渉の恋
俺は若菜に手渡された本を棚にしまった。
くそ‥‥‥。
俺は思う。
せっかく2人きりで図書室にいられるのに。
なのにどうして俺は若菜になにも言えないのだろう。
「好きだ」
たった3文字なのに。
たった3文字で3年間の想いが伝わるのに。
若菜に告白できるのに。
なのに俺は今日も本棚の整理をするふりをして若菜を盗み見する。
可愛い。抱きしめたい。
俺はそう思ってしまった自分が恥ずかしくなり、顔を手で覆った。
こんなことを1年生の始めの頃からずっと続けている。
その間、俺はいろんなことを知って、いろんなことを学んで、
でも若菜への気持ちは変わらない。
初めて図書委員会の顔合わせで若菜を見てから、ずっと、俺は若菜と毎週木曜日に、図書室で若菜と時間を過ごした。
多分、この学校の男子で、一番若菜とすごした時間が多いのは、俺だと思う。
ある意味、自慢だが、だからといって俺はなにもすることができなかったのだから、意味がない。
俺は頬をパンパンとたたき、立ち上がった。
「若菜!俺、そろそろ部活!」
本棚で顔が見えない分、俺は元気な声で言った。
「うん。あとは鍵かけとくから行って良いよ。」
「いや、俺が鍵かけるから一緒に下まで行こうぜ。」
「‥‥うん。別にいいけど。」
俺は今日こそ若菜に告白すると決め、手にかいた汗を制服のズボンでふく。
そしてバスケ部のユニフォームが入った重い鞄を肩に掛けて、カウンターの前に立った。
俺にいきなり前に立たれ、「ん?」と、とまどって俺を見つめる若菜。
若菜に上目遣いで見つめられ、俺は興奮してなにも言えなくなってしまった。
「なに?」
若菜は言った。
しかし俺は「いや、立ってみただけ」と訳の分からないことを口にして図書室を出た。
ドア越しに俺は言う。
「早く出ないと鍵しめっぞ〜」
若菜の顔が見えない所だと、こんなに堂々と話せるのに、顔を見た途端に胸の鼓動が激しくなって息が苦しくなるのはなぜだろう。
「待ってよぉ〜」
若菜はそんな甘えるような可愛い声で俺に応答し、すると俺は涙が出る程嬉しくなる。
俺ちょっとヤバいのかな。
そんなことを思っている間に、若菜が廊下にでてきた。
俺はカチャカチャと鍵を閉めて、若菜は『開館中』の札を裏返しにして歩き出す。
俺の後ろにてちてちとついてくる若菜はものすごく可愛くて、俺はまた抱きしめたい衝動を押さえた。
「ねぇ、渉??」
「ん?」
「下駄箱、あっち。」
「あ。」
俺は3年昇降口と正反対の方向へ歩いていた。
若菜があきれたように笑って言う。
「もう。馬鹿だなぁ。考え事?」
「‥‥‥‥‥‥。」
ひょっとしたら今、絶好のチャンスなんじゃないのか?
『お前のことを考えてた』それで告白完了じゃないのかな?
そしたら、そしたら、1000000万分の1の確率で若菜が『私も、好き』なんて言っちゃって、俺の人生ハッピーエンドー!みたいな。
しかし俺はそんなチャンスをことごとく無駄にしてしまった。
結局なにも言えずに無言で歩き出してしまったのだ。
くそっ。
俺!本当馬鹿!
俺は自分の馬鹿さ加減にあきれつつも、下駄箱のふたを開けた。
すると、ポトリと封筒が落ちる。
クラスメイトの女子の名前が書かれたその封筒は、ほぼ確実にラブレター。
俺もこんな風に告白できたら、なぁ。
俺はその女子を尊敬はするが、オッケーするつもりはない。
だって俺の好きな人は若菜だから。
そう思いながら無造作に靴を履き、若菜のもとへ走った。
「渉、背伸びたねぇ。」
体育館への渡り廊下、無言で歩いていた俺に若菜は言った。
「万年チビのお前に言われても嬉しくネェよ。」
俺は照れ隠しでついそんなことを言ってしまう。
若菜は背が低く、丁度俺の胸くらいの身長しかない。
そんなところも可愛いのだが。
「いじわる。」
若菜はそう言って頬を膨らませた。
そんな表情が可愛くて、俺はますますこの女を好きになってしまう。
『お前、可愛い。好きだ。大好きだ。』
喉の奥まで来ているこの言葉を吐き出すのに、あとどれくらいの時間がいるのだろう。
俺は結局今日も告白をすることができなかった。
俺は体育館へ入り、若菜は武道場へ入った。
若菜は女子剣道部に所属している。
しかし身長が低いせいか、運動神経が無いせいか、部員の中では一番ヘタだそうだ。
まぁあいつは道義を着て竹刀を持っている姿よりも本を読んでいる姿の方が似合うしな。
どっちにしろ最高に可愛いけど。
俺は若菜のことだけを考えて、そして「うぉおおー」と雄叫びをあげながら体育館の端から端へと、ダメもとでシュートを放つ。
このシュートが入ったら告白しよう。絶対に。
入ったら、両想いだ!!!!
まぁ、入るわけないか。
そんなことを思いながら、入れ!という期待でボールの行方を追う。
すると、パサっ。という音と共にボールがきれいにネットの中に入った。
おっしゃ。入った。
女子バスケット部の方から歓声が来て、俺は気分が良くなって満面の笑みでピースをした。
そしてさらに強まる歓声を背に、俺は走り出した。
ヤバい。
今日なら行けるかも。
俺は少しの期待を胸に武道場のドアを開けた。




