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鈍感な若菜

「はぁ〜い。じゃあ休憩ね」

部長の声で私は息を切らしながら面をはずした。

「疲れたぁーーー。」

思わずそう叫んでその場に座り込む。

すると女子剣道部の部長が私の隣に座った。

「このくらいで疲れたとかいわないの。もう。若菜は絶対文化部向きでしょ。」

「‥‥でも運動部に入って体力付けたかったから‥‥」

「はい、はい。あ、若菜、次の試合の団体戦、中堅で出させてあげるから、覚悟しときなさいよ。」

「‥‥‥‥‥‥ふぇ?」

「もう!感謝しなさい。3年も剣道やってきて1回も試合出てないなんて可哀想すぎるからね。それに若菜最近すっごく上手くなってるから。大丈夫。頑張れ!」

そういうと部長は立ち上がって他の部員に話しかけにいってしまった。

嘘。ヤバい。

団体戦に出られるなんて。

私はニヤつく顔を引き締めながら竹刀を握った。

そうだ。渉に自慢しよっと。

渉にとって試合に出させてもらうなんて1年の頃から当たり前すぎてなんとも無いことだろうけど。

私は3年目でようやく、だ。

嬉しい。

私は満足気に笑ってバッグから本を取り出した。

そのとき、1年生の後輩が私の肩を叩いた。

「‥‥なに?」

「あ、あの、すみません。入り口で若菜先輩に用があるって人が‥‥‥」

武道場の入り口には、バスケ部のジャージを着た渉がうつむいて立っていた。

「‥‥‥なんだろ。忘れ物でもしたのかな。」

私はそうつぶやきながら一応図書室の鍵をポケットに入れて立ち上がった。

そして入り口へ小走りで向かう。

「渉?なに?」

「あ、の、ごめん。練習中に。」

「いや。ちょうど休憩だったから大丈夫だよ。で?なに?図書室に忘れ物?」

「‥‥‥あ、あぁ。」

渉は顔を赤くして言った。

「顔赤いよ?ね、何忘れたの??」

私はニヤニヤして言う。

「‥‥バーカ。‥‥‥ペンケースだよ。」

「ペンケース?‥‥ふぅん。あ、はい。鍵。明日の朝までに返してもらえれば大丈夫だから。」

そういって私はポケットから図書室の鍵を出す。

「‥‥ありがとな。」

渉は私の手から鍵を奪う。

そして私は「じゃあね」とつぶやいて渉に背を向けた。

その瞬間。

渉の手が私の肩に触れた。

「ん?」

私は何だろうと思いながら振り返る。

「なに?」

返事の代わりに、渉は涙目で私の目をじぃっと見つめた。

「え、ちょっと、どうしたの?」

しかし渉は何も言わない。

もうこぼれそうなくらいの涙を目にためて、私を見つめる。

私の肩に触れた渉の手は、震えていた。

そして渉はやっと口を開いた。

「‥‥しょに‥‥て。」

声をしぼってやっと出したその言葉が、『一緒に来て』という内容だと理解するのに数秒かかった。

図書室に一緒に来て、ということなのだろうか。

もしかして、怖いのかな?

だとしたら相当可愛いぞ。

そう思った途端、渉の涙目の顔が急に愛おしくなってきた。

子犬みたいに可愛い。

私がそんな変な回想をしている間、渉の目には涙がどんどんたまっていた。

瞬きでもしたらこぼれてしまうだろう。

すると渉は「行くぞ」とつぶやいて私の肩に置いた手をさげた。

そして私に背を向けて、ジャージの袖で涙をぬぐい、歩き出した。

「ちょっと、待ってよ。」

私は小走りで追いつくと、渉の顔を覗き込んだ。

すると渉は目を大きく見開いて、涙目を見られたのが恥ずかしかったのか、顔を赤くし、目をそらした。

なにこの子。可愛いじゃない。

私は笑って図書室に向かって走り出した。

「どっちが早くつくか、競争だよ。」

「‥‥はッ?」

渉は驚いた上ずった声で私を見る。

そして笑いながら「渉様に宣戦布告とは良い度胸だな。」と言いながら走り出した。

うん。いつもの渉だ。



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