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銃と魔法と機械ヲタ(未完)  作者: 井上欣久
第一章 旅の始まり
7/27

1-1 薄い…

 今回は説明回+コメディです。

 7月1日。今回のトピック、を追加しました。

 僕の人生が一変してから3日後。


 僕は貨物用の車に閉じ込められ、都に護送されてゆくところだった。

 目の前には仕事熱心な看守が立ちはだかり、恐ろしい顔で僕をにらんでいる。

 この看守の目をかいくぐって逃亡することは、おそらくは不可能。絶望的な未来しか見えない。

 それはつまり、この場で緩慢な拷問を受け続けなければならないという事で…


「兄様、手が止まっていますよ。ご覧になるなら私ではなく手元の御本にしてください」

「いや、ラシャは可愛いな、と思って」

「…そんな事ではごまかされません」

 いや、嘘でもないんだけどね。

 お風呂に入って汚れを落としたラシャちゃんは思っていたよりずっと美人だった。ひょっとしたら性的なアレコレを避けるためにこれまでは意図的に顔を汚しまくっていたのかもしれない。発育不良のやせっぽちなのは変わらないが、外見的魅力はこれまでの五割増しといったところか。

 整った顔立ちよりもっと僕の目を引き付けるのはその髪だ。色素が薄いとは前から思っていたが、まさか煤や泥の汚れの下から金色の髪が出てくるとは全く予想もできなかった。

 遠い異国には金の髪の人々が住むと聞いたことはある。時折その人たちが海を越えてやってくるとも聞く。

 彼女はそう言った人たちの血を引いているのだろう。

 あの魔力の強さを考えると異国の貴族の子弟、という事もあり得るかもしれない。


 かわいらしい看守の機嫌をこれ以上損ねるつもりはない。

 僕は手元の絵本に目を戻し、そこに書かれている文を黒板に書き写す作業に戻った。

 これは僕の読み書きの能力が標準よりかなり低いと判定されたための処置だ。足の怪我の悪化で安静を言い渡されている身としては、おとなしく受け入れるしかない。

 いや、最初は脱走を企てたのだが、そうしたらラシャちゃんが見張り役を拝命してきた。


 読み書きの能力が僕よりは上、という事で教師役まで兼ねていたのにはプライドが密かに傷ついたが。


 


 僕の現在の身分は「蒼き風の団員見習い」という事になっている。

 ラシャちゃんのほうは未定。ではあるが、将来に不安はないらしい。この子ほどの魔力があればどこの貴族も喜んで養子に迎えるだろうという事だ。最終的には本人の希望を尊重して決めるそうだが。

 ちなみに、僕たち以外のチビたちもこの旅に同行している。子供たちを「戦利品」扱いしたがった連中も南陣地の妖怪が紛れ込んでいたことに恐れをなしたようだ。さっさと連れて行ってくれと、こころよく送り出してくれた。

 彼らも都への道すがら落ち着き先を探すことになる。




 僕は貨物車の幌をめくって外を眺めた。

 貨物車はあの戦いのときに乗った魔導車に牽引される無動力の車両だ。

 あの夜には結構なスピードで走り回っていた魔導車だが、重い無動力車を引いての巡航速度はあまり速くない。人間が全速力で走れば追いつける程度だ。


 外に広がるのは僕が生きてきたあたりではほとんど見かけなかった平坦な土地。

 その貴重なはずの土地が緑豊かな水田となって一面に広がっている。

「兄様?」

「これも勉強だよ。見てごらん、ここから見える範囲がすべて水田なんだ。という事は、山の上から見えていた緑だったり茶色だったり金色だったりした土地が全部水田だったって事だ。あれだけの広大な土地がすべて食糧生産に使われていたなんて、僕たちが飢えていたのはいったい何だったのかという気持ちになるよ。食べられる野草の群生地を見つけて喜んでいた僕らとはレベルが違う」

「そう、ですね」

「今、走っているこの道も興味深い。魔導車がきっちり走れる幅になっている。道に合わせて車を作っているのか、その逆か。その割にはほかに走っているのは馬車や牛車でサイズが違う。日常的に走っているわけじゃない魔導車に合わせて道を作っているのか?」

 考えられるのは、この道を走る乗り物の中で一番大きなものが魔導車でそれを基準に道幅を決めている、というあたりか。

 それならそれで凄い。

 二倍の幅の道を造るには、造る手間も維持する手間も二倍以上になるはず。

 平地に住む人たちにはそれだけの余裕があるという事だ。

「兄様はそんなことを考えていたのですか、びっくりしました」

 ラシャちゃんが目をキラキラさせて賞賛してくる。

 本気で眩しい。

「僕は疑問に思ったことを放っておけないだけだよ。…そういう訳で、魔導車がどんな仕組みで走っているかの探求を」

「ダメです。その足で別の車両に乗り移るのは無理です。無理ばかりしていたら、治る怪我も治りませんよ」

 残念。やっぱり、この手にも引っかからなかったか。




 先頭を走っていた魔導車が道から外れたようだ。

 ちなみに、あれがダンスバンの3号車。一番の荒事仕様だそうだ。

「あれ、お昼かな」

「そのようですね。ちょっと早い気もしますけど」

 ま、お昼の休憩を決めるのは時間よりは場所だろう。魔導車三台とその牽引車が入れてユーターンまでできる場所はそう多くない。

 今日の休憩場所は収穫の時期には稲の集積に使われると思われる広場だった。

「兄様、今日は逃がしませんからね」

 ラシャちゃんが臨戦態勢に入っている。

 お昼の休憩のときには各車両の足回りの点検が行われるので、見るべきものが多いのだ。

「大丈夫、サスペンション周りは昨日、しっかり堪能したから」

「兄様の興味をひくものなんてそこらじゅうに溢れているに決まっています」

「否定はしない」

「たとえ嘘でも否定して、私を安心させる気はないのですか?」

「僕の嘘で安心するようなら、この子は頭が悪すぎるんじゃないかと、今度はこっちが心配になるな」

「兄様から見ればたいていの人間は頭が悪いのでしょうが、心遣いはまた別ですよ」

「ラシャはちゃんと賢いよ」

 僕は彼女の頭をなでた。

 きちんと手入れされた髪はサラサラで気持ち良い。

「誤魔化されませんから」

 と、言いながらラシャちゃんは動こうとしない。

 僕だっていつでも打算で動いているわけじゃないんだけどな。


 


 僕たちが乗っている2号貨物車も広場に停車したようだ。

 僕は手製の杖を取り出し、立ち上がろうとする。

 この杖、体重をかけられるように横木を取り付けてみたがなかなか具合がよい。これが2本あれば負傷箇所に負担をかけなくとも結構動き回れる。

 ラシャちゃんはそれでも不安のようだが。


「よ、お二人さん。勉強はかどってるか」

 出入り口の幌がめくりあげられた。

「ダンスバン。ま、それなりにはかどっていますよ。サボっているとすごい顔で睨まれるもので」

 無駄に美形な男は軽く笑った。

「ラシャちゃん、今日も美人だな」

「どういたしまして。ダンさんもいつも通り男前ですね」

 別に、僕は不機嫌になってないからね。

 それより、ラシャちゃんの右手が不自然に動いたのが気になった。

 それまで手に持っていた薄い本をまるでダンスバンから隠すように体の陰に回していた。

「そういえばラシャちゃん、その本は?」

「え、これ、ですか? エリナさんが文字の勉強にはこういう本が良いって…」

 なぜだろう、ラシャちゃんが慌てている。

 顔が赤い。

「エリナが?」

 ダンスバンの顔には不信と不安の影。

 なんだか良く分からないが、面白そうだ。

「その本の表紙、僕にはダンって書いてあるように見えるんだけど」

「え、え、いえ、そんなことありません。兄様はまだ字がよく読めないから」

「まさか、エリナの書いた本…」

 不信と不安の影、で済んでいたものが、卒倒しそうな顔に進化した。

「エリナさんって、本なんか書けたんですか? これ、手書きじゃなくて印刷ですよね」

「自費出版というやつだ。金さえあればどんな内容であれ出版可能だ。…どんな内容であれ…」

 これは地獄の底からの呪詛の声、かな。

「どんな内容なの?」

「言えません、言えません、言えません。そんなこと絶対言えません」

 と、言いながら、金髪の天使は上目づかいにダンスバンに問う。

「でも、これに書かれていることって、実話、なんですか?」

「エリナぁぁぁぁ、子供になんてもの読ませるんだぁぁぁぁっっっ」

 美形を台無しにする絶叫が、広場中に響き渡った。


 結論。

 うちの若者頭は刺激すると面白い。

 薄い本の中身は最後まで教えてもらえなかったけどね。





 今回のトピック。

 肖像権。

 明らかにこの世界では肖像権という概念はあまり普及していないようです。

 

5月27日。タイトルのみ変更しました。

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