1-5+ 講釈師
ちょっと番外編。
語り手ダンスバン、副音声ハルゾでお送りいたします。
前奏となる旋律をかき鳴らす。
徐々に盛り上げていく音。そして、声を張り上げる。
「さあ語ろう。ここより東、あれに見える黒武士岳に巣食いしまつろわぬ者共の生と末路を。中でも東の妖怪と恐れられし彼らの首魁、変幻自在の神通力を誇った魔人クルナフのことを」
(南の妖怪クルナフを東と読み替えているのはここから見て東だからですか? 芸が細かいですね)
「クルナフの生まれを知るものは少ない。ただ、生まれながらに矮躯、親に愛されぬ醜い子供であったという。だが、彼には溢れんばかりの魔法の才能があった。彼は精進をつづけ、他者の心を偽る術を身に着けた。彼は他者の前に立っても気づかれずにいることができた。彼は他者に自分を偉大な存在だと思わせることもできた。だが、彼は孤独だった」
(このあたりは僕への聞き取り調査の内容ですね)
「心を偽っても望むものが手に入らないと悟った彼は、次に変化の魔法を身に着けた。これにより彼は醜い身体から逃れることができた。だが、それは禁断の魔法。変化を繰り返すうちに彼の心はゆっくりと歪んでいった」
(あいつの心はもとから邪悪だったとしか思えません)
「クルナフは近隣の無法者、はぐれ者を配下に収め徒党を組んだ。そして黒武士岳の山頂に居を構えた。鳥が地を歩き、樹木さえも大きくは育てぬ高所であった」
(そこまで高いところにはいきません、山頂なんて不便じゃないですか)
「クルナフの一味は暴虐をほしいままにした。麓の村を襲い、交易路を襲い、この地の領主様をも脅かした。金品を奪い、食料を奪い、子供たちまでさらった。毎朝一人子供を食するのがやつめの日課であった」
(話を膨らませすぎじゃないですか?)
「ここで、この話に一人の姫君が登場する。はるか西方よりこの地に逃れ来る姫君、黄金の髪を持つ少女がクルナフの目に留まったのだ」
(あの、姫君?)
「クルナフは姫君を一目見て激しくほしいと思った。そして、姫君を護衛していた一行を配下とともに襲撃した。激しい戦いがあった。山肌を崩し川を赤く染める戦いであった。護衛たちは良く戦ったが、力及ばず、姫君は山頂のアジトへ連れていかれることとなった」
(まるで見てきたようなうそを言い、ですね)
「アジトに連れていかれた姫君は、そこで同じくさらわれてきた子供たちと出会った。彼らはクルナフに喰われるために太らされている途中であった」
(太れませんでした)
「さて、ここでもう一人の人物が現れる。彼はこの地に生まれし若者、幼き頃クルナフにさらわれたが、少しばかり気が利くとしてほかの子供たちの世話を任されていた。彼もまた姫君を一目見て恋をした」
(それ、誰ですか?)
「あなただけはわが身に代えてもここから逃がしてみせる」
「断言する若者だったが、姫君は首を縦には振らなかった」
「私一人で逃げることなどできません。私が逃げるときにはここにいるみんなが一緒です」
「子供連れではクルナフたちに追いつかれます。逃げきれません」
「言い募る若者だったが、姫君の決意は固く、惚れた弱みで若者の側が折れるしかなかった」
(僕はラシャちゃんにそこまで弱くないですよ)
「若者は一計を案じ、クルナフたちが飲む酒に眠り薬を入れ込んだ。こうして貴重な時間を稼ぎ、子供たちを連れた二人は逃げ出した。崖を下り沢を横切り、今我々が立つこの村へ逃げ込もうと大急ぎだ」
「目を覚ましたクルナフは怒髪天を突いた」
「逃がすな、絶対に逃がすな。奴らは我の物。奴らの血の一滴に至るまで我の物だ」
「さて、つい先日この村を軍隊が通過していったことはご記憶かと思う。あれこそはクルナフめの暴虐を憂いたミカドが遣わせた討伐軍であった。我々蒼き風もその一翼を担い、兵糧を積んで戦地へと向かった」
「そういう事情なので今回の市が商品不足なのはどうかご容赦願いたい」
「討伐軍は黒武士岳の麓の扇村を本陣に定め、山頂に向かって進軍を開始した。逃げ出した姫君たちは彼らと顔を合わせることとなった」
「おお、子供たちを助け出してくれたのか。ありがたい。これで何の遠慮もなく奴らを征伐できる。あとは任せるがよい」
「姫君たちを追いかけたクルナフ一味は隊列を組んだ討伐軍の銃口の真ん前に飛び出すこととなった」
「無数の銃声が山中にこだました」
「いかに妖怪クルナフと言えど、その本領は変化の技を使った潜入と攪乱。正面からの対決となっては討伐軍にかなうはずもなく、さんざんに打ち負かされた」
「戦いに勝利した討伐軍は、その主力を山頂のアジトの占領へと差し向け、一部の者は子供たちを護衛して本陣へ戻ることとなった」
不吉な旋律の効果音。
「草木も眠るころ、クルナフは嗤っていた。そこは本陣のある扇村であった。いつの間にやら彼はその変化の技を使って助けられた子供たちの中に紛れ込んでいたのだ」
「彼は体をゆすってその本性を現した」
「その下半身は馬であった。馬の首があるあたりから人の胴体がつながっていた。その両腕は蛇であった。その頭部には赤い目がらんらんと輝き、鋭い二本の角が天へと屹立していた」
(角はなかったと思います)
「クルナフは夜食代わりに子供の一人を一飲みにすると、主力が出払った後の本陣を強襲した」
「危うし、危うし討伐軍」
「阿鼻叫喚の夜であった。突然の夜襲に討伐軍は崩れたち、クルナフは村中を駆け巡りながら兵たちを一人また一人と食していった」
「そこで立ち上がったのはかの若者であった」
「クルナフよ、つい昨日までお前に従ってきたが、お前がわが両親を殺害したことを忘れた日など一日たりと無い」
(両親の存在自体、忘れ去っていますが、何か?)
「小癪な小僧め。お前では俺には勝てぬという事を今一度教え込んでくれる」
「手下を連れていないお前になら、勝てる」
「若者もなかなかの腕前であった。鉈のように分厚い剣でクルナフの蛇の両腕と打ち合った」
「しかし、馬に乗っているに等しいクルナフが相手ではやはり劣勢。次第に追い詰められていった」
「さあ、どうする?」
「若者が目を付けたのは、不肖この私めであった」
「若者はこの魔導車の屋根にすっくと立ち、この私に命令した」
「そこのお調子者、この車を今すぐ動かすがよい」
(屋根の帆布の上に立つのは不可能です。這いつくばるのが限界でした)
「魔導車に乗ることでクルナフを上回る高さを手に入れた若者は猛然と反撃に移った」
「その一刀めは右腕の蛇をえぐり、二刀目はその角を切り飛ばした」
「今だ、魔導車をやつにぶつけろ」
「合点承知」
「近くにお立ちの方はどうかご覧ください、この魔導車の正面にできた真新しいくぼみ、これこそが東の妖怪クルナフにこの車をぶつけた時にできた跡であります」
(ダンスバン、自分が素手でクルナフと取っ組み合いをしたことは語らないんですね)
「ああ、怖かったであります。あの怪物に正面からぶつかるなど、まさしく心臓が止まるかと思ったであります」
「しかし私の魔導車は強かったであります。怪物にぶつかり、押しつけ、押しつぶし、遂にクルナフの動きを封じることに成功したであります」
「若者は跳躍し、怪物の肩に飛び乗った」
「おのれ、おのれ、おのぉぉれぇぇぇぇぇっっ」
「クルナフよ、両親の敵、お前に喰われ続けた子供たちの敵、姫君のためにも討たせてもらう」
(似たようなことは思っていたような気がする。口に出すほどアレじゃなかったと思うけど)
「若者は飛び降りざまに剣をふるった。血がしぶき、巨大な頭がごろんと落ちた。それが妖怪と恐れられた男の最後であった」
今回のトピック
このクルナフ討伐の話はなかなかのヒット作となり、変化する妖怪はご当地の魔王として親しまれることとなった。
のちにはその魂を慰撫するために変化神社なる社が作られ、人々の信仰を集めた。怨敵退散と旅路の安全にご利益があるとされている…
「今回の…」はなかなか気に入ったので今後も入れていこうかと思案中。




