8016E列車 こうしてね
それは2年生に冬であった。
「はぁ。ナガシィ。早く学校行こう。」
萌は僕の前に立って先に歩いている。
「別にいいじゃん。ゆっくり行ったって。」
「・・・ナガシィは寒いの平気なの。」
「・・・。」
別に平気ってわけじゃない。でも、僕には冬限定の楽しみがあるのだ。冬は吐く息が白くなる。当然このときの僕にはなんで吐く息が白くなるのかなんて、その理由は分かるはずがない。でも、息が白くなることによって、僕はエスエルができることを楽しんでいた。
「はぁ。」
と言って息を口から吐く。すると口が煙突の代わりになって白い息を吐き出すのだ。
「ナガシィ。何してるの。」
萌はそんなことどうでもいいと思っている。
「いいじゃん。別に。面白いんだってば。」
「面白いねぇ。ナガシィそんなこと面白いの。変なの。」
「・・・なっ。いいじゃん。別に。」
「早く行こう。」
「えっ。わっ。」
萌は後ろから僕のランドセルを押して、強引に前にすすめる。僕は前にあんまり早く進みたくないから、ちょっとだけ足踏みをする感じで踏ん張ろうとするけど・・・。進まないもんだね・・・。
学校に着いた。教室まで萌と話して、席にランドセルを置く。手袋をとると、冬の寒さが手に伝わってくる。寒さで凍りつきそうになるぐらい寒い。手の指がどんどん冷たくなっていく。こうなると僕は手を首元にあてる。首元がなんで温かいのかは知らないけど、ここは温かい。ここに手を当てていれば、冷たくなった手もすぐに温まる。
「ふぅ・・・。」
一息つくと、その光景を見ていた萌が話しかけてきた。
「ナガシィ。何してるの。」
「えっ。ここに手を当ててるの。」
「見ればわかるよ。なんで手を当ててるの。」
「温かいもん。」
そう返すと、萌の冷たい手が首元にやってきた。
「ツメタッ。」
「そんなに冷たい。」
「うん・・・。」
「ちょっとナガシィ。手どけてよ。」
「えっ。」
そう聞き返すと、
「もう温まってるでしょ。」
と言った。確かに。もう僕の手は温まっている。手をどけると萌の冷たい手が首元にやってきた。ちょっとその冷たさに最初はビクッとした。
「ナガシィあったかい。まるでホッカイロみたい。」
「冷たいなぁ。萌の手。」
ちょっとその冷たさから逃げたくなる。
「ちょっと。ホッカイロは動かないよ。」
「えっ。」
「あっ。ふつうのホッカイロは動かないけど、このホッカイロは動くから、動くホッカイロかなぁ。」
「ちょ・・・ちょっと。僕をホッカイロ扱いしないで。」
これが動くホッカイロと呼ばれるきっかけ。そのあとこのあだ名は磯部ぐらいにしか浸透しなかった。その結果が今である。