8015E列車 ホッカイロ
僕には「ナガシィ」以外にもう一つのあだ名があった。呼んでた人は本当に限られていて、萌と綾ぐらいしかいない。それが「動くホッカイロ」だった。
「ヒャッ。」
冬になると萌は僕の顔に冷たい手を当ててくるのだ。
「ナガシィあったかい・・・。」
「温かいじゃないよ。その手どけてよ。冷たいってばぁ・・・。」
僕がそう言うと萌はやめてくれるのかなぁ。そんなはずがない。やめてくれるわけはないのだ。
「えー。いいじゃん。もっと温めさせてもらうからねぇ。」
と言って、萌は今まで手を裏返して、今度は手の甲を向けた。こちらも強烈に冷たい。萌は僕の服の後ろから手を突っ込んで背中に手を当てているのだけど・・・。
「ひゃん。だから冷たいってばぁ。いい加減にしてよ。」
自分は今どういう声を出している。どうしてこういう声が出るのかということはいまだによく分かんない。余談ではあるが中学生になっても、高校生になっても、専門学校生になっても未だにこういう高い女声は出すことができる。しかも、普段の声も声変わりがしたという実感がない。それは、本編を参照していただこう。
「・・・。」
どうせ、何を言ったって萌はやめてくれるわけはないのだ。こういう時は嫌でも、受け入れてやることかなぁ・・・。一言補足。Mじゃないよ。
(別に何もしないよねぇ・・・。)
心配になりながら、僕は後ろで暖を取っている萌を見た。何されるのが一番怖いって・・・。すると萌の少し温まった手が背中から離れて、わき腹に来ていることが分かった。僕が怖い・・・いやなのはこれだ。
「ちょっ。萌。」
「いいじゃない。」
「よくない。僕はそこ弱いんだから・・・。あっ。」
「弱いんでしょ。」
「えっ。もう、聞かなかったことにしてよ。」
「ヤーダよ。」
まぁ、すでに時遅しというもので・・・。なんでこんなにいじられる僕になっちゃったんだろうか・・・。もとはと言えば結局は僕がまいてしまったタネだからなぁ・・・。
脇を閉めても、萌のくすぐり攻撃はやまない。まったく。それでおもしろがりやがって。僕の反応がそんなに面白い。後ろにばっか気をとられていると今度は顔に冷たい手がやってきた。
「ヒャッ。」
前を見ると磯部が僕の顔に両手を当てて立っている。
「ナガシィ君今日も温かいなぁ・・・。」
「ちょっ。」
「夏紀もナガシィ君で温まれば。」
「あん。あのさぁ・・・。」
なんかいろんな言葉が混ざった気がしたけど・・・。端岡は僕を見ると、ため息をついて、
「綾も萌もナガシィ君をいじるのがそんなに好き。」
「うん。好き。だって面白いもん。」
「・・・。」
「ナガシィ君。そういうこと嫌いじゃないのかなぁ。」
「そんなことないよねぇ。ナガシィ。」
首を振りたいけど、思ってように振れない。ていうより磯部に無理やり縦に振らされた。
「ほら、ナガシィ君だって好きって言ってるじゃん。」
「いっ。言ってあい。」
滑舌回ってないぞ。
そもそも。なんで「動くホッカイロ」なんて呼ばれるようになったのか。それは、こういうことがあったからだ。
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