人たちに巻き込まれて私まで死ぬ必要はない。


私の中の暗闇がささやく。私は倒れている少女の方を見た、彼女は目を少し開けていた。

じっと地面を見つめているようだ。深く深く水底に沈むような瞳、死ぬことに迷いがないようなそんことを感じさせる目。

ホーム上は駅員の声や乗客の怒声や叫び声で、ひどく騒がしいのに彼女は一人静寂の中にいるようだった。


一瞬その世界に吸い込まれそうになる。それを切り裂くように電車の警笛が鳴り響いた、私を現実の世界に引き戻す音。

電車は数十メートル手前まで来ていた、減速しているようだったが線路にいる人たちの前では止まれないと感覚的に分かった。

私は覚悟を決めなければならない、ここで見殺しにするかどうか。一緒に死ねばヒーローにでもなれるだろうか。

私は彼女を一瞥した。彼女の口が小さく動いているような気がした、と一瞬周りから声が聞こえなくなった。

ホーム上の人を見渡すと全員の体の動きが止まっている。ギリギリのところまで電車も止まっていた。

私の手を握っている男も目を大きく見開き体が完全に硬直している。


「動けるのね」


いつの間にか彼女は黄色い点字ブロックの上に立っていた。

何かしゃべらなければ、考える間もなく咄嗟に口から言葉を出す


「え、あ、大丈夫?」


我ながらばかみたいな質問をしたと思う。理由は分からないが彼女は突然ホームにげ出されている。

履いていたストッキングはところどころ破れ、頭からは出血しているのだ。どうみたって大丈夫なわけがない。


「別に」

「でも頭から血が出てるよ。これ使って」


私はいつもポケットに入れている水色のハンカチを彼女に手渡した。

彼女はハンカチを少し見つめ借りるかどうか躊躇していたようだが、結局手に取って血が出ている頭にあてた。

赤い血がハンカチに滲む。よかった私と同じ人間だ。


「座ったほうがいいよ、ほらこっち」


改札に上がる階段下のベンチに誘導する。彼女は黙ったまま動こうとしない。

私は彼女の手を取りベンチの方に歩き出した。普段からは考えられない大胆な行動だと思う。

この異常な状況が私を変化させているのかもしれない。


「このまま立ってたら貧血になちゃうって」


彼女は無言のまま何も言わない。ただここから微動だにしないのはあきらめようだ。

おとなしく私の後をついてきてくれた。意外と素直な子なのかもしれない。

ベンチに2人で座り、幾分か静寂な時間が流れた。彼女が休む間に私はもう一度周囲を見澄ました。

時計は秒針が止まり動いていない。また、ほかのホームの電車も文字通り時が止まったように動いていなかった。

改めて自分が不思議な空間にいると気づく。


「ま...だ...」

「え?」


一瞬ポツリとつぶやいた言葉を聞き取ることができなかった。

何を言ったか確かめようとしたその時、頭がくらくらっとして座っていられなくなった。

強烈な眠気が私の体を支配する。目も開けていられない。眠い、眠い。


「も...い...」


重く伸し掛かる瞼、暗転しそうな視界に彼女の横顔が見えた。

決意したような目、さっきまでの絶望した顔より生気を取り戻しているような気がした。


「良かったね」


私はそのままベンチに倒れこんだ。


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