若菜の恋
私に今まで感じたことの無い感情が芽生えていることに気がついた。
渉の温かい胸に顔をうずめていると、胸がドキドキした。
壊れちゃいそうなくらい鼓動が激しくて、渉にそれが知られることが恥ずかしかった。
そして気がついた。
これが、恋、なんだ。
私はなるほど。という気持ちで渉の顔を見上げた。
顔を見るだけでドキドキが止まらない。
どうしよう。
私も渉に夢中になっちゃうのかな。
多くの女子が渉に恋している理由が分かった気がする。
なんか、渉、格好いいよぉ。
今、初めて。人生で初めて恋に落ちて分かった。
いや、もしかしたら。
もしかしたらずっと前から私は渉に恋をしていたのかもしれない。
それは自分でも気づかないほど小さくて。
でもずっと昔からあって。
そうだ。
図書委員の顔合わせ会の時から、私は渉に恋をしていた。
1年生の時。
カチャカチャと芯を出そうと頑張っている渉の横顔を思い出した。
そして、そんな一生懸命な渉に、一本の芯を差し出したのを思い出した。
『ありがとう』と、小声で、でも気持ちのこもったお礼を言われたことを思い出した。
ピリっと心臓が痛くなって、ドキっという音が聞こえた。
自分は好きな人なんていない、なんて言いながら、ずっと好きだったんだ。私。
ずっと渉のことを見ていたんだ。
渉が誰かに告白されているのも。
『好きな人がいるから』って断っているのも。
フられた女子には悪いけど、少し、安心していた自分がいた。
そして好きな人がいるということに悲しみを感じていた自分がいた。
胸が痛くなっていた自分がいた。
今思えば、アレは給食食べ過ぎたから、とか、胃の調子が悪いから、とか、そんなんじゃなくて。
『恋』だったんだ。
私は自分に嘘をついていた。
「渉。」
私は渉の顔を見上げながら言う。
「ん?」
「好きな人って、誰なの?」
私は聞いた。
渉が告白を断る時の口ぐせ。『好きな人がいるから。』
その好きな人を、誰なのか教えてもらう権利が、私にはある。
だって私は渉のことが好きだから。
好きだって気づいてしまったから。
すると渉は困ったように微笑んで言った。
「あぁ〜あ。どぉせ鈍感若菜は気づいてないんだろうな。」
「もう。ちゃんと言ってよ。‥‥誰だろう。」
私は全く検討が付かなかったので、学年の可愛い女子を頭の中で網羅させた。
「陽菜ちゃん?」
「論外だな。それに俺そいつに告られてフったし。」
「そっか‥‥‥じゃあ夏美ちゃん?」
「違う。そいつもフった。」
「渉どんだけ告られてるんだよぉ。モテモテだね。」
私は自分で言った言葉に少し傷ついて、でも平常を装った。
でも渉はいつもと違う私の様子に勘づいたのか、不思議そうな目で私を見る。
「‥‥‥若菜‥‥‥お前‥‥‥」
「な、なんでもないよ!えぇと、渉っ‥‥!?」
次の瞬間、私は渉の力で強引に壁に押し付けられた。
「‥‥渉?‥‥‥ごめん。」
私は何か悪いことでも言ってしまったのかと思って、渉を怒らせてしまったのだと思って、焦って、ただ。
ごめん、とつぶやいた。
私をみつめる渉の目はさっきの涙目で可愛かったものなんかよりもずっとステキで、格好よくって、大人びていた。
次の瞬間、渉は壁に押しあてた私の肩から手を離し、私の唇に触れた。
私は文字通り目と鼻の先で渉の顔を見た。
キレイな顔だな。と、思った。




