奇跡
若菜って鈍感だ。
普通異性が顔赤くしてうつむいたら告白の雰囲気だって察するだろうが。
それが正常な中学生の感性だろうが。
まぁ言い出せなかった俺も悪いが。
俺は顔に感じる風を心地よく感じながら校庭を見た。
「ねぇ、渉?ペンケースとったら早く帰ろうよぉ。」
若菜は剣道の道義を手に持ったまま図書室の入り口に立っている。
階段を全速力で駆け上がったせいか、肩がまだかすかに揺れていた。
俺はというとペンケースを探すといいながらも、図書室の窓を開けて外を眺めている。
「もう!渉。」
そして見かねた若菜が俺の首をひんやりとした手で触ってきた。
「わぁっ。やめろって!くすぐったいだろ!っつかお前手冷たっ!」
俺はそう言いながらも若菜が触れた部分はもう一生洗わない、と心に決める。
「貧血だからしょうがないでしょ。。。。」
嘆くようにそういう若菜も可愛くて、お前最高に可愛い!、という言葉を飲み込む。
「ねぇ!渉!早く帰ろうよ!」
「はいはい。」
俺は校庭を眺めながら生返事をする。
若菜はどういう男子が好きなのだろうか。
ドSで俺様な男子?
シャイな草食系な男子?
可愛くて守ってあげたくなるような男子?
それとも頼りになるお兄ちゃんみたいな男子?
俺は一生分の勇気を振り絞って言ってみた。
「お前さ、好きな人いないの?」
もちろん校庭を見ながら。
若菜の顔を直視しながらそんなこと言えるはずが無い。
だから若菜がどんな顔をしたのか分からない。
でも、声はいつもと同じで、淡々としていた。
「いないなぁ。」
俺はそう言った若菜の顔をみる。
普通男子にこう言うこと聞かれたら『えっ。まさか渉が私のことを?』なんて思っちゃったりして、顔が赤くなったりするものだと思うのだが、若菜はそんなこと勘づくこともなく、真顔で爪をいじっていた。
そして若菜は不思議そうに顔をあげた。
「‥‥‥なんで見るの。」
「いや。若菜可愛いな、って思って。」
世界が凍った。
俺は自分の自爆行為に顔が爆発しそうなくらい赤くなり、恥ずかしさで気絶しそうだった。
「‥‥‥ありがと。」
しかしそんな俺の自爆行為に全く勘づかない若菜は先生に「テストよく頑張ったね。」と褒められた時のような顔を見せた。
笑ったら良いのか、謙虚になったら良いのか、対応に困っているような顔で俺を見てくる。
「あの、だからさ!」
俺は少しイラついて若菜の右手で髪をなでる。
若菜は困った笑顔で俺を見た。
そんな顔がキュンとくるほど可愛くて俺は身悶えする。
そしてそんな感情に後押しされながら、俺は若菜の肩をぎゅっと抱きしめた。
「きゃっ。」
若菜は驚いたように高い声を発する。
「お前、良いにおいする。」
俺は自分の人格が変わったように思えた。
若菜の前だと自分の気持ちすらハッキリと言えない俺が、若菜を抱きしめた今、思ったこと、考えたこと、感じたことを素直に言葉に表せるような、そんな気がした。
でも、胸の鼓動はいつもの100倍速く動いていて。
俺はそんなドキドキを若菜に感じられていると思うとますます顔が赤くなった。
さらに、ほんの少し若菜の胸の鼓動を感じる。
俺は耐えられなくなってより強く若菜を抱きしめた。
「‥‥‥渉。苦しいよぉ。」
男子中学生の力は強い。
俺は自分では意識しないうちにかなりの力で若菜を締め付けていたらしい。
「‥‥‥ごめん。」
俺は若菜の肩から手を離し、一歩後退した。
若菜は今までみたことがないほど真っ赤な顔で、うつむいていた。
「渉のバカ。」
そういって若菜は床に落ちた道義を睨む。
「バカ!」
すると若菜は、俺の首に抱きついてきた。
「えっ。ちょっ。」
俺は嬉しいような困ったような声を出す。
すると若菜は言う。
「渉温かいよぉ。」
そして俺の胸に顔をうずめていた。
俺は嬉しさと驚きで気絶しそうになり、やっとのことで若菜の背中に手を回した。
若菜にそんなことを言ってもらえることが夢みたいに嬉しくて、俺は奇跡が起きた、もう死んでも良いと本気で思った。




