雨
ちょっとだけホラーです。
たいして怖いものではないですけどね。
情景を想像しながら読んでみてください。
赤い傘を差している人がいた。
今日は青天である。
傘のせいで顔は見えないが、それは女性だ。
黒いスカートを穿いている。
傘を持った女性は、道の真ん中に立ったまま動かない。
歩行者はまるで気付いていないかのように、傘の女性を素通りしていく。
僕はしばらくその傘を見つめていた。
もしかしたら肌の弱い人で、常に日傘が必要なのかもしれない。
しかしそれならば、突っ立ったままというのが理解できない。
室内にでも入れば良いだろうに。
道に迷って困っているのかもしれない。
それならば目の前に交番がある。尋ねれば済む話だ。
どうやらこれも違っている。
誰かと待ち合わせをしているのかもしれない。
だとしたら相手は酷い人なのだろう。
こんな青天の街中で、肌の弱い人をこんなにも待たせるなんて。
彼此三十分は経っただろうか。
傘は微動だにしない。
さすがにおかしいと思った。
僕は少しだけ女性に近づいた。
女性まであと、三十メートル程だろうか、僕は立ち止まった。
今まで通行人で見えなかったからだろう。
僕は近付くまで気付かなかった。
女性を中心に道が濡れていた。
濡れた道は真っ黒に染まっていた。
僕は若干の恐怖を感じた。
よく見てみると、濡れているのは道だけではない。
女性のスカートもぐっしょりと濡れている。
そして僕は漸く気付いた。
これはよくないものだ。
女性は僕に気付いたのだろう。
少しずつこちらに近づいてくる。
何故か僕は動けなかった。
赤い傘が僕の目の前に見える。
僕の視界にはもう、それしか映っていない。
この傘、壊れているんです。
よく聞き取れたと思う程、それは小さな声だった。
僕は赤い傘を凝視したが、どこが壊れているのかは分からなかった。
分かりませんか?
先ほどよりも更に小さな声で、女性は囁いた。
そしてゆっくりと、女性は僕の手を掴んだ。
痛い。
なんだ、この手は。
冷たい。冷たすぎる。
痛みを感じる程に冷たい。
女性はその指を、しっかりと僕の指に絡ませた。
僕の体温が下がっていくのが分かる。
既に手足は震え、口内から歯のぶつかり合う音が聞こえる。
私も、寒いんです。
この傘壊れているんです。
だから、貴方も入りませんか?
理解できなかった。
この赤い傘は、一体何を言っているんだ。
赤い傘がゆっくりと上に上がっていく。
僕は女性の顔を見てはダメだと感じた。
だから僕は強く目を閉じて、顔を上に背けた。
僕の身体に生暖かいものが降りかかってくる。
じっとりと僕の身体を濡らしていく。
ほら、壊れている。
僕は女性の声に目を開けてしまった。
傘の内側が視界に広がった。
そこには夥しい数の顔が、みっしりと詰まっていた。
もう殆ど原型を留めていない物も少なくない。
僕はその顔が零す涙を全身に受け止めながら、意識を失った。
また壊れちゃった。
そう聞こえた気がした。
僕はゆっくりと目を開いた。
何もかもがぼんやりとしている。
眼下に女性の頭が見えた。
女性の髪はぐっしょりと濡れている。
僕はふと横を見た。
男の人が泣いていた。
その隣に女の人が泣いている。
その隣にも、上にも、下にも。
そうか、僕は傘になったのか。
僕はとても悲しくなって、泣いた。
なんとなく書いてみたくなったので書きました。
特に何も考えずに、想像を言葉にした感じです。
誤字脱字は、見つけ次第訂正いたします。




