ラスト
俺は、とにかく若菜に嫌われないように、この3年間を過ごしてきた。
でも、もうどうにでもなれ。
嫌われるくらいで若菜のファーストキスを奪えるのなら、儲け物かもしれない。
そう思って、若菜の濡れた唇を触る。
すごく可愛い。
俺だけのものにしたい。
「若菜、好きだよ。」
「嘘‥‥‥‥‥‥」
嘘なんかじゃない。
ドキドキして、悲しくなるくらい若菜が好きで。大好きで。
若菜さえいればもう何もいらないくらい好きで。
その、可愛い笑顔を、唇を、俺だけのものにしたくて。
だから俺はそっと、唇を重ねた。
「‥‥っ」
俺自身ファーストキスだったからキスの仕方なんて知らない。
だけど2人きりの図書室で大好きな人とするキスは、最高に甘くて、青春で。
俺は夢中になって若菜を抱きしめた。
するとさっきよりも強い鼓動が若菜から伝わってきて、嬉しくなって、それで、俺はたまらなくコイツが好きなんだ、と今更ながらも強く、そう実感した。
若菜からの拒絶はない。
それだけでも嬉しかった。
若菜は目を閉じて俺のジャージを強く握ってきた。
涙がこぼれるくらいに、情けないくらいに、嬉しかった。
俺は若菜を誰にも渡すまいと、さらに、強く、優しく、若菜を抱きしめた。
その時、開けっ放しだった図書室の前の廊下を、俺たちの担任の先生が通った。
40代前半の男の先生で、歳の割に髪が少ないことから、『ハゲ』と呼ばれている。
俺はその先生と目が合い、「ヤベぇ」と思いながら若菜から離れた。
若菜は驚いて、でも状況を把握して先生の方を向く。
怒られるのを覚悟で、うつむいた。
すると先生は「ほどほどにな。」と笑って通り過ぎていった。
俺はなんとなく嬉しくなって、笑った。
若菜も笑った。
可愛い笑顔だ。
そして俺は余韻に浸りながら言った。
「ごめん。キス、しちゃって。」
「‥‥いいよ。」
「あと、俺、マジだから。マジでお前のこと、ずっと好きだったから。鈍感なお前のことだから、全く気づいていなかっただろうけど、好きだから。大好きだから。鈍感若菜にはハッキリ言わないと伝わらないって分かったよ。だから、何度でも言うよ。若菜、大好きだ。愛してる。」
勢いで言った。
言った後は、スッキリとした爽快な気分だけが残った。
言い切った。
あとはフラれるだけだ。
俺は覚悟して目をつぶった。
「バカ。渉のバカ。人のこと鈍感鈍感って。鈍感は渉の方だよ。私だって渉のこと好きなんだからね。」
「へ?」
俺は若菜の言う意味がよく分からなくて、頭が真っ白になった。
「‥‥‥‥‥‥それは遠回しに断ってる‥‥ってこと?」
「は??もう!頭大丈夫ですか?‥‥‥‥もうっ」
そういいながら、若菜は精一杯背伸びして、俺の唇をちょんっと奪った。
俺は間抜けな顔で若菜を見つめて、そしてやっと意味が分かった。
あ、俺、もしかして恋実っちゃったのか。
「好きだよ。」
俺は試しに言ってみる。
「私も。渉大好き。」
若菜が少し頬を赤らめて言うその姿は、俺が15年の人生で見たどんなものよりも美しかった。
そしたら急に喜びが溢れてきて、気づいたら俺はガッツポーズをしていた。
「よっしゃぁああああああああああ!」
「もうっ。渉!大好きっ!」
そういって若菜は俺に抱きついてくる。
「ふぇっ!‥‥あ‥‥‥」
ふいをつかれた俺は驚いて若菜の胸を掴んでしまった。
あわてて手をひっこめるが、ぷにっとした生々しい感触が手に残る。
「‥‥ごめん。」
急に気まづくなって、俺は顔を火照らせた。
「‥‥‥渉の変態。」
そういって若菜は口をとがらせて、でも少し嬉しそうに言った。
そして時計を見て慌てた。
「あっ。ヤバい。怒られる!」
俺も夢見心地から目が冷めて言う。
「ヤッバ。」
「あ!!そういえばね、私今度の試合出られるんだよ!」
「へぇ。すごいじゃん。良くやったな。」
俺は嬉しそうに言う若菜の髪をそっとなでた。
「じゃあ、ご褒美に明後日のバスケ部の試合に招待してやろう。」
「ん?」
「10時から体育館でやるからさ。俺の3pシュート見てろよ。」
「‥‥‥‥うん!」
「じゃ、体育館まで競争な。」
「えっ。ちょっと待ってよぉ。」
「よーい‥‥‥スタート!」
俺は若菜の笑顔を見ながら廊下を走る。
幸せな時間は、始まったばかりだ。
最後まで読んで下さってありがとうございます。
ドキドキしてしまうような小説を書きたいと思い、書きました。
次作は、もっとドキドキできるように、頑張ります。
少なくとも、1作目の『片想いの切なさ』よりはドキドキしてもらえました‥‥‥よね??
ではまた次作でお会いしましょう。




