沙希さんとの出会い
白いブラウス?
そう言って、たけしは笑った。
たしかにこのご時世いい大人が白いブラウスでブランコに座っているなんて今考えると不気味だ。だけどあの時は不気味といよりむしろどこか神聖的な、とても清潔な感じがした。
「お前、一目ぼれか?」
そう言うと、たけしは再び笑う。
「なに言ってんだよ、俺には好きな人がいるし」
「なんだ、そのとってつけたような物言いは、まあ、お前が沙希さんに結構本気だもんな。でも、まだほとんど話したことないんだろ?沙希さんと」
たけしの言葉に僕は言葉を失う。
「沙希さん美人だし、愛嬌もいいから人気あるもんな」
たけしの言葉が突き刺さる。なんて無神経なんだとは思うけれど的を得ているだけに何も言い返せない。
「じゃあ、お前が取り持ってくれよ」
沙希さんはたけしが入っているバンドサークルの一年上の先輩だ。
「馬鹿言うなよ、沙希さんと仲良くしたら彼女に怪しまれるだろ?お前こそ本当に沙希さんのこと好きなら今からでもサークルに入れよ。まだ後輩が入ってくる前に」
「いや、だってもうグループとか出来上がってるし、なにより、もうあんま音楽はやりたくないんだ」
そこまで言うと、たけしはじゃあ俺はそろそろサークルに行ってくるわ。と言葉を残して最後のそばをつゆをずずっと啜ってから食堂を後にする。
なぜサークルに入らなかったのか。
今考えると入っておいても良かったと思う。いや、これは結果論で沙希さんみたいな人がいるなんて知ったのはたけしに強引に呼ばれた夏のライブだった。
初めてみた瞬間に僕はその女性に心を奪われていた。
それは彼女の世界観というか空気というか空間というか、とにかくそのなにかに僕は吸い込まれたのだ。例えていうのならばふと蜘蛛の巣にかかった感じだろうか。その蜘蛛の巣は平面でなく立体的で糸は細くて見えないのでなくぼんやりとして溶け込んでいる。曲が進むにつれ僕は逃げ方を忘れるように彼女の魅力に溺れていった。いや溺れていったというより堕ちていった。
たった二十分ほどの彼女のステージに僕は完全に身動きが取れなくなっていた。
このとき僕は恋に堕ちたのだ。