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第5章:終わる時、守りたいもの

ここまで読んでくださりありがとうございます。

いよいよ最終章「終わる時、守りたいもの」です。


これまで時を止め、戻し、何度も運命をやり直してきた悠真。

しかしその代償として、心は限界に達しています。

街を包む炎と、再び迫る隣国の軍勢――。


本当に“大切なもの”とは何か。

そして「時を戻す」という力の意味を、彼はようやく知ることになります。

 辺りは静まり返っていた。

 街はもう形を保っていない。瓦礫の山、崩れ落ちた家、黒く焦げた大通り。

 領主の館の大食堂では、避難した市民たちが息を殺していた。


――これが、俺が望んだ世界の結末なのか。


 館は包囲する兵士たちの松明の明かりで照らされ、今にも入口を破られ、なだれ込まれそうだった。


 嵐の前の静けさとは、このことか……。


「ユウマ、大丈夫?」


 こんなときでもリナは優しく声をかけてくれる。

 部屋の隅に座り込み、絶望で諦めかけている自分が恥ずかしくなってきた。


「あぁ、リナ……ごめん」


「ゴメン?」


「みんな外を警戒してくれているんだろう。なのに俺は、こんなところにいて」


「ううん。ユウマが逃げずにここにいてくれたことが嬉しい。みんなのこと、気に掛けてくれたんだよね」


 そう言って、手に持っていた暖かいスープのカップを渡してくれた。


 本当は、俺が原因で街のみんなを巻き込んだなんて言えなかった。

 ただ後ろめたくて、一人で逃げ出せなかっただけだ。


「外の様子は?」


「今のところ動きはない。ミーナが何人か魔法使いを集めて、夢喰いのなんとか? っていう結界の準備をしてる」


 夢喰ノ封陣むくいのふうじん

 またの名を三流交鎖のさんりゅうこうさのじん。ミーナから以前聞いたことがある。

 侵入する者を夢界ムーンレルム――いわゆるあの世へ引きずり込む霊的なバリアのことだ。


 それを使ってこの部屋を守るのだろう。維持する為に術者は手が空かなくなる。

 魔法使いたちの支援を受けられなくなるが、数百人の市民を守りながら戦うよりは、遥かに負担は減るはずだ。


 俺とミーナは食堂を出て外周廊下へ。そこは窓から外を警戒している冒険者と衛兵で守られていた。

 このままあと二日間を凌げば、王都からの援軍が到着する。

 しかし二日どころか、朝までもつのだろうか。


「おっと」


 考え事をしながら歩いていると、床に置いてあった武器につまづき、持っていたカップを落としてしまった。

 拾い上げようと、かがんだ瞬間――。


 ガシャーン! ズドドド……ドスッ!


「ユウ……マ……」


 目を疑った。

 外から一斉に放たれた弩弓に、窓から警戒していた冒険者たちは皆、蜂の巣にされた。

 壁には無数のクォレルで磔にされた死体がぶら下がっていた。

 そこには、事切れたリナの姿までも……。


 戦慄で動悸が早くなり、身を隠す。偶然しゃがんでいなければ、俺も即死していたかもしれない。


――時よ、戻れ。


 十秒、時を戻す。


「全員伏せろぉー!」


 俺は大声で叫んだ。次の瞬間、ガラスが割れる直前で、時を止める。

 既に飛んできたクォレルを叩き落とし、逃げ遅れた者を窓から離す。


――時よ、動き出せ。


 唐突に切って落とされた火蓋。外から開戦の法螺貝が響き渡る。

 死を回避したリナを庇うように様子を伺うと、重装の騎士たちが盾を構えて迫ってきていた。


 勢いで一気に攻めてこないのは、俺を警戒してのことか。

 時を操れることには気づかれていない。

 あくまでも高速で駆ける能力を持った者を逃さないよう、包囲するための布陣のようだった。


 こんなとき、ガルドがいてくれたら――先頭に立ってリーダーシップを取ってくれただろう。

 だが、もういない。

 みんなの命と引き換えにしてしまった。

 また後悔が頭を占め始めた。


「やつら、あんな物まで!」


 冒険者の声に外を見ると、巨大なイノシシのような怪物が大きな馬車を引き、館に向けて走ってきた。

 それは狂ったように血走る目で、正面扉に向かって突進してくる破城槌だった。


 俺たちは急ぎ、正面扉のあるホールへ駆け込む。


 ドーン!!


 轟音と共に、強固な扉が歪む。リナが駆ける!


「天地相結び、形に鎖を――流よ、留まれッ!」


 扉の両端に素早く五枚の符を貼ると、印を結ぶ。


「連縛の鎖陣、今ここに結ぶ――破れぬは一息、されど永し!」


 空気がピンと張り、貼った符が赤熱すると、符同士の間に霊光の鎖が現れ、網のように扉を覆った。

 次の瞬間、扉の木目が黒鉄のように変わり破城槌の打撃を受け止めるが、次の一撃で破られそうだった。


 敵を迎え撃とうと屈強な冒険者の大男が扉の前に立ち斧を構える。

 その瞬間、辺りに霧が立ち、酸っぱい匂いが漂った。


「危ない、逃げて!」


 リナが叫ぶ。

 俺は咄嗟に飛び退くと、辺り一面が酸でドロドロになった。


「ぐあぁ、溶ける、溶けるッ!」


 大男は血まみれになり、皮も肉も溶け、骨だけになる。

 次の瞬間、破城槌は扉を突き破り、怪物はホールへ転がった。


 すかさず時を戻す。粘液のようになっていた大男はみるみる元通りになり、向こうから扉を守ろうと駆け寄るが――。


「来るな、扉から離れろ!」


 酸の魔法は防衛を空振りし、扉は破られた。暴走した怪物は倒れ、瓦礫の向こうから大部隊が姿を表す。


 再び死を回避した時を操る能力は確かに強い。

 しかし、これならアメコミヒーローのように超人的な力を持ったり

 目からビームを出せるようにしてもらった方がよかったのでは?

 

 思えばアニメやゲームの中で時を止めていたキャラクターたち。

 ロードローラーを持ち上げるほどの身体能力。

 喋る剣を振り回し鋼鉄のロボットを粉砕できる力。

 彼らは元々強かった、それが時も止める力を手にしたから最強だっただけなのでは?


 ……また後悔か。


 どんな能力を持っても、負ける原因は俺の未熟さのせいなのか。

 

 本格的な戦闘が始まる。

 時を止め、剣が当たる瞬間に解除して斬りつける。

 冒険者が倒れるたび、時を戻し、また止めて助ける。


「くそっ……次から次へと!」


 だが、その後はどんどん泥沼にはまっていった。


 時を戻して助けるだけならまだ良かった。

 

 しかし、助けたあとで別の冒険者が倒れているのを見つける。

 その場合は、さらに前に戻り助けたあと

 先に助けた人を、もう一度助けなければならなかった。


 戻せば戻すほど、連鎖のように死が発生する。

 魔法使いの攻撃を防ぐためには、もっと前――

 魔法が詠唱される段階まで戻らなければならないこともあった。


 敵兵士たちも、俺がリナを庇いながら戦っているのを見ると、

 矢を雨のように放ち、リナを狙い続ける。


 向こうを助ければ、別の人が倒れる。

 気を抜けばリナが倒れ、またやり直し。


 当然、どこかにメモを取る余裕などない。

 連鎖する死の回避パターンを何百通りも覚え、

 何度も何度も、同じ戦場を繰り返す。


 精神的な疲労が限界に達し、凡ミスも増えていった頃――。


 また、胸を三本のクォレルに貫かれたリナが倒れた。


 俺は駆け寄り、リナを抱き起こす。


 ……さすがに、限界だった。


 兵士の攻撃がやみ、その後ろから、

 ぬっと全身鎧を着た大男が、部下に守られながら姿を現した。


「貴様が、神速のユウマか」


「これほどまで我が軍が苦戦するとはな。やはり侵攻前にこの街を抑えて正解だったか」


 こいつが――敵軍の将軍か。

 こいつのせいで、街は……リナは……!


 すぐにでも飛びかかりたい。だが、リナは今にも事切れそうだった。

 そしてもう、戦えるだけの気力も残されていない。


 そうだ。俺は“無制限”に時を戻すことができるはずだ。

 それなら、あの時――リナたちと出会う前まで遡れば、

 全てを“なかったこと”にできるんじゃないか?


 そうすれば、街も襲われない。みんな助かるはずだ!


 そう思った瞬間、リナは最後の力で俺の頬に手を伸ばした。


「ユウマ……あなたは時を戻しているのね。

 そして私たちのために、何度も何度も今をやり直しているんでしょ?」


「……っ!」


 瀕死のリナに能力を言い当てられ、俺は言葉を失った。


「そして――どうしてもうまくいかない。

 だから今、全てを“なかったこと”にしようとしてるんじゃない?」


「……なぜ、そのことを?」


 震える声で聞き返す。


「ううん、わかるよ。だってユウマ……今にも泣き出しそうな顔をしているから」


 その言葉に、今まで堪えてきた悲しみが溢れ出し、俺は泣き崩れた。


「ごめんね……一人で全てを背負わせてしまって。

 でももう、時は戻さないで。

 そんなことをしたら、ユウマと出会えなくなっちゃうよ。

 あたしにとって、ユウマとの出会いは何よりも大切なものだから……本当にありがとう」


 そう言って、リナの手は力を失い、静かに落ちた。


 俺は立ち上がり、将軍を睨み返す。

 時を止め、側近を次々と斬り倒していく。


 そして――将軍のもとへと迫った。

 時を止め、部下を飛び越え、目の前まで詰め寄る。

 再び時を進め、剣を振り下ろした。


 だが――切っ先は何かに阻まれ、弾かれた。


「なるほど。それが“神速のユウマ”の力というわけか。

 確かに目にも止まらぬ速さであった」


「だが我は符で身を守り、その程度の剣では傷一つ付けられんぞ」


「……そうかい」


 俺はそれ以上は何も言わず、黙って将軍を睨み返した。


「どこにも逃さんぞ。ここで塵も残さず消し去れ!」


 将軍の号令と共に、大勢の魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。


「俺は――もう二度と、後悔はしない!」


 その瞬間に時を止め、将軍を後ろから蹴飛ばし、

 自分が元いた場所へと叩き落とす。


「時よ……動き出せぇぇぇぇ!」


 次の瞬間、目を覆うほどの閃光。

 酸の匂い、雷鳴、爆炎――あらゆる魔法が逃げ場もなく将軍を黒焦げにした。


 更にトドメを刺そうとした騎士たちの槍が、

 丸焦げの将軍の体を貫いた。


 将軍は倒れ、俺が残った兵士を睨みつけると、

 「引け! 引けぇーッ!」と口々に叫び、兵士たちは撤退していった。


 ――数カ月後。


 街は平和を取り戻していた。

 あれから隣国の侵攻もなく、噂すらない。


 俺はミーナと共に冒険者稼業を続けていた。

 時を止める力を、ほんの少しだけ使いながら、

 穏やかで、どこか切ない日々を過ごしている。


 ただ一つ、それ以来、時を止める能力だけは使わなくなった。


 なぜなら、悪いことも、辛いことも、

 今の俺にとって、すべてかけがえのない“大切なもの”だとわかったから。


【第5章・完】

【最終章・了】

ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。

全5章でお送りした『異世界転生して時を操る能力を手にしたら最強だと思った』、これで完結です。


現実世界では後悔ばかりの悠真。

時を操る力は確かに最強かもしれません。

けれど、時を戻し無かったことにする愚かさ、本当に大切なものはなんだったのか――

そんな想いを最後に込めました。


もし少しでも心に残るものがあったなら嬉しいです。

感想や評価をいただけると、次回作への励みになります。


次回、AIの浸透する幸福と恐怖を描いた短編小説。

「AI彼女連華、いつもあなたのお傍に」をお届けする予定です。

ぜひブックマークをお願いしますね!

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