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銃と魔法と機械ヲタ(未完)  作者: 井上欣久
第二章 湖上都市
18/27

2-2 東尾市

 僕は不満だった。


 僕は不機嫌だった。


 僕はやり場のない怒りにはらわたが煮えくり返っていた。


 ラシャちゃんにプロポーズめいた言葉を吐いたとき、あとで後悔するかもしれないとは思ったが、まさかこういう後悔の仕方をするとは思わなかった。


 小早川慎之助と名乗ったサムライは紫でふちどりされた派手な書状を持参していた。

 それに目を通した団長は即座に宣言した。


「全車発進。我々はこれより戦闘任務に入る」


 ダンスバン達の顔つきが旅芸人の物から訓練された兵士の物へ見事に切り替わった。

 僕たちはこれから夜になるというのに発進した。明りの魔法を使えるものが前に立ち、夜間行軍をおこなう。

 とてもではないが、ラシャちゃんの事など相談できる空気ではなかった。

 ひとまず目的地には変更はなかった。湖上都市、東尾市に向かう。


 でもね、ラシャちゃん。君はなんでそんなに聞き分けが良くなってしまったんだ?

「戦闘任務が発令されてしまった以上、私を連れだすのはもう無理ですよ」

「そんな事はやってみなければ解らないだろう」

「無理です。戦闘が始まった時に部隊を離れることを認める軍隊なんてありはしません。脱走扱いにされます。犯罪者です」

「脱走兵でも僕は別にかまわないけど…」

「私は構うんです」

 何で僕のほうが駄々をこねているような状態になっているんだ?

 理解不能だ。


 エリナさんが近づいてきてラシャちゃんの頭に手を乗せ、自分のほうへ引き寄せた。

「ここはラシャちゃんが正しい。ハルくん、男らしく覚悟を決めなさい」

「自分でも子供っぽい不満だと解っているのですが、それならさっきの大さわぎはいったい何だったのかと…」

 僕の両腕は痣だらけだし、殴られた腹にもダメージが残っている。僕が恨みがましい視線を向けると狐少女は一瞬だけ後ろめたそうな顔を見せ、小さく舌を出した。

 小憎たらしい。

「あらあら、あなたたち喧嘩でもしたの?」

 喧嘩というか、殺し合いになりかけました。

「兄様は私の面倒を見てくれる約束をしてくれました」

「その件に関しては、今真剣に考え直しているところだ」

 僕はため息をついた。が、僕に発言の権利はないらしい。

「そういう事なら、ハル君が張り切るのも無理ないわね。いいわ、お姉さまに任せておきなさい」

「よろしくお願いします」

 女性二人で意気投合している。

 正直なところ、重要な案件を他人に任せるのは僕の好みに合わない。だが、今回の件は何をどうすれば解決できるのか見当もつかない。いや、言いなおそう。今回の件は事態をどういう形で納めれば「解決」と言えるのか見当もつかない。脱走兵として追われながら、収入の当てもなくラシャちゃんと二人で皇国中を逃げ回る、何て未来が「解決」ではないのはさすがの僕にもわかる。

 ここはエリナさんの手腕に期待したほうが良いかもしれない。


 僕たちは夜を通して移動をつづけ、夜明け前に東尾市の正門にたどり着いた。

 その門はほぼノーチェックで開かれる。

 そんなに簡単でよいのかと思ったが、よく考えてみれば魔導車を3台も運用している時点でそこらの無法者のはずはないと判断できるのだろう。

 正門を通った後、遠くまで見渡すための巨大なやぐらを横目に浮橋を渡る。

 東尾市が湖上に作られているのはここへ移り住んだ人たちが安全を重視したためであるらしい。山賊や無法者を警戒するにしては明らかに過剰な防備だ。その当時はもっと大規模な戦争が行われていたのかもしれない。


 浮橋を渡った先は埋立地らしいしっかりした地面だった。

 白み始めた空を背景に、今まで僕が見たことがないほど大きな建物が森の木のように大量に立ち並んでいる。これ全部に人間が住んでいるのかとあきれ返る。

 魔導車は大きすぎるので都市の脇道には入れない。

 中央の大通りをまっすぐ進み、ひときわ大きな建物の前に出る。僕にとっては人工物と思えないぐらいの巨大さ。これまで通ってきた村の村長の館やお寺なども大きかったが、これはもう比較の対象を「山」にしたほうがいいぐらいだ。とりあえず、山よりは小さいな。ごてごてとした飾りが多くて気に入らない建物でもある。内部の構造や機能が透けて見えるような複雑さなら大好きなのだが。

 僕たちはその巨大な建物のわきにある入口から中に入った。

 敬礼で迎えられたところを見ると兵舎かそれに類する施設だろう。内部にはあまり小回りが利かない魔導車がUターンできる構造があった。


 魔導車が停車すると、いつもならすぐにも点検と整備が始まる。

 今回は違った。

 車の前に団員全員が整列する。元子供兵のチビたちもラシャちゃんを先頭に並んでいた。

 バードラ団長に全員で敬礼。慣れていないので僕の敬礼は少し遅れたと思う。

 いつの間にか団長はきっちりした軍服に身を包んでいた。装飾部分が多いのでたぶん実戦用ではなく礼服だと思う。彼は答礼を返した。

「諸君。もう察しているものも多いと思うが、蟲情報が入った。場所はここより北方、七金地方。まつろわぬ者たちとの交戦がなければ今頃商売で回っていたであろう我々の管轄地だ」

 周りのみんながわずかに動揺した。管轄地、という事はその場所に知り合いが多いという事だろうか?

「我々蒼き風はこの東尾市で整備と補給を行った後、商売用の荷車は切り離す。戦闘装備のまま最大巡航速度で北上。情報の確認と可能であれば敵の殲滅を行う。出発は明朝を予定。以上、何か質問は?」

「はい」

「エリナか、なんだ?」

「そのスケジュールですと避難民ラシャの里親を探す時間がありませんが、どうなさいますか? ほかの子たちと一緒に孤児院に預けますか?」

「うむ、魔法の素養の高い子を孤児院に置いておくのも不安ではあるな。ラシャの身柄はここの市長殿に預けることにする」

「ではお願いがあります。ラシャの身柄を預けに行く際、見習い兵ハルゾの同行を許可願いたい」

「それは必要なことか?」

 鋭い瞳が僕を見つめる。

 エリナさんの提案は僕にとっても意外だったが、何かしら考えがあるのだろう。僕も正面から団長の視線を受け止めた。

「よかろう、許可しよう。朝食後、礼装に着替えて避難民ラシャとともに出頭せよ」

「了解しました」

 僕の着る礼装なんてどこにあるか知らないが、ああ命令するからにはどこかにはあるのだろう。

「ほかに質問はないな。以上、解散」

 再び敬礼。


 偉いさんに会いに行くのだから間違っても油染みなどつけていくな、と僕は点検整備の手伝いを免除された。

 代わりに髪がぼさぼさだとかクレームを付けられつつ、どこからか引っ張り出した予備の礼装を身に着けさせられた。袖丈が少し長かったが、着られないことはない。

 ラシャちゃんも一番いい服を着て精一杯おめかしさせられていた。金髪を隠す帽子は屋内なので着用不可だそうだ。

 馬子にも衣裳とはこのことか、おめかししたラシャちゃんは金髪だけでなくキラキラしい。

「ハルゾ、お前はラシャちゃんについていればそれでいい。あとの難しい話はこちらでやる」

「了解です」

 エリナさんの思惑的にそれでいいのか疑問に思うが、「疑問に思う」ぐらいで抗明するわけにもいかない。

 

 こちらの準備は朝の早いうちにできていたのだが、市長のほうは朝があまり早くなかったらしい。面会の許可が出たのはもう昼近くなってからだった。

 面会のメンバーはバードラ団長と僕、ラシャちゃん、それから巨漢のサムライ小早川慎之助。

 僕らは財力を見せつけるような虚飾に満ちた廊下を延々と歩かされた。ラシャちゃんについていればよいと言われたが、心細いのかラシャちゃんのほうからぴったりくっついて来たので問題ない。

 途中、この建物にいるほかの人間より粗野な感じの二人組とすれ違った。商人風の男と用心棒と思われる筋肉の盛り上がった男。どこかで見たような気がするが、そんなはずはない。こんなところを歩いている人間を僕が知っているはずはないから。

 巨漢のサムライは剣呑な目つきになった。

「クロバネ殿、いい御身分でござるな。我らに会う前にあのような連中を通すとは」

「今の二人か? 彼らは何者なのだ?」

「人買い、女衒の類であるよ。ここの市長は女好きで有名なのでござる」

 ラシャちゃんの手が僕の礼服の袖をギュッとつかんだ。僕もちょっとぐらいは殺気を出していたかもしれない。

「あ、いや、羅紗殿は大丈夫でござろう。あの男の好みとはかけ離れているゆえ」

 それはそれでなんだか不満そうにしているな。



 やって来たのは大きく豪華な両開きの扉の前。警備の人間が立っているところを見ても、ここが重要な場所なのは間違いない。

 団長と二言三言喋ると、彼は声を張り上げた。

「蒼き風のバードラ団長、サムライの小早川様とおつきの方がいらっしゃいました」

 僕とラシャちゃんはおまけ扱いか。ま、そんなものだろう。

 ここから先何をしたらよいのか、僕には皆目見当もつかない。

 だが、エリナさんがせっかくチャンスをくれたのだ。よく目を開き耳を澄ませて、ラシャちゃんの立場をよくする機会を探すべきだろう。

 当座はバードラ団長の随員らしい護衛らしい動きを徹底することになるが…

「入ってもらえ」

 扉の中から女好き市長の声。意外なぐらい力強い張りのある声だ。

 豪華な扉が開かれてゆく。

 そこには…

 予定していた部分までストーリーが進んでいませんが、長くなりすぎたのでいったん切ります。

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