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銃と魔法と機械ヲタ(未完)  作者: 井上欣久
第二章 湖上都市
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2-5 新装備

 市長の部屋から戻った後は目の回るような忙しさになった。

 蒼き風3号車の戦闘装備への換装作業。

 まず、後ろに引いていた貨物車はすべて切り離す。

 1号車は炊飯車両、2号車は鍛冶車両を引き続き繋いでいるが、3号車だけは牽引車両なしだ。

 貨物車がなくなった後、市庁舎の倉庫から引っ張り出されてきたのは魔導車用の装甲板だった。木と鉄の二層構造になっていて幌の外側に取り付けることができる。

 この国で使われている魔導車はすべて規格が統一されていて、どこの集積所に置かれているパーツでもすべての魔導車にすぐに取り付けることができる。…という建前があるらしい。

 現実はそうではないが。

 製造された年や工房で魔導車のサイズや構造は微妙に違う。

 その上、長年にわたって現地で修理や改装を重ねながら使用されているので、各魔導車はそれぞれが全く別物になっているようだ。装甲板の取り付けには加工のしなおしや微調整が不可欠だった。


「おい、ハルゾ、こっちも頼む」

「了解です」

 ほくはその作業で引っ張りだこになった。僕というより、これまでの「劣化」魔法のバリエーションである新魔法「軟化」が大人気といったほうが良いかもしれない。

 これは金属加工の経験を積んでいるうちに身についた魔法だ。金属の硬さを変化させ、最大パワーで使えば粘土のように素手で加工することも可能になる。微調整には便利すぎるぐらいの魔法だ。おかげで途中から1号車2号車にも出張させられた。


 装甲の取り付けが終わると、3号車には足回の改良が加えられた。

 本来ならこんな改造は半日やそこらで出来ることではないはずだが、僕がいれば不可能ではない、という事で改造パーツの使用が決定したようだ。

 もともと一本で済ませていた魔導車後部動輪の車軸、これを左右二本に分割する。それぞれが独立して回転し、必要な時には片側の回転を止められるようにする。


「で、なんでこんなややこしい事をしているわけ?」

「おいおい、お前にそんな事を言われたら困るぞ。この機構を操作するのは機関手なんだからな」

 賄で顔を出したエリナさんとダンスバンの問答だ。

「こいつはな、魔導車の旋回能力を画期的に向上させる工夫なんだ。旋回半径を今までの半分以下にできる。そもそもだな、これまでの魔導車の構造だと車は常に直進する性質が…」

「ストップ、ストップ」

 我らの操縦手さんは新しい改良にたいへん浮かれてらっしゃるようだ。気持ちはとってもよく解る。

 エリナさんにはなかなか理解されないようだが。

「ハル君、結局これって何なの?」

「魔導車の旋回半径を小さくする工夫、で間違っていませんよ。今までは一本の車軸で左右両方の車輪を動かしていましたが、これだと左右の車輪の回転速度は同じになります。ところが、車が旋回する場合、外側の車輪のほうがより多くの道のりを走ることになるわけで…」

「直径かけるぱい、って奴ね」

「は?」

「ハル君も数学を勉強すればわかるわよ。それで、私は具体的には何をすればよいわけ?」

「機関部に床から出ているレバーが増設されています。そのレバーを右に倒せば右の車輪が、左に倒せば左の車輪が空転するようになります。操縦席から旋回すると指示が出たら、右へ旋回するなら右へ、左へ旋回するなら左へレバーを倒してください。指示がうまく聞き取れないようだったら、これは左右が逆になっても大きな問題はありません。最悪、直進するときに片側が空転していてもさほど大きな問題はないはずです。片側だけに負荷をかけることになるとか、まっすぐ走りにくくなるぐらいで」

「私の責任は軽いって事ね」

 エリナさんは停車中は料理人として1号車側にいるが、走行中はその豊富な魔力を生かして3号車の機関手になる。ちょっと複雑な立場だ。

「将来的にはレバーを伸ばして操縦席から直接操作できるようにしようとか、いっそのことハンドルと連動させてしまおうとか考えていますが、残念ながら今回は間に合いません」


「コラァァッッ、小僧ども、手が止まっているぞ」

 いきなり怒鳴られた。

 怒鳴って来たのは言わずと知れた筋肉ダルマ、メルケラン。

 いや、手が止まっていると言われても機関手への機能の説明は必要なことだし、装甲板の取り付けも動輪の改良もほぼ終了している。あとは試験走行してみるぐらいしかないはずだが…

 横目で見るとダンスバンも、何を言われているのかわからない、って顔をしている。

「小僧ども、ひょっとしてそれで仕事が終わってると思ってるんじゃないだろうな。それのどこが終わっている? マニュアルを読んだことがないのか?」

 僕にはまだ早いだろうと、僕はまだマニュアルには触らせてもらっていません。

 図面の意味は大体わかるようになっているんだけどね。


「ハル小僧が解らないのは、ま、仕方がない。だがな、ダン。お前はいったい何年魔導車に乗ってるんだ? 戦闘装備にはまだ足りないものがあるだろうが」

「ハッ、申し訳ありません」

 残念美形がいきなり直立不動の姿勢をとった。顔から血の気も引いている。

「やっと気づいたか。足りないのは何だ? 言ってみろ」

「戦闘装備の場合、車体の重量の増加に対応するため車輪を二重に装着することになっております」

「その通りだ。3号車の戦闘装備はまだ完了していない。作業再開、急げ」

「了解であります」


 僕の仕事もまだまだ終わっていないようだ。

 そういえば、さっき装甲板を引っ張り出した倉庫に魔導車用の車輪も置かれていたな。ただの予備だと思って気に留めていなかったが。

 いくら機械いじりが好きでもここまでひっきりなしだと休憩がほしくなってくる。

 そもそも昨夜は夜通し移動していて、全く寝ていないとは言わないが熟睡はできなかった。

 さっきからの作業で魔力の消耗も激しい。

 ため息をついて動き出した僕に、エリナさんはとってもいい笑顔を見せた。

「男の子たちのお楽しみはまだまだ続くって事ね。ご苦労様。差し入れはここに置いておくから、作業が一段落したら食べてね」

「ありがとうございます」


 僕は作業を再開した。


 自分の傍らに誰もいないのをもう一度確認してから、ね。






 今回の魔法。

 軟化。

 主人公ハルゾの新魔法。

 素材の引張強度を低下させて砕いたり抉ったりを容易にしていた「劣化」と違って、文字通り物体の硬さを低下させる魔法。ただし、金属のようなもともと曲げたり延ばしたりできる素材にしか効果がない。

 この魔法を披露した後、彼のあだ名は「素手でリベットが打てる男」、略して「素手ベット」になったという。

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